オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

KAAT『アルトロ・ウイの興隆』鑑賞記

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(日本大通りの銀杏が色づき始めていました)

 

ユダヤ人の劇作家ベルトルト・ブレヒトが、ヒットラーをシカゴのギャング、アルトロ・ウイになぞらえて、徹底的にナチスドイツの醜悪さをパロった音楽劇。彼はアメリカ亡命後も、反ナチ、反ファシズムの作品を書き続けました。

 

  ヒットラーの分身たるアルトゥロ・ウイは当初、貧しい出自からシカゴに流れ着いた、チンケなギャングとして登場します。それが、街の代議士ドッグズバロー(ヒンデンブルグ大統領)の汚職の証拠を掴んだことをきっかけに、権力の魔力に魅いられ、陰謀と血塗られた粛清と悪徳の限りを尽くしていく。

 

  初めは屈折した卑屈さをチラ見せしながら、時折冷たい狂気を感じさせ、巧みな弁舌で群衆をアジテートし、次第に歯止めの利かない怪物に成り果てていくアルトロ・ウイの役は、まさに草彅さんの為にあるようなもの❗

 

  ヲタクは最初、アルトロの小者ぶりを少々苦々しい思いで見ていたのです。頭の片隅で、(お芝居とは言え、コイツはヒットラーの亜型なんだから、魅力なんて感じちゃいけない)って、じぶんの感情にめちゃくちゃブレーキかけてたんだと思う。ところがどっこい、JB(ジェームズ・ブラウン)の曲に乗せて歌い踊る彼のカリスマの虜になってしまった。衝撃のラスト、「徹底的な服従と保護か、それとも死か」と、民衆に対して究極の選択を迫るメフィストフェレスの前になすすべもなく、いつの間にか陶酔のるつぼに巻き込まれている自分に愕然としました。

ああ、ヲタクのなんとちっぽけな、脆弱な知性よ。

…もっと理性的な人間の筈だったんですけどね、じぶん。草彅さんのセクシーさにヤられたかな(笑)

 

草彅さんの色気はね、あのルキノ・ヴィスコンティの寵愛を受けた『地獄に堕ちた勇者ども』(ナチスドイツ政権下の貴族の没落を描いた映画)のヘルムート・バーガーに匹敵します(断言)

 

  演出の白井晃さんは、この作品の初演時、トランプイズムがアメリカを席巻し、ヨーロッパでも極右派政党が台頭していたこともあって、

今の時代に、演劇は社会に影響を与えることができるか。KAATでの初演時には、この命題に果敢に挑戦しようと思っていました。

…とのこと。

いつの世も変わらぬ演劇人の気概に栄光あれ❗

白井さんのそのエネルギーが役者さんたちにも伝播し、舞台にも客席にもその異様とも言える熱気が充満して蒸せ返るよう。

 

  ヒットラーは実際にも、役者にそのアジテートの方法を伝授してもらったとかで、アルトロ・ウイがシェイクスピア役者(小林勝也)に演技をつけてもらう、それが作品中唯一笑いを誘う場面なのですが、当然のことながら草彅さんのコメディアンぶりが出色。

 

  また弁舌術と言えば、『ジュリアス・シーザー』のアントニウスの台詞を滔々と話す草彅さんが凄かった。独裁的なシーザーを倒したブルータスの高潔さを称えるかのように装いながら、群衆を少しずつ自分の思い通りにアジテートしていく冷酷且つ狡猾なアントニウス。あー、いつか草彅さんにアントニウス演じて欲しい❗

 

  …って、話が逸れました(笑)

 

  美貌のサイコパス、ジュゼッペ・ジヴォラ(ゲッペルス)を演じる渡部豪太の華ある立ち姿(ついつい彼に視線が…笑)、あの体躯で羽が背中にあるように軽々とステップを踏む(ビックリ😮)エルネスト・ローマ(ゲッペルスとの勢力争いに負けて粛清されるエルンスト・レーム)役の松尾諭、「演者のスキルは声の大きさと目ヂカラ」と仰有る神保悟志各氏をはじめとして、共演陣も超豪華❗

 

  ……熱狂と陶酔の一夜をありがとう♥️


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(舞台に相応しいスタイリッシュなパンフレット)


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(神奈川芸術劇場の隣はNHK横浜会館。草彅さんご出演の『青天を衝け』ポスターもパチリ📸