オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

BL版愛の寓話『ゴッズ・オウン・カントリー』R+15


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英国ナショナルシアターの『ロミオとジュリエット』を見て、ロミオ役のジョシュ・オコナーの沼に落ちかけ、この『ゴッズ・オウン・カントリー』で完ぺきに落ちたヲタク。どぼーーん🌊はー、ジャクロ沼、マイク沼、トム沼、オースティン沼に、さらにジョシュ沼が加わって、毎日沼巡りに忙しいわ。(エレカシの宮本さんは殿堂入りなので例外  笑)

……でも、世界はイケメンに満ちてるわね♥️長生きしなくっちゃ(笑)

 

  英国はヨークシャー地方。牛や羊の飼育を細々行っている寂れた農場。病に倒れて半身不随となり、仕事ができなくなった父と、老いた祖母と三人暮らしのジョン(ジョシュ・オコナー)は仕事にも身が入らず、酒浸りの日々。ジョシュ・オコナー、初登場が二日酔いの血走った涙目でゲーゲー吐いてるシーンで、イケメン台無し(笑)彼はゲイですが、心情的な交流は(たとえ相手がそれを望んでいたとしても)あくまでも拒否し、行きずりの暴力的な性行為を繰り返すだけ。そんな彼の、荒んだ生活に一筋のひかりが差したのは、手伝いとして牧場の住み込むようになったルーマニア移民のゲオルゲ(アレック・セカレアヌ)でした。父親は自分を信用されていないから手伝いを頼んだのだ……と面白くないジョンは、ゲオルゲを※「ジプシー」と度々呼んで嫌がらせをする等、子どもっぽい反抗をしますが、畜産の技術もあり、器用で、しかも知的なゲオルゲに次第に強く惹かれていきます。  このゲオルゲ、どうもルーマニアでは知的な家庭に育ったらしく、ヨークシャー訛り丸出しのジョンに比べて、よっぽど綺麗なキングス・イングリッシュなんですよね😅

ジプシーは差別用語。今はロマと呼ばれることが多いようです。

 

  セリフが極端に少ないから、反目から恋愛感情に至る変化を目線や表情で表現しなくてはいけない。ジョシュ・オコナーはその繊細な演技を特徴とする俳優さんですが、このジョンという役にはドンピシャでしたね。目は口ほどに物を言い……ってヤツです。それを受け止めるセカレアヌの端正な演技も素晴らしくて……ヲタク、二人にホレボレ♥️『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ × アーミー・ハマー、『ブローバック・マウンテン』のヒース・レジャー × ジェイク・ギレンホールに勝るとも劣らない名コンビネーションだとヲタク思いましたよ😊


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(From Pixabay)

ヨークシャー地方特有の石垣。映画の中でも、二人で協力して壊れた石垣を修理しながら、心通わせていくシーンが印象的。

  この作品のもう一人の主役はもちろん、ヨークシャーの大自然。ご存知の通り英国はあくまでも「連合王国」。イングランドだけでなく、ケルト系のアイルランドスコットランドウェールズなど、民族や文化、生活様式の異なる寄合所帯。ヨークシャー地方はイングランドに所属はしていても、スコットランド等と同様に、異質な存在と言えるでしょう。

 

  題名のゴッズ・オウン・カントリーとは、ヨークシャーの田園地帯が、「神の恵みの地方(God's Own County)」と称されていることから。ヨークシャーといえば、ヲタク的には何と言ってもブロンテ姉妹❗英国の中でも、いつかは訪れてみたい憧れの地の1つ。びょうびょうと荒野を渡る風、ゴツゴツしたライムストーン群、低く垂れ籠めた雲から突然振り出す激しい雨。厳しい自然の中、粛々と生活する人々……。


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(ヨークシャー州マラム……Pixabay)

BLと牧場と大自然……といえば、『ブローバック・マウンテン』 を連想する向きも多いかと思いますが、ヲタク は、フランシス・リー監督の、故郷であるヨークシャー地方への熱い、熱い愛ゆえに、あえて言いたい。この作品は、いわばヨークシャー版『ダフニスとクロエ』(ギリシャのレスボス島。羊飼いダフニスとクロエの牧歌的恋愛)、あるいは『潮騒』(三島由紀夫……海の神の恩籠の下、愛を成就する若い船乗りと海女)ではないかと。高台からヨークシャーの荒れ地を眺めているゲオルゲに後から追い付いたジョンが、生まれた時から見慣れた光景の筈なのに、改めてその自然の美しさに打たれ、感動してゲオルゲと静かに微笑むシーンが、ヲタクは大好きです😊

 

  リアルな問題としては、古い因習の残る地方で、地元の若者と移民の若者(しかも男性同士❗😅)が愛を成就させることは甚だ困難でしょう。……でもね、ここは「ゴッズ・オウン・カントリー」、ヨークシャー地方。神の恵みあらたかな地なのです。だから、ジョンがLGBTであること、そして彼とゲオルゲのただならぬ関係にも薄々気づいているジョンのおばあちゃんは、批判がましいことは一切言わず、ありのままを受け入れる。

 

  リー監督は、自らが愛してやまないヨークシャーを舞台に、社会の分断や、差別や、性差、全ての軛(くびき)から解放された、理想の「愛の寓話」を描いたのだと思います。

 

  ですから私たちは、何も考えずに身を委ねましょう。神々の恵み深きアルカディア(理想郷)、ヨークシャーで繰り広げられる、牧歌的な愛の営みに。

この映画は、Netflixで配信中です。