待望のアンスコさま主演『リプリー』がNetflixでついに配信開始!期待に違わぬ出来で、ヲタク、ストーリーは既に知っているというのに、エピソード(1〜8)が進む間中ドキドキが止まらなくて、結局昨夜は夜中までイッキ見し、今朝は廃人同様…トホホ。まっ、今日は仕事休みだからいいけど(笑)
時は1960年代。職業も住所も経歴もわからない謎の男、トム・リプリー(アンドリュー・スコット)。彼はニューヨークの片隅で、身分証明書や公証人刻印、信用状の偽造等で日銭を稼いでいる小悪党。そんな彼に「まともな」大仕事が舞い込みます。造船会社を経営する富豪のグリーンリーフが、「画家を目指す」との触れ込みでイタリアのリゾート地・アトラーニに行ったまま帰らず、彼の財産を食い潰している息子のディッキー(ジョニー・フリン)を連れ戻して欲しい、連れ戻してくれるなら金に糸目はつけないと。二つ返事で引き受けたリプリーは、初めて乗るオリエント急行、贅沢な食事、海辺のリゾート地に心躍らせるのでしたが、初めて出会ったディッキーは、才能もないくせに画家を自称し、作家を目指す美女マージ(ダコタ・ファニング)を恋人にし、「慈善行為」とうそぶいて詐欺師の女に大金を巻き上げられてしまうような放蕩息子の典型でした。彼の邸宅に居候するようになったリプリーは、特権階級の豪奢な生活を何の努力もせずに享受しているディッキーに対して次第に侮蔑と憎悪の感情を募らせていき……!
※恋人ディッキー(ジョニー・フリン)がリプリー(アンドリュー・スコット)に取り込まれるのを恐れ、リプリーを密かに憎むマージ(ダコタ・ファニング)。奇妙な三角関係が形成されていきますが…。
とにもかくにも、アンドリュー・スコットの演技が圧倒的!冒頭の、オドオドして、いつも人の顔色を上目遣いに窺っているような※卑屈な態度から、取り返しのつかない犯罪に一旦手を染めるや、自信とカリスマ的魅力に満ちた、ミーナ・マッツィーニの気怠いカンツォーネや年代物のワイン、フェラガモの靴やロレックスの時計が似合うセレブな男に劇的に変化する、そのギャップが凄すぎる。
※アンスコさまって、人間のコンプレックスの表出をコミカルに演じるのがめっちゃ上手い٩(♡ε♡ )۶『リプリー』では、初めてディッキーに会うシーン。ディッキーとマージが海に遊びに行ったと聞いて、急いでリプリーが街の店で水着を買うんだけど、ぴっちぴちのブリーフしかなくて(^_^;)ブリーフ姿に皮靴っていう珍妙な姿で海辺に行くと、当のディッキーはラフなシャツ姿で砂浜に寝転んでるの。この時のアンスコさまの絶妙な表情に注目!
リプリーは天性の詐欺師。アンスコさまがジョニー・フリン演じるディッキーを仕草から声色から英語のイントネーションから完コピする場面は、素晴らしすぎて寒気がした(笑)。この場面を見た時、監督のスティーブ・ザイリアンが何でわざわざ、アメリカ人であるリプリーに英国人(厳密に言えばアイルランド人だけど)のアンドリュー・スコットをキャスティングしたのか、理解できた気がしたわ。英国舞台の最高峰ローレンス・オリヴィエ賞を2度も受賞し、ハムレットもチェーホフもノエル・カワードもユージン・オニールも何でもござれのカメレオン俳優、アンドリュー・スコット。まさにリプリーは彼のためにあるような役だった!
リプリーが海上のボートの上でディッキーを殺害するシーン。リアルに凄惨で、怖くて目を逸らしたくなったけど、アンスコさまの演技で、不謹慎にも時々吹き出してしまいました(^_^;)人間って、追い詰められた時思わぬ行動をとるでしょ?それをはたから見てるとどこか滑稽に見えるという…。その塩梅が彼、もう絶妙なんです。
※ストーリーが進むにつれ、ダークヒーロー化していくリプリー。特に後半、彼の犯罪を執拗に追うローマ警察の敏腕刑事ラビーニが登場してからは、まるで「ルパン VS. ホームズ」みたいな展開に(^_^;)この2人の熾烈な心理戦には、手に汗握ります。
リプリーは人間には興味を持たないようですが、絵画や彫像などの芸術にはかなり反応します。特に彼が心奪われたのが、ナポリの教会に飾られたイタリアン・ルネサンスの画家カラヴァッジオの「七つの慈悲の行い」。殺人者で詐欺師のリプリーが「慈悲の行い」って何の冗談かと思いますけどね(笑)しかし、ディッキーが冒頭リプリーに話して聞かせるカラヴァッジオの波乱の生涯(モデルにした娼婦の客引きを殺し、マルタやパレルモへ逃亡しながら絵を描き続け、結局客引きの仲間に捕まって顔を殴られ続けた末、死に至った)が、まるで彼らの行く末を暗示する前奏曲のようで、いかにも不吉でした。
「リプリーは同性愛者なのでは?」という「匂わせ」は度々出てきます。原作者のパトリシア・ハイスミスもそうですし、ゲイであることを公表しているアンスコさまが主役を務めていることからしてそれは間違いないことだと思いますが、一方でリプリーとディッキーの間に果たしてそういった関係があったのか?となると想像の域を出ません。ただ、カラヴァッジオの作品「ダヴィデとゴリアテ」の解釈〜殺人する側と殺害される側は実は一体である〜を聞いた時のリプリーの動揺ぶりを見ると、彼のディッキーへの感情は、愛と憎悪、憧憬と侮蔑、様々な感情が絡み合った非常に複雑なものであったことが、想像に難くありません。
※カラヴァッジオ作『七つの慈悲の行い』
勝利の美酒に酔いしれて良い筈のダヴィデがなぜ、苦悶の表情を浮かべているのか……?
アンスコさまはインタビューの中で
リプリーを単なる悪役と呼ぶのは安易ではないでしょうか。間違いなく、彼はアンチヒーローですよね。この物語と脚本の偉大な功績は、視聴者が必ずしも応援すべきではない誰かを応援してしまうことだと思うんです。ほとんどの視聴者は、彼に逃げ切ってほしいはずです。
と語り、作品のテーマについては、彼がかつてウエストエンドで演じ、絶賛を浴びたシェイクスピアの『ハムレット』の台詞を引用して次のように語っています。
コミュニティにおける特定の要因を排除したら、デンマークに何かよくないこと(=腐敗)が起こるのだ。
『リプリー』は、彼が造型した魅力的なアンチヒーローの姿を通して、1960年代を舞台にしていながら、富者と貧者の二極化、マイノリティ差別と社会の分断、特権階級の腐敗など、現代においても私たちが抱える様々な問題を提示する上質なサスペンスだと言えるでしょう。
★今日の小ネタ
①メソッド演技
アンスコさまは「リプリーは魅力的な役柄だけど、彼の生き方やイデオロギーは自分と全く違うから、演じるのに非常に苦労したよ。僕はメソッド演技はしないからね」と語っています。メソッド演技とは、俳優が疑似体験によって役柄を理解し、完璧に没入してしまう演技法。メソッド法の実践者であるアンドリュー・ガーフィールドが映画『沈黙 サイレンス』で鎖国時代の日本に来たキリスト教の宣教師を演じた際、役に近づく為一定期間完全なる禁欲生活を送ったと告白して、ドリュー・バリモアに「信じられなーい。ホントに禁欲ですって?彼、大丈夫?」と、さんざんネタにされたのも記憶に新しいですが(^_^;)同じアンドリューでも演技のスタイルはずいぶんと違うようです(笑)
②エリオット・サムナー
ディッキーの親友で、リプリーによるディッキー殺害に勘付いた為、リプリーの第2の犠牲者となってしまうフレディ・マイルズ。演じているのはエリオット・サムナーという歌手で、なんと女性。しかもあのスティングの愛娘です。エリオットはアンドリュー・スコット同様、同性愛者であることを公表しています。
原作者のパトリシア・ハイスミスも同性愛者で、原作の舞台ともなっている60年代当時、アメリカでは同性愛が犯罪視されていたために随分苦しんだようですが、ドラマにも同性愛のイマージュが散見されますね。
★おススメ度……★★★★☆
リプリーの結婚詐欺に引っ掛かって地獄を見てみたい(⇐アブナイ人 笑)