オタクの迷宮

海外記事を元ネタに映画・ドラマの最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今住んでいる神奈川が好きすぎて、最近は殆ど県外に出なくなりました。

推し活バンザイ❗〜『ロスト・キング/500年越しの運命』


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 KINOシネマ横浜みなとみらいにて『ロスト・キング 500年越しの運命』鑑賞。 

 

 スコットランドエディンバラに住むフィリパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は、反抗期を迎えた2人の息子たちを抱えたシングルマザー。彼女は※筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)という難病を抱えながらも、自分の勤める広告代理店の仕事に生きがいを見出していました。ところが、会社が新たに立ち上げたプロジェクトから、年齢と病気を理由に外されてしまったことで、彼女の心は行き場を失い、何かがポッキリと折れてしまいます。

これまで健康に生活していた人が突然、強烈な全身倦怠感に襲われるようになり、休息をとっても回復せず、通常の日常生活が著しく困難になる病気です。 また微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、思考力低下などさまざまな症状があらわれ、長期にわたって続きます。


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※妄想の中でリチャード3世と会話するのが、フィリパにとって至福の時間。キモチ、めっちゃわかるわ〜(笑)

 

 鬱々とした日々を送るフィリパはある日、エディンバラの劇場でシェイクスピアの『リチャード3世』を鑑賞します。リチャード3世と言えば、背中には大きな瘤、自らの醜悪な姿へのコンプレックスから人間不信となり、幼い甥の王子2人をロンドン塔で暗殺した極悪非道な君主として描かれています。しかし観劇しながらフィリパの頭の中には、(……本当にリチャード3世は、シェイクスピアが描いたような人物だったのか❓)という疑念がむくむくと湧いてきます。彼女は早速エディンバラの書店でリチャード3世関連の研究書を買い漁り、リチャード3世は決して甥の王子たちを惨殺するような人物ではないという説も存在しており、彼の名誉を守ろうとするリカーディアンという人々が存在することを知ります。そして、彼女が「リチャード3世協会」に入会したその夜から、度々彼女のもとにリチャード3世のまぼろし(ハリー・ロイド)が訪れるようになります。何か物を言いたげにフィリパを見つめるリチャード3世……。

 

 プランタジネット朝最後の王、リチャード3世は薔薇戦争最後の「ボズワースの戦い」で戦死し、遺体はレスターの修道院グレイフライアーズに運ばれ、敷地内に粗末な墓が建てられたと言われます。しかし、1538年の修道院解散と引き続いた取り壊しの過程で、リチャード3世の墓は取り壊され、この後、彼の遺骨は、「王位簒奪者」に相応しくソー川にかかるバウ橋 付近から流されたという風説が広く信じられていました。(もし彼が、私たちリカーディアンが信じるように名誉ある人物で、シェイクスピアが描いた彼の人物像は、プランタジネットに取って代わったテューダー朝が彼を貶めるために流した風説に基づいたものだとしたら……。彼の遺骨は川に流されてなどいない❗どこかに手厚く葬られているはず。彼の遺骨を見つけ出すことこそ、彼の名誉を取り戻す唯一の方法だ❗)と思ったフィリパは、「リチャード3世の遺骨発見」という大事業に、全精力をかけて取り組んでいきますが……。


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※リチャード3世を演じるハリー・ロイド。あの英国の大作家チャールズ・ディケンズの子孫で、オックスフォード大学卒の知性派イケメン😍

 

 もうねぇ、これ、フィリパの言動が徹頭徹尾「オタクあるある」で、ヲタクはまるでじぶんのこと見てるみたいでちょっと気恥ずかしかった(笑)動機がね、映画でははっきり言葉では表現されてないけど、見るからにフィリパはまず、劇でリチャード3世を演じた俳優ピート(ハリー・ロイド…リチャード3世のまぼろしと二役)に沼オチしちゃったんだわ^^; リチャード3世を演じる俳優さんは、醜悪な姿にするため特殊メークを施すことが多いのね。ドラマ『ホロウ・クラウン 嘆きの王冠』でリチャード3世を演じたベネディクト・カンバーバッチも、完ぺきにイケメン封印してて、「アンタ、誰❗❓」状態だったもんなぁ…。ところがフィリパが観たハリー・ロイドのリチャード3世は、ハル王子かリチャード2世か❓っていうくらい、背もすらっとした水も滴るイイ男。これですよ、そもそものフィリパのモチベーションは(笑)……でも、フィリパの推しに対する鋭い直感は、いざ実際に遺骨を発見する時に遺憾なく発揮されます。推し活恐るべし(笑)


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※遺骨発見の直前、フィリパはボズワースの戦いに発つリチャード3世の幻影を見ます。それは、彼との訣別のときでもありました…。

 

 映画の冒頭では、抱えている病気のせいでひどく具合の悪そうだったフィリパが、リチャード3世の遺骨探しに奔走するにつれ、みるみる元気に。そう言えば、あの韓流ブームの祖『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンね、放送時には大勢の日本の中年やシニア女性が沼オチしたものですが、あるTVのインタビューで、ある中年の女性が「更年期がひどくてひどくて、死ぬほど辛かったんですけど…。ヨンさまに出逢ってから不思議と症状がすっかり治っちゃったんです」って言ってたっけ。フィリパもどんどんステキになって、別れた夫さんの、彼女を見る目が変わっていくのが面白かったし、生意気盛りの息子たちもママの一生懸命さに感化されて、遺骨探しを応援するようになる過程が胸アツ❗


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※結末わかっているはずなのに、遺骨発見に至るまでのドキドキ感、ハンパない。スティーヴン・フリアーズ監督の見事な演出。

 

 実際には、遺骨発見の手柄をスポンサーのレスター大学に横取りされちゃうような成り行きになっちゃうんだけど、何しろフィリパにとって1番の関心事は自分の野心じゃなくて、あくまでも「推しへの愛」「推しの名誉回復」。お金や名声を得ようと汲々としている周りの男たちの滑稽さと、フィリパの純粋な熱意の対比の皮肉さもまた、興味深かった。

 

 …でもって、ヲタクの結論。

推し活は、じぶんも周囲もシアワセにする😍

推し活、最高❗

推し活、万歳❗

……でございました、ぢゃん、ぢゃん❗

 

 

 

 

 

 

 

愉快・痛快・ママの乱〜『バーナデット/ママは行方不明』


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 KINOシネマ横浜みなとみらいにて、『バーナデット/ママは行方不明』鑑賞。

 

 シアトルに暮らす主婦のバーナデット(ケイト・ブランシェット)。夫のエルジービリー・クラダップ)はマイクロソフトで重要な仕事を任され、娘のビー(エマ・ネルソン)は成績優秀、自立心も強く、自分から選んだ寄宿制高校の入学を待つばかり。母と娘はまるで親友同士で、そんな生活にそれぞれ満足している……と、バーナデットもエルジーもビーも信じていた……筈でした。ところがビーが、寄宿舎に入る前のお祝いに、なんと「家族3人で南極旅行に行きたい❗」と言い出したから、さあ大変。じつはバーナデットは、(家族を除いて)極度の人間嫌い…というか、対人恐怖症。旅行中に他人と世間話を繰り広げることを想像しただけでもイヤすぎて不眠症になり、ネットで雇った私設秘書にグチをこぼしつつ(なぜならグチをこぼす友だちが一人もいないため 笑)それでも、目に入れても痛くない可愛い一人娘のために勇気を振り絞って南極旅行に出かけようとするバーナデットですが、焦れば焦るほど彼女の「社会の厄介者」(注・ヲタクが言っているわけではありません。バーナデットの自己評です、念のため)度❓が肥大していき、思わぬアクシデントが次々と彼女を襲います。ついには彼女の奇矯な言動を心配した夫のエルジーによって精神病院に送られそうになったバーナデット、すんでのところで逃げ出しますが、はて、そんな彼女が目指した先は……❗❓

 
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※他の作品同様、ケイトのファッションがステキすぎる😍しかしプライベートの彼女は着回しの名手。本年度の「グリーンカーペット・ファッション アワード」(ファッションとエンターテイメントにおけるサステナビリティな取り組みにおいて、ポジティブに活躍した人を称える賞)を、トム・フォードらと共に受賞しています。

 

 バーナデットはじつは、若くしてマッカーサー賞を受賞、フランク・ロイド・ライトミース・ファン・デル・ローエ等の巨匠と肩を並べるほどの天才建築家。環境配慮型建築の先駆者であった彼女でしたが、それがあるトラブルから建築界を引退、家庭に引きこもり子育てに専念してきた…という設定。…とこう書いてくると、家庭生活のために自らの才能を抑圧してきた主婦がそれに耐えきれなくなり、ついには爆発して自分探しの旅に出る……という「最近あるある」のストーリーかと思いきや、そんな単純なものではございません(笑)

 

 ……結局、バーナデットの生きる原動力だったのは、娘のビーに対する深い愛情だった……というお話しです。(……少なくとも、ヲタク的にはそこがポイント)彼女がビーを守るために孤軍奮闘する姿は時に滑稽なくらい(夫が心配するバーナデットのぶっ飛んだ行動も、じつはビーのためだったりすることが度々なのです)。しかしその愛の深さこそが、建築家としての彼女の第二の人生を開いてくれるきっかけとなるのです。「子育て」と「仕事」を対立して描くのではなく、互いに良きモチベーションとなり得る……というテーマはとても爽やかで前向きで、ヲタクは凄く好きです❗この映画😍まっ、それにはダンナの理解と協力が不可欠なんですけどね。そこもしっかり押さえてあります。



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※ビーがママを大好きな理由、それはママが献身的にビーを愛し、守ってくれている、ただそれだけではありません。ママが地球と人類を守るための建築に煌めく才能を発揮した偉大な人だから。バーナデットは同じ女性として、ビーの憧れの人なのです。

 

 

 直近の『TAR/ター』では、冷酷無比な天才モンスターを完璧に演じきったケイト・ブランシェットですが、今回は天才は天才でも、愛嬌ある「困ったちゃん」を軽妙に表現、一流のコメディエンヌぶりを遺憾なく発揮しています。……彼女の役の上の振り幅は非常に広く、歴史上の人物からヒーロー映画のヴィランファム・ファタールにセレブの人妻まで枚挙にいとまがありませんが、作品の中で泣いても叫んでもパニクっても決して下品にならず、滲み出る品性と優雅さはどうしたことでしょう。……これを書いている傍らのTVでは、さる日本の皇族が外国を訪問している様子が映っていますが、特に奥方の立ち振舞いがあまりにも品性がなく、いくら民間からお輿入れされたとはいえ余りにも№£℉¥§◑#@%&$(笑)次回海外公務をされる時には、ケイト・ブランシェットの映画をご覧になって、ちっとばかりお勉強されてはいかがでしょうか❓……同じ日本人として恥ずかしいです^^;

 

 ……とまあ、またもや脱線するヲタク(笑)

 

 自らをコミュ障で社会的不適格者と自嘲するバーナデットですが、彼女が「万事休す❗」な時に助けてくれるのは、今までさんざんいがみ合ってきたママ友のお隣さんだし、建築家としてセカンドチャンスをくれるのも女性科学者……と、なにげに「女縁」。というわけで、バーナデットは決してコミュ障などではなく、中身のないスモールトークが苦手なだけで、必要な時にはきちんと相手と向き合える人なんだということが、さりげなく描かれていて感動モノでした。


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※これも愛、あれも愛、きっと愛、たぶん愛……

な結末で、めでたし、めでたし😂

 

 笑いあり涙ありのハートフル・コメディ。バーナデットの悪戦苦闘ぶりがどこか他人事とは思えない、世代を超えて、ぜひ女性たちに見て欲しい作品です。

 

★ちょっと嬉しいジャポニズム

 最近の欧米の映画にはちょこちょこジャポニズムが散見されて、日本人としては嬉しいですね、やっぱり。今回はなんと、あの童謡「ゾウさん」(作詞・まどみちお、作曲・團伊玖磨)❗ビーがボランティアをしている子供会で、「ゾウさん」に合わせて子どもたちがダンスをするのですが、ビーはなんと尺八を吹いているというシブい演出(笑)

 

 

ドルビーシネマで『ホーンテッド・マンション』を見る〜ヤバすぎるニューオーリンズ

 
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すごく久しぶりに「ザッツ・ディズニーワールド」に没入❗童心に帰って、笑ったり怖がったり感動で涙したり……でございました😂

 

 ご存知、ディズニーランドの人気アトラクション「ホーンテッドマンション」を実写映画化。ディズニーランド(&シー)のアトラクションって、ストーリー性があって楽しいんだよねぇ。最後にディズニーランドに行ったのは、当時幼稚園くらいだった孫を連れて以来だからもうかれこれ5、6年前だけど、あのエレベーターに乗って「お化け屋敷」に向かっていく瞬間がなぜか一番ワクワクするのよね(笑)

 

 さてさて映画のストーリーはというと……。

医師でシングルマザーのギャビー(ロザリオ・ドーソン)は、ニューオーリンズの郊外に建つ古い洋館を超破格の値段で手に入れます。ギャビーは、9歳の息子のトラヴィスとともにに引っ越してきますが、そこはなんと、999人?の幽霊が住み着いているという「ホーンテッド・マンション」だったのでした❗新たな世界を求めて心機一転、ニューヨークからニューオーリンズに来たのに、幽霊なんぞに邪魔されてたまるものかと気丈なギャビーは、幽霊を撮影できるカメラを開発した科学者のベン・マタイアス(ラキース・スタンフィールド)を筆頭に、神父のケント(オーウェン・ウィルソン)、霊媒師のハリエット(ティファニー・ハディッシュ)、引退間近の歴史学者のブルース(ダニー・デヴィート)……と共に個性豊かな自称「ドリーム・チーム」を結成、我が家から幽霊軍団を追い出そうと目論みますが、はてさてその結末はいかに……❗❓

 

 ストーリーはゴシックホラーチックに展開しますが、そこはそれディズニー映画なので(笑)、自己卑下感や嫉妬、自暴自棄の心に幽霊は忍び寄り、そういった様々なマイナス感情を乗り越えることこそ人生…といった教訓が底には流れていて、久しぶりに、老若男女あらゆる世代が楽しめる映画を見た……という感じ。


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※1番のど迫力、マダム・レオタ(ジェイミー・リー・カーティス

 

 そんな映画だからこそ、演者もめっちゃゴージャス❗ジャレッド・レト推しのヲタクとしては、彼がどんな役で登場するか楽しみにしていたんだけど、全く原型を留めておらず、残念ナリ(^o^;)お久しぶりのウィノナ・ライダーもどこかに出ていたらしいんだけど……どこだっけ❓(笑)枚挙にいとまがないほどのオールスターキャストの中でひと際異彩を放っているのが、マダム・レオタ(あの水晶玉に閉じ込められてる人)役のジェイミー・リー・カーティス❗『エブエブ』の怪演で見事、アカデミー助演女優賞を受賞したカーティスですが、今回はさらにグレードアップしてましたよね。

 

 肖像画が伸びるシーン、亡霊たちの舞踏会、墓所のシーンなどソックリそのまま再現されているので、映画を観てから再度アトラクションを訪れると、また違った楽しみ方ができるかもしれませんね。

 

 ウォルト・ディズニー・プロダクションも、今年はついに100周年とか。全世界の人々に、愛と夢と希望を与え続けるディズニー。ディズニーは永遠に不滅です❗😉


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ニューオーリンズ…Pixabay

 

★今日の小ネタ…魔女と幽霊の街ニューオーリンズ

 アメリカで魔女といえば魔女裁判で知られるセイラムが有名ですが、ニューオーリンズは、ハイチから伝わったブードゥー教ネイティヴアメリカンの信仰、そしてカトリックが交じり合った独特の精神文化がある街と言われています。映画の中でも、カトリックの神父と霊媒師が協力して「悪霊退散」するシーンがありましたが、元々そういった素地がある場所らしいです、ニューオーリンズって。映画の冒頭、科学の夢と破れたベンが、ニューオーリンズの「幽霊屋敷ツァー」のガイドをして日銭を稼いでいましたっけ。

 

 例えば多数の黒人奴隷を虐殺したと言われる「血塗られた貴婦人」マダム・ラローリー(マリー・デルフィーン・ラローリー/1775~1800年代)や、ブードゥー・クィーンと呼ばれたマリー・ラヴォー(1801~81)ら、実在の人物ゆかりの場所では、今現在でも心霊現象が多発しているとか(^o^;)

 そんな前知識を仕入れてからこの映画を見ると、「ひょっとして…ひょっとしたら…」って、コワさ倍増するかも…です。

にんげん、こわい〜『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』


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 横浜駅直結のシネコン「Tジョイ横浜」で、『名探偵ポワロ:ベネチアの亡霊』鑑賞。

 

 英国の名優ケネス・ブラナーがメガホンを取り、自ら主役のポアロを演じる作品は、『オリエント急行殺人事件』(2017年)、『ナイル殺人事件』(2022年)に引き続き、早や3作目となりました。ヲタク的には、TVドラマで長年ポアロを演じていたデヴィッド・スーシェのイメージが強くて(まさに灰色の脳細胞、卵形の頭そのままのビジュアル)。スーシェはどちらかと言えば、カリカチュア(戯画)的に演じてましたよね。それに比べるとケネス・ブラナーポアロは極めて人間臭く、しかも超カッケーイケオジ😍アガサ・クリスティ、自分がキャラ造型しておきながらポアロのことはあまりお気に召さなかったらしいけど……。ケネス・ブラナーポアロを見たら、気難し屋さんのクリスティもきっとご満悦だったのでは❓…それにしてもシェイクスピア俳優でもあり、キングスイングリッシュの名手であるケネス・ブラナーが、前2作ではベルギー訛り(つまりフランス語訛り)の英語を小憎らしいくらい見事に喋ってましたが、今作でもその素晴らしい演技は健在❗


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ベネチア…Pixabay

 

 旅好きで、世界の様々な都市に出没する根っからのコスモポリタン、名探偵エルキュール・ポアロケネス・ブラナー)。さてさて、今回の舞台は、1947年第二次世界大戦直後のベネチア。彼は探偵業を引退、園芸に(ベルギー人らしく)グルメにと、悠々自適に暮らしています。ところがそんなある日、旧知のミステリ作家、アリアドニ・オリヴァ夫人(ティナ・フェイ)から、死者の声を話すことができるという霊媒ジョイス・レイノルズ(ミシェル・ヨー)の降霊会に一緒に参加しようと誘われます。「ジョイスは紛うことなき本物の霊媒師」と言うオリヴァ夫人に、自身の「灰色の脳細胞」しか信じられないポアロは「霊媒師は必ず、何かしらのトリックを繰っているはず」と、彼女の陰謀を打ち砕くべく降霊会に参加します。自らの理性をも揺るがすような、摩訶不思議な事件が待ち構えているのも知らず……❗


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※当代一の霊媒師役のミシェル・ヨー。かつては「品格あるアジアン・ビューティ」キャラが定番だった彼女ですが、アカデミー主演女優賞を受賞した『エブエブ』のぶっ飛び演技以来、異次元にイッちゃった感が……(笑)

今作品でも、降霊時トランス状態に陥るシーンの怪演❓は見ものでございますよ。

 

 もちろんこれは「アガサ・クリスティのミステリ」なので、お化けぢゃなく「にんげん、こわい」な結末になるのは(ヲタクのように原作を読んでなくても)推察できるんだけど、古い邸宅の廊下の暗闇から突然伸びる手や、羽音烈しく飛び立つ鳥、鏡の中背後に立つ死者の影……と、ケネス・ブラナーの、ゴシックホラー的要素を巧くミックスした演出が素晴らしく、全編怖くて恐ろしくて、心臓に悪い(笑)ラスト、(…え❓あれってひょっとして…❓)っていう含みもちゃんと持たせてあるしね。


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ジェイミー・ドーナン(下段中央)…ケネス・ブラナー監督作品で、アカデミー賞にもノミネートされた『ベルファスト』で主人公の父親役を演じたアイルランド出身の俳優ジェイミー・ドーナン(『フィフティ・シェイズ』シリーズ)。今作品では戦場の体験がトラウマとなり、次第に精神を病んでいく医師役を好演。

 

 この作品はやはり、沈みゆく水の都ベネチアの、しかも古い古い邸宅が舞台だからこそ成立した作品。(作品中、「ベネチアにある建物は例外なく呪われている」というセリフもあるし(^.^;)凄惨な連続殺人事件の舞台になる邸宅は、ペストが大流行した時代に大勢の子どもが犠牲になった呪われた場所…という設定。ベネチアは1361年から1528年の間になんと22回もペストに襲われ、特に1576年から1577年、人口の約3分の1にあたる5万人がペストで死亡したと言われています。ベネチアとペスト……と言えば、ルキノ・ヴィスコンティ監督の名作映画『ベニスに死す』(原作 トーマス・マン)を思い出しますねぇ……。美しき古都に纏わりつく死の匂い。


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スピルバーグ版『ウェスト・サイド・ストーリー』でジェッツのバルカン役を演じたカイル・アレンが重要な役で登場。ヲタクの熱烈推しマイク・ファイスト(ジェッツのリーダー、リフ役)が、「ロスに住んでるカイルにいつも「ロスにおいでよ~」って誘われてたから、ジェッツ全員でとある土曜日の朝ほんとうに彼の家に押しかけちゃったんだ」って微笑ましいエピソードを披露していたのを思い出すわ😍

 

 戦争のトラウマや、妄執ともいうべき愛憎の念、そして自らが過去に犯した罪の意識に苛まれる登場人物たち。それは名探偵、エルキュール・ポアロとて例外ではありません。ポアロの最後の台詞…

人はみな、自らの亡霊を乗り越えて生きていく。

それが人生なんだ。

が、なぜかひたひたと心に染みて、深い余韻を残す…そんな作品です。

 

 映画の冒頭では探偵業を引退しようと固く決意していたポアロでしたが、ラストではまた情熱が盛り返したもよう(笑)……ということは、ケネス・ポアロにまた会える…って、期待してもいいのかしら❓

もしかして壮大な皮肉❓〜ウェス・アンダーソンの『アステロイド・シティ』


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 時は1955年、所は、アメリカの砂漠にある架空の町、人口わずか87名のアステロイド・シティ。隕石が地上に激突して出来たクレーターが観光の目玉になっているこの町で子ども向けの科学賞受賞式が催され、受賞対象の天才少年少女5名と、その家族がアステロイド・シティに招待されます。ところがその受賞式の真っ最中、空の果てから「未確認飛行物体」が降りてきて、なんとその中から宇宙人が……❗宇宙人は町にある隕石を盗んで立ち去ったものの、アステロイド・シティは「危険地帯」として大統領命令で封鎖されてしまいます……❗

 

 ……とつらつらあらすじを書いてきましたが、これは実は劇中劇。劇作家コンラッドエドワード・ノートン)が書いた劇をまさにただいま上演中…という設定。上演中の「いま」は、モノクロ画面に切り替わるので、混乱はあまりありません。

 

 この手法は、ウェス・アンダーソンの直近の作品『フレンチ・ディスパッチ』と同じですよね❓雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の名物編集長(ビル・マーレイ)が突然亡くなり、雑誌が廃刊になるに当たって、最終号で一癖も二癖もあるライターたち(ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマント、ジェフリー・ライト)がこれまでのライター人生を賭けて渾身の記事をモノにし、私たち観客はそれを「映画という形式で読む」という二重構造の作品でした。

 

 最近のウェス・アンダーソンって、「観客に内容を具体的に理解してもらう」という姿勢は、まるっきり投げちゃったんですかね❓わざわざストーリーを分かり難くしているような気がしてなりません。……それとも単にヲタクがアタマ悪いだけなのかいな(笑)『グランド・ブタペストホテル』辺りまではそうでもなかったような気がするんだけど……(^.^; シュールレアリズムよろしく、監督の脳裏に浮かんでは消える断片的な想念をそのまま映像化したような作品(……なんじゃそりゃ 笑)

 

 まあしかし、なんとなーくウェス・アンダーソンの、生まれ故郷であるアメリカ合衆国、特にマッチョ文化溢れる中西部(映画の作風からは考えられないですが、アンダーソン監督はじつはテキサス州生まれ)に対するそこはかとない悪意を感じちゃう(^.^; 時代背景が1955年だからねぇ。第二次世界大戦で、戦勝国とは言えボロボロになったヨーロッパ諸国を尻目に、イケイケドンドン、アメリカが「世界の守護神」を以て任じていた時代。今回の映画の冒頭でも、貨物列車にグレープフルーツやアボカドと一緒になんと核弾頭が積まれていたり、町からすぐ見える砂漠の向こうでフツーに※核実験が行われていたり、ギフテッド教育の異常さや、後年米ソの冷戦に繋がる「宇宙開発戦争」の始まりを思わせるシーン……etc.と、ほら、やっぱりアンダーソン監督とアメリカの険悪な関係を示す皮肉と悪意に満ちてるわ(笑)『グランド・ブタペストホテル』や『フレンチ・ディスパッチ』は、それぞれ町は架空のものでもモデルになった国々はハンガリーやフランスなど、ヨーロッパの国々。ヨーロッパ大好きアンダーソン監督のリスペクトが溢れていました。……しかし、今回の『アステロイド・シティ』はどうでしょう。砂漠のど真ん中に立つ、まるでテーマパークのような絵空事の町。ずーーっとピーカンの青空続きで、眩しいくらい明るい場面なのに、どこか冷たい風が吹いているように感じるのはヲタクだけ❓

アメリカのネバダ核実験場では1951年から核実験が行われ、ネバダからわずか80キロしか離れていないラスベガスでは、キノコ雲見物が注目され、一気に観光客が増えていたという恐ろしい事実。さらに放射能は、何百キロメートルも離れた風下のユタ、アリゾナ州などへも広がり、 少なくとも約17万人が被ばくしたとされ、子どもをはじめ住民の間では、白血病やがんで亡くなる人が増加したことが報告されています。

 

 …しかしまあ、いつも通りパステルカラーの町はポップでオシャレで可愛いし、キャストも超豪華❗マリリン・モンローを模したと思われる女優ミッジを演じるスカーレット・ヨハンソンは安定のステキさだし、エドワード・ノートンは相変わらず知性派イケメン😍……しかししかし、何と言ってもラスト近くに登場するマーゴット・ロビーの美しさよ❗あまり意味のないどアップの連続で、さしものアンダーソン監督も……(笑)アンダーソン組の常連、ビル・マーレイがコロナ感染でこの映画を降板したニュースはまだ記憶に新しいですが、今作品を観て、いかにビル・マーレイがアンダーソン作品に得難い人材であるかがわかりました。……なんだか、ちょっと気の抜けたビールみたいになってた。…いや、ほんと(笑)

 

 

 

ユニバーサル・モンスター見・参❗『ドラキュラ〜デメテル号最後の航海』

 
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 桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」にて、『吸血鬼ドラキュラ〜デメテル号最後の航海』鑑賞。昔懐かしユニバーサル・モンスターが久しぶりに見・参❗ってカンジの映画でした。

 

 1920年代〜1950年代にかけて、ドラキュラや狼男、アマゾンの半魚人にミイラ男、フランケンシュタイン、透明人間……etc.と、所謂「モンスター映画」や怪奇モノで一世を風靡したユニバーサル・スタジオ。2000年に入ってから、「夢をもう一度」…というわけで、愛すべきモンスターたちのリブート映画を作る気運が高まり、マーベルの向こうを張って「ダーク・ユニバース」構築計画に着手、満を持して『ザ・マミー〜呪われた砂漠の王女』(2017年)を世に問いましたが、あのトム・クルーズ様を主演に据えても…これが…コケちゃったんですね(^.^; ヲタク、個人的には見て面白かったけどなぁ…何でヒットしなかったんだろ。「呪われた王女」役のソフィア・ブテラもめっちゃ雰囲気あったし。ハムナプトラ・シリーズが大ヒットで『ザ・マミー』がコケたのはなぜ❓ヲタク的には全くもってナゾである(・・?

 

 ……とまあ、そんなこんなでしばらくナリを潜めていたユニバーサル・モンスターズですが、そこはそれ、しぶとい(笑)ユニバーサル、今度は王道のドラキュラで攻めてきました❗

 

 ご存知ドラキュラは、英国の作家ブラム・ストーカーが造型した吸血鬼の名前。映画の創始期から現在に至るまで、ドラキュラほど何度も映像化されたモンスターは他に類をみないでしょう。しかし考えてみると、ブラム・ストーカーの原作中、ドラキュラがルーマニアから英国まで棺桶で運ばれる※「デメテル号の恐怖」を描いた第7章は、殆どの映像化作品ではサラッと流されちゃってるんですよね。例外は、『シャーロック』と同じスタッフで製作したというNetflixのリミテッドシリーズ『ドラキュラ伯爵』くらいかなぁ…。まあでもあのドラマは全編独自の解釈で作られていて、原作とはずいぶんかけ離れていましたけどね。コミカルタッチだったし。

デメテルギリシャ神話の豊穣の女神。豊穣と大地の女神を冠した船で繰り広げられる悪魔の所業と血塗られた惨劇…。何という皮肉でしょうか。

 

 …というわけで、ユニバーサル版「吸血鬼ドラキュラ第7章〜デメテル号最後の航海」。昔むかし、ヲタクも原作で読みました。ドラキュラがその故郷ルーマニアにある古城から英国に渡るため、帆船デメテル号に乗り込むのですが、彼は夜の闇の中でしか活動できないので、棺桶に入って運び込まれ、夜になると血を求めて船の中を彷徨い歩き、乗組員たちを次々と毒牙にかけて行きます。原作では「デメテル号船長の航海日誌」という体裁をとっているのですが、船上から一人、また一人と船員が消えていき、その理由がわからない船長は次第に心理的に追い詰められていって、ついにはその恐ろしい存在と対峙する……という内容。読み手である私たちは船長と共に得体のしれない恐怖に襲われ、それがついには極限に達する……という感じで、読んでいてめちゃくちゃ怖かったのを覚えています。今回の映画は、これまでのドラキュラものに見られるような、ドラキュラの人間的な側面には一切タッチせず、ドラキュラは、醜悪なヴィジュアル(『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムをさらに怖くしたバージョン(^.^;)からその性癖から「極悪なる怪物」として登場、その描き方もセンチメンタリズムやユーモアを一切排し、徹頭徹尾ホラーで押しまくる(笑)ヲタクなんて原作も読んでるのに、何度も身体がビクビク震えるわ、声上げそうになるわ……(ぶるぶる)


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※最恐のドラキュラをCG無しのガチで演じるのは、ハビエル・ボテット。前述の『ザ・マミー』にも古代エジプト神で出演していたスペインの怪優。

 

 これほど悪の権化たるドラキュラ、久しぶりに見たわ。それに飛ぶんだわ❗コウモリみたいに。あの史上最高のドラキュラ役者クリストファー・リー様だって、今作に比べたら、もちょっと可愛げあったし、スタイリッシュで上品だったよね(^.^;ヲタク思うに、吸血鬼映画って、主人公の吸血鬼をどう描くかで、モンスター系とイケメン系、もしくはミックス系❓の3つに別れると思うんですが、今回はモンスター系の最高峰ですね(笑)

 

 PG12だけあってかなり血生臭い描写が多いので、気の弱い方はご用心(^o^;)

本当に怖い、吸血鬼伝説

……うん、このキャッチコピー、ウソじゃない。

9月に入ってもまだまだ蒸し暑い昨今、この映画見てゾッとして涼しくなりましょ🎵

 

 

 

オタクおススメ❗〜ドラキュラ(吸血鬼)映画&ドラマ5選

 昨日『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』を見て、またぞろヲタクの吸血鬼熱が再燃。 笑

今日はヲタクの長年に渡るドラキュラ・フリーク史を振り返り(^.^;、「ドラキュラ映画&ドラマ5選」をご紹介しましょう❗

 

★『吸血鬼ドラキュラ』

(主演/クリストファー・リー

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 ヲタクが子どもの頃、ドラキュラ…と言ったらパッとクリストファー・リーの顔が浮かぶくらい、世間への浸透度が凄かった。

 

 193センチの長身(一説には196センチとも)、英国軍人の父とイタリア名門貴族出身の母を持つ毛並みの良さと相まって、血塗られた貴族の末裔たるドラキュラ伯爵はまさに当たり役❗長身でもリーは、「大男、総身に知恵が回りかね…」といったタイプでは全然なくて、剣術・馬術の達人であったためか、身のこなしは機敏にして優雅でしたよねぇ……(遠い眼)


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 クリストファー・リーは極めて俳優人生の長かった人で、生涯で出演した映画は実に250本❗ギネスにも記載されている大記録だそう。ドラキュラ役者のイメージが強烈だけど、そのじつドラキュラものは10本に満たなかったようです。ヲタクは全部見てると思います(……たぶん(^.^;)が、ドラキュラが現代のロンドンに蘇って宿敵ヴァン・ヘルシング教授の子孫と戦ったり、宇宙に飛んでっちゃったり、後半の作品となると、ハマー・フィルムも新しさを出すためにかなり苦労したもよう(笑)おススメはやっぱり第1作目かなぁ。血を見ると、普段の白皙の貴公子ぶりはどこへやら、目は真っ赤に染まり、鋭い牙がみるみるうちに生えてきて……。その変身ぶりが、幼いヲタクには夜うなされたくらいめちゃくちゃ怖かったっす(笑) 

 

 あまりにもドラキュラ=クリストファー・リーのイメージが定着しすぎちゃったから、彼以降のドラキュラ作品は、そのキャラ設定やストーリー展開において、いかにリーの作品群を超えられるか、また新規性を持たせられるか……で、製作陣はかなり頭を悩ませたんじゃないでしょうか。

 

★『ドラキュラ』

(1979年…監督/ジョン・バダム


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 『ドラキュラ〜デメテル号最後の航海』の感想文でヲタク、ドラキュラの人物像が「モンスター系、イケメン系、前述2つのミックス系」の3つに大別される……って書いたと思うんですが、これはイケメン系ドラキュラの最高峰でしょう(笑)。元々はブロードウェイで大ヒットした舞台劇の映画化で、舞台でドラキュラを演じた※フランク・ランジェラが映画でも主役を務めました。

※舞台を中心に活躍する俳優さんで、あまり映画には出ないので日本ではあまり知られていませんが、トニー賞を4度も受賞している大舞台人です。


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このドラキュラ城の蠟燭のシーン、めっちゃステキだった😍ちょっと『オペラ座の怪人』っぽいけどね(笑)

 

 ランジェラは名前で分かる通りイタリア系アメリカ人。ランジェラのドラキュラは、いかにも冷血そうなクリストファー・リーとは対極の、血湧き肉躍るラテンのセクシー・ダイナマイト(笑)ドラキュラにとって、恋人の生き血を啜ることが、究極の愛の行為だと如実にわかる映画になっております。恋人を追って壁を伝って這い回るシーンは、「ザ・愛欲」ってカンジで凄かった。この映画、ドラキュラの宿敵ヴァン・ヘルシングを演じたのが、あのサー・ローレンス・オリヴィエなんですよ❗その名を冠した舞台の賞があるくらい、サー・オリヴィエも舞台の名優。2人の演技合戦も見ものです。

 

★『吸血鬼ノスフェラトゥ

(1922年…監督/F. W. ムルナウ


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 映画史上初の吸血鬼映画。監督は、ドイツ映画の巨匠、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ。題名のノスフェラトゥとはズバリ、吸血鬼のこと。ムルナウは「ノスフェラトゥとは、ルーマニアの言葉で「吸血鬼」を表す」と言ったらしいんですが、実際ルーマニア語には該当する語が見当たらないそうで、「ネスフェリット」(ルーマニア語で「嫌悪すべきもの」といった意)をドイツ語風に読んだもの……と言われています。

 

 ブラムストーカー原作の『吸血鬼ドラキュラ』で、主人公のドラキュラ伯爵が吸血鬼であるという設定から、後年「吸血鬼=ドラキュラ」という図式が定着してしまいましたが、本来ドラキュラって固有名詞なんですよね。この映画ではムルナウ監督、なぜかドラキュラではなく、オルロックという名前に変更しております。

 

 ノスフェラトゥのビジュアルがめちゃくちゃ怖い(^.^; ノスフェラトゥを演じているのはマックス・シュレックというドイツ人の俳優さんですが、その特異な風貌を見込まれて吸血鬼役に抜擢されただけあり、特殊メーク無しのあの姿は……超ド迫力でございます。吸血鬼とペストの伝染という二重の恐怖を絡ませて描いていますが、そこはドイツ表現主義の巨匠ムルナウの作品だけあり、※幽霊馬車が急峻な断崖絶壁を走って吸血鬼の城に近づいていくシーンや、ノスフェラトゥが犠牲者に近づくのを壁に映る大きな影で表現するシーンなど、モノクロ画面の美しさが最大限に発揮されていて、まさに「グロテスクな美」の極みと言えるでしょう。

※熱烈なムルナウ信者のロバート・エガース監督。ムルナウ愛が高じて、ついに『ノスフェラトゥ』をリメイクすることに。そう言えば、A24の『ライトハウス』(主演/ロバート・パティンソン)でも、『ノスフェラトゥ』の様々なオマージュが登場していましたっけ。

 

★『ドラキュラ』

(1992年…監督/フランシス・コッポラ


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 名匠フランシス・コッポラがメガホンを取った『ドラキュラ』は、それまでの吸血鬼映画とは明らかに一線を画すもので、ドラキュラを愛ゆえに悪魔と契約を結んでしまった、悲哀に満ちた存在として描いています。またね、ドラキュラを演じる男盛りのゲイリー・オールドマンがめちゃくちゃセクシーで(笑)しかも、遠い中世に喪った恋人にそっくりな女性(ウィノナ・ライダー)に愛慕の情を募らせ、彼女の血を啜りたい衝動を抑えようと苦悶する姿もまた、魅力的でございました。

 

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※当時のゲイリーとウィノナ・ライダーは実生活もアツアツの恋人同士、二人の場面はちょっとこっちが気恥ずかしくなるくらいムードがあったように記憶しております(笑)

 また、1993年の第65回アカデミー賞で、この映画の衣装を担当した石岡瑛子さんが見事、衣装デザイン賞を受賞しました。主役2人(ゲイリー・オールドマンウィノナ・ライダー)はうっとりするほど美しく、ドラキュラの城や邸宅の調度品、英国式の庭園に至るまで、コッポラ監督の美意識に貫かれた、言わば「お耽美系」❓ドラキュラと言えるかも。

 
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石岡瑛子さんデザイン、「死の花嫁衣装」。これを見るだけでも、この作品は一見の価値アリ。

 

★『ディスカバリー・オブ・ウィッチズ』


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 この作品はブラムストーカーの原作は関係なくて、全米一の大ベストセラーとなったファンタジーラブロマンス『ディスカバリー・オブ・ウィッチズ』のドラマ化です。…なので、番外編としてご紹介しますね。

 

 セーレムで処刑された魔女の直系であるヒロイン、歴史学者のダイアナ・ビショップ(テリーサ・パーマー)。彼女は自らの出自を嫌い、一人の学者として生きようとしていましたが、就職先のオックスフォード大学図書館で偶然、魔女やデーモン、吸血鬼など「クリーチャー」と呼ばれる種族たちの所謂『種の起源』を著した、クリーチャーの垂涎の書『生命の書』を発見します。その書を治める者はクリーチャー全体を治める者。吸血行為が上手くいかずに存亡の危機に立たされている吸血鬼一族のマシュー・ド・クレアモント(マシュー・グード)はその書を手に入れようとダイアナに近づきますが、それは危険な、禁断の愛の始まりでした。マシューに対する愛によって、次第に自らの魔女としての能力に目覚めていくダイアナ。彼女が幼少期の頃の両親の死の謎も絡んで、愛し合う二人はクリーチャーたちの世界戦争に巻き込まれていきます…。


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※時折襲う吸血鬼の本能に苦悩するマシュー(マシュー・グード

 

 まあとにかく、吸血鬼役のマシュー・グードがステキ過ぎる❗吸血鬼って相手の血を吸って仲間にしちゃうわけだから、吸血とは言わば彼らにとって性愛~種の繁栄に繋がる行為。しかしこのドラマでは、吸血鬼一族は血を吸っても相手が生き返らず、種の繁栄は望めない…っていう問題を抱えてる。だから、マシューはダイアナを傷つけないよう、その衝動を抑えに抑えるわけ。その時のね、苦悶と恍惚がないまぜになった彼の表情がもう、絶品なんですわ。セクシーな吸血鬼っていえば、ヲタクの中では今まで前述『ドラキュラ』(1992年)のゲイリー・オールドマンがぶっちぎりの1位だったけど、こドラマを見て、心が大いに揺らいだのを覚えています(笑)

 

 

 

 

 

 

ジャック・ロウデン、弟くん主役のバレエ応援に駆けつける


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 スウェーデン王立バレエ団で長年ファースト・ソリストを務め、2年前の2021年10月に念願の最高位プリンシパルに昇格したジャクロの弟カルムくん。ロウデン家は芸術志向が強かったのか、ジャクロも幼少時はバレエを習っていたそうですが、次第に自らの才能に疑問を持ち始め、演劇畑に転向したわけです。弟くんはイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクール(English National Ballet School)とロイヤル・バレエ学校を卒業後、スウェーデン王立バレエ団(Royal Swedish Ballet)でその才能を見事結実させました。

 

 弟くんの大舞台には殆ど駆けつけ、インスタでその都度メッセージをUPしているジャクロ。今回カルムくんが主役を務めた舞台『マノン』、舞台の袖から弟くんを撮影しまくり、「ボクの弟は少年の頃から『マノン』を踊りたがっていたんだ。今日は彼の15年の努力が実った日。実に美しいバレエ。愛してるよ❗」とインスタにメッセージを寄せるジャクロは、兄というより息子に甘甘な若いパパみたい(笑)

 

 一緒にバレエをならい始めて自分は早々に挫折、いろいろ複雑な思いもあっただろうに、変わらず弟くんを応援し続けるジャクロ。ヲタクとしては、推しの人間としての度量の大きさを知ることほど、嬉しい時はありません。推し活してて良かった……って、つくづく思う。


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※ジャック・ロウデン。この兄弟、ふたごみたいにソックリ(笑)

 

 スウェーデン王立バレエ団の今回の『マノン』、レビューを読んだけど(スウェーデン語を英語に自動翻訳したものなのでところどころ❓❓❓なんだけど 笑)、カルムくん、バレエの技倆はもちろんのこと、その豊かな感情表現と演技力を特に評価されていましたね。『マノン』はバレエの中でも極めて演劇性の高い作品と言われています。……もしかして演技面では、お兄ちゃんのアドバイスもあったかな❓…いやきっとあったに違いない(笑)

 

 『マノン』を振り付けたケネス・マクミランはそのファミリーネームからもわかるように、スコットランド人。スコットランド熱烈愛国者たるロウデン・ブラザーズが、この演目に思い入れが深いのもめっちゃわかる気がします。

 

 

これってホラー映画だったの❗❓〜『ファルコン・レイク』


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 KINOシネマ横浜みなとみらいにて、『ファルコン・レイク』鑑賞。

 

 まもなく 14 歳になる少年バスティアンは夏休みに、自身の住むフランスから、カナダ・ケベック州の湖畔にある母の友人ルイーズのコテージを、両親や弟と共に訪れます。鬱蒼と繁る森と神秘的な水を湛える湖。そこでバスティアンは、ルイーズの娘・クロエ(彼より3つ年上の17才)と数年ぶりに出逢い、美しく成長した彼女に惹かれていきます。年齢よりも大人びて自由奔放な彼女に、バスティアンはさんざん翻弄されます。
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 ……とまあ、こうやってあらすじを書いてみると、避暑地あるある、一人の少年の甘酸っぱい「ひと夏の経験」のお話しかと思いきや(日本版ポスターのキャプションにも「14才の少年と16才の少女。大人へと変わりゆく2人の、人生で1度きりの夏」ってあるしさぁ。)……

 

それが、全然違うのよ❗

 

 まず冒頭から、コテージに向かうバスティアンの乗った車の前途には真っ黒な雨雲。コテージに着けば電気が切れていて、家主のルイーズは留守。突然の物音にびくびくするバスティアンと私たち(笑)。しかもコテージには何やらある「匂い」が染みついています。そこに突然の激しい雨。バスティアンが夜中に目覚めると、髪の長い幽霊が……。ってこれは、クロエの影だった…ってオチだけど、この時点で早くもこれがどんなジャンルの映画なのかわからなくなったヲタク(笑)

 

 幼い頃溺れかけた経験のあるバスティアンは今でも水が苦手で、クロエに誘われても湖には入ろうとしません。クロエが「あなた、幽霊って信じる❓…あの湖で事故があって死んだ人がいるの」なんて意味ありげに呟くし、また、彼女の取巻きの不良少年たちも、「湖に入ったら足に何かが触れて、中に引きずり込まれそうになった」などと騒ぎ立てるのでバスティアンの恐怖はいや増すばかり。しかしある日、クロエはバスティアンの恐怖心を知りつつ、彼に強制的に湖に入るよう命じます。それも湖の向こう岸でバストをチラ見せしながら。……おい、いくらなんでもそりゃ禁じ手だろ(笑)しかしまんまとクロエのワナに引っ掛かった❓バスティアンは、めちゃくちゃビクビクしながらも、何とか彼女の気を引こうと勇を奮って湖の沖へと泳ぎ出しますが……。

 

 ストーリーが進むにつれ、冒頭で示された不気味な不穏さはますます存在感を増し、驚くべき結末へと一気に突き進んでいきます。ヲタク、エンドクレジットを見ながら、思わず(……これって、ホラー映画だったの❓)って画面に向かって突っ込んじゃいましたよ(笑)

 

 監督は、女優としても活躍しているシャルロット・ル・ボン。フランス映画『イヴ・サンローラン』(2014年。サンローラン役はピエール・ニネ)に、チョイ役で出てましたね。彼女はカナダ出身です。今作は、カナダのケベック州の湖が舞台なんですが、…そう、舞台がカナダってところがこの作品のキモなんです。カナダって、遠く離れた日本に住む私たちから見れば、随所に美しい自然があり、安全で住みやすく、リベラルな人たちの住む国……といったイメージがあるのではないでしょうか。…ところがどっこい、ちょっと違うんだな(笑)クロエ自身と、彼女の家庭の描写が、カナダという国の、見えざる闇を如実に表している気がします。クロエはシングルマザーである母親ルイーズとは犬猿の仲。ルイーズは不動産業を営んでいますが、契約を取った相手とは必ずベッドを共にするという破天荒ぶり。税金も3年間払ってなくて、「問題が発覚する前に自分は死ぬから大丈夫」なんて言っちゃってるし。そんな母親を持つクロエは、バスティアンの家族の仲良しぶりを目の当りにして孤独と焦燥感を募らせ、バスティアンを精神的に苛め、翻弄し、それは次第に暴走していきます。

 

 実はヲタク、カナダという国にはかなり偏見がありまして(笑)。長女が高校時代短期の交換留学先をカナダに選び、ホームステイをしたのですが、これが運悪く崩壊一歩手前の家庭。お母さんが家事を全く放棄しているため家は荒れ放題、その子供たちと娘は自分たちでスーパーに買い物に行って自炊生活(^.^; ホームステイのお返しに半年後、同じ高校の女子を2人、我が家に受け入れましたが、2人ともクロエ同様かなり……荒んだ印象でしたね。おもてなしのつもりでプールとか鎌倉の観光名所に連れて行ったら、タバコスパスパしながら「このへんってクラブないの?こんなとこつまんな〜い」って言われたり(笑)当時(20年前)から離婚率もアメリカ以上に高く、未成年の飲酒や薬物も社会問題化しているようでした。(クロエもワインラッパ飲みしながらタバコ吸ってましたよね)…もちろんそんな家庭ばかりじゃないことは百も承知ですが、ヲタクの経験と今回の映画の内容から、カナダにおける青少年の問題はかなり深刻のような気がしました。

 

 ディスりついでにもう1つ言わしてもらえば(笑)、カナダって実は、かなりの差別社会なんですよね。例えば奴隷制度の歴史……というとアメリカばかりが注目されますが、じつは『ファルコン・レイク』の舞台になったケベック州には、1629年から1833年までの間、およそ4000人もの奴隷(先住民)がいたと言われています。実は今でも先住民女性の失踪や殺害事件が跡を絶たず、2019年にはNational Inquiryが政府をはじめとする諸機関に対して、「先住民女性の失踪や殺害を撲滅させるために必要な諸提案」を示す報告書を提出しています。この作品がその底に、言うに言われぬ「暗さ」「虚無感」を醸し出しているのは、カナダという国の、隠れた闇の部分が投影されているような気がしてなりません。


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 先頃監督業からの引退を表明したグザヴィエ・ドランも、実はカナダの、それもケベック州の出身。彼はゲイをカミングアウトしていますが、カナダでは2005年に同性婚が法的には認められているものの、実際にはゲイの人々は未だに忌み嫌われていると言います。……そんなカナダの片田舎、「本音と建前」に板挟みになる生きづらさ、そしてドランが故郷に抱く愛憎渦巻く複雑な感情は、彼が監督・主演を務めた『トム・アット・ザ・ファーム』(2013年)に詳細に描かれています。

 

 ……って、またまたひどく脱線しちゃいました(^.^;

 

 一見平和に見える、カナダの美しい自然や街に潜む、見えない闇。そんな視点で見直すと、この『ファルコン・レイク』も、単なる青春ホラーの範疇には収まりきれない、様々な社会問題を内包した作品だと言えるでしょう。

 

 …しっかし、前述のキャプションとか、「恋がなにかも知らなかった」とか、甘甘な日本での売り出し方、これ鵜呑みにして見に来た人たち、大丈夫かなぁ。キャッチコピー考えた人、ちゃんと作品見てから書いた❓(^.^;

ついに最終章❗『刑事モース』第9シリーズ


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 英国本国では、あの名探偵シャーロック・ホームズよりも人気があるという、ミステリ作家コリン・デクスターが造型したモース警部。その若き日を描いた、10年に渡る長寿ドラマ『刑事モース〜オックスフォード事件簿』が第9シリーズを以ていよいよ最終章❗

 

 ヲタクはかれこれ5年前に何気なくU-NEXTで見始め、面白くて途中で辞められず、1週間くらいで配信済みの第1〜4シーズンをイッキ見。今思えば、ドラマのシチュエーションも主人公モースのキャラも、通常の刑事モノとはずいぶんと違ってましたよね。すごく新鮮だった。

 

 舞台は、たいがいの英国刑事モノやミステリーが首都ロンドンを舞台にしているのに比べ(実際にも犯罪率が高いんでしょうか)、『モース』では大学町オックスフォードが舞台。それもそのはず、主人公のエンデバー・モースはなんとオックスフォード大学中退の設定。大学時代は研究室に残るように言われ、将来を嘱望されていたのに、学業の傍ら英国軍通信部に所属したことから、大学には戻らずそのまま退学、オックスフォード市警に就職します。ワタシ的には、どんなドラマでも映画でも、ステロタイプを脱した、観客の想像力を裏切るようなキャラ設定が見たいな〜と日頃から思っていたので、モースくんはまんまとツボにはまりました❗

 

  まずもって、演じるショーン・エヴァンスの、筋肉ぜんぜんついてなさそうな(笑)ひょろっと長身の体型、知的な(ヲタクっぽいとも言える)雰囲気(ドラマ中でも、銀行強盗で人質になった時、犯人から大学教授に間違えられてます)、ドラマが始まった頃はちょっとエディ・レッドメインに似てたな~。色白でソバカスがあるとこなんかも😗エディは近年カラダを鍛えに鍛えて筋骨隆々だけど、ショーンくんはあんまりカラダ作りには興味なさそう(^.^;

 

 モース刑事の趣味はなんと、クラシックとオペラ観賞(教会の聖歌隊の一員でもある)。警察内部で浮くはずだわ(笑)……でも、一見捜査には関係なさそうなクラシックや文学、ギリシャラテン語などの素養が役に立つこともあるんですよね〜。そんな彼なので、新人時代は直属上司のサーズデイ(ロジャー・アラム)から「お前はいらん。もっと武闘派の部下が欲しい」なーんて言われちゃうこともあったなぁ。そんなサーズデイも、モースの真面目さと鋭い推理力に感服、2人は次第に上司と部下を超えた絆を築き上げていきます。

 

 第4シリーズまで見て、すっかりモースのトリコになったヲタクは、第5シーズンがWOWOWでまもなく放送というニュースを聞きつけ、急いでWOWOWに加入したんですよね〜、モースの威力、恐るべし(笑)。それ以来、こっちは新シリーズを今か今かと待っているんだけど、本国でも日本でも放送は不定期だし、いつぞやはWOWOWのHPで放送日が1度発表されたにもかかわらず、突如放送中止になったりして……ずいぶんハラハラさせられたもんです。


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※一時お髭を生やしていたモースくん。個人的には好きだったけど、すぐまた元に戻っちゃった。評判悪かったのかしら(笑)

 

 最終シリーズには、シーズン2の最終話『汚れたネバーランド』に登場した少年矯正施設「ブレナム・ベイル」が再度登場します(Case34『ブレナム・ベイルの亡霊』)。はじめのうちはヲタクも「ブレナム・ベイルって何だっけ❗❓」って感じだったけど、見ているうちにだんだん思い出してきた(^.^; この「ブレナム・ベイル」事件、シリーズ中最も不穏で悲劇的な事件で、一見平穏かに見えた学生街オックスフォードに潜む闇と警察当局の腐敗が明らかとなり、モースは同僚を失い、銃撃戦の末サーズデイは負傷、モース自身は無実の罪を着せられて逮捕される……という惨憺たるストーリー展開。そのトラウマからモースは刹那的な恋に逃避したり、果てはアルコール依存症になりかけたり……とかなり迷走しますが(^.^;さすがに最終章ではすっかり立ち直り、知的で冷静でイケてるモースに戻っていたのでひと安心(笑)

 

 ブレナム・ベイル事件をはじめとして、モースを巡る複雑な人間関係、サーズデイの家庭の問題等等、これまで張り巡らされた伏線が一気に回収され、ヲタク的には大いにカタルシスを感じることができました❗頑ななまでに正義を追及し、不正は絶対に許さないモースが、最後の最後、愛する者たちを守るために法を超えて行動する姿に……ちょっと、うるうるきちゃいました。


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※英国の名優たちが脇役で登場。人間臭いモースの上司、サーズデイ役のロジャー・アラム(左)と、ブライト警視正役のアントン・レッサー(右)。このお二方は、他の英国ドラマや映画でもよくお見かけします。

 アントン・レッサー演じるブライト警視正は、非常に味のあるキャラ。普段は寡黙で昼行灯タイプなんだけど、いざという時に見せる決断力と部下を思うアツい心意気にグッときます。イギリスで『上司にしたい俳優ベスト10』があったら、アントンさんに絶対1票を投じるワ(笑)

 


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※脇役の一人一人に至るまで、キャラが作り込まれていて見事でした。監察医デブリン博士(ジェームズ・ブラッドショー)、その鋭い観察眼からモースが推理の糸口を見つけることも度々で、ヲタクは博士の英国人らしい皮肉と、毒のあるユーモアが大好き😍

 

 海外ドラマって、制作者側の都合でシリーズ打ち切りになったり、俳優さんが突如降板したりって、ままあるじゃないですか。それが、ちゃんと最後にストーリーの「落とし前」をつけた上で、単なる謎解きに終わらない、人間ドラマとしての深い余韻も残しつつ……。しかもラスト(サーズデイがモースに呼びかける場面)がオリジナルの『モース警部』への導入の役割も果たし、しかもその後のモースの人生をも暗示している。お見事というほかありません。


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※普段は警察と敵対しがちな新聞社。しかしアビゲイル・ソウ演じる記者フレジルは分別をわきまえた常識人であることからモースの信頼篤く、情報を交換しつつ、共に真相に迫っていくことも多かった。アビゲイルは、ドラマ『モース警部』(1988〜2002)で主演を務めたジョン・ソウのお嬢さん。随所に『モース警部』そしてコリン・デクスターの原作ミステリに対する深いリスペクトが感じられました。

 

 モースをはじめ、愛すべき登場人物たちにもう2度と会えないかと思うと、めちゃくちゃ淋しい😢

…しかし、諸行無常愛別離苦は世の習い。ラスト、無人になったセットでブライト警視正役のアントン・レッサーが呟いていたように。あのモノローグ、まるでシェイクスピアの舞台みたいでしたね。

 

 何はともあれ、制作者の方々、キャストの方々(…5年ぶりに再登場したジェイクスも含め、役の降板も一人もありませんでしたね)、10年間私たちを楽しませてくれてありがとう❗

本当にお疲れさまでした❗

 

 

 

 

アンドリュー・スコット✕ポール・メスカル『All Of Us Strangers』セクシュアルな化学反応❗❓


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 当ブログでも度々ご紹介している、ヲタク熱烈推しアンドリュー・スコットの新作『All Of Us Strangers 』が、※Rotten Tomatoで驚異の100%をはじき出しましたぁぁぁ〜👏👏👏

※日本語訳で「腐ったトマト」は、1999年に設立された米国の映画評論サイト。全米の各作家協会・映画評論家団体から認められたライターによる各映画のレビューが掲載され、作品ごとにそれぞれのレビューの評点を集計して平均値を算出。肯定的レビューが60%以上の場合は"fresh"(新鮮)、60%未満の場合は "rotten"(腐敗)の認定がされてしまう。

 

 『All Of Us Strangers』、舞台は現代のロンドン。廃墟のビルである夜、主人公の脚本家アダム(アンドリュー・スコット)は、謎めいた隣人の美青年ハリー(ポール・メスカル)と偶然出会います。彼らは出逢った時からお互いに惹かれ合い、急速に距離を縮めていきますが、それと同時にアダムは、幼少期の記憶を次々と蘇らせていくのでした。そんなある日、幼少期に過ごした家を訪れたアダムは息を呑みます。…なんとそこには、30年前に亡くなったはずの両親(クレア・フォイジェイミー・ベル)が、若い頃の姿のまま暮らしていたからです……❗

何と言ってもヲタク的に嬉しいのは、山田太一が書いた小説『異人たちとの夏』の映画化だということ。日本では大林宣彦監督が1988年に風間杜夫主演で1度映画化しています。日本的情緒に溢れた怪異譚…といった趣きでしたが、さて今回はどんな作品に❓

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アンドリュー・スコット。直近ではドラマ『フリーバッグ』のセクシーな「ホット・プリースト」役で、女子の心を鷲づかみ(笑)

 

批評がこれまた凄いのよ〜〜😍

「まさに傑作」—TheWrap
「スコットとメスカルのセクシュアルな化学反応」@THR
「時代を超えた、魂を揺さぶる愛の讃歌」—@IndieWire

 

 セクシュアルな化学反応って……確かR指定になってたよね、この映画。もしかして…ガ、ガチ❗❓アンドリュー自身、「ポールとの相性は最高だよ」って公言してるしねー。あらやだ、今から心臓バクバクしてきた(笑)


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※その繊細な演技で、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのポール・メスカル。

 

 ポール・メスカルのファンの方がSNSで「アイルランドよ、こんな美しい2人を生んでくれてありがとう❗」って書き込みしていたけど(アンドリュー・スコットもポール・メスカルもアイルランド出身)、アンドリューファンのヲタクも、あなたの意見に100%賛成です❗(笑)


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アンドリュー・スコットとポール・メスカルを育んだアイルランドの美しい風景(Pixabay)

 

 

 

エズラ・ミラーの「5分」が華🌹🌺💐〜『ウェルカム・トゥ・ダリ』


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※ポスターヴィジュアル。エズラがどこにいるかほとんどわからないポスターで、個人的にはちょっと残念(^.^;

 

 KINOシネマ横浜みなとみらいにて、『ウェルカム・トゥ・ダリ』鑑賞。
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※口髭、はだけた胸にはギャランドゥとパールのネックレス。こんなカッコして違和感ないのはエズラ・ミラーだけ(笑)

 

 なんてったってこのクソ暑い中、ビル熱風に煽られながらみなとみらいまで出かけて行ったかと言えば、若き日のダリを演じるエズラ・ミラーを見たかったから❗……なんで、今日の感想文は徹頭徹尾、エズラのことだけ書きますっ❗(笑)
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 エズラが演じるのは、アノ天才芸術家ダリ(ベン・キングスレー)の若き日。ダリって、作品を見ただけでもぶっ飛んでて、不気味な異世界に迷い込んだ気持ちになるもんだけど、映画で描かれるダリは……やっぱり彼の作品そのものみたいな人でした(^.^; この映画は、そんな異能の天才ダリと、彼の一生のミューズで妻のガラ(バラバラ・スコバ)との、ある意味壮絶な悲喜劇を、ダリの信奉者であるアメリカ青年ジェームズ(クリストファー・ブライニー)の眼から描いたもの。

 

 キングスレー演じるダリは、天才とは言え、取巻きの若者たちの3Pを盗み見て絵のヒントにしたり、マッパのモデルを大勢呼んでお尻に絵の具を塗りたくり、紙の上に次々と座らせて「天使の羽」と称するなど、奇矯な行動を繰り返すただの「変なおじさん」だし、妻のガラと来たらダリを監禁して無理やり絵を描かせ、売上金を若いツバメに貢ぐ強欲ババァ……いやもとい、奥さん(^.^;こんなトンデモ夫婦が、多少なりとも私たち観客の共感を呼ぶとしたら、ひとえにエズラ扮する若き日のダリとが登場して、清新な演技を披露してくれたからだと思うの♥

 

 エズラの登場時間ときたら、当時詩人ポール・エリュアールの妻で、シュールレアリストたちのミューズだったガラに、スペイン・カタルーニャの海辺で初めて出逢い、彼女に一目惚れするシーン、ガラと結婚し、世に認められない極貧生活の中、あの傑作『記憶の固執』を描き上げるシーン、そしてガラが海沿いの岩場で狂気に囚われ、「私を殺して❗」とダリに向かって叫ぶシーンの、合わせて5分くらいのものなんだけど、この5分だけでも、この映画を観る価値はあります❗(断言)


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 ヲタク的に、海外の俳優さんたちを見回した時、「若きカメレオン俳優」、「演技巧者」と言えば、このエズラ・ミラーとバリー・キオガンが真っ先に頭に浮かびます。両者の共通点と言ったら、恐怖のサイコパス(『少年は残酷な弓を射る』(エズラ)、『聖なる鹿殺し』(バリー))からアメコミヒーロー本人(『フラッシュ』(エズラ)、『エターナルズ』(バリー))、ヒーローを追い詰めるヴィラン(『ファンタスティック・ビースト』(エズラ)、『バットマン』(バリー))、等身大の青年(『ウォールフラワー』(エズラ)、『イニシェリン島の精霊』(バリー))に至るまで、あってあらゆるタイプの役柄を演じ分ける卓越した才能を持っていること。しかも主演も助演もチョイ役も(笑)何でもオールオッケー。これはねぇ、彼らの年齢を考えたら、凄いことですよ(奇しくも、2人とも同じ30才)。本作の主演、アカデミー賞俳優のベン・キングスレーガンジーとダリ…って、振れ幅凄すぎるけど、エズラとバリーは若干30才にして、それに近い所まで来てるんだもの。2人いつか共演してくれないかなぁ…(妄想モード😍)。2人のバチバチの演技合戦が見てみたい。


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エズラ・ミラーの最大のライバル(…と、ヲタクが勝手に思っている 笑)バリー・キオガン。

 

 エズラ・ミラー、最近かなり精神的に不安定なようで(天才にありがちな行き過ぎた繊細さ故か❓ダリと一緒だわ 笑)フラッシュの続投も危ぶまれています。でもまあ……今作のダリも然りだけど、芸術世界をコンプライアンスや倫理道徳でガチガチに縛り上げるのはヲタク的にはちとやり過ぎではないかと。……って結局は、銀幕で躍動するエズラ・ミラーがもっと見たいだけなんだけど(笑)

 

★今日の小ネタ


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※ダリに負けず劣らずぶっ飛んでたグラム・ロックの雄、アリス・クーパー

 

 1970年代、ニューヨークでパーティ三昧だったダリを描いた映画なので、ダリのお気に入りのミュージシャンがアリス・クーパーだったり、妻のガラがせっせと貢いでるのが※ジェフ・フェンホルトだったり……。性別不明のシンガーでジェンダーレスのハシリ、アマンダ・リア(ダリと同時に、デヴィッド・ボウイの愛人でもあった)など、ヲタク世代には懐かしい人たちが登場します。

アンドリュー・ロイド・ウェーバーのミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』の舞台でジーザス役だった人。なんと、あのブラック・サバスに加入しかけてたそう。ジーザスとサバスって…なんかのシャレ❓笑

バリー・キオガン初主演『ソルトバーン』ティザー公開❗


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※バリー・キオガン版ポスター

 

 アイルランド出身、若くして『イニシェリン島の精霊』でアカデミー助演男優賞にノミネートされたバリー・キオガンの初主演映画『ソルトバーン/Saltburn』のポスターヴィジュアルとティザーが公開されました❗


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※キャストもめっちゃゴージャス❗

左上から時計回りにバリー・キオガン、ロザムンド・パイクキャリー・マリガン、アリソン・オリバー、ジェイコブ・エロルディ。

 

 原作はパトリシア・ハイスミスのミステリ小説。今まで2度、映画化されています。(アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』、マット・デイモン主演の『リプリー』)エメラルド・フェネル監督がメガホンをとる今作は舞台を英国に移し、監督曰く、「特権と欲望の邪悪な寓話」になっているそう。オックスフォード大学に入ったものの周囲に馴染めず、居場所を見つけられない主人公、オリヴァー・クイック(バリー・キオガン)。彼は、自分とは正反対の、貴族的でカリスマ的魅力に溢れたフェリックス・カットン(ジェームズ・エロルディ)にどうしようもなく惹かれていきます。フェリックスは彼の風変わりな家族が暮らす邸宅へオリヴァーを招きますが、それは彼らにとって決して忘れ難い夏の始まりだったのです……。


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※ジェームズ・エロルディ版ポスター

 

 ティザーは、タキシード姿で会話を交わすオリヴァーとフェリックスのシーンから始まります。

フェリックス「……いいタキシードじゃん。…レンタル?」

オリヴァー「う、うん……。」

シーンは変わって、オリヴァーの独白。

「君にとっての家族と、僕のそれとは、天と地ほどの違いがあるんだ。」

ソルトバーンで暮らし始めたオリヴァー。

「フェリックスはあなたのことをとても気に入っているわ…。あなたは、何と言うか、とても「リアル」だから。」

暗闇で交わされるフェリックスの激しい情事を物陰から盗み見るオリヴァー…。

https://youtu.be/wrm7vpantu4?si=7XK3WEdRwNJQJ3C8

 …なんだか、ティザー見ただけで、その美しい映像とは裏腹な、どろどろした「邪悪な欲望」の断片が垣間見えて、その不穏さにドキドキしちゃいました(^.^; 日本公開はいつになるのかしらん。早く見たいっす😍

 

 

優艶なるアクションスタァ、綾瀬はるか〜映画『リボルバー・リリー』

 
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 横浜駅ビル「Newman」の中にあるシネコン「Tジョイ横浜」にて、『リボルバー・リリー』(監督・行定勲)鑑賞。


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 ※何しろ、キャストが豪華すぎぃぃぃ〜😍

 

 

 時は大正13年関東大震災から1年後の帝都・東京。私娼街・玉の井の一角でカフェ「ランブル」を経営する小曾根百合(綾瀬はるか)は、旧知の間柄である筒井国松(石橋蓮司)が、秩父で一家殺害事件を起こし、追い詰められて自決したと新聞で知ります。しかし国松がそんな輩ではないと信じる百合は、彼が住んでいた山奥の小屋を一人訪ねますが、そこには多くの銃撃痕があり、多数の陸軍の軍人たちが出入りしていました。彼らは何かを必死で探している様子。なぜ警察ではなく陸軍が……❗❓疑惑を感じずにはいられない百合。そんな百合が、帰りの列車の中で、当の陸軍軍人たちに追われている一人の少年、細見慎太(羽村仁成)と遭遇、彼を助けます。彼は国松が犯人とされる一家殺害事件の、ただ一人の生残りだったのです。国松が犯人とされているのに、なぜ生き残った少年が陸軍から追われなければいけないのか❓しかも慎太は、一家殺害事件の直前に失踪した父親から、「何かあったら、玉ノ井の小曽根百合の所へ行け」との謎の言葉を遺されていたのです。真相を突き止めるべく、少年を守って命がけの逃避行を続ける百合の前に、次々と敵が現れますが、その敵たちとの死闘を通じて、国家の存亡に係る重大な事実が明らかになり、百合自身もまた、自ら封印していた過去と対峙することになるのでした……❗


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※百合は「スミス&ウェッソン1917」の使い手。あのインディ・ジョーンズと同じ銃だとか…。


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※サイコ系イケメン、清水尋也

この、三白眼の酷薄そうな顔立ちがたまらなく色っぽいわ〜〜、背中がゾクゾクする🎵

このお方扮する陸軍の諜報員、南始の死に際たるやデカダンの極み。澁澤龍彦江戸川乱歩が見たらきっと喜びそう(笑)

 

 兎にも角にも、これは「綾瀬はるかの典雅かつ優艶なるガン・アクションを愛でる映画」なんである。女性のガン・アクション……といえば、ヲタクは『マッドマックス怒りのデスロード』のフュリオサ隊長ことシャーリーズ・セロンをすぐ思い出します。顔(かんばせ)は美しいけれども肉体は男顔負けに限界まで鍛え上げ、そのアクションには、血と泥と汗の匂いがする(笑)しかし大和撫子の代表みたいな綾瀬はるかのアクションは、たおやかで優美で、翻るスカートのすそから、その名の通り百合の香りが立ち上りそうだわ(うっとり)。「リアル感がない」だの「ストーリーがもたついてる」だの言う人たちがいるけど、これはリアリズムを求める映画じゃ、ないの(きっぱり)例えば歌舞伎の立ち回りには一定の「型」があり、観ている私たちは役者たちがこの先どう動くかもうわかっているわけだけど、その流麗な動きと立ち姿の美しさに惚れ惚れするわけ。それと同じだわ、『リボルバー・リリー』の綾瀬はるかは❗


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まるで高畠華宵が描く挿絵の少女のような古川琴音(公称19才だけど、ホントは17才っていう設定(^.^;)。こんないたいけな風貌で、2連の散弾銃をぶっ放すとこがツボる。

 

 さぁさみなさん、お立合〜〜い❗

さてさてここは、闇と陰謀が蠢く帝都東京。

迫り来る憎っくき悪漢たちの魔の手よ。

そこに現れいでたる花一輪リボルバーリリー、

拳銃片手に決然と立ち向かいます。

純白のドレスは、たちまちのうちに真紅に染まる❗


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海軍兵学校出身、海軍士官から弁護士に転身という異色の経歴を持つ岩見役に長谷川博己。悪役揃いの男性陣の中で、唯一のジェントルマン(笑)

 

……なーんちゃってね(^.^; ヲタクのはちとベタすぎる口上でこざいやしたが(汗)、まあともかく、アクション・ファンタジーなんですよ、この映画は。四の五のムズカシイことは言わずに、風にたなびく草の中の逃亡劇、玉ノ井の妖しげな街並み、白い濃霧の中に浮かび上がるガス燈や揺れる柳の下での銃撃戦……等々、行定監督お得意の耽美的な映像に酔い、美女たちのガンさばき(たまに少々もたついても、ご愛嬌よん♥)にうっとりし、長谷川博己清水尋也ジェシー…と、居並ぶ白皙の美男子たちに骨抜きにされればよろしい(好みはそれぞれ別れると思うけど(^.^;)。このお三方、なぜか不思議と大正浪漫の香りがするんだわ……くんくん(笑)


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シシド・カフカ姐さんが構えるは、ウィンチェスターM1894ライフル。馬賊出身の奈加さん役に彼女をキャスティングした行定監督の慧眼、恐るべし。最終決戦では女馬賊に立ち戻り、モーゼル二刀流もまたカッコええ😍

 

 結局、百合たちは帝国陸軍vs. 海軍の権力闘争に巻き込まれていきますが、百合の活躍が単なる捨て石にならず、後年の山本五十六阿部サダヲ)の、※ロンドン軍縮会議での外交努力に繋がった設定となっており、この映画、なかなか深いテーマを内包しております。

結局山本はロンドンで軍艦保有数の平等化に失敗、パールハーバーの悲劇に突入していくわけですが…。


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※リリーたちを追い詰める、陸軍士官役を演じたジェシー。彼の演技を見たのは初めてだけど、まさに「戦争の狂気」を体現したような怪演を見せてくれました❗……凄いよ、彼。もはやアイドルとは呼べない、振り切った捨て身の演技。これからも、演技者としての彼に注目していきたい。

 

 ラスト、めでたしめでたしの大団円……かと思いきや、独眼のナゾの殺し屋X(鈴木亮平)登場〜〜😍彼に向かってリボルバーをぶっ放す百合。こんな大物ラストにかましてくるなんて、まさか鈴木さん、カメオ出演じゃないよね。MCU流の予告編だよね❓

 

 行定監督、続編お待ちしてます❗❗

(もはやヲタクの中では決定事項 笑)

 

★今日の小ネタ…Rumble

 百合の経営する玉ノ井のカフェ「ランブル Rumble」。その名の通り、弁護士の岩見センセ(長谷川博己)をはじめ、百合にホの字の男たちがいつも入り浸っております。そのまま訳せば「のんびりダラダラ時間を潰す」って意味ですが、ヲタク的にはすぐ『ウェストサイド・ストーリー』を思い出しちゃいます。アメリカ英語のスラングでは、ランブルは街中の小競り合いやケンカ。ジェッツとシャークスの決闘も当の少年たちは「ランブル」って言ってましたね。百合のカフェも銃撃戦の舞台になったりするから(^.^;ホントはそっちの意味❓

 

 

 

 

 

 

昨日の私にF・U・C・K  Y・O・U❗〜『エリザベート1878』


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 KINOシネマ横浜みなとみらいにて、映画『エリザベート1878』鑑賞。

 

 ヒロインは、オーストリア・ハンガリー帝国の皇后にして「帝国の父」と謳われたフランツ・ヨーゼフ1世の妻エリザベート(愛称シシー)。その圧倒的な美貌、フランツ・ヨーゼフ1世とのドラマティックな恋、皇室の枠に収まりきれないその自由奔放で情熱的な生き方、さらにはアナーキストに心臓を一突きされて暗殺されるという悲劇的な最後は恰好な題材となり、今までも何度となく映画・ドラマ・舞台化されています。ヲタクが観た作品の中で、シシーが登場する作品って、(主役だけでなく脇役としての登場も含め)思いつくだけでも、『双頭の鷲』(監督/ジャン・コクトー)『シシー』(主演/ロミー・シュナイダー)、『ルードヴィッヒ』(監督/ルキノ・ヴィスコンティ、主演/ヘルムート・バーガー)、ミュージカル『エリザベート』、Netflixドラマ『エリザベート』、番外編で『うたかたの恋』……スゴイことになってる(笑)


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※コルセットに身体を捩じ込む為に息をつけないエリザベートは、風呂に身を沈めて息を止める練習までします。なんという残酷、なんという非道。

 

 これだけの有名人、悪く言えば「使い古されたネタ」を、今まで誰も考えつかなかった切り口で演出した手法は、見事と言うほかありません。実在の人物を映画で描く方法って2通りあって、その人の人生あるいは半生を大河ドラマふうにガッツリ描くか、あるいは人生に大きな影響を与えた出来事、人生の転換期における心情の変化にスポットを当てるか、どちらかかと思います。後者の代表作としては、『マリー・アントワネット』(2007年…ソフィア・コッポラ監督)や『スペンサー/ダイアナの決意』(パブロ・ラライン監督)がありますが、今回の『エリザベート 1978』は前述の2作よりもさらに大胆に、1978年1年間のエリザベートの魂の内奥に踏み込み、虚実織り交ぜたストーリー展開で、あっと驚くような解釈をしてみせます。……まるで優れたミステリのどんでん返しのように。


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※追い詰められたエリザベートが唯一信頼を寄せる女官マリエ(左…カタリーナ・ローレンツ)。しかしその信頼関係が行き着く驚愕の結末は……❗❓

 

 1978年、オーストリア・ハンガリー帝国の皇妃エリザベート(ヴィッキー・クリープス)は40歳を迎えていました。生涯をかけてハンガリーを熱烈に愛した彼女は、夫である皇帝にさまざまな方法でハンガリー自治権を認めるよう働きかけますが、フランツ・ヨーゼフ1世は彼女に政治に首を突っ込むことなど断じて許しません。美しく着飾り、人民の敬愛の象徴たれと耐えず強要される彼女は、精一杯それに答えようと、若い日の華奢なスタイルを維持する為に、来る日も来る日も数枚のスライスオレンジとコンソメスープだけで過ごし(晩餐会のご馳走を眼の前にして、全く手をつけないって……これ、1種の拷問じゃないですか❓😢)、公の場にはまるで甲冑のようなコルセットで、ウェスト50センチ❗までギリギリと締め上げるのです。ある日、公式の場で意識を失い倒れた彼女。彼女は自問自答します。

私は何のために、自分をこれほど追い詰めているのだろう?

…と。憔悴し切ったエリザベートが語る「人は人を愛するわけじゃない。人が自分に与えてくれるものを愛するのよ。」という残酷な真実と、それに対峙する彼女の絶対的な孤独は、観ているこちらの心を抉ります。


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※末子ヴァレリーを溺愛するエリザベートですが、ヴァレリーはエキセントリックな母を恥じて…。

 

 そしてエリザベートは、ある決意を固めます。昨日までの自分に訣別し、本来の自分を解き放とうと。彼女はさまざまな方法で、皇后ではなく一個の人間として生きることを模索しますが、帝国の存在、皇室という1つのシステムはそんなことを彼女に許すはずもありません。彼女を待っていたのは、最愛の息子であるルドルフ皇太子やヴァレリー皇女からの反抗と、夫であるオーストリア皇帝からの冷たい侮蔑の視線でした。エリザベートは、逃げることのできない「絶対的孤独」に、徐々に追い詰められていきます。そして最後に、彼女が選択した方法は……❗❓

 

 ラストはかなり衝撃的で、ヲタクとしてはショックだったなぁ…。たとえ皇妃という立場であっても、いやだからこそ、真の自分自身に立ち返る為にはあの方法しかなかったのかと思うと……。ある意味、無政府主義者に刺されるのとどちらが悲劇的なのか…❗❓っていう。

 

 製作総指揮と同時に主演を務めるのは、鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』やマチュー・アマルリック監督の『彼女のいない部屋』で鮮烈な印象を残したルクセンブルク出身の女優ヴィッキー・クリープス。彼女はフランスの俳優ギャスパー・ウリエルと愛人関係にありましたが、ギャスパーは昨年の1月、スキー事故で急逝してしまいます。『彼女のいない部屋』で、大切な夫と子供を事故で失う女性の役にヴィッキーを起用したアマルリック監督は、「撮影の直後に彼女を襲った同様の悲劇を考えると、複雑な気持ちになる」と語っていました。そして今作、奔放で自己主張の塊のようなエリザベートが時折見せる苦悩と哀しみが何とも切なく、私生活で魂の片方をもぎ取られるという喪失体験を経て、ヴィッキー・クリープスが女優として何段階も上ったことを如実に示すものでした。

 

 エリザベートの時代から150年以上経っても、未だに女性たちをがんじがらめにする加齢の恐怖やルッキズム。現代にも通じる様々な問題を内包した『エリザベート1878』。特に女性には見てもらいたい作品です。