オタクの迷宮

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歴史の陰に夫婦あり〜映画『オスロ』(U-NEXT独占配信)

U-NEXTで、映画『オスロ』(2021年)鑑賞。昨今次々と話題のドラマ・シリーズを繰り出しているHBOが制作した映画です。
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 1993年8月、ノルウェーオスロで締結された※「暫定自治政府原則の宣言」(通称「オスロ合意」)。当時そのドラマティックな展開に世界中が驚愕したものですが、この作品は、「オスロ合意」に多大な貢献をしたノルウェー人の外交官夫妻に焦点を当てた実録映画です。

※概要

1.国家として、PLOパレスチナ自治政府として相互に承認する。
2.イスラエルが占領した地域から暫定的に撤退し、5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議する。

 
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※この3ショットが世界中のマスコミに取り上げられた衝撃を覚えている方も多いのでは?(イスラエル・ラビン首相(左)、クリントン米国大統領(中)、PLOアラファト議長(右)

 

  1992年12月、ノルウェー首都オスロ。外交官モナ・ユール(ルース・ウィルソン)と、シンクタンク勤務の社会学者(当時)テリエ・ロード=ラーセン(アンドリュー・スコット)夫妻は、ある極秘計画の準備を進めていました。(当時から既に夫婦別姓なんですね……ウラヤマシイ 笑)それは、パレスチナで激戦を繰り広げていたイスラエルPLOパレスチナ解放機構)のそれぞれの要人(イスラエル外務省副大臣PLOの経済担当大臣)にまずコンタクトを取り、それぞれ代表を選出してもらい、中立国ノルウェーオスロに対話の場を設けること。当時イスラエルパレスチナの公人同士が対面することはそれぞれの法律で禁じられており、特にパレスチナ人にとってそれは死に値する重罪でした。2人はまず民間人による非公式のルートを設定し、やっとのことでオスロ郊外のマナーハウスで交渉開始にこぎ着けますが、積年の怨恨の歴史を持つ両者の間の話合いは激しく紛糾します。果たしてその行方は…❓

 

 当時は民間のシンクタンク勤務だった夫君のラーセンはアイデアマンで、「いきなり政府代表間の交渉だと、互いに完璧を求めて譲らないから紛糾する。まずは民間レベル、個人対個人で(緩やかに)話合いを始めて、次第に代表者を変えていく」と提案します。彼は交渉団がまず寝食を共にし、一人ひとりの人間性を理解し合えば、活路は開けると考えたのです。夫の信念を緻密に検討し、根回しして実行に移すのが外交のプロである奥さまモナの役目。この夫妻の、互いを尊重し合い、其々の役割を粛々と果たしていくバディ感がステキです。アイデアは出すけど、実務面となると奥さまのアドバイスに従ってさっと身を引くラーセンの柔軟さ。それを巧みに表現するアンドリューの演技がサスガで、もう……惚れ直すわ❗一方、モナを演じるルース・ウィルソンの、強固な意思を感じさせる目ヂカラがハンパなく、まさに「女は度胸、男は愛嬌」(笑)。アイデア豊富でしかも行動力があり、つい交渉に手を出してしまいそうになるラーセンに、※「私たちはファシリテーターに徹するべき。それ以上のことをしたら、即離婚よ」と宣言するモナのオトコマエなこと(笑)。そして、「は、はいっ」(ビシッ)と答えるラーセンの可愛いこと(笑)。世界で最も男女平等が進んでいる北欧ノルウェーオスロを舞台にしたからこそ、この劇的な合意がなされたのだと、今さらながらに理解できる内容になっています。

※この話にはオチがあって、モナは交渉終盤、自ら禁を破ることになるのですが、この時の彼女のセリフも感動的です。

 

 

 ヲタクが1番感動したのは、議論が紛糾して一触即発、あわや会議もここまでか……と思われた時、料理番が美味しそうなワッフルを持って飛び込んできて、「まずはこれを食べてからにして下さい❗」って皆に呼びかけるシーン。結果、甘いもので気持ちが和んで、決裂の危機を避けられるわけですが、「ワッフルにスパイスとして(アラブの)カルダモンを効かせた」というこの料理番のおばちゃんこそ、「オスロ合意」締結最大の功労者ではないかと(笑)

 

 ヲタクはアラファト議長が初来日した時、アラブリーグ加盟某国の在日領事館に勤務していたので、歓迎レセプションの準備等にも関わった経験があります。その後のアラファト議長の去就についても、ずっと関心を持って見守っていました。ですから、今回の作品はまた、別の意味で感慨深かったですね。


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※互いの人格と能力を尊重し合い、夫婦でありながら強力なバディでもあるモナ・ユール(ルース・ウィルソン)とテリエ・ロード=ラーセン(アンドリュー・スコット)。

 

 関係者たちが「過去は振り返らない。私たちの手で未来を変えるんだ」と命を賭して臨んだこの「オスロ合意」は、2006年にイスラエルガザ地区レバノンに侵攻したことを機に効力を失い、結果的に失敗だったのではないか……とする見方もあります。イスラエルのラビン首相もその後急進派(反オスロ合意派)に暗殺されてしまいましたしね😢しかしヲタクは、ラストシーンでモナが「オスロ合意は確かに意味があった」と呟いたように、決して彼らの努力が無駄だったとは思っていません。どんなに膠着状態に陥った戦争であっても、人間の努力により停戦に持ち込める……という「外交の重要性」「外交の可能性」を明確に私たちに示してくれたのだから。その後ラーセンは政治家に転身し、モナは外務省国務長官、駐イスラエル大使、国連へのノルウェー代表団の副所長兼大使、駐英国大使等要職を歴任、現在は国連経済社会理事会議長として、夫妻で世界平和への道を歩み続けています。

 

 今世界情勢に目を向ければ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は膠着状態が続いたまま。「オスロ合意」の時のノルウェーのように、中立の立場でファシリテーターを買って出る国がいないもんでしょうかね❓

……この作品を見ながら、そんなことをつらつら考えるヲタクなんでした。

 
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アンドリュー・スコットの魅力は、滲み出る人柄、そして「愛嬌と可愛さ」♥最近ヲタクの中で、アンスコ熱がMAXです(笑)