昨日に引き続き、『ロンドンを舞台にしたおススメ映画』PART2の5作品のご紹介でございます。前編の時も言ったけど、作品選びがマイナーすぎる…(^_^;)007シリーズより『オペレーション・ミンスミート』、『英国王のスピーチ』より『女王陛下のお気に入り』なヲタク(笑)
★白い暴動
※10万人が集まったヴィクトリア・パークの音楽フェスティバル。ジョー・ストラマーの背中が震えるほどカッコいい❗これぞロック・スピリット
1970年代後半のイギリス。大英帝国の栄光今いずこ、経済破綻に瀕する国家の常として、移民排斥、ヘイト主義が横行。国民戦線(British National Front=通称NF)と呼ばれる白人至上主義の極右政党が不気味に勢力を伸ばしはじめていました。NFのイヤらしい所は、大学や高校で『布教活動』をし、若者の閉塞感や不満を煽ってシンパを増やす作戦に出たこと。それは警察権力を巻き込み、国会議員までもが「移民たちを拘束して母国に追い返してやる。18世紀の流刑みたいにね。そのほうが彼らも喜ぶだろ」と、TVのインタビューで公言するような由々しい事態に。
しかし、英国に根付くリベラリズムはそれに飲み込まれ、沈んでしまうことはなかった❗初めはほんの一握りの若者たちが、音楽やポップカルチャーの発信を通じて立ち上げた、人種差別撤廃を主張する運動“ロック・アゲインスト・レイシズム” 略称: RAR) 。それはやがて英国全土の若者たちを巻き込み、一大ムーブメントとなって1978年4月30日、約10万人による世紀の大行進、圧巻の音楽フェスティバル(ヴィクトリア・パーク)へと繋がっていきます。
※ヴィクトリア・パーク
当時のリーダーの言葉「初めは自分自身の心の中にも、自分たちの豊かさの為には、植民地から搾取しても仕方がないという帝国主義が存在していた。RARの運動は、そんな自分たち自身に対する暴動でもあるんだ」が胸に刺さります。
RARの活動の素晴らしいところは、当時黒人と見ると「暴動を意図した悪意ある徘徊」として無差別に逮捕し、たとえ無罪になっても何年も拘留するような国家権力の横暴に対して暴力で反撃するのではなく、音楽や文化を武器にして戦ったところ。パンクロックバンドやレゲエミュージシャンに声をかけ、繰り返しライブを開催、そこに人種差別や移民排斥撤廃のポスターを貼り、小冊子を置いて、若者の賛同者を徐々に増やしていったのです。クラッシュも伝説の10万人ライブの前に、NFの本部の前でプラカード持って抗議行動に出るんだけど、「手に持って上に上げるとカッコ悪いから、下に下げとく」って言って地面に下ろして持ってるとこが…なんか、可愛いかった(笑)
時に命の危険に晒されながらも、リベラリズムの為に立ち上がったきら星のごときミュージシャンたち…トム・ロビンソン、エイリアンカルチャー、シャム69、ミスティインルーツ、スティール・パルス❗そしてこのドキュメンタリーは、先に述べた10万人ライブにおける、当時セックス・ピストルズと並ぶパンクロックの雄、ザ・クラッシュの登場によって最高潮に達します。不揃いな歯並を剥き出しにして歌い、叫び、跳ぶジョー・ストラマー❗
権力はすべて金持ちの奴らの手の内
臆病で 挑戦することさえできずに
俺たちが通りを歩いてる間
それを買う金を持ってる奴だけが権力を握る
(ザ・クラッシュ~白い暴動)
混沌とした世の中でこそ、自身で考え、声をあげることの大切さを知ってもらいたい。たとえ自分一人だったとしても、声をあげることで仲間を見つることが出来る。共に行動し、乗り越えられるから
(監督・ルビカ・シャー)
★イミテーション・ゲーム〜エニグマと天才数学者の秘密
英国政府って、やっぱりキモが座ってる😲第二次世界大戦中、どんな天才でも決して解読できないと言われたナチスドイツの暗号「エニグマ」。コンピューターの原型を作って解読に成功し、第二次世界大戦の終結を2年早めたと言われる英国の天才数学者アラン・チューリング。彼がこの度英国紙幣に印刷されることに。
…まあこう書けば、紙幣になってもさもありなん……ですが、問題はここから。彼は1952年、18才の少年との性的関係を暴露され、逮捕されます。当時の英国では、同性愛は犯罪だったから。チューリングは女性ホルモンを打たれて去勢され、その非人道的行為が彼の鬱病の原因となったのでしょうか?41才の若さで自ら死を選びます😿
そんな激動のアラン・チューリングの生涯を描いた映画が「イミテーション・ゲーム~エニグマと天才数学者の秘密」(2014年。アカデミー脚色賞受賞)チューリングをベネディクト・カンバーバッチが演じています。エニグマ解読の為、政府の命を受け、※チームを組むのですが、コミュ障ぎみのチューリングはなかなかメンバーと上手くいかない。しかし時を経るにつれ、彼の純粋さ、天才ぶりをメンバーが徐々に理解していき、最強のチームになっていくプロセスは感動的でした。その喜びと感動も、逮捕後の非人道的な政府の処遇により、虚しくかき消されてしまう。プライドをズタズタにされ精神的に廃人となってしまった晩年のチューリング。カンバーバッチの鬼気迫る演技、凄かった。
※チームの拠点となったのがブレッチリー・パーク。ロンドン中心部から列車で1時間ほど、バッキンガムシャー ミルトン・キーンズ ブレッチリーにある庭園と邸宅を使用して政府の暗号学校が設立されました。暗号名はステーションX 。
また、チューリングのチームの中に、戦前戦後旧ソ連のスパイとして活動した、いわゆる「ケンブリッジ・ファイヴ」(5人がいずれもケンブリッジ卒だったのでこう呼ばれました)の一員と目される、ジョン・ケアンクロスが加わっています。演じるのは真っ青な瞳がキリアン・マーフィーにタイマン張れる、超イケメンの英国紳士、マシュー・グード💕ウッディ・アレンの「マッチポイント」、アイルランドを舞台にしたロマコメ「リープイヤー」、トム・フォード初監督作品「シングルマン」で、その水も滴る美男子ぶりをご披露してくれてます😊
英国政府は、チューリングに対して死後恩赦を与えて、彼に対して過去の過ちを謝罪し、今度は紙幣に。最近のLGBTの女性に対する暴力行為報道に見られるように、まだまだマイノリティに対する偏見が根強い英国。でも、過去の過ちを隠蔽せず、それに真摯に対処しようとする姿勢。やっぱり英国って凄い❗
★オペレーションミンスミート/ナチを欺いた死体
『オペレーション・ミンスミート /ナチを欺いた死体』。謳い文句は"Extraordinary true story"。途方もない真実の物語?はてさて、オペレーション・ミンスミート(ひき肉作戦)とはこれいかに❓題名からして英国特有のシニカルなユーモアの匂いがします(^_^;)
第二次世界大戦只中の1943年ロンドン。弁護士のユーエン・モンタギュー(コリン・ファース)は、英国諜報部(MI5)の少佐として熾烈な情報戦の最前線にいました。彼はまた、「二十委員会」という、様々なスパイ作戦を立案実行する組織にも属しており、周囲を欺くため、妻子をアメリカに疎開させるほど任務に忠実な男😅
当時の首相ウィンストン・チャーチル(サイモン・ラッセル・ビール)はイタリアのシチリア半島へ侵攻する計画を立てていましたが、シチリアにはナチスドイツ軍が戦力を集結して鉄壁の守りを誇っています。そこでMI5は極秘の「ミンスミート作戦」を立案、実行することになります。その作戦とは、実在する高級将校に仕立てた死体に偽造した機密文書(英国軍はシチリアではなく、ギリシャを総攻撃する作戦である)を持たせて海へ流し、わざとナチスにそれを発見させて、ナチス軍をシチリアからギリシャに移動させようという、奇想天外なものでした。
この作戦や登場人物が全て実在……というのがそもそも驚きですが、この作戦を立てたのが、あのイアン・フレミングだっていうんですから、二度ビックリです❗そう、言わずと知れた007ジェームズ・ボンドの生みの親。作品中には、ボンドの上司Mのモデルになったと言われるゴドフリー提督も登場、フレミングが陰でゴドフリーのことをMと呼ぶシーンまで出てきます。また、死体の腐敗を防ぐため、特殊なコンテナが作られるんですが、その製作に当たったのが、チャールズ・フレイザー・スミスという人物。彼はその後も特殊作戦執行部(SOE)の工作員のために、消えるインクや隠しコンパスなど数々の秘密兵器を考案、製作したそうで、007のQのモデルだとも言われております。『オペレーション~』中のQはフツーのオジサンで、ベン・ウィショーみたいなイケメンぢゃなかったけど(笑)
※「オペレーション・ミンスミート」の立役者たち。左からチャムリー大尉(マシュー・マクファディン)、モンタギュー少佐(コリン・ファース)、イアン・フレミング少佐(ジョニー・フリン)。
フレミングの回想によれば、「二十委員会」のメンバーは殆どが小説家だったそうで😅50位の作戦を次々と提出して、やっと採用されたのが「ミンスミート作戦」だったらしいです。……なんか、戦時中にこんな組織を作ること自体が、英国という国の懐の深さというか、底知れなさを感じさせるんですよねぇ……。
「ミンスミート作戦チーム」の面々が、架空の死体を海軍将校ビル・マーティン少佐と名付け、彼にはパムという恋人がいて、彼女からの手紙を後生大事に持っている……という設定なんですが、その架空のラブレターを作戦チームのメンバーであるジーン(ケリー・マクドナルド)が読み上げるシーンがヲタクは凄く好きでした。架空の設定ではあるけれど、恋人の無事な帰還を信じて待ち続ける若い女性が世界中にいたんだろうな……と思うと胸が一杯になりました。こういう何気ない形で、戦争の悲惨さを描写する演出って、素敵だなぁ……って。それぞれの登場人物の描写をはじめとして、ユーエンとジーンの淡い恋の描写、当初は互いに反目し、相手の忠誠心を疑いながら友情を深めていくユーエンとチャムリーの関係など、さすが『恋に落ちたシェイクスピア』、『マリーゴールドホテルで会いましょう』のジョン・マッデン監督、イキで、大人で、英国人らしい皮肉とユーモアを感じさせる、ひと味違った戦争映画になっています。
それにしてもコリン・ファースのイケおじジェントルマンっぷりが見事で、この映画の撮影時はすでに還暦を迎えていたというのに、一回り以上も年下の女性から想いを寄せられる役がぜんぜん違和感なくて……。サスガっす(笑)
王座にあっても所詮はただの人間なのね…のドロドロを、きわめてリアルに、きわめてシニカルに描いたのが『女王陛下のお気に入り』。
その時代は正に常人には雲の上の「天上人」だったであろう貴族たちの、自分の権力欲を満たし、あるいは保身の為の虚々実々の駆け引きと壮絶な足の引っ張りあい。時はスペイン継承戦争でフランスと戦いのまっただ中の英国王朝。美食が祟って痛風持ち、杖に頼ってもよろよろとしか歩けない、優柔不断で臆病で、劣等感のかたまりのようなアン女王(オリヴィア・コールマン)。そんな女王に取り入り、女王の陰で思うがまま権勢を振るう鉄の女、レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)。そこに割り込んだのが、没落貴族の娘で、策略と嘘と女の魅力を駆使してサラを陥れ、女王の一番のお気に入りにのしあがっていくアビゲイル(エマ・ストーン)
※ゴージャスな衣装をはじめとする宮廷シーンも見もの。
いやー、この今をときめく女優3人の熾烈な演技合戦、凄まじいっす。戦争の行く末を巡ってレディ・サラと対立、アビゲイルをスパイとして利用しようとする青年貴族ハーリー(ニコラス・ホルト)も、人を人とも思わない、どーしよーもないゲス男なんだけど、この女性たちの三つ巴の争いから比べたら、カワイイもんです😅ニコラス・ホルト、当時の伊達男の習慣で白塗り&カツラ、最初誰だか分からなかった…。あのトム・フォード初監督作品「シングルマン」、湖のような蒼い瞳の爽やかイケメン、今いずこ。笑
この作品で見事、オリヴィア・コールマンはアカデミー賞主演女優賞を受賞、超売れっ子の仲間入り、49歳にしてすでに名優の域。凄いよね~、彼女。最近、話題作には殆ど顔を出してるもの😲
★ウィンストン・チャーチル〜ヒトラーから世界を救った男
何度もアカデミー賞にノミネートされながら果たせず、長い間「無冠の帝王」だったゲイリー・オールドマン。そんな彼が2018年、誰もが知る伝説的な政治家ウィンストン・チャーチルを演じて、ついに悲願のアカデミー主演男優賞❗しかも、俳優にとって最難関のゴールデングローブ賞とのW受賞🙌すでに引退していた日本人の特殊メイクアップアーティストの方をゲイリー本人が口説き落としたという話も話題になりましたよね。
※ロンドン地下鉄のシーン
個人的には、よく話題に上る議会での有名な演説や、夫人(クリスティン・スコット・トーマス)との夫婦愛のシーンよりも、チャーチルがロンドンの地下鉄に乗って一般市民たちと触れ合い、彼らの愛国心の強さに感動して、いかなる犠牲を払おうともナチスドイツを倒すまで戦い抜く決意を固めるところが好き❤何度見ても感動します。
このチャーチル役で長い間の雪辱を果たしたゲイリーですが、いちファンとしては、彼の素顔がわかる役でオスカー獲ってほしかったかも(小声 笑)