オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

最後に愛は勝つ❗〜映画『パレードへようこそ』(2014年/英国)

 
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 未曾有の不況に喘ぐサッチャー政権下のイギリス。差別撤廃と権利向上を訴えるゲイやレズビアンたちと、炭鉱閉鎖に抗議する労働者たちが、数々の困難を乗り越えて真の「連帯」に至るまでの過程を描いた感動の実話です。


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アンドリュー・スコット。ちょっと影のある、物憂げで繊細な演技をやらせたらまず、彼の右に出るものはいません(断言)今作品の演技で彼は、「英国インディペンデント映画賞」最優秀助演男優賞受賞。

 

 最近ぶっちぎりに熱が高まっている推しのアンドリュー・スコット、かなり芸歴も長いし未見の映画があるので、今1つずつ鑑賞を始めているのですが、この作品、彼自身も素晴らしく魅力的でますます沼落ちしてしまったのだけれど、何より映画自体に惹き込まれ、英国の名優たちの演技の見事なアンサンブルに酔い、ラストは感動の涙、涙……😢推しのお陰でまた、名作に出逢える幸せ。アンドリュー、本当にありがとう❗


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黒澤明監督作品のリメイク『生きる』でアカデミー賞ノミネートの名優ビル・ナイ。この作品、登場した時は(ずいぶん地味な役だなぁ)と思ったんですが、最後にどんでん返しがあり(ネタバレになっちゃうから言えないけど…)彼の演技そのものが伏線になっているんですね。サスガっす。

 

 1984年、「鉄の女」サッチャーは、イギリスにとってムダなものは切り捨て、再び栄光ある「強きイギリス」を再構築しようとしていました。彼女にとって、時代遅れの炭坑もその1つ。閉鎖対象となった炭坑は40箇所にも上り、それに労働者たちが抗議、炭坑ストライキは早や4カ月目に入ろうとしていました。ロンドンに暮らす20歳の若者ジョー(ジョージ・マッケイ)は調理学校の学生ですが、彼は実はゲイで、調理にも興味が持てず、自分自身もさらけ出せず、鬱々とした日々を送っていました。そんなある日、彼は街でひょんなことから、ゲイの権利向上を訴えるパレードに遭遇。パレードのリーダー、マーク(ベン・シュネッツァー)と知り合い、仲間に誘われます。マークは炭坑ストライキで警官に暴力を振るわれる労働者たちの姿を見てしごく憤慨し、彼らのために何か行動を起こしたいと考え、仲間たちと支援の募金活動をしようと思いたちます。彼の言い分によれば、「彼らの敵はサッチャーと警官。つまり僕たちと同じだ。いいアイデアだろ?」というわけです。マークは早速LGSM(炭坑労働者支援のゲイ&レズビアンの会)を立ち上げますが、参加を表明したのは、彼の長年の友人マイク(ジョセフ・ギルガン)、彼らのたまり場になっている書店主のゲシン(アンドリュー・スコット)、ゲシンの恋人で俳優のジョナサン(ドミニク・ウェスト)、唯一の女性でレズビアンのステフ(フェイ・マーセイ)、マークに無理やり巻き込まれた形のジョー(ジョージ・マッケイ)のたった9人でした。それでも9人の努力のかいあって、毎日バケツを手に街角で集めた寄付金はかなりの額に上り、全国炭坑労働組合に連絡するマークでしたが、何度電話しても「レズビアン&ゲイ会」と名乗ると、「後でかけ直す」と切られてしまうのでした。ロンドンでも、ゲイとわかると「ヘンタイ!」と罵声を浴びせられ、時には暴力を振るわれていた時代です。それでは…と、マークは各地の炭坑に直接電話をかけまくります。そんな中、※ウェールズの炭坑町ディライスに電話すると、拍子抜けするくらい簡単に受け入れてくれたのです。大喜びするマークたち。数日後、炭坑を代表してダイと名乗る男性(パディ・コンシダイン)がロンドンまで訪ねてきました。「それでLGSMって何の略?」と訊ね、Lはロンドンの略だと思っていたとダイは真実に唖然としますが……。

ウェールズ人はひじょうに自治性に富み、自分たちは1つの国だ❗なんて勢いがあります。ゲイでロンドンっ子のマークたちは、彼らと心を通わすのに2重3重の苦労を強いられるわけです(^.^;


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※英国を代表する性格俳優パディ・コンシダイン。ヲタク的にはBBCドラマ『ウィッチャーの事件簿』で沼落ちしました(笑)

 

 一見保守的な英国男性かと思いきや、内面はひじょうにリベラル、差別観のない温厚なダイを、英国を代表する名優パディ・コンシダインが巧みに演じます。ゲイたちのパーティで彼が、「皆さん本当にありがとう。貴方がくれたのはお金ではありません。友情です」と熱く語るシーン、ヲタク昔「映画に見る名演説シーン」って記事書いたことあるんだけど、今度このシーンを加筆しようと思いました。素晴らしかった❗


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※『1917 命をかけた伝令』で初主演を張り、今や英国ライジングスターの筆頭格ジョージ・マッケイ。本作品では、10年前の初々しい彼が見れます。

 

 

 保守的で、まだまだ男尊女卑の気風が残るウェールズの田舎町。温かく迎えてくれるのは前出のダイと、へフィーナ(イメルダ・スタウントン)やクリフ(ビル・ナイ)ら、ごく少数の人たちだけ。LGSMメンバーの情熱が、炭鉱町の人々の頑なな心を徐々に溶かしていく過程も感動的だけど、何よりもLGSMの面々や炭鉱町の人々が、この支援活動を機に自分自身の生き方そのものを見つめ直していくのが胸アツ❗特に我が推しアンドリュー・スコット演じるゲシン、実はウェールズ出身なんですが、ゲイであるがゆえに母親から疎まれ、逃げるようにロンドンに出てきた設定。そんな彼が、母親のように気にかけてくれるへフィーナから電話をもらい、「お母さんのところに行っておいで。きっとわかってくれるよ」と励まされ、ウェールズ語で「メリー・クリスマス」と言われた時、じわーっと涙を滲ませる……もう、もう、アンドリューの演技が珠玉❗


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チャールズ皇太子ドミニク・ウェスト)とエリザベス女王イメルダ・スタウントン)がノリノリダンス(笑)。Netflixドラマ『ザ・クラウン』とは真逆の役もすぐに自分のものにしちゃう…2人とも凄い❗

 

 当時の英国の閉塞的な状況や、音もなく忍び寄る恐ろしいエイズの影。襲い来る逆境の波を乗り越えるためには、やはり愛と友情の力が必要なんだと、そんなシンプルな事実に改めて気づかせてくれる、実話ならではのリアルな感動を呼ぶ人間ドラマです。