オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・コンサート鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログです。

女性ジャーナリストのド根性〜『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』


f:id:rie4771:20230508205435j:image

U-NEXTにて、『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』(主演 キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン)鑑賞。

 

 2017年10月5日、ニューヨーク・タイムズに1つの記事が掲載されました。同社の報道部記者ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーが共同執筆した「ハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたりセクハラ告発者を買収」という記事は、映画界の超大物でミラマックス社のCEOだったワインスタインが長年にわたり社のスタッフや女優たちに対して行ってきたセクハラ行為やレイプの数々を白日の下に晒し、アメリカ全土を震撼させました。この記事がきっかけとなって、その後#Me TooあるいはTime’s Upの一大ムーブメントに発展したのはご存知の通り。

 

 映画は、ワインスタインの悪行の情報を得た2人の記者ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)とミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)が、被害者女性への取材を地道に積み上げ、様々な事情から口を閉ざす彼女たちの心を徐々に溶かしていき、遂には実名公開による証言を掴むまでをドキュメンタリータッチで描いていきます。しかしその客観的で、時には淡々とした描写が、被害者女性たちの悲痛さとワインスタインの卑劣さをより明確に浮き彫りにしているのが印象的。



f:id:rie4771:20230508205552j:image
※敏腕記者の2人も、家庭に戻れば一人の妻であり母親でもある。特にミーガン(右…キャリー・マリガン)は産後深刻な鬱状態に。被害者女性を取材するうちに記者として、人として、そして女性としての使命に目覚め、自らの病を克服していくプロセスが感動的。

 

 ワインスタインのどこがクズって、セクハラ相手の女性に示談金を払って、「秘密保持契約」を結ばせる知能犯なんですよ。…だから数十年もの長い間、彼の悪行が表面に出てくることがなかった。しかも被害に遭った女性たちの殆どがミラマックスの社員。映画業界に憧れ、期待に胸を膨らませて仕事を始めた若い女性に、女性として耐え難い恥辱を与えるだけでなく、抵抗し「NO」を言った女性に対しては、職場でのポストを剥奪し、映画人のキャリアそのものを潰してしまう。こんな卑劣なことって、あるでしょうか?

 

 なかなかオンレコでインタビューに応じてくれる女性が現れず取材が暗礁に乗り上げた時、実名を出していいと口火を切るのがローラ・マッデンというアイルランド人の女性なんですが、彼女は乳ガンで両乳房の摘出手術を控える身。その彼女が手術室に向かう車椅子からジョディに電話をかけてきて、「実名を出して下さい。それが女性として、キリスト教徒として正しいことだと思う」と告げるシーン、もうね、抱き合って泣き出すジョディとミーガンと一緒に、観ているこっちも涙、涙😢


f:id:rie4771:20230508205848j:image

※当時ニューヨーク・タイムズの編集長だったディーン・バケット(アンドレ・ブラウアー)がカッコイイ❗ワインスタインの卑劣な脅しにも屈せず、必要な時に必要なGOサインを出す「理想の上司」❤パトリシア・クラークソン演じる先輩編集者レベッカコルベットの肝の座り具合も凄いです。

 

 アメリカには、古くは『大統領の陰謀』、近くは『ペンタゴン・ペーパーズ』、『スポットライト〜世紀のスクープ』、そして今作品と、ジャーナリストの実話モノのジャンルが存在すると思うんですが、こういう作品見てると、「いったい、日本のジャーナリズムの気概はどこ行っちゃったの?」って思っちゃう。残念ながら、長いものには巻かれろ…の権力者に阿る忖度記事が多いんだよねぇ…。文春砲とか言われてるけど、ちっちゃい、ちっちゃい(^_^;)

 

 まっ、年寄のグチだと思って聞き流して下さい(笑)

 

★追記

 名だたる女優たちも対象となったワインスタインのセクハラ事件。ハリウッドで真っ先に実名を出して告発したのがアシュレイ・ジャッド。『表決のとき』、『ダブル・ジョバディ』の頃の彼女は、知性に溢れたクールビューティ。耀くばかりの美しさでしたが、パッタリ姿を見せなくなって…。セクハラを断固拒否した彼女へのワインスタインの嫌がらせは熾烈を極めたようです。彼女の勇気によってワインスタインは収監されましたが、アシュレイも早や55才。耀いた時代は二度と戻ってこない……。彼女の現在の姿を見て、やり切れない気持ちになったのもまた、事実です。

 

 監督はドイツ人のマリア・シュラーダー。冒頭のシーンでは、大統領選直前にトランプのセックススキャンダルを取材しているミーガンが描写されてるし、グウィネス・パルトロウや先のアシュレイ・ジャッドがオフレコで話した生々しい内容などが出てくるので、アメリカの同業人でやりにくかったんだろうか(^_^;)