オタクの迷宮

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『ある男』~演技のアンサンブルが見事な映画

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 冒頭から、安藤サクラの絶品の「泣き」の演技。カンヌ映画祭、当時審査委員長を務めた名優ケイト・ブランシェットに、「私、今度泣く演技をする時には、(『万引き家族』の)サクラを参考にさせてもらうわ」と言わしめたほどの安藤サクラ。この冒頭のシーンだけでもう、この映画は名作のお墨付き。いや、ほんと(笑)

 

 

人権派弁護士として知られる城戸(妻夫木聡)は、かつて離婚訴訟を手がけたことのある里枝(安藤サクラ)から、彼女の再婚相手で、樹木の伐採作業中不慮の事故で亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元を調査をして欲しいという相談を受け、横浜からはるばる宮崎まで足を伸ばします。大祐は里枝に、自分は伊香保温泉の旅館の次男坊だと話していたのですが、長年疎遠になっていた大祐の兄(眞島秀和)が一周忌に訪れ、遺影に写っているのは全くの別人だと告げたことから、4年近く夫と思っていた誠実で優しい男性が全くの別人だったことがわかったからです。城戸は何かに取りつかれるようにこの事件の調査にのめり込んでいきますが……。

 

  出演者全員が適役で、その演技のアンサンブルがそれはもう見事。彼らの秀逸な演技を通して、登場人物一人一人の人生が浮き彫りとなり、社会に潜む差別や分断、それによって引き起こされる人生の辛さ、哀しさ、切なさが胸に染み入ります。ミステリーの名を借りた、深い人生ドラマ。登場人物一人一人に向ける作者の温かい眼差しは、どこか松本清張を思わせる味わい。

 

  薄幸な女性役の演技巧者・安藤サクラを挟んで、名前も、出自も、自分の顔さえ棄てたいと願うほど、過酷な人生を生きてきた男を演じる窪田正孝。一方、彼の人生を追い続けることによって、自らの出自に否応なく向き合い、自らの人生に疑問を持ち始める男に妻夫木聡。彼ら二人の、言わば動と静の対比が素晴らしくて、この映画、彼らの代表作のひとつになるんじゃないか……と、ヲタクふと思いました。

 

  悪辣な詐欺師役のモンスター・柄本明(レクター博士なみにインパクト凄い😅)、でんでんの人情味、ビッチな真木よう子にクズ男の眞島秀和……みんな巧すぎるでしょ(笑)また、辛くて重いストーリー展開の中で、若い恋人同士を演じる仲野太賀と清野菜名の清冽さが、人生を照らす小さな灯りのようで、彼らの登場シーンだけがどこかほっこりする。

 

しっかしねぇ……最後のどんでん返し。そう来たか~❗ラストに来て、冒頭に出て来た「絵」の意味がやっとわかったよ、うん。

 

  ミステリーとしても、人間ドラマ、社会派ドラマとしても一級品と言えるのではないでしょうか。少なくともヲタクは、今自分が享受している「ささやかな、平凡な幸せ」を感謝して、守っていこうと思いましたよ。ひとつの映画を見て、自分の人生に感謝できるって、凄いことじゃない❓