オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

お前ら人間じゃねぇ❗〜映画『首』


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 横浜駅直結のシネコン「Tジョイ横浜」にて、北野武監督の『首』鑑賞。

 

 ことの発端は、織田信長加瀬亮)の寵臣でありながら、何故か信長に反旗を翻し、居城である摂津城に立て籠もって信長軍を迎え撃つ…と思いきや、どういうわけか必死で戦う家臣たちを見捨ててさっさと逃げ出した武将・荒木村重遠藤憲一)。荒木はこの謀反とその後の逃走劇で、現代に至るまで天下の愚将という不名誉な言われ方をされてきたようですが、北野監督はこの事件に、独自の解釈を加えています。信長の寵愛を受けながら、秘かにただならぬ関係を結んでしまった荒木と明智光秀西島秀俊)。その二人の閨の秘事が信長の逆鱗に触れ、嫉妬に狂った信長から、いつしか二人は非道で残虐な扱いを受けるようになり、それに耐えきれなくなった荒木がついにプッツン……というね。本能寺の変という歴史的大事件も、つまるところおっさんたちの愛欲の果てかよー(呆)いいかげんにせい、っつーの(笑)信長✕荒木、荒木✕明智、信長✕森蘭丸のガチなシーン満載、R15指定は残虐シーンだけじゃなかったのね(笑)

 

 愛した部下に裏切られて、満たされぬ欲望と嫉妬に焼かれ、身悶えする信長は、なんとしても荒木を捕まえてこい、俺様がいたぶり抜いた末に首切ってやる❗と臣下に大号令を出しますが、それに目を付け、信長に代わって天下を獲ろうと虎視眈々と狙いを定めたのが、それまで信長から「サルめサルめ」とおちょくられ続けてきた羽柴秀吉ビートたけし)で……。(信長は、なぜか秀吉に対しては食指を動かされなかったらしい 笑)

 

 しょっぱなから、織田軍に討ち取られた荒木軍の、淀川に浮かぶ死屍累々。し、しかも、頭部のない首からはゾロゾロと赤いカニが……。もしかして死人の血を吸って赤く染まったものか。昼食代わりに、映画館で買った「ライ麦ドッグセット」とやらを思い切り頬張っていたヲタクは思わずぎょえーー❗一気に食欲失せたなり(笑)

 

 いやもう、誰一人としてマトモな(注・但し現代の常識から見て)人間が出てこないんで、映画の最初の頃はいちいちビックリしてたんだけど、もはや後半に至ってはヤワな常識とか倫理観なんて、どこかにぶっ飛んだ(笑)


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羽柴秀吉ビートたけし・中央)、秀吉の弟、羽柴秀長大森南朋・左)、秀吉の軍師・黒田官兵衛浅野忠信・右)。3人で謀議を重ねるシーン、たけしのアドリブに、必死で笑いをこらえる他の2人の姿が本編にもしっかり捉えられていて、思わず吹いてしまいました。3人の掛け合い、いちいち笑っちゃう。特にたけしと大森南朋は漫才のボケとツッコミ、名コンビです。浅野忠信のヌボッとした感じも◎❗

 

 北野監督の『アウトレイジ』は「全員、悪人」だったけど、今回は「全員、狂人」。『アウトレイジ』は893のお話なんで、観ているこっちもかなり覚悟してるからまだよかったんだけど、北野監督の描く「本能寺の変」、NHK大河ドラマのファンの方々にはお勧めしません(^.^; ……まあでも、NHK大河で描かれる戦国時代より、『首』のほうが実際には史実に近いんじゃないかと、観終わった今では思えてきたゾ。シェイクスピアの『ハムレット』の元ネタになったという北欧バイキングの伝説を、当時の風俗習慣に出来るだけ忠実に描いたというロバート・エガース監督の『ノースマン 導かれし復讐者』を観た時も思ったけど、主人公(アレクサンダー・スカルスガルド)なんてもう、今を生きる私たちから見たらもはや人間じゃない、ケモノそのものだったもん。敵将の首とって狼みたいな雄叫び上げて妙なダンスしてたし(笑)『首』も同じ。倫理道徳や宗教や法律のタガを全部取っ払って、欲望と本能のままに突っ走ったら、そりゃもう「全員、狂人」だわ。


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織田信長加瀬亮・左)と明智光秀西島秀俊・右)。陰気なM男の光秀をドツキ抜く、信長・ザ・サディスティック。


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 ひ弱な現代人の俳優さんたちが、そんなケモノじみた狂人を演じるのはさぞかし大変だっただろうと推察しますが、狂いっぷりが1番スゴかったのが、意外にも信長役の加瀬亮ですよ❗生前のエピソードの数々を聞くと、織田信長ってどう転んでも(こいつサイコパスだよね)っていうヤバい奴なんだけど、それを『ハチミツとクローバー』、『それでもボクはやってない』、『重力ピエロ』のアノ加瀬亮が演じるっていう。最初登場した時はリリー・フランキーかと思ったわ。監督からは、役作りについて「(信長は)イッちゃってる人ね」とたった1言あっただけらしい(笑)。

 

 『アウトレイジ』の893もそれまでの彼のイメージを覆した役ではあったけど、あの時は893でもインテリの頭脳派って設定で、まだ知性の片鱗が垣間見れた。でも、今回は知性のカケラもないんだもん(^.^; ……あっでも、ずっと狂いっぱなしだった加瀬信長が最後、本能寺で「敦盛」(幸若舞)を見ている時に、敦盛の人生を自らに重ねたかのような、虚ろで茫漠たる表情を一瞬浮かべるのね。あの表情は、サスガ加瀬亮でございました。ちょっとクラッと来た😍この一瞬、北野監督は彼を信長にキャスティングしたことは間違いなかったと、改めて確信したことでしょう。

 

 秀吉はことあるごとに「俺は百姓だから(武士の本懐なんぞ知ったことか)」と呟きます。「武士道精神などとみんな戯言を言ってはいるが、人間なんて、面の皮1枚剥けばみんなこんなもんさ」という、監督の底意地の悪い囁きがどこからか聞こえてきそうです。むろん、「武士」は別の単語に置き換えられますよね。日本人って昔から、武士道、茶道、華道、柔道…と、単にフィジカルな事柄に「道」、つまり精神論をくっつけるの、好きじゃないですか(^.^; 単に技倆や体力、能力だけじゃダメなんだ……みたいな。しかし北野監督は、「人がふみ行うべきこと。道徳、道理」を意味する「道」という言葉がよほどお嫌いと見た(笑)。
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※何人も影武者を用意して、その度に使い捨てる徳川家康小林薫)。ワル……って言ったらコイツがいっちゃんワルかもね。

 

 信長の甲州征伐、秀吉が毛利と戦った天正10年(1582年)の備中高松城の戦い(黒田官兵衛の水攻め策が功を奏した)、本能寺の変、秀吉の光秀討伐等々、世に知られた数々のエピソードを絡めながら、北野監督独自の歴史的解釈を加えた、壮大な一大コント……いやもとい、一大エンターテイメントと言えるでしょう。