オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

ファンタスティック・フォーのマカロニバージョン❗❓〜『フリークスアウト』


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 横浜は黄金町のミニシアター「ジャック&ベティ横濱」にて、『フリークスアウト』鑑賞。


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※泣いてばかりの弱虫マティルデがラストに大変身を遂げるクライマックス、見逃さないで❗

 

 第二次世界大戦下のイタリア。ユダヤ人のその名もイスラエルは、貧乏サーカス団「メッツァ・ピオッタ」(100リラ硬貨の半分の意)の座長。彼以外の団員は、触れるもの全てを感電させてしまう電気少女マティルデ(オーロラ・ジョビナッツォ)、虫を自由に繰るアルビノのチェンチオ(ピエトロ・カステリット)、多毛症の怪力男フルヴィオクラウディオ・サンタマリア)、磁石人間の道化師マリオ(ジャンカルロ・マルティーニ)の4人だけ。彼らはその異形・異能力のせいで実の家族にも捨てられ、イスラエルの庇護のもと、社会の片隅で肩を寄せ合ってひっそりと暮らしてきました。しかしイタリア国内でもナチス・ドイツによる「ユダヤ人狩り」が始まり、イスラエルは4人に、新天地を求めてアメリカへ渡ろうと誘います。ナチスユダヤ人だけでなく、障害者やLGBTも迫害の対象としており、早晩彼らの元にもナチスの魔の手が伸びて来るのは明らかだったからです。ところが、ある日彼らの出国書類を闇取引しようと街へ出かけたイスラエルは、2度と戻ってきませんでした。イスラエルを父と慕うマティルデは彼を探すため旅立ちますが、フルヴィオら3人は「自分たちはサーカスで身を立てるしか生きる道はない」と、職を求めて、当代随一のベルリン・サーカスの門を叩きます。しかしそこはナチス・ドイツ肝いりのサーカスで、しかも団長のフランツは、対連合軍との戦いに勝利するため、異能力者を探して人体実験を繰り返し、大勢の人々を殺戮している恐ろしいサイコパスだったのです。一方、イスラエルの行方を探し続けるマティルデは、ナチスの軍人に追われるところをパルチザンの一隊に助けられ、リーダーから彼女のその異能力を、ナチス打倒のために役立てないかと誘われますが……。


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※憎まれ口を叩きながらも、互いを思いやる気持ちは誰よりも強い異能力3人衆、(左から)フルヴィオ、チェンチオ、マリオ。

 
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※ちなみに多毛怪力男フルヴィオ役のクラウディオ・サンタマリア、素顔はマイケル・ファスベンダーばりのイケメン♥マイネッティ監督のカルト的作品『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』では、タイトルロールを演じています。

 

 ガブリエーレ・マイネッティ監督の、ギレルモ・デル・トロに勝るとも劣らぬいびつな「異形愛」っぷりが凄い(笑)サーカスというより見世物小屋、映画『ナイトメア・アリー』のアレ。日本でも、昔むかしの「親の因果が子に報い……」の世界。その異形、異能を恥じて世の中に背を向け生きてきた4人が、ナチスガス室送りにされる瀬戸際のユダヤ人や障害者たちを救うために立ち上がるところは、それまで彼らが迫害されるさまを見ているだけに、感動的ですらあります。ヴィランのフランツが4人を見て「まさにファンタスティック・フォーだっ」って叫ぶシーンがあるので、アメコミヒーローを意識しているのは確かなんだけど、自己肯定感の強いアメリカンなヒーローたちとは印象が天と地ほど違う(^.^; ヴィランのフランツにしてからが、生まれつき6本指の障害を持っていたので軍隊の検査ではねられ、ナチス幹部の父や兄に認められたいが為に異能力者狩りを始めた…という過去があり、彼自身が「哀しからずや異形の者」、アメコミのヴィランとは立ち位置が全然違うんですよね。どちらかというとホアキン・フェニックスの『ジョーカー』寄りかな。また、イタリアには、底辺に生きる人々の悲哀を描いた、例えばフェデリコ・フェリーニの『道』(同じ大道芸人の話だしね)みたいなネオ・リアリズモの系譜があるんだけど、ちょっとね、そっち系の雰囲気もありましたよね。

 

 ヒロインのマティルデは、4人の中で最強の異能力を持っているのですが、あるトラウマのためにその能力を恥じ、自ら封じ込めている設定。もうね、殴られても蹴られても命の危険に晒されてもベソベソ泣いてるばかりなんで、(どんだけドМなんだ❗)って、観ているこっちは少々イラッとするんですが、それはあえてそういう設定にしているわけで、そのぶん、ラストに彼女が自身のパワーをフルスロットル、溜めて溜めてイッキにドバー❗なカタルシス、爽快感ハンパないです。……うん、ちょっと『キャリー』入ってる❓(^.^;

 

 昔むかし、ハリウッドの清く正しいヒーロー西部劇(ジョン・ウェインの『駅馬車』とかゲーリー・クーパーの『真昼の決闘』とか)に殴り込みをかけた、イタリア製西部劇を※マカロニ・ウェスタンと呼んでました。目的を遂げるためには手段を選ばないダークヒーロー、血しぶき飛び散る残虐描写がウリ。『フリークスアウト』は言わばファンタスティック・フォーのマカロニバージョン、けっこうエログロあり…です(^.^;……あっ、やっぱりね、ちゃんとR15指定になってやした。先日観た『マッド・ハイジ』に引き続き、お子ちゃまには刺激が強すぎる(笑)

※『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、レオさま演じる落ち目の俳優が、イタリアに出稼ぎに行ってマカロニ・ウェスタンに出演する…っていうシーンがありましたっけ。

 

 

 第78回ヴェネツィア国際映画祭でLeoncino d'Oro awardを受賞、第51回ロッテルダム国際映画祭ではVriendenLoterij Audience Awardを受賞した作品。

 

★今日のオマケ


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 チェンツィオ役、ピエトロ・カステリットは俳優であると同時に監督・脚本家としても注目株。自身の監督作品『捕食者』で、第66回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞最優秀新人監督賞を受賞しています。写真は同賞の受賞式、ディオールを纏ったカステリット。今回はアルビノだからプラチナブロンドに染めていますが、イタリアの伊達男と言えば黒髪よね、やっぱり(笑)