オタクの迷宮

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Netflix『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』~げに恐ろしきは人の業


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  待望のギレルモ・デル・トロ※総監修のドラマ・シリーズ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』がいよいよNetflixで配信開始となりました❗原題は『Cabinet of curiosities』で、不思議なるものの飾り棚、とでも訳しましょうか❓……そう言えば、珍奇な品々や骨董品を陳列した飾り棚をキュリオケースと呼びますね。昔の欧米のお金持ちや貴族って、見聞を広め、知識を深めるために世界各地を旅して回ったわけですが、そこで集めた貴重な品々を納めたケースというわけ。本編が始まる前のイントロダクションがまさに、そのモチーフで作られています。

※デル・トロは監修とドラマの冒頭に登場する案内人のみで、各話、デル・トロのお目がねに叶った監督が演出を担当しています。8話のシリーズで、1話完結。

 

 ヲタクはドラマ・シリーズの場合いつもイントロスキップしちゃうんだけど(Netflixには親切にもその機能が付いているから)、このシリーズだけは別。デル・トロらしい鮮やかな色彩、美と恐怖が融合した映像を見ながら、期待と不安にドキドキする……それも一興なり。……で、物語が始まる前に御大ギレルモ・デル・トロが巨体を揺すりながら出て来て、「今日の怖ーいおはなし」についてひとくさり語るものだから、ドキドキ感はいや増すしくみ(笑)

 

  このデル・トロの登場の仕方、昔むかしのテレビシリーズ『ヒッチコック劇場』を思い出すわ。体型も似てるし(笑)昔懐かしい『ヒッチコック劇場』、30分のミニドラマなんだけど、ヒッチコックテイストの怖い怖いおはなしが展開するの。まっ、ヒッチコックの場合、デル・トロの「怪奇幻想」とは違って、ズバリ恐ろしいのは人間そのもの……なんだけどね。

 

  ……しかしよくよく考えてみると、この『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』も、『ヒッチコック劇場』と共通点があるような気がしてきたゾ。


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※各エピソードに登場する、異形の者たち。

 

各話それぞれ、恐ろしく醜悪な外見をした怪物……「人でなきもの」「人外なるもの」が登場しますが、それらは元を辿れば全て、人間の心の奥底に渦巻く様々な想念……不安や恐怖や嫉妬、憎悪が呼び込んだものなのです。放蕩生活の末に資金が底を尽き、悪に手を染めた者に襲い来る運命(『ロット36』『墓場のネズミ』)、コミュ障の女性が、人と上手くいかないのは自分の外見のせいだと思い込み、通販地獄に堕ちる(『外見』)、将来を嘱望されていながら自らの才能に自信が持てない画家が、天才への嫉妬から迷い込む恐ろしい世界(『ピックマンのモデル』)、幼くして死んだ妹への愛執から破滅の道を辿る青年(『魔女の家での夢』※主役に、ハリポタのロン・ウィーズリーことルパート・グリント)……等々、「げに恐ろしきは人の業」でございます。最近、北欧のホラー映画『ハッチング~孵化』を見たんですが、毒親に生活の全てを支配されている内向的な少女の心の奥底に抑圧された憎悪の念が凝り固まって怪物を産む……って話で、北欧の夏のお伽噺のように明るく美しい映像と、醜悪な怪物の容姿の対比が物凄いインパクトで、これ、完璧にデル・トロの世界だよね……って、ヲタク思いました。


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ルパート・グリント(右)


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※『ザ・マミー / 呪われた砂漠の王女』古代から甦る王女のミイラ役でトム・クルーズと共演、『キングスマン』では義足の殺し屋ガゼルを演じたアルジェリア出身の女優、ソフィア・ブテラ。エピソード7『観覧』で、カダフィの主治医だったという謎の女性を演じています。


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※『ピックマンのモデル』のベン・バーンズ。どっかで見た顔だなぁ……と思ってよくよく見たら、『ナルニア国物語』のカスピアン王子ぢゃん❗

 

なにげにキャストがゴージャスだなぁ……。

 

  さて、エピソードはみな、短編小説を元にして作られていますが、H.P ラヴクラフトファンのデル・トロらしく、8つのエピソードのうち、2つがラヴクラフトの原作ですねぇ。クトゥルフ神話もいよいよ実写化するらしいし。デル・トロはラヴクラフトを評して

ラヴクラフトは万物を恐れていた。

世界とは無限の恐怖が宿る家と信じた。

全てのドアの向こうに危険が潜み

新たな現実を突きつけ夢や悪夢を我々に見せる

特に鍵を見つけた者には容赦しない

と、『魔女の家での夢』の冒頭で語っていますが、目からウロコでやんした❗そんな視点で※①ラヴクラフトの作品読んだことなかったから。作品はミザントロープ(厭人症)的だなぁ……とは思っていたけど、元はと言えば恐怖心だったのか、そうか。

 

  ……ただ、最後のエピソード8『ざわめき』だけはちょっと毛色の変わった話になっていて、それまでのエピソードが人間の心の闇が怪物を呼び起こす……という展開が多かったのに比べて、愛娘を失って絶望の淵にあった夫婦が、「この世ならざる者」との邂逅によって癒され、再生していくといったストーリー。全体を通して唯一のハッピーエンドといえるでしょう。あれ?と思ってよくよく見たら、原作者がギレルモ・デル・トロ自身でしたね。これまで自身の作品の中で、人間から忌み嫌われる「異形の者」の恐ろしさを描く一方で(『デビルズ・バックボーン』『パンズ・ラビリンス』)、彼らの悲哀に温かな視線を注いできた(『シェイプ・オブ・ウォーター』)デル・トロ監督。最後のエピソードは、彼のもう1つの貌がよく表れた作品といえるでしょう。

 

シリーズ2がもし製作されるなら、※②ロード・ダンセイニの短編なんてどうでしょう?デル・トロ監督(笑)

※①ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(1890~1937)アメリカの怪奇幻想作家。

※②ロード・ダンセイニ(1878~1957)

アイルランドの幻想・ファンタジー作家。ヲタクは初期の、陰鬱で奇妙な短編が好き♥️デル・トロの趣味嗜好にピッタリだと思うけど……。

 

  登場する怪物たちの造型は恐ろしいのに、映像はあくまでも美しく(飛び散る血飛沫さえも……)、まさにギレルモ・デル・トロワールド炸裂❗でございます。

 

★今日の小ネタ

外見に執着して、通販地獄にハマっていく若い女性(『外見』)。常識のある真っ当な夫のアドバイスには聞く耳持たず、テレビでセールスするイケメンセールスの怪しげな勧誘に「洗脳」されていくんですが、この怪しいセールスマンを演じているのが、キンパに染めたダン・スティーヴンス。素顔の彼はケンブリッジ卒の英国エリートですが、『ダウントン・アビー』のジェントルマンや『美女と野獣』の王子役より、『ユーロヴィジョン歌合戦』の胡散臭いロシア人歌手や、今回みたいな役のほうがインパクト強いね。本人もノリノリで演じてるし(笑)


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※素顔はイケメン & イケボの英国俳優、ダン・スティーヴンス