オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

クリムト~ウィーンの光と翳~シャーロット・ランプリング

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今日はヨガスタジオから、東京都美術館で開催中の、日本では過去最大級と言われている「クリムト展」を見に行く予定だったのだけれど、この大雨☔予定は2つともキャンセル、あきらめきれずにこうやってブログで呟いてます(笑)

 

  ヨーロッパ駐在時代、待望のウィーン行きが実現したのは赴任3年目の夏休み。子どもが小さかったので、夏休みはクルマで気ままにロードトリップ、冬休みはフランスのグルノーブルのスキー場近くに1週間サービスアパートメントを借りて朝から晩までスキー、というのが定番でした。ベルギーの我が家からウィーンまでは約1000キロ、ドイツのアウトバーンを時速130キロ前後でひたすら走り続け、ケルン~フランクフルト~ニュールンベルグ等ドイツ南部を縦断する形でウィーンへ。

 

  ウィーンは子連れで訪れるには最適の街。治安が良くて、大都会なのにギスギスした感がどこにもなくて😊人が暖かい。ウィーンと言えば音楽の街。野外音楽会で、オトナの人たちはちゃんとテーブル席で食事をしたりお酒を飲んだりして楽しみますが、お金のない学生や、私たちのように子どもの小さいファミリーは、無料の立見席があってそこで聴くことができるんです。なんてイキなはからいだろうと思いました。

 

  超有名な「接吻」をはじめとしてクリムトの多くの作品が展示されているのがヴェルデヴェーレ宮殿。本物を見上げた時の感激は今でもはっきり覚えています。当時は絵画の邪道と激しく非難された金箔も、時を経てもその輝きは失われていませんでした。特に今回の日本展示の白眉とも言える「ユディトI 」(写真右)モデルは旧約聖書に出てくる女性。ユダヤ人の街を救うべく、貞操を犠牲にして敵の将軍の寝首をかいた女傑。ところがクリムトは、生首を抱えて恍惚とする女を耽美主義の極みとして描きました。あたかも第1世界大戦の英雄アラビアのロレンスがその白いアラビア民族衣装を真っ赤な血で染めて恍惚としたように。坂口安吾桜の森の満開の下」美貌の鬼が人の生首で嬉々として遊んでいたように。

 

  今回は日本には来ていませんが、クリムトは「ユディトII」で、あのサロメを描いています。サロメは英国の耽美作家オスカー・ワイルドの戯曲のヒロイン。悪徳に染まった美貌の王女サロメは、高潔な預言者カナーンに一方的に恋をしますが、ヨカナーンは手厳しくその求愛をはねつけます。怒り狂ったサロメは臣下にヨカナーンの首をはねさせ、銀の盆に載せたヨカナーンの首に接吻をする…という反社会的な内容から、しばらく上演が出来なかったというシロモノです😅オスカー・ワイルドサロメと言えばビアズレーの挿し絵が有名で、クリムトのゴージャスな色使いとは真逆の黒の線描画。 

 

  人の温かい音楽の街ウィーン。けれど、第二次世界大戦当時はナチスの影が色濃いという暗い一面も。あのヒットラーは元々画家を目指してウィーンに滞在していましたし、ナチス台頭時、オーストリア帝国主義が力を持っていたこともあり、地下に潜ってまでもレジスタンスを続けたパリ市民や、チャーチルの指導のもと一致団結して徹底抗戦したロンドン市民と違い、ナチス無血開城を許しています。



  そんなウィーンの暗部を描いたのが、あの貴族の末裔ルキノ・ヴィスコンティ監督に心酔していたリリアーナ・カバーニ監督による「愛の嵐」。戦後ナチス狩りから身を隠すため、ウィーンの小さなホテルのナイト・ポーターとして働く男(ダーク・ボガート)ナチス高官だった彼は、かつてユダヤ人の美少女を愛人にしていました。その美少女は戦後指揮者の妻となり、ウィーンで男と運命の邂逅をしてしまう。忌まわしい記憶を忘れ去ろうとしながら、泥沼のような関係に引き戻されてしまう女性を、今では最高の英国人名女優となったシャーロット・ランプリングが演じています(最近では、フランソワ・オゾン監督のミューズですね😊)ナチス高官たちの背徳的な宴。上半身裸にサスペンダーをつけ、ナチスSSの制帽を被って気だるく歌い踊るシーンは、あまりにも有名です。


彼女を最初に見出だしたのはルキノ・ヴィスコンティ監督。17才の彼女は、ナチスドイツの台頭によって運命を狂わされていくドイツの名家を描いた「地獄に堕ちた勇者ども」でデビューし、この作品で共演したダーク・ボガートの熱烈な推薦が「愛の嵐」に繋がっていきます。

 

 

  シャーロット・ランプリングといえば有名なのがあの三白眼。新人時代は、なんと「そんな目付きじゃ仕事が来ない。整形しろ」と言われたそうです。彼女は頑として受け付けなかったそうですが、一般受けはせず、爆発的な人気は博さなかったけれど、欧米の映画賞を総ナメにし、最近は大英帝国勲章まで🎖️👀70才を越えた今でも多くの名匠に愛される彼女。卓越した演技力もさることながら、マニアックな映画ファンをトリコにする三白眼もその理由のひとつだと思うのですが…いかがでしょうか❔