オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

サスペンスフルな問題作〜Netflix『聖なる証』

 
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時は1862年クリミア戦争に看護師として従軍した経験のあるリブ・ライト(フローレンス・ピュー)は、ある奇妙な依頼を受け、アイルランドの片田舎にある寂れた村にやって来ます。そこには4ヶ月水だけしか飲まずに生き永らえているという「奇跡の少女」マナが住んでおり、村人たちの信仰の対象となりつつありました。リブの雇用主である村の名士たち……医師やカトリックの主任司祭、村長らはリブに、「決して無理に食べさせようとはせず、彼女の意志を尊重し、本当に食を摂っていないかどうか、ただ観察を続けるように」と命じます。毎日診察を続けるうち、アナの身体が目に見えて衰弱していっているのは明らかでした。近代医学の知識を身につけたリブにとって、アナの命を救うことが第一の優先事項。彼女は何とか食事を摂らせようとあらゆる手段を駆使しますが、アナはまるで「生きること」を拒否するかのように口を開かず、一日中、その衰弱しきった体で聖書の祈りの言葉を呟くばかり。そんなある日のこと、リブの熱意と誠実さがアナの頑なな心を溶かし、彼女はリブに食を拒否するに至ったおぞましい真実を明かします。リブはアナの精神と命を救うため、思い切った手段をとりますが、両親の頑迷な盲信や、村の権力者たちの政治的な目論みがそれを阻み……❗

 

 アナが抱えている恐るべき秘密が明かされるまでが前半のクライマックス。フロイトの理論が悪魔的だと糾弾されていた時代に、看護師としての使命感と生きとし生ける者への愛を頼りに、少女が心の奥底に抱えるトラウマをリブが探っていくプロセスはスリリングです。この作品のフローレンス・ピューがとてもいい❗自分自身も幼い我が子を亡くすという悲しい過去を抱えつつ、生命と人格崩壊の危機に立たされた少女を救おうと孤軍奮闘する健気な女性を緩急自在に演じます。『レディ・マクベス』や『ミッドサマー』、『ドントウォーリー・ダーリン』など、強烈なメンヘラ演技が話題に上りがちな彼女ですが、今回のような抑制の利いた演技も素晴らしいです。一方で、奇跡の少女役を演じるキラ・ロード・カシディ(13歳)がなかなかのもので、この二人の心理戦も見事。ウィリアム・ギブソンの戯曲『奇跡の人』をちょっと思い出しましたね。この二人でサリバン先生とヘレン・ケラー、見てみたいよね。

 

 アナの秘密が明らかにされてから物語は急展開、リブの「アナ救出作戦」が、ロンドンから取材にやって来た新聞記者ウィリアム(トム・バーク…『マンク/Mank』でオーソン・ウェルズを演じていた人ですね。さすが似てる 笑)を巻き込み、サスペンスタッチに展開していきます。

 

果たしてリブは、一人の少女が直面した精神と生命の危機を救うことができるのか!?

 

 前半のストーリー展開と、観ている側の不安を掻き立てるような音楽(マシュー・ハーバート)で、もっと陰惨な話かと思いきや、鑑賞後の印象は以外に爽やかです。ラストが希望を示唆するものであったことと、少女を救おうと手を尽くすことによって自らも救われていく…という、ヒロイン自身の再生の物語になっていたからだと思います。一方で、いわゆる「児童虐待」、大人たちの主義主張や都合で追い詰められていく子供たちの姿は、現代にも十分通用するテーマを孕んだ問題作と言えるでしょう。