オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

世界の現代史を学べと言うのなら…Netflix『ザ・クラウン』シーズン3&4

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(エリザベス女王お気に入りの夏の離宮バルモラル城(スコットランド)…Pixabay)

  開催までに本当にいろいろなことがあった東京オリンピック。様々な理由で辞任騒ぎも続きました。それに関する意見の中に、「日本では世界の現代史の授業がなおざりにされている。常識の1つとして、学校でもっと現代史を学ばなくては…」というのがありました。何も無味乾燥な学校の授業(暴言、お許し下さい😅)で学ばなくても、(その気にさえなれば)ドラマや映画の中に、溢れるほど勉強材料はあるのに…。残念です。

 

  それはさておき、歴史というものは単なる出来事の羅列ではなく、それぞれの出来事が生じる裏には必ず、社会の流れや政治的駆け引きその他に加えて、人間同士の愛憎や嫉妬や喜怒哀楽が複雑に絡み合っている。

 

  Netflixのドラマ、『ザ・クラウン』がこれほどまでに私たちの心を捉えて離さないのは、1つ1つの歴史的出来事に潜む骨太な人間ドラマが、余すところなく描かれているからではないでしょうか❓

 

1つ例にとれば、「スエズ危機」。当時多国籍企業だったスエズ運河を当時(1956)エジプトの大統領だったナセルが突如エジプトの国有化を宣言、イスラエルがエジプトに侵攻して第二次中東戦争が勃発します。(ナセル大統領は社会主義諸国寄りだった)一方、イスラエルの裏で糸を引いていたのがフランスとイギリスですが、当時のイギリスの首相だったアンソニー・イーデンが、国連の賛同も得られないままにエジプト侵攻を強行するんですね。彼はずっとチャーチルの陰で目立たず、老いたチャーチルが政権を手放したことでやっと首相に就任して表舞台に出ましたが、ことあるごとに、「ヒットラーから世界を救った男」チャーチルと比較され、次第に鬱屈が溜まっていきます。そんな時ちょうどスエズ危機が勃発し、イーデンは政治的判断というよりもむしろ、「危険な社会主義者(ナセル大統領)から世界を救うのが私の任務だ❗」と言わんばかりに、チャーチルに対する屈折したコンプレックスが暴発したのでは?という描き方がなされていて印象的でした。(結果的に第二次中東戦争はイギリスの大敗に終わり、その後の長い経済低迷のきっかけとなった為、イーデンは首相を辞任)

 

  アメリカの既婚女性ウォリス・シンプソンと恋に落ち、わずか1年も満たないうちに王位を放棄したエドワード8世(のちのウィンザー公)は、戦争中ヒットラーと交流し、ナチスドイツのプロパガンダに利用されました。(英国政府の警告も無視して夫妻は度々ドイツを訪問。その折にウィンザー公はナチス式の敬礼をして、世界中の顰蹙をかいました)その為、エリザベス王太后(エリザベス2世の母。チャーチルと共にナチスドイツに徹底抗戦したジョージ6世の妻)は、この二人を憎み、生涯二人を認めなかった…とも言われています。この、短い歴史の場面を見ただけでも、ナチスドイツがいかにヨーロッパの歴史に暗い影を落としたか、そしてそれは今でも連綿と続いていることが見てとれます。

 

  第3シリーズになって、エリザベス女王はオリビア・コールマンに、マーガレット王女はヘレナ・ボナム・カーターに代わりました。第1&2シリーズのクレア・フォイ(エリザベス女王)とヴァネッサ・カービー(マーガレット王女)も当代きっての若手演技派、素晴らしかったですが、アカデミー賞女優同士、二人の御大の火花散る演技合戦の前には…(笑)比較する方がそもそも間違ってますね、ゴメンなさい😅

 

特に、マーガレット王女役ヘレナ・ボナム・カーターの、溢れるほどの才気と美貌に恵まれながら、次女として生まれたが故に、重要な公務にその情熱を注ぐ機会を与えられず、次第に心を病んでいく演技は圧巻の一言でしょう。さらには宗教上の制約から初恋の人と引き裂かれ、その後は真実の愛を求めても得られず、「王室の娼婦」とゴシップ紙に叩かれながら、アルコールと刹那的なラブアフェアに惑溺する王女の姿に胸が痛みます。

 

  一方、幼少時から父王から帝王学を叩き込まれ、感情を抑圧する訓練をしてきた為、歌を忘れたカナリヤよろしく、「泣くことを忘れてしまった」エリザベス女王。オリビア・コールマンの、静かな、抑制の効いた演技がまた、素晴らしい😊また、第4シリーズから登場、鉄の女マーガレット・サッチャーを演じるジリアン・アンダーソン❗(「Xファイル」「ねじれた家」)ビジュアルから声音から表情から完コピして、「女は感情的なので政治家には向きません」と言い放つ(じゃあ、あなたは誰?って感じですけどね  笑)、鬼気迫る「怪演」でございます。

 

  たとえ王族に生まれても、逃れられない人間同士のしがらみ、愛憎と喜怒哀楽。壮大な歴史もまた、その担い手は私たち一人一人の人間なのだ…ということをこのドラマは教えてくれます。


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