動画配信サイトで、間もなく配信停止になる悲運の映画をご紹介するシリーズ第2弾❗前回は文豪トルストイ原作の文芸ロマン大作『アンナ・カレーニナ』でしたが、今回は似ても似つかぬ(失礼(^.^;)怪作『アンダー・ザ・シルバーレイク』❗
主演はアンドリュー・ガーフィールド。本来3部作だった『アメイジング・スパイダーマン』を途中でクビになり(^_^;)、『ソーシャル・ネットワーク』ではザッカーバーグにさんざんつくした末にポイ捨てされる親友、『沈黙〜サイレンス』では拷問の末ボロボロになる宣教師、『ハクソー・リッジ』では丸腰で沖縄戦に赴く平和主義者の衛生兵……と、「キミ、じつはドМなん❗❓」って突っ込みたくなるくらい、悲惨で可哀想な役のオンパレード(笑)
※ロスの闇に飲み込まれていくオタク青年サム役のアンドリュー・ガーフィールド。マッパになったりゲ◯吐いたりオ◯ニーシーンがあったり……ある意味カルト的熱演(笑)
今回の役も、大望を抱いて夢の都ハリウッドに出てきたもののことごとくうまくいかず、双眼鏡で近所の水着姿のお姉さんたちを覗き見してはやに下がり、家賃の長期滞納で強制退去も間近のプータロー、サム。映画の制作時点ではかなりのキャリアを重ねていたアンドリュー、よく受けたよねぇ……っていうくらいイイトコなしのキャラなんですが(^_^;)、なんというか、アンドリューの、いかにも情けないナヨ系演技に次第に惹き込まれ、しまいには(ガンバレ、サム❗)って応援している自分に気づいてビックリです(笑)
題名のシルバーレイクとは、ハリウッドの東側に面していて、名前の通りシルバーレイクという人口池周辺の地区を指すようです。その昔は、初代のディズニースタジオやABCスタジオなど数多くの映画スタジオが建っていた「映画の街」。映画評論家の町山智浩さんによれば、
芸術家を目指している人とか、ファッションデザイナーになりたい人とか、映画監督になりたい人、俳優になりたい人、ロックスターになりたい人っていうのが貧乏で暮らしているところがシルバーレイクだったんです。で、たとえば有名な人だとコーエン兄弟っていう監督がいますけども、彼らも貧乏な頃はまずそこから生活を始めているんですね。
……だそう。
映画の主人公サムも、そんな人々のうちの1人。夢破れて鬱々とした生活を送るサムは、覗きをしていた相手の女性に、反対に声をかけられ有頂天。まんまとデートの約束を取り付けます。しかし翌日、サムが彼女のアパートを訪れると、部屋はもぬけの殻。壁にはナゾめいた暗号「ホーボーのサイン」が……。彼女の失踪の謎を探るため、彼は助言を求めて、シルバーレイクに誰よりも詳しいとされる同人誌作家を訪ねます。作家はサムに、「シルバーレイクの下では、世にも恐ろしい犯罪が行われている。人々は自由意志で動いているように見えて、実は他人から繰られているんだ。犬殺しに気をつけろ。」と忠告します。時を同じくして、シルバーレイク一の有力者が3人の娼婦と共に不審な死を遂げる事件が…。それからというもの、サムは誰かに尾行されているように感じ、犬の惨殺死体を投げつけられたり、不審な出来事が彼の身の回りに次々と起こり始めます。サムはシルバーレイクに潜む悪の正体を探り始めますが、果たして彼が辿り着いた驚愕の真実とは……❗❓
シルバーレイクから見上げる、セレブリティが住むハリウッドヒルズ。そこにサムが辿り着いた時に繰り広げられる血塗られた惨劇は、ハリウッドのスプラッターホラーもまっつぁお(^_^;)……それに、シルバーレイクからハリウッドヒルズに至る地下通路が存在するというウワサ(地下通路ばかりか、第二次世界大戦中にアメリカの大富豪たちが防空壕を掘って、金銀財宝を隠したという都市伝説まであるらしい)や、『蜘蛛女のキス』ならぬ不気味なダークヒロイン『フクロウ女』のキス、怪しげなカルト集団「イエスとドラキュラの花嫁たち」も絡んで、オタクのサムくん、陰謀論や都市伝説をめぐるパラノイアは悪化の一途、真っ逆さまに魑魅魍魎の地獄行き(^_^;)
アメリカンドリームを信じて、「自分こそ選ばれた人間」と自負しながら、ロサンゼルス(天使の街とはまた何という皮肉)で身を持ち崩していく人々の悲劇は、映画『L.Aコンフィデンシャル』(1997)や『ブラック・ダリア』(2006)で描かれていますが、Netflixのマリリン・モンローの伝記映画『ブロンド』や最近公開された映画『バビロン』などを見ると、成功してセレブリティになっても、よほど自分というものをしっかり持っていない限り様々な不幸は付きまとう。ロスという街の持つ強大な闇の力は、あらゆる人々を飲み込んでいくのです。ラスト、サムの空虚な瞳に映っていたのは、一体何の残像だったのか……。
※27才の若さでピストル自殺を遂げたニルヴァーナのフロントマン、カート・コバーン。
かつての映画の街シルバーレイクが舞台だけあって、映画のパロディ&オマージュ満載なのが映画ファンにとっては嬉しいところ。なにせしょっぱなからのサムの覗き屋ぶりはまんまヒッチコックの『裏窓』だし、こちらの不安と恐怖を掻き立てるようなBGMは、同じくヒッチコックの『サイコ』っぽい。サムくんのママがジャネット・ゲイナーの大ファンで、彼女の主演作『第七天国』を観るよう、サムにやたらと勧めてきます。その中のヒロインのセリフ「私、今まで下ばかり向いて生きてきたから…。これからはもっと上を向いて生きていかなきゃ」は、『アンダー・ザ・シルバーレイク』のストーリーを考えると何とも皮肉。また、サムが一目惚れするサラ(ライリー・キーオ)がプールから上がってきて足をぴょこんとプールのフチに引っ掛けるシーンはマリリン・モンローの遺作『女房は生きていた』の有名なシーンのオマージュ。(おまけにサラは、ベティ(デイビス)、マリリン(モンロー)、ローレン(バコール)と名付けた3体のバービー人形を後生大事に持ってます)映画の時代設定は明らかになっていませんが、「ジョニー・カーソン(2005年没)もエリザベス・テイラー(2010年没)も死んでしまった」というセリフがあることから、大体その辺りかな……❓と想像がつきます。ニルヴァーナファンのヲタクとしては、作品中でカート・コバーンがヒーロー視されてるのがちょっと嬉しかったですね。彼の終末的な世界観が、この作品のテーマにぴったりだったんでしょうね。(そして冒頭、「犬殺しに気をつけろ」という悪戯書きを消しているカフェの店員が着ているTシャツがジム・モリソン(ドアーズ)だったりする(^.^;)
※『女房は生きていた』のマリリン・モンロー(下)と、ライリー・キーオ(上)。
今をときめくA24製作の作品で、監督は『イット・フォローズ』と『アンダー・ザ・シルバーレイク』の僅か2作でカルト作家の仲間入りを果たしたと言われるデヴィッド・ロバート・ミッチャム。