オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

ビー・ガンからチャン・チーへ〜『海街奇譚』


f:id:rie4771:20240425052759j:image

 横浜黄金町のミニシアター「ジャック&ベティ」にて、中国映画『海街奇譚』鑑賞。中国新世代の旗手と言われるチャン・チー監督の作品。

 

 中国のある離島にふらりとやって来た1人の男。彼は売れない俳優のチュー。彼はある日突然失踪してしまった妻を探しに、かつて彼女と初めて出会ったこの島を訪ねてやって来たのだった。しかし彼は妻を探すふうでもなく、高級そうなカメラを持って島内を徘徊し、パチパチと写真を撮るばかり。海は荒々しく、波が堤防を打ち付ける中、彼はカブトガニの面を被った怪しげな集団が奇妙な儀式を行っているのに出くわす。彼らは島の漁師の一団で、漁師たちを守護するという仏頭が忽然となくなってしまい、それを探すための祈祷の儀式らしい。不思議なことにその島で、「なくしもの」を探しているのはチューや漁師だけではなかった。宿の女主人は双子の妹が行方不明となっており、ダンスホールの女将は夫が5年前漁に出たきり帰ってこない……。妻の行方を探すうち、チューの意識は過去と未来、夢と現実の狭間を揺蕩い始め……❗

 

 

 中国の映画というと、歴史モノか、あるいは独自の文化や国家の成り立ち、人々の日常を描いたもので、若干プロパガンダ的な匂いがするものが多い印象(作品の検閲も厳しそうだしね^^;)……しかしなんだろう、今作品でデビューした若手映画監督チャン・チーが描く世界は、夢か現か幻か、現実と妄想の境界線が曖昧模糊としていて、国家のコの字もない(笑)。この世界観ってどこかで見たことあるよね……と思ったら、『凱里(かいり)ブルース』や『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯へ』のビー・ガン監督の作品だった(^_^;)彼のこの2作は、現実と夢、おまけに時系列さえぼんやりしてるんである。ビー・ガン、現在34歳。『凱里ブルース』で衝撃の長編映画デビューを飾った時は若干25歳だったはず。ここ4年くらいとんとニュースにならないけど、元気なんだろうか……。

 

 物語は現実、夢、記憶の上に成り立っている。現実と記憶の中で起こるディテールが夢を作り出す。観客が映画の夢と記憶を区別して認識することで、記憶は混ざり合い、夢は記憶の一部となる。 この映画には想像のための広大な空間があり、時には不条理で混乱するようなテンポの悪さもある。複雑な物語構造とバロック的な視覚的メタファーは、静的でミニマルで夢のような映像に埋め込まれている。想像力をかき立て、共感覚をそそり、主観と客観の境界を曖昧にする。

 このチャン・チー監督の言葉は、5年前自らの作品について語ったビー・ガン監督のそれとそっくり。

 

 ストーリーは「これはいったいホラーかイヤミスか!?」って感じで進んでいきます。まるで夢魔の世界に迷い込んだみたいに……。これ以上喋るともはやネタバレになっちゃうんでこの辺でやめときますが(^_^;)この作品の特徴は、奇妙なほど「現在と未来」が抜け落ちていること。ラストにちらっと現在の中国の債券市場の厳しさが語られます。中国の若者を取り巻く「いま」は、甘やかな過去や夢の狭間に逃げ込まなければならないほど、閉塞的なんだろうか……。

 

 チャン・チー監督は今47歳。『写真の女』の串田壮史監督と対談されていましたね。ヲタクは以前、東京国際映画祭で『写真の女』拝見しましたが、そう言えば、主人公の無口な写真オタクキャラとか、主人公を翻弄するヒロインのファム・ファタールっぷりとか、かなり共通点があるかもね。

 

★チャン・チー監督と串田壮史監督の対談はコチラ❗🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻


チャン・チー監督×串田壮史監督とのコラボ対談が実現 「越境するアートハウス映画の“表現と視座”」を語る|Cinemago(映画『海街奇譚』配給宣伝レーベル)のプレスリリース