Netflixで『グレート・スクープ』鑑賞。
2010年、ニューヨーク。ある瀟洒な建物から連れ立って出てきた2人の中年男性を、あるパパラッチがカメラに納めていました。一人は故エリザベス一世の第三子ヨーク公アンドリュー王子、もう一人は悪名高き少女売春の性犯罪者ジェフリー・エプスタイン。9年後、エプスタインは性的人身売買のかどで起訴されましたが、拘置中に首吊り自殺。当時、アンドリュー王子がエプスタイン主催の少女たちとの乱交パーティに参加していたのではないかという噂が巷間に出回っていたものの、エプスタインの死によって立ち消えになるかと思われていました。そんな矢先、BBCの報道番組『ニュースナイト』の記者であるサム・マカリスター(ビリー・パイパー)が9年前の写真を入手、アンドリュー王子が性加害に加担していたことを確信し、番組責任者であるエスメ・レン(ロモーラ・ガライ)やメインキャスターのエミリー・メイトリス(ジリアン・アンダーソン)と共に取材に乗り出しますが……。
※体当たり取材が身上のサム・マカリスター(ビリー・パイパー)。その強引さは『ニュースナイト』のスタッフたちとの間に様々な軋轢を生みますが…。
『ニュースナイト』は2019年11月にアンドリュー王子の独占インタビューに成功しますが、インタビューの中で王子は一欠片の謝罪の言葉もなければ反省の色も見せず、英国民の王子に対する不信感は頂点に達し、ついにアンドリュー王子はエリザベス一世から王族権を剥奪されるに至ります。
※『ニュースナイト』のキャスターを務めるエミリーは、華やかな容姿と優れた才能を持っているにもかかわらず、どこか自信無さげで「上がり症」。同じくNetflix『ザ・クラウン』の当たり役サッチャー首相とは正反対のキャラを巧みに演じました。
古くは『大統領の陰謀』(1976年 アラン J パクラ監督)『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年 トム・マッカーシー監督)、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(スティーブン・スピルバーグ監督 2017年)、『SHE SAIDシー・セッド その名を暴け』(マリア・シュラーダー監督 2022年)等に続く、巨悪を暴くために奮闘するジャーナリストたちを描く「事実に基づく物語」の1つです。
※アンドリュー王子の秘書官エミリー。憧れの英王室に勤務し、アンドリュー王子に心酔していた筈が、BBCの取材によって王子の「真実の顔」が暴かれるにつれ、次第に絶望していきます。演じるのは、英国のドラマ・映画に欠かせない名女優キーリー・ホーズ。
「事実に基づく物語」ですから、事の顛末はわかっている筈なのに、ジャーナリスト生命を賭けて真実を追及する『ニュースナイト』のスタッフの奮闘ぶりはスリリング且つ感動的❗(当時BBCは経営困難に陥っており、『ニュースナイト』の制作スタッフたちもリストラの危機に晒されていた)ストーリーと平行して、物語の要となる3人の女性(サム、エミリー、アマンダ)夫々の、キャリアを持つ女性の生き方が交差していく展開も良かったですね。
先に挙げた4作品同様、王室という英国で最も強大な、アンタッチャブルな権力に挑んだジャーナリストたちの気概を見せつけられるにつけ、忖度まみれの日本のジャーナリズムの惨状に暗澹たる思いがします。
日本のジャーナリストたちよ、あなたたちの存在価値は、強大な権力の裡に隠された闇を白日の下に曝け出すこと。芸能人の些末なスキャンダルばかり追いかけて小銭稼ぎばかりしてないで、ちっとは本気見せたらどうなん❓(笑)
★今日のおまけ……ジャーナリストの奮闘を描いた映画4選
言わずとしれた名作。ウォーターゲート事件の真相を突き止め、時の大統領ニクソンを失脚にまで追い込んだワシントン・ポストの記者カール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)とボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)の回顧録を映画化。
②スポットライト 世紀のスクープ
2001年。当時のボストン・グローブ紙の編集局長バロンが、神父による子供への性的虐待事件が多発していることに着目。同紙の特集記事欄「スポットライト」を担当する4人の記者たちが、事件の深層を探り、カトリック教会という世界最大のタブーに切り込んでいきますが……。
③ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
リチャード・ニクソン大統領政権下の71年、ベトナム戦争を分析・記録した国防省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」が存在した!分析によれば、アメリカの劣勢は明らかであったにもかかわらず、時の政府はそれを隠蔽、多くの若者を戦場に送り続けたのです。ニューヨーク・タイムズが最初にスクープしましたが、大きな圧力がかかり、差し止め処分に。その後ライバル社のワシントン・ポストは残りの全文書を入手しますが、その発表を巡って社内は対立し…。
④SHE SAID シー・セッド その名を暴け
2017年10月5日、ニューヨーク・タイムズに1つの記事が掲載されました。「ハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたりセクハラ告発者を買収」という記事は、映画界の超大物でミラマックス社のCEOだったワインスタインが長年にわたり社のスタッフや女優たちに対して行ってきたセクハラ行為やレイプの数々を白日の下に晒し、アメリカ全土を震撼させました。この記事がきっかけとなって、その後#Me TooあるいはTime’s Upの一大ムーブメントに発展したのは周知の通り。ニューヨーク・タイムズ報道部記者ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)とミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)が協力取材し、共に記事を執筆するに至るまでを克明に描いた映画。