オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

この際ベン・ウイショーのBAFTA(英国アカデミー賞)受賞歴を振り返ろう

 今回のBAFTA(英国アカデミー賞)ドラマ部門主演男優賞は、『ピーキー・ブラインダーズ』のキリアン・マーフィーや『窓際のスパイ』のゲイリー・オールドマン等、英国を代表する名優たちを抑え、『産婦人科医アダムの赤裸々日記』のベン・ウイショーが見事受賞❗実は彼がBAFTAで受賞したのはこれで3度目。これを機会に、過去の2作品もご紹介しちゃいましょう。

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★『ホロウ・クラウン 嘆きの王冠』(2012)

BAFTAドラマ部門主演男優賞

 いわゆるシェイクスピアの、歴代の英国国王が主役の史劇をドラマ化した作品。ベンはトップバッターで、歴代国王1の美男子と謳われたリチャード2世を演じました。

 リチャード2世は芸術好きの贅沢君主で浪費家。一方で対立し合う貴族を罰として国外追放した上、双方の領地を取り上げてしまうというこすっからさ。しかも国民には重税を課したため当然のことながら反乱が起き、退位を迫られてロンドン塔に幽閉の上、最後は暗殺されてしまいます。


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※リチャードの寵愛を受けながら、最後には彼の暗殺を命じられるオーマール公にトム・ヒューズ。彼は撮影当時を振り返り、「ベンは最高の役者だ。彼から沢山のことを学んだ」と語っています。

 

『リチャード2世』は、王冠を奪われた時のリチャードの延々と続く独白(モノローグ)が1つの見せ場ですが、ベンは涙を滲ませ鼻水をすすりながら、一世一代の名演技❗自分から王位を譲りながら、いざ王冠を渡す段になると千々に乱れる心、情けないまでの未練がましさを演じ切って秀逸。また、『リチャード2世』は全編詩の文体で書かれているわけですが、彼のキングズイングリッシュがまた、めっちゃセクシーで、リチャード2世がいわゆる「暗愚の帝王」であるにもかかわらず、母性本能をくすぐる魅力に溢れていたのは、ベンの演技と滲み出る人柄の魅力の賜物でしょう。


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ベネディクト・カンバーバッチトム・ヒドルストンジェレミー・アイアンズ…と英国スター総出演の『嘆きの王冠 ホロウ・クラウン』


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★英国スキャンダル セックスと陰謀のソープ事件(2018年)

BAFTAドラマ部門 助演男優賞受賞

 

 1979年5月。英国犯罪史上最もスキャンダラスと言われる事件が判決を待つばかりとなっていました。被告人はなんと、現職の下院議員で元自由党党首のジェレミー・ソープ(ヒュー・グラント)。彼はかつての恋人ノーマン・スコット(ベン・ウィショー)への殺人示唆で訴えられていたのです。

 

 ことの始まりは、1965年。ソープは後援者宅で住み込みの馬丁として働いていた美青年ノーマンを一目で気に入り、ナンパします(^_^;)目と目があったその日から……ってヤツですね。「ロンドンに来る時があったら、僕を訪ねてきて」と、名刺を渡すソープ。そんなある日、雇い主のパワハラ(セクハラ?^^;)に耐え切れず逃げ出してきたノーマンが、ソープのところに鞄ひとつで押しかけてきます。住む所もなく、※ナショナル・インシュアランス・カード(NIカード)を雇い主の家に忘れてきたので、まともな仕事にもつけない…と訴えるノーマンにソープは部屋を借りてやり、彼をいわゆる「囲い者」にします。


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※当初はソープから「ウサギちゃん」と呼ばれるほど気弱で臆病なノーマンでしたが…。

 

 しかし、まだ同性愛が違法だった時代、社会的地位を守るため結婚する決意をしたソープは、このままノーマンとの関係を続ければ自分の政治生命が危うくなると、一方的に彼に別れを告げます。突然の別れに激怒したノーマンは、なんと警察に駆け込み、ソープとの関係を暴露して彼を自分ともども逮捕してほしいと訴えます。これが二人の、滑稽かつ悲劇的な、長い長い愛憎劇の幕開けでした……❗

 

まあ、ヒュー・グラント演じるソープが、英国紳士の皮を被った、中身は差別と自己保身と権力欲のカタマリみたいなトンデモ男(笑)そんなソープが、長年の友人議員(アレックス・ジェニングス)にノーマン殺害を相談した直後、国会で英国の平和政策について一席ぶつシーンなんぞは、英国ドラマならではの痛烈な皮肉が利いています。……ただ、演じているのが何せヒュー・グラントだから、どこか愛嬌があって憎めない(^_^;)ラスト近く、友人の弁護士に「なぜノーマンだったんだ?」と聞かれ、ノーマンへのそこはかとない愛情と未練を匂わせるとこなんぞは、やっぱりサスガです。

 

ヒュー・グラントの演技も素晴らしかったんですが、相対するベンの演技がそれを遥かに上回って凄すぎた❗😲ソープに出会った当初は、お金も教養もない自分に自信がなく、気弱でおどおどしていて、ソープに「ウサギちゃん」と言われるほどだった彼が、ソープの指示で殺されかけてから別人かと思われるほど豹変、法廷で

お金が欲しくてこんなことをしているのではない!自分のような(同性愛者が)、汚いもののように扱われ、まるで存在していないかのように、歴史からも追放されるのはうんざりだ!

僕は人々に見えるように、聞こえるように声を上げる。

と堂々と証言する時のド迫力にはド肝を抜かれましたね(^_^;)あの場面で彼が全部持ってった(笑)

 

 映画でもドラマでも、その度に違う貌(かお)を見せてくれるベン・ウィショー。「カメレオン俳優」と称される人は大勢いますが、彼ほどその呼び名に相応しい人はいないでしょう。