オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

酒池肉林・狂喜乱舞……そして誰もいなくなった〜映画『バビロン』

 
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 始まりは1926年、サイレント映画からトーキーへの過渡期。時代の流れに乗り切れず没落していく大スター、ジャック・コンラッドブラッド・ピット)、チョイ役からチャンスを掴んで頂点まで上り詰めていく野心家の女優ネリー(マーゴット・ロビー)、ハリウッドで一旗上げたいとニューヨークから出てきたメキシコ人青年マニー(ディエゴ・カルバ)、三者三様の人生絵巻。デイミアン・チャゼル監督の、愛すべき「映画バカ」たちに捧げる愛に溢れた眼差しが熱いです、ヤバいです(笑)

 

 映画の冒頭から、映画会社「キノスコープ社」の重役ウォラックの大邸宅で開催される、性とアルコールとドラッグと暴力とスカトロ(…この意味は実際に映画を見て確かめて 笑)、果ては本物の象まで闖入する、皇帝ネロかヘリオガバルスの宴もかくや……と思わせる狂乱のパーティーシーンにド肝を抜かれます。劇中で、あのクールビューティ、グレタ・ガルボも出席の予定…なんて誰か言ってたけど…。しっかし100年前のハリウッドってこんなんだったん?(^_^;)モーツァルトがスカトロマニアだったって知った時と同じくらいショックなんですけどー。

 

 ハリウッドのサイレント大作といえばヲタク、※D.W.グリフィスの『イントレランス』が真っ先に思い浮かぶんですが、『バビロン』の宴のシーン、スクリーンに詰め込めるだけ人間を詰め込む人海戦術は、ハリウッドが熱気に溢れていたサイレント時代へのチャゼル監督なりのオマージュ……と考えられなくもない(笑)

古代バビロンの崩壊を描くバビロン篇、キリストの運命を描くユダヤ篇、聖バーソロミューの虐殺を描く中世篇、ストライキで職を失った青年と女性の純愛を描く現代篇の4つの物語が同時進行する超大作。


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サイレント映画最盛期に製作されたイントレランス』(1916年)の1シーン。当時のお金で制作費が200万ドルかかったっていうんですから…。開いた口が塞がりません(笑)

 

 ジャックが主役を務める中世のアクション大作の合戦シーン。かき集められたエキストラたちは全員失業者か日雇い労働者、ホームレス。もちろん剣術の心得もないまま駆り出されるので、ケガ人は当たり前、時には死人まで出る始末。これって、これって、映画創生期の真実だよね、フィクションじゃないよね、きっと(ぶるぶる)🙀……でも、山々の向こうに沈む夕陽をバックにしたラストシーンの撮影で素晴らしいカットが撮れて、主役も監督も裏方もエキストラもケガ人も(^_^;)、全員が歓声を上げて抱き合い、勝利の雄叫びを上げるシーンもまた……真実に違いない。

 

 映画俳優として一度は頂点を極めたジャックもネリーも、トーキーの波に乗ることができずに、次第に凋落していきます。スクリーンではリアルで自然な演技を求められ、音声付きインタビューも行われるようになり、プライベートでも俳優の人柄や知性、教養が求められるようになるのです。さらに追い打ちをかけるように1934年以降、ハリウッド映画界の倫理道徳自主規制とも言われる「ヘイズ・コード」が導入され、いわゆる「お行儀の悪い」俳優たちは自然に淘汰されていった…という裏事情もあったようです。ちょっと興味深かったのは、ネリー(マーゴット・ロビー)の声が「ヒキガエル」みたいでトーキーには合わないと製作者側の不興を買ってしまったこと。現代の感覚ではマーゴットのハスキーな声は個性的でしごく魅力的ですが、100年前のハリウッドでは、清純で女性らしい、ハイトーンの美声が求められていた……ということでしょうか?

 

 時は移り、時代はサイレントからトーキー、さらにはテクニカラーへ。ラスト、極彩色の場面で雨の中歌い踊るジーン・ケリー(『雨に唄えば』)を見つめて滂沱の涙を流すマニーが切ない(ToT)戦い済んで日が暮れて、ツワモノどもが夢の跡。

 

 銀幕に現れては消えゆく星々(スタァ)たちの、熱き刹那の煌やかな一瞬一瞬をとくとご覧あれ。彼らの肉体は滅びて塵となっても、その最も美しかった瞬間は永遠に刻みつけられ、暗闇で目を凝らす私たちの心を掻き乱し、眩惑し続ける。

映画万歳❗

映画よ、永遠なれ❗

 

 マーゴット・ロビーが踊るわ泣くわ叫ぶわゲロ吐くわ^^;捨て身の大熱演。なんてったって彼女が洗いざらいぜーんぶ持っていった(笑)そしてそして、プロデューサーとしても名を連ねているトビー・マグワイアの不気味な怪演は一見の価値アリ❗

 

★今日の小ネタ

 

 公開前にヲタクが読んだVOGUEの記事によれば、マーゴットが演じたネリー・ルロイのモデルは、当時人気絶頂のクララ・ボウ。彼女の初主演映画『イット It』のイットとは、「異性を惹き付ける性的魅力を持った人」という意味の隠語のようで、その後彼女は「イットガール」のニックネームで呼ばれるようるになったとか。

 

 一方ブラピ演じるコンラッドのモデルは、映画界最初のピンナップボーイ、※ジョン・ギルバートだそう。若い方は、はてピンナップボーイって何ぞや❓って感じでしょうけど、ピンナップ(壁に貼る写真)にしていつでも眺めていたいほどのイケメンだけど、裏を返せばただそれだけ‥‥っていう。まあ、イットガールにピンナップボーイって感じなんでしょうね。二人とも、「顔だけで中身がない」と言われる美男美女スタァの哀愁を巧妙に表現していましたよね。

ジョン・ギルバートをネットで調べたら、当時のイケメン俳優として超人気があった(グレタ・ガルボの相手役として名を馳せた)のですが、サイレントからトーキーに移行する際、顔に似合わぬカン高い声が観客の不興を買って人気ガタ落ち、アルコールに溺れて不遇のうちに38才の若さで亡くなったようです。