オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

世紀末アメリカ女性像の混沌〜HBOドラマ『ギルデッド・エイジ』シーズン1


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 U-NEXTで、HBO制作のドラマ『ギルデッド・エイジ〜ニューヨーク黄金時代』鑑賞。脚本が『ダウントン・アビー』と同じジュリアン・フェロウズで、しかも制作はHBOだから、視聴者を飽きさせないストーリー展開と、一人ひとりのキャラ描写の巧みさは見ない前から太鼓判(笑)日本での副題は「ニューヨーク黄金時代」。確かにアメリカ、特にニューヨークの19世紀末から後の100年間は、作品中にも詳しく描かれているように、大陸横断鉄道が敷かれ、電気は普及し、工業化、都市化、資本主義化が急速に進んだ時期。しかしGildedとは、Gold(黄金)ではなく、金ピカ、とか金メッキ……といった意味。上辺ばかりを取り繕う…と言った否定的な意味合いも含んでいます。作者が題名をなぜGold Ageではなく、あえてGilded Ageとしたのか、ちょっと興味あるなぁ…。

 

 …って前置きはこれくらいにして^^ストーリーは、というと…。

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※ヒロイン・マリアンを演じるルイーザ・ジェイコブソンは、あのメリル・ストリープの三女。柔らかな、育ちの良い雰囲気がイメージピッタリ。

 

 1882年、ペンシルバニア州に住むマリアン・ブルック(ルイーザ・ジェイコブソン)は父を亡くしますが、名家の出で北部軍の将軍という名誉職にあったにも関わらず、父は財産を使い果たし一文無しであったと知人の弁護士トム・レイクス(トーマス・コッケレル)に知らされます。途方に暮れるマリアンでしたが、唯一の血縁である叔母のアグネス・ヴァン・ライン(クリスティーン・バランス)を頼り、彼女の暮らすニューヨークに行くことを決意します。アグネスは富豪の未亡人で、未婚の叔母エイダ(シンシア・ニクソン)もアグネスの世話になりながら一緒に暮らしていました。マリアンはペンシルバニアを出る時に盗難に合い、その時に黒人女性ペギー・スコット(デネイ・ベントン)と知り合います。ペギーはブルックリンで薬局を営み財を成した父とある理由から折り合いが悪く、マリアンの仲立ちでヴァン・ライン家の住み込みの秘書となります。


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※人種や立場を超えて友情を育むマリアンとペギー。自らの生き方に迷い悩むマリアンに比べ、黒人であるが故に彼女より比較にならない位不利な立場にあるペギーが着々と自立への道を歩んでいくのは皮肉な展開です。しかしペギーにはマリアンにも打ち明けられないある秘密があって…。

 

 当時のニューヨークでは、旧来の富裕層「オールド・マネー」の妻たちが上流社交界を形成し、新参者たち「ニュー・マネー」を成金と呼び、彼らを社交界から締め出していました。そんなある日、「オールド・マネー」であるヴァン・ライン家の向い側に、新興の鉄道王ジョージ・ラッセルモーガン・スペクター)がヴァン・ライン家の真向かいに、まるでヴェルサイユ宮殿のような豪邸を新たに建設します。その様子を苦々しく見つめるアグネス。ラッセル夫人のバーサ(キャリー・クーン)は非常な野心家で、あの手この手を使って社交界に食い込もうと策略を巡らせますが、アグネスを初めとする「オールド・マネー」の夫人たちは手強く、彼女の目論見はことごとくはねつけられてしまいます。派閥争いになどとんと興味のないマリアンも、知らず知らずのうちに、そんな女同士の争いに巻き込まれて……❗


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※旧世代を気遣いつつ、「ニューマネー」のバーサや新世代の若者たちを思いやり、橋渡し的な役割を担うオーロラ(左…ケリー・オハラ)。作者的にはアメリカ女性の理想像なのかな❓

 

 何しろ当時のアメリカの理想的女性像といえば、「純潔、良妻賢母、信仰心、従順」。さすがピューリタニズムの国、って感じ(笑)。ヲタクは英米文学を専攻しましたが、世紀末までのアメリカ文学って、めっちゃつまんないんですよ、特に女性の描き方がステレオタイプで。ナサニエル・ホーソーン作『緋文字』のヒロイン、ヘスター・プリンは別としても。フィクション中のヒロイン像が生き生きとして面白くなるのは、ヘンリー・ジェイムズ(『デイジー・ミラー』『ある貴婦人の肖像』)やイーディス・ウォートン(『エイジ・オブ・イノセンス』)あたりからやっと……って感じ^^; このドラマの中で言えば、ニューヨーク社交界を仕切る「オールド・マネー」の夫人たちが、ピューリタン的女性像を標榜している…というわけ。ヲタク的には、ある種の独善に過ぎないんじゃないかなぁ……と思うんですが。

 

 

 しかし、※工業化、資本主義化の波が押し寄せ、女性の労働力が必要になるにつれ、女性自身の価値観も変化し、従来の「理想的女性像」が次第に崩れていきます。たとえば「ニュー・マネー」の象徴たるラッセル夫人バーサ。伝統的な価値観から脱することができず、彼女の野心は「ニューヨーク社交界を牛耳ること」にばかり向いているものの、頭の回転の速さや豪胆さは鉄道王の夫も凌ぐほど。夫に代わって社長業をしたら?って思うくらい(笑)若いヒロインのマリアンも、古き因習に囚われる叔母のアグネスより、エネルギッシュなバーサに共感を覚えているかに見えます。

※ドラマ中にも、鉄道駅の建設やエジソンの点灯式のエピソードが織り込まれ、歴史モノとしても楽しめます。


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※スリリングな人間模様を彩る豪奢な調度品、美しい衣装。見ているだけでも楽しい😍

 

 新旧の価値観がぶつかり合い、せめぎ合う世紀末のニューヨーク。混沌とした時代を背景に、旧世代の強権的な抑圧の中で、マリアンやペギー、グラディス(バーサの娘)、ラリー(バーサの息子)等新世代がそれぞれ、自らの生き方を確立し、幸せを手中にすることができるのか❓

本国アメリカでは今月(2023年10月)から配信されるというシーズン2、日本公開が楽しみです❗


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シーズン1ではウーマナイザーに誘惑され、私たち視聴者をハラハラさせたマリアン(中央)。ヲタク的にはラリー・ラッセル(左…ハリー・リチャードソン)とお似合いだと思うんだけどなぁ。