オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

これってホラー映画だったの❗❓〜『ファルコン・レイク』


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 KINOシネマ横浜みなとみらいにて、『ファルコン・レイク』鑑賞。

 

 まもなく 14 歳になる少年バスティアンは夏休みに、自身の住むフランスから、カナダ・ケベック州の湖畔にある母の友人ルイーズのコテージを、両親や弟と共に訪れます。鬱蒼と繁る森と神秘的な水を湛える湖。そこでバスティアンは、ルイーズの娘・クロエ(彼より3つ年上の17才)と数年ぶりに出逢い、美しく成長した彼女に惹かれていきます。年齢よりも大人びて自由奔放な彼女に、バスティアンはさんざん翻弄されます。
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 ……とまあ、こうやってあらすじを書いてみると、避暑地あるある、一人の少年の甘酸っぱい「ひと夏の経験」のお話しかと思いきや(日本版ポスターのキャプションにも「14才の少年と16才の少女。大人へと変わりゆく2人の、人生で1度きりの夏」ってあるしさぁ。)……

 

それが、全然違うのよ❗

 

 まず冒頭から、コテージに向かうバスティアンの乗った車の前途には真っ黒な雨雲。コテージに着けば電気が切れていて、家主のルイーズは留守。突然の物音にびくびくするバスティアンと私たち(笑)。しかもコテージには何やらある「匂い」が染みついています。そこに突然の激しい雨。バスティアンが夜中に目覚めると、髪の長い幽霊が……。ってこれは、クロエの影だった…ってオチだけど、この時点で早くもこれがどんなジャンルの映画なのかわからなくなったヲタク(笑)

 

 幼い頃溺れかけた経験のあるバスティアンは今でも水が苦手で、クロエに誘われても湖には入ろうとしません。クロエが「あなた、幽霊って信じる❓…あの湖で事故があって死んだ人がいるの」なんて意味ありげに呟くし、また、彼女の取巻きの不良少年たちも、「湖に入ったら足に何かが触れて、中に引きずり込まれそうになった」などと騒ぎ立てるのでバスティアンの恐怖はいや増すばかり。しかしある日、クロエはバスティアンの恐怖心を知りつつ、彼に強制的に湖に入るよう命じます。それも湖の向こう岸でバストをチラ見せしながら。……おい、いくらなんでもそりゃ禁じ手だろ(笑)しかしまんまとクロエのワナに引っ掛かった❓バスティアンは、めちゃくちゃビクビクしながらも、何とか彼女の気を引こうと勇を奮って湖の沖へと泳ぎ出しますが……。

 

 ストーリーが進むにつれ、冒頭で示された不気味な不穏さはますます存在感を増し、驚くべき結末へと一気に突き進んでいきます。ヲタク、エンドクレジットを見ながら、思わず(……これって、ホラー映画だったの❓)って画面に向かって突っ込んじゃいましたよ(笑)

 

 監督は、女優としても活躍しているシャルロット・ル・ボン。フランス映画『イヴ・サンローラン』(2014年。サンローラン役はピエール・ニネ)に、チョイ役で出てましたね。彼女はカナダ出身です。今作は、カナダのケベック州の湖が舞台なんですが、…そう、舞台がカナダってところがこの作品のキモなんです。カナダって、遠く離れた日本に住む私たちから見れば、随所に美しい自然があり、安全で住みやすく、リベラルな人たちの住む国……といったイメージがあるのではないでしょうか。…ところがどっこい、ちょっと違うんだな(笑)クロエ自身と、彼女の家庭の描写が、カナダという国の、見えざる闇を如実に表している気がします。クロエはシングルマザーである母親ルイーズとは犬猿の仲。ルイーズは不動産業を営んでいますが、契約を取った相手とは必ずベッドを共にするという破天荒ぶり。税金も3年間払ってなくて、「問題が発覚する前に自分は死ぬから大丈夫」なんて言っちゃってるし。そんな母親を持つクロエは、バスティアンの家族の仲良しぶりを目の当りにして孤独と焦燥感を募らせ、バスティアンを精神的に苛め、翻弄し、それは次第に暴走していきます。

 

 実はヲタク、カナダという国にはかなり偏見がありまして(笑)。長女が高校時代短期の交換留学先をカナダに選び、ホームステイをしたのですが、これが運悪く崩壊一歩手前の家庭。お母さんが家事を全く放棄しているため家は荒れ放題、その子供たちと娘は自分たちでスーパーに買い物に行って自炊生活(^.^; ホームステイのお返しに半年後、同じ高校の女子を2人、我が家に受け入れましたが、2人ともクロエ同様かなり……荒んだ印象でしたね。おもてなしのつもりでプールとか鎌倉の観光名所に連れて行ったら、タバコスパスパしながら「このへんってクラブないの?こんなとこつまんな〜い」って言われたり(笑)当時(20年前)から離婚率もアメリカ以上に高く、未成年の飲酒や薬物も社会問題化しているようでした。(クロエもワインラッパ飲みしながらタバコ吸ってましたよね)…もちろんそんな家庭ばかりじゃないことは百も承知ですが、ヲタクの経験と今回の映画の内容から、カナダにおける青少年の問題はかなり深刻のような気がしました。

 

 ディスりついでにもう1つ言わしてもらえば(笑)、カナダって実は、かなりの差別社会なんですよね。例えば奴隷制度の歴史……というとアメリカばかりが注目されますが、じつは『ファルコン・レイク』の舞台になったケベック州には、1629年から1833年までの間、およそ4000人もの奴隷(先住民)がいたと言われています。実は今でも先住民女性の失踪や殺害事件が跡を絶たず、2019年にはNational Inquiryが政府をはじめとする諸機関に対して、「先住民女性の失踪や殺害を撲滅させるために必要な諸提案」を示す報告書を提出しています。この作品がその底に、言うに言われぬ「暗さ」「虚無感」を醸し出しているのは、カナダという国の、隠れた闇の部分が投影されているような気がしてなりません。


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 先頃監督業からの引退を表明したグザヴィエ・ドランも、実はカナダの、それもケベック州の出身。彼はゲイをカミングアウトしていますが、カナダでは2005年に同性婚が法的には認められているものの、実際にはゲイの人々は未だに忌み嫌われていると言います。……そんなカナダの片田舎、「本音と建前」に板挟みになる生きづらさ、そしてドランが故郷に抱く愛憎渦巻く複雑な感情は、彼が監督・主演を務めた『トム・アット・ザ・ファーム』(2013年)に詳細に描かれています。

 

 ……って、またまたひどく脱線しちゃいました(^.^;

 

 一見平和に見える、カナダの美しい自然や街に潜む、見えない闇。そんな視点で見直すと、この『ファルコン・レイク』も、単なる青春ホラーの範疇には収まりきれない、様々な社会問題を内包した作品だと言えるでしょう。

 

 …しっかし、前述のキャプションとか、「恋がなにかも知らなかった」とか、甘甘な日本での売り出し方、これ鵜呑みにして見に来た人たち、大丈夫かなぁ。キャッチコピー考えた人、ちゃんと作品見てから書いた❓(^.^;