Netflixで『愛しい人から最後の手紙』(2021年)鑑賞。
1965年、ロンドン。セレブな実業家ローレンス(ジョー・アルウィン)の妻ジェニファー(シェイリーン・ウッドリー)が入院先の病院から自宅であるロンドンの豪奢な邸宅へ戻って来るところから物語は始まります。彼女は交通事故で顔に深い傷を追い、しかもショックで記憶喪失に陥っていました。空虚でもどかしい日々がしばらく続いたある日、彼女は自室の本棚で、※イヴリン・ウォーの『スクープ』の中に自分宛ての恋文が挾まれているのを発見します。部屋中を探し回ると幾つもの手紙が出てきて、なんと最後の手紙は、ブートと名乗る相手から駆け落ちを促す内容でした。その時初めて彼女は、自分には秘密の恋人がおり、待ち合わせ場所の駅に向かう途中で事故に遭ったことを思い知って愕然とするのでした。
※手違いから、内乱が噂される政情不安な国に報道記者として派遣されてしまった田園専門のコラムニスト、ウィリアム・ブートが、ひょんなことから大スクープをものにするという風刺コメディ小説。
※アメリカ出身のシェイリーン・ウッドリー(左)ですが、今作では、当時の英国社会の慣習と自らの情熱に引き裂かれるセレブ妻を巧みに演じています。
場面は変わって現代のロンドン。失恋したばかりでイマイチ仕事に乗らないロンドン・クロニクルの記者エリー(フェリシティ・ジョーンズ)は、仕事に必要な資料を社の保管室で探している最中に、「愛しいJへ〜ブートより」と書かれた1通の手紙を発見します。それこそが、50年以上も前に、Jことジェニファーを愕然とさせた恋文でした。なぜ、彼女の秘めたる恋人「ブート」から彼女に宛てた手紙がロンドン・クロニクルの資料室に眠っていたのか❓文面から溢れ出る真摯な情熱に打たれたエリーは、Jとブートの秘めたる恋について調べ始めます。……そしてそれは、一介の記者であり、一人の女性としてのエリー自身の人生を大きく変えていき……❗
フランスのバカンス地、サントロペの夏に始まり、ロンドンの秋で深まりゆくジェニファーと、ブートことアンソニー・オヘア(カラム・ターナー)の恋。これって、心の底に眠っていた、忘れかけてた感情を呼び覚ますような作品。……そう❗それは例えば、『哀愁』(1940年…主演 ビビアン・リー、ロバート・テイラー)や『カサブランカ』(主演 イングリッド・バーグマン、ハンフリー・ボガード)、日本で言えば『君の名は』(新海誠のアニメじゃなくって、佐田啓二(中井貴一のお父さん)、岸恵子主演の1953年の映画のほう(^.^;)を観終わった時のあの、何とも言えない切ない気持ちに似ています。携帯がないから、待ち合わせをして、たとえ相手が姿を表さなくても、ひたすら相手を信じて待つしかない、そんな時代の、切なくてもどかしくて、しかしそのぶん熱くて激しい恋。まあ、ぶっちゃけ言えば不倫なんだけど(^.^;、フランスふうなら立派なアムール❤(なんじゃそりゃ 笑)
ヒロインを演じるシェイリーン・ウッドリーが素晴らしい。シェイリーンは『ビッグ・リトル・ライズ』の、レイプされた結果出産した我が子を必死に育てるシングルマザーや、『モーリタニアン 黒塗りの記録』キャリア弁護士役が印象的ですが、今回はそれらとは真逆の役柄。今作でかなりキましたよね❓彼女。若き日のエリザベス・テイラーにちょっと似てたなぁ。彼女が着こなす60年代ファッションがめっちゃオサレ。1960年代は、英国の上流階級の女性たちも、ひと昔前のオートクチュールから、働く女性のための機能的なプレタポルテへと移り変わっていった時期で、当時の1流デザイナー、ディオールやサン・ローラン等もこぞってプレタポルテに手を染め始めていました。なので、ジェニファーのファッションも、帽子と服の色の合わせ方、スカーフ使い等々、今でもマネできそうなアイデアがいっぱい❗
彼女の秘密の恋人、ジャーナリストのブートことアンソニー・オヘアを演じるのはカラム・ターナー。そう、ファンタビシリーズのニュート(エディ・レッドメイン)のお兄ちゃん。優等生役より、今作みたいなちょっとヤサグレた、翳のある役のほうが似合うね。ヤサグレ純情派😍オースティン・バトラーやバリー・コーガンなど錚々たるライジングスターと共演の『マスター・オブ・ザ・エア』が早く観たい。
※葬り去られそうになった秘密の恋を掘り起こし、現在に繋げていく、言わば狂言回し的なジャーナリスト役を演じるのが、フェリシティ・ジョーンズ(左)。アメリカ合衆国最高裁判所判事ルース・ベイダー・ギンズバーグが弁護士時代に史上初の男女平等裁判に挑んだ実話を描いた映画『ビリーブ 未来への大逆転』でヒロイン役に抜擢された彼女、今回の役柄にはピッタリでしたね。
底冷えのする冬の暮夜、温かい飲み物を片手にソファで寛ぎながら観るのにピッタリな映画。アレサ・フランクリンや「ママ・ソウル」ことドリス・トロイ、ナンシー・シナトラなど、60年代女性シンガーの名曲も満載❗ヲタク大好きマリアンヌ・フェイスフルの『可愛い小鳥』が流れたのも嬉しかった〜😍
※一見温厚に見えて、そのじつ冷たく差別主義的なジェニファーの夫ローレンスを演じるのはジョー・アルウィン。物凄くイケメンなのに、いつもクレジットは3〜4番手、影が薄いんだよなぁ、イマイチ。俳優としての欲もあんまりなさそうで残念。ご存じの通り、アノテイラー・スウィフトの元カレ。6年も交際した末の突然の破局で、ますます薄幸そうなイメージがついちゃったよね(^.^;
※仲睦まじかった頃のスウィフトとアルウィン。別れた後は自作の曲の中で盛大に元カレたちをディスすことで有名なスウィフト。あれ❓……でもアルウィンがディスられた話は聞かないね。彼ジェントルマンなのかな、やっぱり。
★今日の小ネタ…追悼〜ベン・クロス
年老いてからのアンソニー・オヘアを演じているのが、英国のベテラン俳優ベン・クロス。彼はこの作品の撮影終了後、まもなくして持病のために他界しました。ベン・クロスといえば何と言っても『炎のランナー』。ユダヤ系でケンブリッジ大学の学生ハロルドと、スコットランド出身の牧師の息子エリックという、1924年のパリ・オリンピックで英国に陸上競技の金メダルをもたらした2人の実在するランナーの物語。保守的な英国社会で差別と偏見に苦しみ、スプリンターとしてそれを跳ね返そうともがくハロルドと、彼と同様スコットランド人というマイノリティでありながら、「自分に俊足という恵みを与え給うた神の愛に報いるために走る」というエリック。対象的な2人がさまざまな苦闘の末に勝利を収めるまでの感動的なストーリーでありながら、当時の英国社会の様々な問題を浮き彫りにした問題作でもありました。
※『炎のランナー』のベン・クロス。
病を抱えながら、最後まで映画に出演し続けたベン・クロス。演技者として人生を駆け抜けた人。心より御冥福をお祈りします。