オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

鉄の女は行く~本格ミステリ『第一容疑者』のヘレン・ミレン

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(London from Pixabay)

今でこそ女性刑事を主役にしたドラマは当たり前のように製作されていますが、その中でも、1991年から2006年まで7年間をかけて製作された本格ミステリ第一容疑者~Prime Suspect』は、その草分けとも言えるでしょう。

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  ロンドン警視庁(スコットランドヤード)でもピカ一の推理力と判断力、行動力を誇るジェーン・テニスン警部(中盤のエピソードで警視に昇進。演=ヘレン・ミレン)。しかし彼女は女性であるがゆえに傍流の仕事しか与えられず不遇な毎日を送っていました。そんな彼女が、何度も申請を出した末、やっとのことで待望の殺人課に配属されるところからこのドラマは始まります。

 

  予想された通り、叩き上げの部下(注・テニスンよりかなり年上)からの猛烈な反発をはじめとして、セクハラ・パワハラの巣窟、マッチョだらけのスコットランドヤードで(撮影開始時期が今から30年も前なのでそのへんを考慮しなくてはいけないかもしれませんが😅)、真相究明の情熱と鋼鉄の意思で猪突猛進のテニスンは、オトコよりオトコマエ(笑)「Ma'am(マダム、奥様)」と呼ぶ若い部下にすかさず、ドスの効いた声で「テニスン警部、もしくはBoss(ボス)と呼びなさい❗」とにこりともせず断罪、しかも相手が根負けするまで繰り返す(笑)

 

 同様に紅一点の女性刑事が活躍する推理ドラマというと『コールドケース』のリリー・ラッシュを思い出しますが、彼女の場合は年も若いし、課のマスコット的存在😊テニスンとは真逆のイメージですね。どちらかというと日本版『コールドケース~真実の扉』の石川百合(吉田羊)のほうがテニスン寄りかも。

 

  1年に1作程度のペースで丁寧に作られており、エピソードひとつが1時間40分程度(エピソードによっては前後編に分かれています)、映画並の骨太感。スコットランドヤード内の派閥争いや、ひとつの事件を巡っての部署同士の対立、事件現場におけるイニシアティブの取り合いなど、たまにこれってロンドン警視庁のドキュメンタリー❗❓って思うくらいリアル😅特に、人質立て籠り事件におけるテニスンの、犯人との駆け引きや機動隊責任者との犯人狙撃にまつわる丁々発止のやり取りは行き詰まるものがあります。

 

  また、英国における人種やLGBT差別、シングルマザーの過酷な子育て、紛争地域からの移民問題など、当時の社会問題を真っ向から取り上げています。たとえ容疑者であっても人権が徹底的に守られており、警察の取り調べでは必ず弁護人が同席しますし、警察側が不適切な言葉遣いや態度を示した時などは反対に告訴される怖れもあるので、そこをかいくぐりながら(時には血気にはやる部下をシメながら=笑)自白に持っていくテニスンの苦労は並大抵ではありません😅

 

  彼女の「正義」はあくまでも罪を犯した者に法の前で裁きを受けさせること。そこにいささかのブレはない。イギリスでは、すでに13世紀において、法学者ブラクトンが「国王も官吏も神の法、自然の法、この国の慣習法に従って統治すべきである」という「法の支配」の考え方を述べていて、それはやがてこの国の実定法であるコモン・ローにつながるわけですね。テニスンは世界に冠たる法治国家イギリスの名において真犯人を突き止める為、警察の中枢部にさえ真っ向から立ち向かっていきます。

 

  ゲストも、若き日のレイフ・ファインズマーク・ストロング(『キングスメン』『裏切りのサーカス』)、デヴィッド・シューリス(ハリポタシリーズのルーピン役)、コリン・サーモン(ピアース・ブロスナンの007シリーズ)、ブレンダン・コイル(『ダウントン・アビー』)など豪華な顔ぶれが次々登場😊

 

  あのメリル・ストリープテニスン役に惚れ込んで映画化を熱望してる…ってウワサが出たこともありました。でもヲタク的には、いくらメリル・ストリープが最高の名女優であっても、これはやはり大英帝国勲章🎖️も受勲したデイム、ヘレン・ミレンのもの。彼女の一生一代のハマリ役は必見ですし、作品としても、エミー賞英国アカデミー賞受賞の、ミステリーあるいは警察ドラマの古典的名作です😊