時は1955年、所は、アメリカの砂漠にある架空の町、人口わずか87名のアステロイド・シティ。隕石が地上に激突して出来たクレーターが観光の目玉になっているこの町で子ども向けの科学賞受賞式が催され、受賞対象の天才少年少女5名と、その家族がアステロイド・シティに招待されます。ところがその受賞式の真っ最中、空の果てから「未確認飛行物体」が降りてきて、なんとその中から宇宙人が……❗宇宙人は町にある隕石を盗んで立ち去ったものの、アステロイド・シティは「危険地帯」として大統領命令で封鎖されてしまいます……❗
……とつらつらあらすじを書いてきましたが、これは実は劇中劇。劇作家コンラッド(エドワード・ノートン)が書いた劇をまさにただいま上演中…という設定。上演中の「いま」は、モノクロ画面に切り替わるので、混乱はあまりありません。
この手法は、ウェス・アンダーソンの直近の作品『フレンチ・ディスパッチ』と同じですよね❓雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の名物編集長(ビル・マーレイ)が突然亡くなり、雑誌が廃刊になるに当たって、最終号で一癖も二癖もあるライターたち(ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマント、ジェフリー・ライト)がこれまでのライター人生を賭けて渾身の記事をモノにし、私たち観客はそれを「映画という形式で読む」という二重構造の作品でした。
最近のウェス・アンダーソンって、「観客に内容を具体的に理解してもらう」という姿勢は、まるっきり投げちゃったんですかね❓わざわざストーリーを分かり難くしているような気がしてなりません。……それとも単にヲタクがアタマ悪いだけなのかいな(笑)『グランド・ブタペストホテル』辺りまではそうでもなかったような気がするんだけど……(^.^; シュールレアリズムよろしく、監督の脳裏に浮かんでは消える断片的な想念をそのまま映像化したような作品(……なんじゃそりゃ 笑)
まあしかし、なんとなーくウェス・アンダーソンの、生まれ故郷であるアメリカ合衆国、特にマッチョ文化溢れる中西部(映画の作風からは考えられないですが、アンダーソン監督はじつはテキサス州生まれ)に対するそこはかとない悪意を感じちゃう(^.^; 時代背景が1955年だからねぇ。第二次世界大戦で、戦勝国とは言えボロボロになったヨーロッパ諸国を尻目に、イケイケドンドン、アメリカが「世界の守護神」を以て任じていた時代。今回の映画の冒頭でも、貨物列車にグレープフルーツやアボカドと一緒になんと核弾頭が積まれていたり、町からすぐ見える砂漠の向こうでフツーに※核実験が行われていたり、ギフテッド教育の異常さや、後年米ソの冷戦に繋がる「宇宙開発戦争」の始まりを思わせるシーン……etc.と、ほら、やっぱりアンダーソン監督とアメリカの険悪な関係を示す皮肉と悪意に満ちてるわ(笑)『グランド・ブタペストホテル』や『フレンチ・ディスパッチ』は、それぞれ町は架空のものでもモデルになった国々はハンガリーやフランスなど、ヨーロッパの国々。ヨーロッパ大好きアンダーソン監督のリスペクトが溢れていました。……しかし、今回の『アステロイド・シティ』はどうでしょう。砂漠のど真ん中に立つ、まるでテーマパークのような絵空事の町。ずーーっとピーカンの青空続きで、眩しいくらい明るい場面なのに、どこか冷たい風が吹いているように感じるのはヲタクだけ❓
※アメリカのネバダ核実験場では1951年から核実験が行われ、ネバダからわずか80キロしか離れていないラスベガスでは、キノコ雲見物が注目され、一気に観光客が増えていたという恐ろしい事実。さらに放射能は、何百キロメートルも離れた風下のユタ、アリゾナ州などへも広がり、 少なくとも約17万人が被ばくしたとされ、子どもをはじめ住民の間では、白血病やがんで亡くなる人が増加したことが報告されています。
…しかしまあ、いつも通りパステルカラーの町はポップでオシャレで可愛いし、キャストも超豪華❗マリリン・モンローを模したと思われる女優ミッジを演じるスカーレット・ヨハンソンは安定のステキさだし、エドワード・ノートンは相変わらず知性派イケメン😍……しかししかし、何と言ってもラスト近くに登場するマーゴット・ロビーの美しさよ❗あまり意味のないどアップの連続で、さしものアンダーソン監督も……(笑)アンダーソン組の常連、ビル・マーレイがコロナ感染でこの映画を降板したニュースはまだ記憶に新しいですが、今作品を観て、いかにビル・マーレイがアンダーソン作品に得難い人材であるかがわかりました。……なんだか、ちょっと気の抜けたビールみたいになってた。…いや、ほんと(笑)