オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

世界は女で回ってる〜フランソワ・オゾン監督の『私がやりました』

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 KINOシネマ横浜みなとみらいで、フランソワ・オゾン監督の『私がやりました』鑑賞。黄金町ミニシアター「ジャック&ベティ」で『サタデー・フィクション』を見てすぐKINOシネマに移動して、今日は珍しく映画のハシゴ(^.^; それにしても電車で数駅しか移動しないのに、紙屑が散り、場末の匂いがする黄金町界隈と煌びやかなみなとみらいの違いはどうしたことでしょう。まるで黒澤明の※『天国と地獄』……。まっ、正直な話、華やかで、どこか人工的な雰囲気のみなとみらいより、黄金町辺りは個人的には好きなんだけど。

※作品中、誘拐犯人(山崎努)が住んでいたとされるのが、まさに黄金町辺り。今は「アートの街」と銘打ってすっかり生まれ変わった感のある黄金町ですが、映画の撮影当時は、青線の密集する「大岡川スラム」と呼ばれて、ヒロポンやヘロイン等麻薬密売の温床でもありました。

 

閑話休題

 

 『私がやりました』は独特の社会風刺や皮肉、ブラックユーモア満載で、ヲタクが密かに「映画史上稀に見るいぢわるジイさん」と呼んでいるうちの一人、フランソワ・オゾンの監督作品。ちなみにもう一人のいぢわるジイさんはアルフレッド・ヒッチコック監督。ヒッチコックはちょっとミソジニー入ってて、ストーリーテラーとしては抜群に面白いけど女性を見る目はかなり冷たくサディスティックなので、1女性としては1言言いたくなる(笑)その点オゾン監督は女性の描き方が温かい。もちろん、女性の狡さやしたたかさ、嫉妬、虚栄心…等々をリアルに描いてはいるけど、根底には優しさが仄見える。監督はゲイを公表しているから恋人はムリだけど、お友だちになりたいタイプ(笑)

 

 時は1930年代、無声映画からトーキーに移ろうとしている時代のフランス。新人女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)は、家賃滞納でその日のパンにも事欠くほどの貧乏暮し。ある日有名プロデューサーに呼び出された彼女はレイプされそうになり、激怒して彼を撥ねつけ逃げ帰ります。ところが翌日刑事がやって来て、プロデューサーは殺され、何とマドレーヌが第一容疑者に目されていることを告げます。身に覚えのない彼女は、ルームメイトで新米弁護士のポーリーヌ(レベッカ・マルデール)と共に懸命に無実を訴えますが、「貧乏で、売れるためには枕営業も辞さない(だろう)野心家の若い女優」という偏見に凝り固まり、自身の出世に汲々としている刑事や検察官、判事(注・全員中年男性)に無理やり罪をデッチ上げられてしまいます。ところがあにはからんや、法廷に立ったマドレーヌの弁論(ポーリーヌの考えたセリフを感情豊かに喋っただけなのですが 笑)は、社会や家庭で男女差別やモラハラに悩む女性たちの喝采を浴び、それが陪審員の心をも動かし、彼女の正当防衛が認められて、見事無罪を勝ち取ることに。「果敢なるヒロイン」として時の人となったマドレーヌには崇拝者が急増、次々と舞台や映画の仕事が舞い込み、瞬く間に彼女はスターダムに上り詰めます。豪奢なアパルトマンに引っ越して、夢に見た生活を始めた2人。ところがそんなある日彼女たちのもとに、サイレント時代の大スターでトーキーになった今はすっかり過去の人となったオデット(イザベル・ユペール)が突然現れ、驚愕の告白をし始めて……❗  


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※何と言ってもこの作品の1番の見どころは、『8人の女たち』以来21年ぶりのオゾン作品だというイザベル・ユペール(中央)の怪…いやもとい(笑)快演でしょう。彼女の振り切ったコメディエンヌぶりはサスガ。

 

 

 女性に参政権も認められていなかった時代、女優が男性の玩具的な存在だった時代、女性たちが知恵を絞ってブチかます、一発勝負の逆転劇をご覧あれ❗職場で、社会で、時には家庭で、男たちの有形無形のハラスメントに苦しめられているそこのアナタ❗この映画を見て、「女性の弱さ」を逆手に取った「オトコたちの転がしかた」を勉強しよう(笑)

 

★今日の小ネタ

 マドレーヌとポーリーヌが一緒に映画館に観に行くのが、ビリー・ワイルダー監督の処女作と言われている『ろくでなし』(撮影地はフランス)。こんなマイナー作品持ち出すなんて、オゾン監督もマニアックですよねぇ。金持ちの息子がお金に困って銀行強盗か何かする話で、後年のワイルダーの軽妙なコメディタッチは微塵も感じられません(^.^;どちらかと言えばフィルム・ノワール。でもこの作品、ゴダール等フランスヌーヴェルバーグに影響を与えたと言われてます。ヒロイン役は後にフランスを代表する女優となるダニエル・ダリュー。この時は若干17才だったそうですが(゚∀゚)男を振り回すファム・ファタルっぷりは既にその萌芽アリ…でしたね。…でも考えたらフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』のヒロイン、セシルも同じ17才。フランス女子は早熟❗❓


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※フランス映画史を代表する名花、ダニエル・ダリュージェラール・フィリップと共演した『赤と黒』や夜ごとの美女』の全盛期の彼女の美しさときたら……この世のものとは思えませんでしたよ、うん。