オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

オーストリア禁断のイケメン、ノア・サーベトラ見・参〜Netflix『フロイト 若き天才と殺人鬼』シーズン1


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 19世紀末のウィーン、催眠療法によって患者の深層心理を探るという、主にヒステリーの治療法を提唱するジークムント・フロイト(ロバート・フィンスター)は、ユダヤ人であることも相まって周囲からは変人扱い、勤務する大学病院でもつまはじき、家賃も滞納しているどん底状態でした。そんな時、ウィーンの街で娼婦の惨殺事件や、同僚の妹が誘拐・監禁された末に足の指を切り取られるという猟奇的な事件が立て続けに起こります。ひょんなことからこれら2つの事件に巻き込まれることになったフロイト。彼は独自の精神医学理論を駆使して事件を解決しようと奮闘しますが……。


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※当時の貴族たちの生活がリアルに描かれていますが、衣装、調度品等々時代考証も素晴らしく、見ているだけで楽しい♬ネトフリってやっぱりおカネあるのね〜(笑)

 

 19世紀末のヨーロッパといえば、初めて入院可能な精神科が設立され、患者たちが家族から引き離され、閉鎖病棟で暮らすようになった時代。それまでは家族や親戚のもとで、「ちょっと素っ頓狂なキテレツくん」とか「くるくるパー」とか言われながらも、単純な作業をあてがわれてそれなりに人生を送っていた人たちが、「精神異常者」(外に出してはいけない)「危険人物」という烙印を押され、二度と出れない場所に「幽閉」されてしまったわけです。むろん精神医学そのものが黎明期であるわけで、水治療や瀉血、温熱療法、時には穿頭術……と、今から見れば民間療法と何ら変わらないじゃないか的な治療が大学病院でも行われていたわけですから、さぞかし病院内部は混迷を極めていたことでしょう。そういった様子はフィクションの中でも度々描かれていて、直近では、同じくNetflix『エイリアニスト』や、映画『エリザベート1878』等がヲタク的には印象的でした。


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フロイトの盟友、アルトゥール・シュニッツラー(左)カタブツのフロイトとは真逆、酒池肉林好きな快楽主義者。シュニッツラーを演じるのは、オーストリアのイケメン俳優、ノア・サーベトラ。

 

 フロイトは、精神病を器質的疾患として捉えるのではなく、患者の無意識に着目し、ひいてはその根源をリビドー(性的欲求)の発露と幼少期の心的外傷に求めて、患者の人格を尊重しつつ、患者本人から結論を引き出すという「精神分析」の基礎を築いた人です。このドラマでは、数々の事件の背景には精神病患者の病理が深く関わっていた……という設定。当時のウィーン医学界から異端児扱いされていた若きフロイトが難事件に巻き込まれ、解決しようと奮闘する過程で、精神科医としても自己確立しようと苦悩するところは興味深かった。……かなりウジウジくんだし、シャーロック・ホームズばりに酷いコカイン中毒だし、サロメにクラッと来た結果、医学者でありながら心霊術の領域にも足を踏み入れちゃう等危うい面が多々あり……で、度々イラッとしたけどね(笑)。

 

 ストーリーはフィクションでも、実在の人物を多数登場させてフロイトの交友関係を克明に描き、リアル感を持たせているのがミソ。ヨーゼフ・ブロイアーとの「催眠療法」談義も面白かったな。ヒステリー患者に催眠をかける時、フロイトは患者に絶対に触れないんだけど、ブロイアーは「患者に触れることが重要。でないと患者は心を開かないぞ」って主張するわけ。ブロイアーの言葉に、生真面目なフロイトはかなり揺らぐんだけど、この話にはオチがあって、患者に触れながら治療していたブロイアー、しまいにはその患者と今で言う「不適切なカンケイ」になっちゃったっていう…(^.^;ブロイアー先生、ダメぢゃん!(笑)また、エディプス・コンプレックスをはじめとする、いわゆる精神医学の「性欲理論」はフロイトが祖だと思っていたけど、彼以前にジャン・バティスト・シャルコーっていうフランス人の神経学者がいて、「全ては性器に行き着く」って名言(迷言?)を残しているらしい。いろいろ勉強になるなぁ(笑)。まあ、ヲタク個人的には、ヒステリーや神経症の原因を過去の性的虐待や性欲の過度な抑圧のみに求めるのはどうかと思うのですが……。なんだか世間がニンフォマニアだらけみたいな気がしてくるじゃん(笑)


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※亡命ハンガリー貴族の養女で、当代随一の霊媒師フルール・サロメ(エラ・ランプフ)。ヒステリーと多重人格?を患う彼女に、フロイトは散々翻弄されることに。サロメ…一言で言えば、名前の如く「ヤバい女」(笑)

 

 当時のウィーンはオーストリア・ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の治世。2重王国体制に持ち込んだもののハンガリー完全独立の機運はいまだ燻り続け、ボスニア・ヘルツェゴビナの併合によってセルビアの強い反発を買うなど、政治的には非常に不穏な時代です。このドラマにもそんな政治的背景が色濃く投影されています。後に男爵令嬢と心中(マイヤーリンク事件)の末30歳の若さでこの世を去ったルドルフ皇太子(フランツ・ヨーゼフ1世とアノ皇妃エリザベートの長子)も登場しますが、ヲタクが勝手に抱いていた「帝国の将来を憂う貴公子」のイメージからはかけ離れた、マザコンの差別主義者(しかもサディスト)として描かれていて、かなり驚き。ルドルフ皇太子って実はこんな人だったの!?っつう(^.^;ヲタク的には、マイヤーリンク事件を題材にした映画『うたかたの恋』のルドルフ皇太子役、オマー・シャリフのイメージが強いのよねぇ…。

 

 フロイト流に人間の深層心理を探っていけば、そりゃもう幾らでも出てくるでしょうよ、ふだん倫理観や社会通念や同調圧力によって抑圧されたドロドロした欲望のカタマリが。このドラマはサイコサスペンスという体裁で、私たちの心の奥底に潜む暗黒を抉り出して見せます。恐るべき殺人者たちは、「常人ならば抑圧している筈の欲望を実行してしまった者」として描かれているのです。……なので、全編に底無し沼みたいな冥〜〜いムードが漂っているのは致し方ないところ。(おまけに撮影時間はほぼ夜 笑)また、前半はサイコサスペンスなんですが、主人公のフロイトがどんどん心霊術に精神状態を侵食されるにつれて、ホラーふうに変化していきます。……しっかし、これで16+!18+にしなくていいの?ネトフリさん(笑)。かなり好みは分かれるとは思いますが、ハマればハマる作品。少なくともヲタクはイッキ見しました。

 

 ……でも早々にシーズン2の製作が発表されたところを見ると、世の中にはヲタクみたいなモノ好きがある一定数は存在するらしい(笑)

 

★今日の小ネタ

①ノア・サーベトラ


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 フロイトに多大な影響を受けたと言われる小説家・劇作家アルトゥール・シュニッツラー(『輪舞』『アナトール』『恋愛三昧』など)を演じるのは、オーストリアの美男俳優ノア・サーベトラ。ハイ、映画『エゴン・シーレ 死と乙女』(2017年)でタイトルロールを演じた超イケメン。シーレのロリコンなクズっぷりが凄かったよね。なのに美形だからよけい始末に悪いっつーか(笑)ヲタク、シーレの「死と乙女」はベルデヴェーレで見ましたよ〜、クリムトの「接吻」と一緒に。シーレもフロイトと同時代に世紀末のウィーンで才能を開花させました。ウィーンの世紀末って、つくづく絢爛たる時代だったんだなぁ…。

 (ヲタクに)強烈な印象を残したにしては、シュニッツラーくんの出番少なすぎ(笑)。シーズン2では彼の出番をもっと増やしてほしいなぁ。フロイトとバディを組んで殺人事件を解決するとか。あっ、彼主役のスピンオフでもいいゾ。

 

②『うたかたの恋』(1969年)


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 ルドルフ皇太子のマイヤーリンク事件は何度も映画化されていますが、一番有名なのはこれ!監督は名匠テレンス・ヤング(『暗くなるまで待って』『夜の訪問者』)。今も第一線で活躍するフランスの名女優カトリーヌ・ドヌーヴが令嬢マリーを演じています。

 

★おススメ度

★★★☆☆……かなりエグい。ストーリーの政治的・歴史的背景もかなり複雑なので、元気な時に見てね!フロイトのキャラがもちょっと魅力的なら★1つ増えたんだけどなー。