オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

にんげん、こわい〜『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』


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 横浜駅直結のシネコン「Tジョイ横浜」で、『名探偵ポワロ:ベネチアの亡霊』鑑賞。

 

 英国の名優ケネス・ブラナーがメガホンを取り、自ら主役のポアロを演じる作品は、『オリエント急行殺人事件』(2017年)、『ナイル殺人事件』(2022年)に引き続き、早や3作目となりました。ヲタク的には、TVドラマで長年ポアロを演じていたデヴィッド・スーシェのイメージが強くて(まさに灰色の脳細胞、卵形の頭そのままのビジュアル)。スーシェはどちらかと言えば、カリカチュア(戯画)的に演じてましたよね。それに比べるとケネス・ブラナーポアロは極めて人間臭く、しかも超カッケーイケオジ😍アガサ・クリスティ、自分がキャラ造型しておきながらポアロのことはあまりお気に召さなかったらしいけど……。ケネス・ブラナーポアロを見たら、気難し屋さんのクリスティもきっとご満悦だったのでは❓…それにしてもシェイクスピア俳優でもあり、キングスイングリッシュの名手であるケネス・ブラナーが、前2作ではベルギー訛り(つまりフランス語訛り)の英語を小憎らしいくらい見事に喋ってましたが、今作でもその素晴らしい演技は健在❗


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ベネチア…Pixabay

 

 旅好きで、世界の様々な都市に出没する根っからのコスモポリタン、名探偵エルキュール・ポアロケネス・ブラナー)。さてさて、今回の舞台は、1947年第二次世界大戦直後のベネチア。彼は探偵業を引退、園芸に(ベルギー人らしく)グルメにと、悠々自適に暮らしています。ところがそんなある日、旧知のミステリ作家、アリアドニ・オリヴァ夫人(ティナ・フェイ)から、死者の声を話すことができるという霊媒ジョイス・レイノルズ(ミシェル・ヨー)の降霊会に一緒に参加しようと誘われます。「ジョイスは紛うことなき本物の霊媒師」と言うオリヴァ夫人に、自身の「灰色の脳細胞」しか信じられないポアロは「霊媒師は必ず、何かしらのトリックを繰っているはず」と、彼女の陰謀を打ち砕くべく降霊会に参加します。自らの理性をも揺るがすような、摩訶不思議な事件が待ち構えているのも知らず……❗


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※当代一の霊媒師役のミシェル・ヨー。かつては「品格あるアジアン・ビューティ」キャラが定番だった彼女ですが、アカデミー主演女優賞を受賞した『エブエブ』のぶっ飛び演技以来、異次元にイッちゃった感が……(笑)

今作品でも、降霊時トランス状態に陥るシーンの怪演❓は見ものでございますよ。

 

 もちろんこれは「アガサ・クリスティのミステリ」なので、お化けぢゃなく「にんげん、こわい」な結末になるのは(ヲタクのように原作を読んでなくても)推察できるんだけど、古い邸宅の廊下の暗闇から突然伸びる手や、羽音烈しく飛び立つ鳥、鏡の中背後に立つ死者の影……と、ケネス・ブラナーの、ゴシックホラー的要素を巧くミックスした演出が素晴らしく、全編怖くて恐ろしくて、心臓に悪い(笑)ラスト、(…え❓あれってひょっとして…❓)っていう含みもちゃんと持たせてあるしね。


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ジェイミー・ドーナン(下段中央)…ケネス・ブラナー監督作品で、アカデミー賞にもノミネートされた『ベルファスト』で主人公の父親役を演じたアイルランド出身の俳優ジェイミー・ドーナン(『フィフティ・シェイズ』シリーズ)。今作品では戦場の体験がトラウマとなり、次第に精神を病んでいく医師役を好演。

 

 この作品はやはり、沈みゆく水の都ベネチアの、しかも古い古い邸宅が舞台だからこそ成立した作品。(作品中、「ベネチアにある建物は例外なく呪われている」というセリフもあるし(^.^;)凄惨な連続殺人事件の舞台になる邸宅は、ペストが大流行した時代に大勢の子どもが犠牲になった呪われた場所…という設定。ベネチアは1361年から1528年の間になんと22回もペストに襲われ、特に1576年から1577年、人口の約3分の1にあたる5万人がペストで死亡したと言われています。ベネチアとペスト……と言えば、ルキノ・ヴィスコンティ監督の名作映画『ベニスに死す』(原作 トーマス・マン)を思い出しますねぇ……。美しき古都に纏わりつく死の匂い。


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スピルバーグ版『ウェスト・サイド・ストーリー』でジェッツのバルカン役を演じたカイル・アレンが重要な役で登場。ヲタクの熱烈推しマイク・ファイスト(ジェッツのリーダー、リフ役)が、「ロスに住んでるカイルにいつも「ロスにおいでよ~」って誘われてたから、ジェッツ全員でとある土曜日の朝ほんとうに彼の家に押しかけちゃったんだ」って微笑ましいエピソードを披露していたのを思い出すわ😍

 

 戦争のトラウマや、妄執ともいうべき愛憎の念、そして自らが過去に犯した罪の意識に苛まれる登場人物たち。それは名探偵、エルキュール・ポアロとて例外ではありません。ポアロの最後の台詞…

人はみな、自らの亡霊を乗り越えて生きていく。

それが人生なんだ。

が、なぜかひたひたと心に染みて、深い余韻を残す…そんな作品です。

 

 映画の冒頭では探偵業を引退しようと固く決意していたポアロでしたが、ラストではまた情熱が盛り返したもよう(笑)……ということは、ケネス・ポアロにまた会える…って、期待してもいいのかしら❓