オタクの迷宮

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モノクロ映画を語ろう②~溝口健二の墨絵の世界

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 モノクロ映画を語る、今日はその2回目。溝口健二監督の作品にスポットを当ててみたいと思います。

 

 黒澤明小津安二郎監督と並んで国際的評価が高く(ヴェネチア国際映画賞で3年連続受賞は日本人で初)、ジャン・リュック・ゴダールなど、世界の映画人に影響を与えた監督ですが、残念ながら日本ではそれほど正当な評価を与えられていないかな…と思います。

 

  ヲタクが溝口監督の作品に最初にハマったのは『雨月物語』。江戸時代に上田秋成が書いた怪異譚(今だと、ホラー・ファンタジーと言えばいいのかな)を原作としていて、原作は9つのエピソードから成っているのですが、その中で溝口監督が選んだのは「浅芽が宿」と「蛇性の淫」。

  戦乱の世、百姓仕事の傍ら、細々と器を焼いては売り捌く貧しい暮らしに嫌気がさし、都で一旗挙げようと、妻(田中絹代)と幼い子を残して旅立った男(森雅之)。市場で商いをするうち、望まれて荒れ果てた屋敷に器を届けに行った男は、貴族らしき妙齢の美女(京マチ子)と恋に落ちる。しかしその正体は…❗❓

 

  溝口の映像世界って、よく「墨絵の世界」って評されますけど、まさに幽玄な日本古来の美の世界。芒の先に見え隠れする荒れ果てた屋敷、薄暗い行灯のひかりに浮かび上がる怪異、沼から立ち上る白い霧…全編まるで水墨画を見ているような気持ちになります。溝口監督の映画を観る度に、(ああ、日本人でよかった~)って思うんです。

 

…しかし、その映像の美しさとは裏腹に、人間(特に女性)を見つめる溝口監督のカメラ越しの眼差しの、なんと冷徹なことよ。監督って、じつはフランス人で実存主義者なの?って思うほど(笑)彼の映画の中で過酷な運命に翻弄される女性たち。しかし彼女たちはその運命に必死で抗い、自我に目覚め、ますます耀いていくのです。


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近松物語』はその名の通り、近松門左衛門人形浄瑠璃『おさん茂兵衛』が元になっています。大店のおかみ、おさんが手代の茂兵衛と不義密通、それが露見して町中引き回しのうえ磔刑に処せられる話なんですが、潔白の身を誤解され、あらぬ噂を立てられ、悲惨な運命に追い込まれていく二人。悲劇を彩るモノクロ映像は、まさに"陰翳礼讃"(谷崎 潤一郎 著)が描いた日本的な美❗

 

もし日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光りと蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。

 

近松物語』では障子と、それに写る黒い人影の場面が多用されていて、モノクロ効果が最高に生かされていると思います。

 

 誤解からのっぴきならない関係になっていくおさん茂兵衛。またね、溝口監督に抜擢された香川京子の演技開眼ぶりが凄い❗何不自由ない大店のおかみが運命に翻弄されながら次第にこの世の真実に目覚めていき、遂には愛の殉教者に。ラスト、彼女の崇高な表情が忘れられません。


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  先ほど溝口健二の冷徹かつ実存主義的傾向について述べましたが、これが『山椒大夫』ともなると、もはや鬼畜ぢゃないかっていう…。ジャン・リュック・ゴダールが影響受けたはずだよね(^_^;)この作品、ゴダールの『少女ムシェット』を観た時のやり切れなさとそっくりだもん(^_^;)

 

 ご存知、『安寿と厨子王』のお話しが元になっているので、人身売買やら小児虐待やらの陰惨な内容。(…とかく伝承的な童話や民話って、これホントに子供に話していいの❓っていう残酷な内容が多いんですよね、じつは)まあ冒頭に「これは人間が人間ではなかった頃のはなしである」ってテロップが流れますが。海外ではこの映画、ホラーのジャンルに入ってる場合もあるみたい。確かに安寿と厨子王、そのお母さんと乳母以外はみんな鬼畜で、その点から言えば、「人外さんホラー」かもしれません(笑)

 

  (おまけ)

NHK朝ドラ、『おちょやん』もいよいよ佳境に入ってきましたが、モデルになった浪花千栄子さん、溝口健二監督の信頼も厚く、今日ご紹介した映画の中でも、『近松物語』ではヒロインおさんの母親、『山椒大夫』では安寿と厨子王の乳母・姥竹役を演じ、名脇役ぶりを見せています。