キノシネマ横浜みなとみらいで『オフィサー & スパイ』観賞。
19世紀末、フランス国民を震撼させた「ドレフュス事件」。士官学校を出たばかりの青年将校ドレフュス(ルイ・ガレル)がドイツに機密を漏洩した罪で終身刑を言い渡された事件です。当時フランスでは反ユダヤ主義、ナショナリズムが高まりを見せており、法廷に連行されるドレフュスを取り囲む民衆が手を振り上げ、口々に「ユダヤの裏切り者❗」と叫んで集団ヒステリー状態になってる場面は‥‥かなりゾッとしましたね。
そんなドレフュスの、結果的には「救いの神」となるのが、「防諜部」(陸軍内部で暗躍するスパイを摘発・取り締まる部署)の新任部長として着任したピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)でした。彼は、ドレフュスのスパイ容疑の証拠の数々が陸軍ぐるみで捏造されている事実を掴み、内部告発に乗り出します。しかしそれは、軍人生命‥‥いや、彼自身の命さえ賭けた、長く苦しい闘いの始まりでした‥‥。
自身は反ユダヤ主義者でありながら、真実を明らかにする際には決して自分の感情を持ち込まない。淡々と調査を進めていく冷徹なリアリスト、ピカール中佐のキャラ、個人的にはめっちゃ好み♥️元々彼は、「愛国心」という美名のもと、異分子を排除しようとするフランス国内の動きを苦々しく思っていたのでしょう。この手の映画にありがちなアツイヒロイズムには無縁なので、物足りなく感じる向きも多いかも😅
陸軍の横暴に憤ったジャーナリストや作家、人権派の弁護士たちがピカール中佐と共同戦線を張るんですが、真実の追及の為、権力の横暴に対して戦い抜く彼らがカッコよかったな‥‥。特に、新聞にピカール中佐の援護記事を書き続けたエミール・ゾラは、陸軍から侮辱罪で告訴され、1年の実刑を受けるんです。民衆から「ユダヤに魂を売った売国奴」と罵倒されても信念を曲げない彼の気骨たるや‥‥いや、凄い。感動しました。ヲタク的にはゾラがツボ(笑)
軍がらみの冤罪事件で、しかも宗教的な差別観が根底にある‥‥という点、軍の不正に気づいた内部の人間が自らの正義に基づいてそれを告発していく‥‥という点で、ヲタク的には、今年公開された※『モーリタニアン黒塗りの記録』(アメリカ)と、いちいち比較して見ちゃいましたね😅
※『モーリタニアン黒塗りの記録』
9・11同時多発テロの実行犯として、グアンタナモ収容所に収監されたイスラム教徒のモーリタニアン人青年。担当の軍属の検事(ベネディクト・カンバーバッチ)は彼の収監記録を読み進めるうち、軍内部で非人道的な自白の強要と証拠の隠滅が行われているのを知り、自らの検事生命をなげうって内部告発に乗り出す‥‥❗
ベネさま演じる検事はもちろん、家庭では良き夫、良き父親。オレオレ系、傲岸不遜なドクターストレンジよりよっぽどアベンジャーズに相応しいんじゃない❓っていうくらい正義のヒーローっぽかった。一方、ピカール中佐と言えば、なんと外務大臣夫人(監督ロマン・ポランスキーの現在のパートナー、エマニュエル・セニエ。典型的なフランスマダム‥‥って感じ。ステキ😍)と不倫関係の現在進行形。そういう史実があったか否かは定かではないけれど。あっ、でもフランス人は不倫とは言わないね。恋人とか愛人とか呼んでる。日本人やアメリカ人の思考パターンとはちと、違う気がする。(アメリカは元来ピューリタニズムの国だから、日本同様、不倫やスキャンダルにはけっこう、キビシイ)‥‥ラストもね、真理を追及する正義の人であったはずのピカール中佐が軍の中でひとたび権力を握るや‥‥#[[/"〉〈@¥&って感じの、苦くて皮肉な終わりかたで、やはり「さすがフランス映画」でしたよ(笑)
監督はロマン・ポランスキー。プライベートではかなりスキャンダラスな人ですが、もう88才なのか‥‥。(彼は、過去に起こした少女暴行事件で米アカデミー賞協会から除名されてます。アメリカのピューリタニズムは、たとえ半世紀前の事件だったとしても、彼を許さなかった‥‥というわけです)集団からヒステリックに断罪される恐怖。もしかしたらドレフュスの孤独と絶望に、彼自身を投影していたのかもしれませんね。
久々の、重厚感溢れる歴史大作です😊
★原題は『J'Accuse(私は告発する)』。このまんまのほうがカッコいいなぁ。『オフィサー & スパイ』って‥‥。フランス映画なのに、題名は英語だし(笑)