オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

ウェールズ魂、サクレツ❗〜『ドリーム・ホース』

 
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ウェールズの寒村で、昼はスーパー、夜はパブで働くジャン(トニ・コレット)。子供たちも成長して独立し、小さな農園を営む年老いた夫ブライアン(オーウェンティール…ウェールズ出身の名脇役。『ゲースロ』のアリザー・ソーン卿)と二人暮らし。そんな暮らしの中、かつて馬主だった経験のある税理士のハワード(ダミアン・ルイス)がパブを訪れます。彼のレースの体験談をそれとなく聞くうち、彼女の中には、競争馬を育ててみたいという情熱が日増しに高まっていきました。少女時代、父親と共に鳩や犬を育て、レースで優勝した時のワクワク感が戻ってきたようでした。…とはいえ、ジャンには母親となる牝馬を買う貯金しかありません。仔馬を育てて、調教師をつける資金はどうしたらよいのか…。考えあぐねた末、彼女は村人たちに声をかけ、組合を作って競走馬を育てることを思いつきます。「ドリーム・アライアンス〜夢の同盟」と名付けられた仔馬は、幸運にも高名な調教師の目にとまり、訓練の末、地方レースに出場できることになりますが…。

 

 なんと驚くべきことにこれが実話だとは…特にね、ヲタクみたいな年寄りに夢を与えてくれる映画ですよ❗

 

 シニアになっても「夢、諦めることなかれ」っていう1つの教訓ととらえてもいいし、夫婦や親子、そして動物と人との愛の在り方を描いていると考えてもいい。またねぇ、ドリームが可愛くて。映画の中で、産まれた時から見てるから、じぶんも村人の一人みたいな気がしてくる(笑)

 

…でも、もう1つ、忘れてはならないのが、彼らの「夢の馬」ドリーム・アライアンスが、ウェールズ山間地方の小さな農園で育った…という事実を忘れてはならないでしょう。映画の背景には、英国とウェールズの、複雑な歴史が横たわっていることを忘れてはならないと思います。

 

 現在のウェールズの地に、ケルト人が入植したのは遥か昔、紀元前のこと。その後ローマ帝国アングロ・サクソン、バイキングの支配を受けた後に、イングランドでは1066年にいわゆるノルマン王朝が成立し、ウィリアム1世はウェールズに侵攻します。南部ウェールズは王の軍門に下りましたが、「谷」と呼ばれる北部山岳地方(つまり、この映画の舞台となるムラがある地方です)は激しい抵抗を続けて自治独立を守り抜き、ついに1258年、ルウェリン・アプ・グリフィズ(Llywelyn ap Iorwerth、1194 -1240)がウェールズ大公(プリンス・オブ・ウェールズ)を名乗り、ウェールズ公国が成立しました。現在では英国の皇太子の別称である「プリンス・オブ・ウェールズ」、初代はこのルウェリンなわけ。しかしイングランドからの度重なる侵攻により、その30年後ウェールズ大公家は滅亡、完全にイングランド支配下となります。

 

 このような歴史を持つウェールズ、今でもウェールズの人々はウェールズは独立国であるという意識が強く、映画の中でも、ウェールズ地方競馬では「God Save the Queen」ではなく、「ヘン・ウラッド・ヴー・ナーダイ(ウェールズ語で「我が父祖の地」の意味)」

御国よ、御国よ、我は国に忠実なり

海に守られしこの清く愛すべき地で

いにしえの言葉が永らえんことを。

と一斉に合唱するシーンが出てきます。(ウェールズ出身、今大注目のメゾソプラノ、キャサリンジェンキンスが歌唱❗)

この映画は、愛国心溢れる村人たちの、歴史に対するリベンジストーリーとも言えるのではないでしょうか。

 

 ウェールズの、かつてはノルマン人の猛攻にさえ屈しなかった誇り高き「谷の民」の子孫が、今ではさしたる産業もなく、年老いて、日々の暮らしに埋没している。ドリーム・アライアンスは、ジャンをはじめとして、組合の人々、いや「谷の村人たち」全員に、大きな、大きな夢をくれた。ドリームがレースで転倒、脚に重傷を負い、安楽死を迫られた時、「ドリームは私たちに夢を、未来をくれるばかりだった。今度は私達が彼に、夢と未来をあげる番よ❗」と叫ぶジャン。…なんだか、涙止まりませんでした。ヲタクも子育てや孫育卒業して、自分自身の生き甲斐を見つけなきゃいけないお年頃になっちゃったから、ジャンに感情移入しまくり(笑)ジャン役のトニ・コレット、最近は『ヘレディタリー /継承』とか『彼女のかけら』『ナイトメアアリー』など、アブノーマルな役ばかり。今回はフツーのオバサン役でほっとした(笑)

 

様々な視点から見ることができ、あらゆる世代が楽しめる感動作です。レースの場面は全てホンモノの凄い臨場感。ぜひ、映画館で❗

 

★今日の小ネタ

 ラスト、ウェールズ出身でアメリカで成功した歌手トム・ジョーンズの『デライラ』を、トニ・コレットはじめ俳優さんたちとモデルになったご本人たちが一緒に歌い上げるシーンは胸アツ❗見てるこっちまで元気をもらいます。

 

  また、組合の一人で独り暮らしのおばあちゃんモーリーン(シアン・フィリップス)の憧れの人がBBCの有名なスポーツキャスター、クレア・ボールディングで、ラストにご本人登場❗クレアと言えば、東京オリンピックの時、男子水泳リレー(金メダル)で3番目に泳いだ選手に「※your third leg was phenomenalあなたの第三泳、スゴかったわ」

と言ってしまい、「さすがクレア、下ネタも神❗」って騒がれた人(^_^;)

男性の第三の足…って想像つきますよね(笑)

…って、いろいろ小ネタも楽しい映画でしたwww