お待たせしましたっ、ヲタクが独断と偏見で選ぶ「2023年洋画BEST10」いよいよ第5位から1位の発表でーーす、ジャジャジャジャーン❗(⇐誰も期待してない 笑)
★第5位 イニシェリン島の精霊
今年、ヲタクの「映画始」はこの映画でしたよねぇ……。新年早々、この映画が訴えかける人生への虚無感と絶望は物凄かった。監督は、マーティン・マクドナー。同監督の『スリー・ビルボード』の時は、主演のフランシス・マクドーマントとサム・ロックウェルのキャラもあり、けっこうコメディ要素入ってたけど、今回は人間の悪意や狂気じみた憎悪が圧倒的に迫ってきて、けっこうキツかったっす(^_^;)
アイルランドのとある牧歌的な孤島。牛追いをしながら、午後には近くのパブに行って友人たちと一杯やる。日が沈んだら、同居する妹シボーン(ケリー・コンドン)が作ってくれた夕食を食べて眠りにつく……そんな毎日を当たり前のものと享受して生きてきた男パードリック(コリン・ファレル)。そんな彼の幸せだった(筈の)人生は、一番の親友だと信じて疑わなかったコルム(ブレンダン・グリーソン)から、突然絶交宣言をされて、180度変わってしまいます。コルムを傷つけた覚えもないパードリックは理由を問いただしますが、コルムはただ「お前が退屈な男だから」と繰り返すばかり。パードリックは妹のシボーンや、島の若者ドミニク(バリー・コーガン)に仲立ちしてもらい、なんとか関係の修復を図りますが、コルムは益々態度を硬化させ、「お前が今度俺に話しかけたら、その度に俺は自分の指を1本ずつ切り落とす」と、とんでもないことを言い出します。パードリックがその禁を破って思わずコルムに話しかけた翌朝、彼の家の扉に何か激しくぶつかった音が。鳥かと思って家の外に出たパードリックは、驚愕の表情を浮かべます。果たして彼がそこで見たものは…❗❓
自分も他人も「善人」だと信じて疑わなかった男が、触れる縁によっていかようにも残忍になる……人間の心の奥に潜む本性の恐ろしさ。大ベテラン、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンの老獪とも言える演技はもちろん素晴らしかったですが、個人的にはやっぱりバリー・コーガンかなぁ…。彼が演じるのは、警察官の父親から性的虐待を受けている島の道化者ドミニク。愚鈍なパードリックからさえ小馬鹿にされる存在ですがそのじつ、鋭い洞察眼を秘めている設定。愚鈍な表情を見せながら時折、その深い蒼い瞳に知性を閃かせるのはバリー・コーガンの真骨頂。マクドナー監督もバリーの魅力にゾッコンらしく、今回のドミニク役は彼にアテ書きしたもののようです。はっきり言ってイケメンには程遠いけど、噛めば噛むほど味が出そうな感じ?スルメみたいな(笑)バリーはこの映画の好演によりアカデミー助演男優賞にノミネート、今ではハリウッドの若手注目度No.1に上り詰めました。
★第4位 エリザベート1878
作品のヒロインは、ご存知オーストリア・ハンガリー帝国の皇后にして「帝国の父」と謳われたフランツ・ヨーゼフ1世の妻エリザベート(愛称シシー)。その圧倒的な美貌、フランツ・ヨーゼフ1世とのドラマティックな恋、皇室の枠に収まりきれないその自由奔放で情熱的な生き方、さらにはアナーキストに心臓を一突きされて暗殺されるという悲劇的な最後は恰好な題材となり、今までも何度となく映画・ドラマ・舞台化されています。
これだけの有名人、悪く言えば「使い古されたネタ」を、今まで誰も考えつかなかった切り口で演出した手法は、見事と言うほかありません。実在の人物を映画で描く方法って2通りあって、その人の人生あるいは半生を大河ドラマふうにガッツリ描くか、あるいは人生に大きな影響を与えた出来事、人生の転換期における心情の変化にスポットを当てるか、どちらかかと思います。後者の代表作としては、『マリー・アントワネット』(2007年…ソフィア・コッポラ監督)や『スペンサー/ダイアナの決意』(パブロ・ラライン監督)がありますが、今回の『エリザベート 1978』は前述の2作よりもさらに大胆に、1978年1年間のエリザベートの魂の内奥に踏み込み、虚実織り交ぜたストーリー展開で、あっと驚くような解釈をしてみせます。……まるで優れたミステリのどんでん返しのように。
1978年、オーストリア・ハンガリー帝国の皇妃エリザベート(ヴィッキー・クリープス)は40歳を迎えていました。生涯をかけてハンガリーを熱烈に愛した彼女は、夫である皇帝にさまざまな方法でハンガリーの自治権を認めるよう働きかけますが、フランツ・ヨーゼフ1世は彼女に政治に首を突っ込むことなど断じて許しません。美しく着飾り、人民の敬愛の象徴たれと耐えず強要される彼女は、精一杯それに答えようと、若い日の華奢なスタイルを維持する為に、来る日も来る日も数枚のスライスオレンジとコンソメスープだけで過ごし(晩餐会のご馳走を眼の前にして、全く手をつけないって……これ、1種の拷問じゃないですか❓😢)、公の場にはまるで甲冑のようなコルセットで、ウェスト50センチ❗までギリギリと締め上げるのです。ある日、公式の場で意識を失い倒れた彼女。彼女は自問自答します。
私は何故、何のために、自分をこれほど追い詰めているのだろう?
彼女が「本来の自分に戻るため」の反抗はしかし、残酷な結末を迎えます。彼女が死して150年経っても、未だに多くの女性たちをがんじがらめにする加齢の恐怖やルッキズム。現代にも通じる様々な問題を内包した『エリザベート1878』。特に女性にはお勧めの作品です。
第3位 ソルトバーン
『イニシェリン島の精霊』で世界の注目の的となったバリー・キオガンが、堂々初主演を務めた作品。彼が演じるのは、薬物中毒の両親の元で貧困の家庭に育ち、必死の思いで奨学金を獲得してオックスフォード大学に入学した苦学生のオリヴァー。そんな彼が、ひょんなことから貴族の末裔且つ大富豪の御曹司で学生たちの憧れの的のフィリックス(ジェイコブ・エロルディ)と友人関係となりますが、全てにおいて恵まれた友人に対して次第に、憧憬と憎悪、複雑な思いを抱いていく……というサスペンスタッチの愛憎劇で、ラストにはあっと驚くどんでん返しが待っております。
これもう、バリー・キオガンの独り舞台だよねぇ…。カメレオン俳優って、まさに彼のこと。彼の変幻自在の演技によって観ている私たちはどんどんミスリードされ、衝撃のラストに繋がっていくわけです。主人公の愛と憎しみの対象となる友人役のジェイコブ・エロルディをはじめとして、ロザムンド・パイク、キャリー・マリガン等、共演陣も超豪華。但しR18+で、「性的表現、喫煙、肌の露出、飲酒、薬物、暴力、暴言」全てを兼ね備えた❓作品なので、刺激に弱い方はくれぐれも気をつけて(笑)
※美と才気に恵まれ、富も名声も全て思うがまま、主人公の心を掻き乱す青年フィリックス役にジェイコブ・エロルディ。ソフィア・コッポラ監督の『プリシラ』で、あの「キング・オブ・ロックンロール」エルヴィス・プレスリー役に抜擢されています。そちらも楽しみ。
第2位 告白、あるいは完璧な弁護
IT企業社長ユ・ミンホ(ソ・ジソブ)の不倫相手であるキム・セヒ(ナナ)の他殺死体が、ある日ホテルの1室で発見されました。部屋は完全なる密室。ミンホは同じ部屋にいたものの、セヒ殺害時にはガラス窓に頭部を殴打して意識を失っており、ホテルの部屋には元々何者かが潜んでいたのだと主張します。事件の第一容疑者となったミンホですが、経済界の大立者である義父の尽力により、彼に対する検察側の勾留請求は棄却されます。ミンホは来るべき裁判に向け、完璧な弁護で必ず無実を勝ち取ると評判の辣腕弁護士ヤン・シネ(キム・ユンジン)を雇い、自身で事件の真相を探ろうと動き出します。吹雪の中、シネは今後の戦略を共に練るべく、ミンホの山荘に駆けつけます。何かを隠匿している様子のミンホに、「真実を話さなければ弁護はできない」と詰め寄るシネ。彼女の説得により、ついにミンホが語り始めた驚愕の真実とは……❗❓
様々な観点から相手の論理の矛盾を衝き、真実を引き出そうとする弁護士と、それが露わになることを恐れる被疑者との間の、緊迫した密室の会話劇。その時々の供述によって登場人物のキャラがどんどん変化していき、どんでん返しに次ぐどんでん返し、いやもう、すっかり騙されました(笑)しかし、そんなマインドファックなミステリーの種明かしがされた後に残るのは、どうしようもなくやるせない、人生の不条理や哀切さ。それは例えば『オールド・ボーイ』(パク・チャヌク監督)、『薄氷の殺人』(ディアオ・イーナン監督)、『ゼロの焦点』(犬童一心監督)等と同様、アジアン・ミステリー特有の湿度の高さゆえか❓ポスターのクレジットに「この男を救え」とありますが、観終わった後に「救済」の意味を考えると‥‥‥深い❗深いです。
第1位 異人たち
この作品はまだ日本で一般公開されていないので対象とするのを迷ったのですが(ヲタクは10月に開催された東京国際映画祭で鑑賞)、こんなに素晴らしい作品、見過ごすに忍びない……というわけで、対象に入れました。…結果、誰が何と言ってもヲタクにとっては2023年のベストワン❗
ロンドンの街を見下ろすタワマンに一人暮らす脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)。同年代の友人たちは皆家族を持って郊外の一軒家暮しですが、独身でしかもゲイである彼は、今日も圧倒的な孤独を持て余しながら暮らしています。そんなある夜、同じマンションの階下に住む若い男ハリー(ポール・メスカル)がウィスキーの瓶を抱えてアダムの部屋をノックします。「もしよかったら、一緒に飲まない…❓」と。ハリーの少し不安げな蒼い瞳の中に、自分と同じ淋しさと哀しみを見出し、彼に心惹かれたアダムでしたが、過去のトラウマから新たな人間関係を作るのをずっと避けて生きてきた彼は、心にもなく「遠慮しとく」と答えてしまうのでした。傷ついた様子でしょんぼりと帰っていくハリー。後悔に苛まれて、益々孤独感を募らせるアダムは、古い家族写真を見つけて、ふと思い立ち、昔両親と住んでいたロンドン郊外の家を見に行くことにします。(今はどんな人が住んでいるのだろう❓)思わず家の扉をノックするアダム。出てきた人を見たアダムは驚愕して声も出ません。30年以上前に急死した筈の彼の母親(クレア・フォイ)が、若き日そのままの姿で現れたからです……❗
ロンドンの夕暮れ時から始まり、煌やかなバーのネオンライト、街角の暗がり、ロンドン郊外の目に染みるような佐緑色…と、その圧倒的な映像美の中、アンドリュー・スコットをはじめとして、ポール・メスカル、クレア・フォイら、英国の一流役者たちが細やかに紡ぐ登場人物各々の感情の綾。……そして観終わった後、私たちの心に波のように押し寄せて来るのは、生きることの哀しさ、切なさ。
ゲイであるがゆえ、家族にすら心を開かず、保守的な英国社会で何も望まず、何も期待せず、息を潜めて生きてきた主人公アダム(アンドリュー・スコット)。苦悩の末に彼自身が決めた「幸せに生きるため」の選択肢。本当に、あの方法しかなかったのだろうか。あまりにも美しく、残酷すぎるラスト。今でも思うと胸が締め付けられる😭
「偉人たち」はファンタジーという形式をとってはいるけれども、常に人間の感情に根付いている深い悲しみと愛を掘り下げた作品である。
…と、あの辛口で鳴らすロッテン・トマトにも絶讃された傑作です。