オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

サム・メンデスの映画愛が溢れ出て止まらない〜『エンパイア・オブ・ライト』

 
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横浜駅直結のシネコン「Tジョイ横浜」にて、『エンパイア・オブ・ライト』鑑賞。

 

 イングランド南の海岸沿いに建つ映画館※「エンパイア劇場」(作りがとても立派で、まるでオペラハウスみたい😲)で働くベテラン館員のヒラリー(オリヴィア・コールマン)。彼女は定期的に精神科医の診察を受け、洗面所の棚には炭酸リチウム剤をはじめとして驚くほど多くの薬の瓶が…。以前、精神のバランスを崩して入院した経緯もあるようです。ヒラリーをはじめ、映画館のスタッフたちは老若男女さまざまですが皆仲間意識が強く、互いに支え合って映画館の運営に携わっていますが、館長のエリス(コリン・ファース)だけは別。映画愛なんてこれっぽっちもなく、自分の出世の為に『炎のランナー』のプレミア上映を計画するような男で、しかもヒラリーの、劣等感に苛まれている弱味につけ込んで仕事の合間に彼女を呼び出し、館長室で時短情事を強要するようなクズ男です。

ケント州マーゲイトにあるアールデコ調の元映画館「Dreamland」を改装して撮影されたようです。

 

 半ば人生を諦めて淡々と孤独な生活を送るヒラリーの前に、新人スタッフのスティーヴン(マイケル・ウォード)が現れます。ピュアで素直で、若さが煌めくようなスティーヴンを一目見た時からヒラリーの心は揺れ動きます。彼女の淡い想いは、白人の若者たちから「クロはこの街から出ていけ!」と酷い言葉を投げかけられてもじっと耐えているスティーヴンを偶然見かけたことによって決定的になります。年齢も人種も境遇も超えた、まるで孤独な魂を寄せ合うような二人の、秘めたる恋。しかし、それもヒラリーの病の再発や、当時の※不穏な社会情勢によって少しずつ歯車が狂っていき……。

この映画の背景となっている1981年には、ニュークロスでの黒人青年たちの焼死事件をはじめとするブリクストン暴動(南ロンドンの黒人コミュニティと警察当局との衝突)が起きています。それに対抗して、スキンズたちのヘイトクライムも頻発しました。

 

 ……この映画はもや、名優オリヴィア・コールマンありき❗サム・メンデスが彼女に当て書きしたというのも納得の演技。特にヲタクが好きなのは、スティーヴンに出逢ってからお洒落心に目覚めて、店先で香水をあれこれ選んでいるところとか(表情がすっごく可愛い❤)、1度は口紅をつけたのに、やっぱり恥ずかしくなって急いで落とすところ。ラスト近く、※映画館に勤めながら殆ど映画を観たことがなかった彼女が、『チャンス Beeing there』(1981年)のピーター・セラーズの名セリフ「……人生とは心のあり方だ」に滂沱の涙を流す場面は、見ているこちらも涙なしではとても見れません(ToT)……またねぇ、相手役の新星、マイケル・ウォードがいいんですよ❗特に、映画『9時から5時まで』(1980年…3人のOLが共闘して、パワハラ上司をやっつけるコメディ)のセリフ「女なら度胸を示せ。飲み干すんだ」を引用して、ヒラリーにお酒をすすめる時のいたずらっぽい表情に、おばさんヤられたワ(笑)

※ヒラリーって、ロマンチストな文学少女の成れの果て…みたいな雰囲気があって、当初映画を小バカにしてるようなところがあるんですよね。それが彼女の痛々しさの一因にもなっているんですけど。そんな彼女が『チャンス』で映画愛に目覚めるわけで、私たち観客の感動もひとしお😭

 

 そしてそして、二人の切ない恋模様の底に流れているのはやはり、サム・メンデス監督の熱い映画愛でしょう。「暗闇の中の光に現実を忘れる」まさにエンパイア・オブ・ライト、映画館。そこでは性別も、人種も、年齢も関係ない。観客全員が一緒になって笑い、怒り、涙するのです。1980年代が舞台……ということで、『ブルース・ブラザーズ』(1980年…ジョン・ベルーシ&ダン・エクロイドのゴールデンコンビによるミュージカルコメディ)や『レイジング・ブル』(ロバート・デ・ニーロの、実際に27キロ増量した鬼気迫る演技が凄かった)、『スタークレイジー』等、昔懐かしい名作が次々と出てくるのも、映画ファンにはたまりません。

 

 頑固一徹、昔かたぎの映写技師ノーマン(トビー・ジョーンズ)が、ケリー18式映写機を愛しそうに撫でながら※「ファイ現象」についてスティーヴンに説明する場面、あれれ?デジャヴュだな〜、と思ったら、インド映画『エンドロールのつづき』ですよ❗もうすぐ公開されるスピルバーグ監督の自伝的映画『フェイブルマンズ』も然り…だけど、最近監督が自らの映画愛や、これまでの映画人生を熱く語る作品が多いと思いませんか?長いコロナ禍や動画配信の隆盛によって、映画産業が昔のエネルギーを失った…と言われて久しいのですが、やっと昔の日常が戻りつつある今、ひとつ所で大勢の観客が感動を共有する「映画体験」の素晴らしさが改めて再認識されつつあるような気がしてなりません。

静止画を一定の速度で動かすことにより起きる可視現象。フィルム映写機の原理。

 

★今日の小ネタ

・ところどころ英国っぽいユーモアも。映画上映後の清掃作業で「オムツやらローストチキンやらあらゆる物を集めて運びださなきゃいけない」とボヤく若いスタッフに、ヒラリーが無表情に「私なんてご遺体を運んだわ。『トランザム7000』(バート・レイノルズ主演の超スリリングなカーチェイス映画)観て心臓発作起こしたの」っていう場面とかね(^_^;)

・英国の桂冠詩人テニスンの『打ち出せ、荒ぶる鐘よ』やW.H.オーデンの『死のこだま』など、元文学少女?ヒラリーの愛好する英国詩が、その折々相応しい場面で登場するのもツボ。特にラストシーンで朗読されるフィリップ・ラーキンの『樹々』、ヒラリーの心の再生と未来への意思がうかがえて、さらに涙ドバー(笑)