横浜黄金町のミニシアター「ジャック&ベティ横浜」にて、『小説家の映画』(ホン・サンス監督)鑑賞。キム・ミニと公私共に密接なパートナーシップを築いてからの監督の作品は、監督自身…というより、キム・ミニ視線というか、彼女が憑依しちゃったんじゃね❗❓って傾向が強くなった気がするんですね。今回の映画も、キム・ミニと強力タッグを組んだ『逃げた女』に引き続き、いわゆる「女縁ムービー」です。しかし女縁は女縁でも、今回はかなり皮肉が利いていて、後味はかなり苦味走ってます(笑)『逃げた女』では、キム・ミニ演じるところの、人生の岐路に差し掛かって悩めるヒロインは、同性の友人や先輩を訪ね歩いて自らの将来の方向性を探っていきます。言わば「女縁バンザイ❗」な作品だったわけですね。しかし今回、まるでキム・ミニその人のような女優ギルスは、大御所の小説家ジュニ(イ・ヘヨン)の気まぐれとエゴに、さんざん引っ張り回されます(^_^;)
※柔らかな美しさが際立つキム・ミニ。41才って、にわかに信じられないんですけど。年々若返ってません❓この方(^_^;)『お嬢さん』の頃より断然若い。
ジュニ(イ・ヘヨン)はかつて高名な作家でしたが、最近は創作意欲を失い、引退同然の身。ある日彼女はソウルを離れ、※河南(ハナム)で書店カフェを営むセウォン(ソ・ヨンファ…『逃げた女』で、ヒロインが訪ねる人の良い先輩を演じていた人ですね)を訪ねます。かつて小説を書いていたセウォンも、ジュニ同様筆を折っているようです。若い店員のヒョヌも会話に加わるものの、いまいち盛り上がりません(^_^;)時間を持て余したジュニはユニオンタワーへ。望遠鏡を覗いていると、バッタリ出くわしたのが、映画監督のキム・ヒョジン(クオン・ヘヒョ)とヤンジュの夫婦。ジュニは、以前彼女の小説の映画化を監督が断ったことを今でも根に持っており、ここぞとばかり監督にチクチク嫌味を言います。そこに現れたのが、陶芸家と結婚し、今は殆ど女優を廃業しているも同然のギルス(キム・ミニ)。彼女の美しさとおっとりした雰囲気に一目で魅了されたジュニは、「…実は私、1度映画を撮ってみたかったの。私と組んでみない❓」とギルスに持ちかけますが……。
※河南(ハナム)市…ソウルから東へ20キロ、自然と都会の雰囲気が融合し、お洒落なカフェが点在する「カフェの街」として有名だそうです。サンス監督の作品に登場する街や自然の風景は、いつもとても綺麗ですよね。
※過去のいきさつが元で、言葉尻をとらえられ、ジュニにさんざん突っ込まれる人の良い映画監督役には、『冬のソナタ』等で日本でもおなじみ、クオン・ヘヒョ。
腹に一物ある者同士が互いを探り合いながら会話を進めていき、自ずとその過去の出来事(たいていは気まずい内容 笑)があぶり出されていく過程とか、何とも言えない皮肉とユーモアのあるシーンの数々(大笑いはしないけど、密やかなくすくす笑いが、客席のそこかしこで起きていました)、いつものサンス節サクレツです❗
作品の登場人物に少しずつ、監督自身が投影されているのが、サンス監督作品のひとつの特徴のような気がします。ヒロインのジュニも、尊大で気まぐれで、ヲタク的にはできるだけお近づきにはなりたくないタイプだけど(^.^;書きたくても書けない、芸術家の「生みの苦しみ」をシンボライズする人物像なんでしょうか❓……だとすれば、監督自身もまた、煌めく才人の貌とはうらはらに、「いつ作品が生み出せなくなるかもわからない」という不安に苛まれているのか……。また一方では、自分の分身のような映画監督(クオン・ヘヒョ)を登場させています。ジュニは自分の小説の映画化を彼に断られたことを今でも恨んでいて、彼のちょっとした言葉尻を捉えてネチっこく追い詰めます。サンス監督も、強烈な女傑にイジメられたトラウマでもあるのかしらん(笑)
ラスト、出来上がった短編映画を、ギルスが「1人試写会」をして、終わって出てきた彼女の表情を捉えたところ(注・ズームはしない 笑)でこの作品は突如として終了してしまいます。
果たして才ある女性2人の類まれなるコラボのゆくえは❓
その答えは、観ている私たちに委ねられる……。そんなところも、いつも通りのお約束。
それにしても、監督はキム・ミニに惚れ抜いているのねぇ。ヒロイン、ギルスの描き方を見ただけでも、監督の想いがひしひしと伝わってきます。親子ほど年の違う2人の恋は、不倫という形を今でも継続したまま。韓国の社会から石もて追われた2人は、それを映画という芸術に昇華することで跳ね返して来た。その是非は別として、この2人は世間からどんなに烈しく糾弾されても、これからも優れた作品を生み続けていくんだろうなぁ……と、映画を観ながらそんなことをボンヤリ考えていたヲタクなのでした。
※キム・ミニとホン・サンス監督