オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

映画に見るウィーンの2つの貌〜『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』&『愛の嵐』

 今回ご紹介するのは、「映画で巡る四都物語」音楽の都ウィーンです。ヲタクもヨーロッパに住んでいた頃、夏休みを利用してウィーンを訪れました。パリやロンドンはあまり治安が良くなくて、絶対夜足を踏み入れてはいけない地域はあるし、ボーッとしているとすぐスリや置引きに遭うので常に緊張を強いられましたが、ウィーンは治安が良く、ウィーンっ子も大らかで親切、ノンビリと旅できたように記憶しています。……ところがウィーンを舞台にした映画というと、ヲタクが感じた街の明るい印象をそのまま描いた映画と、それとは裏腹に人間の心の闇を描いた、両極な映画が存在するような気がするんですよね。

 

 その原因は、ウィーンの持つ歴史に関連性があるような気がします。第二次世界大戦ヒットラー率いるナチスドイツはオーストリアを併合してウィーン入城を果たし、当時の首相シューシュニクはヒットラーオーストリア自治を認めてもらう見返りとして、半ユダヤの法律制定やナチス党員の内閣入閣等、屈辱的な条件を飲まざるを得なかった。しかし後年、この時のオーストリアの決断はヨーロッパ各国の批判に晒されることになりました。国際連盟加盟国でありながらなぜ連盟に助けを求めなかったのか?市民を挙げてナチスに徹底抗戦したパリやロンドンとは異なり、ヒットラー無血開城を許したウィーンは、親ナチスの烙印を押されてしまったわけです。

 

 その、ウィーンの人懐っこい貌に潜む歴史的な暗黒の部分が、ウィーンの人々の心の奥に翳を落とし、ウィーンを舞台にした作品は、時に人間の魂の内奥を抉り出すようなものも見られる……。ヲタクの深掘りしすぎ?(^_^;)

 

 …そこで今日は、そんなウィーンの対極の世界を描いた映画を2つ、ご紹介しましょう。


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★ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(1995年)

 ヨーロッパを横断する列車の中で偶然乗り合わせた若い男ジェシーイーサン・ホーク)と若い女セリーヌジュリー・デルピー)。男ジェシーはウィーンで下車して母国アメリカへ帰る飛行機に乗る予定でしたが、短い会話の中でも2人の間に何かを感じたジェシーは、パリまでそのまま列車に乗るというセリーヌに対して「夜が明けるまでウィーンで僕に付き合ってくれないか」と誘います。

 

 誘いに応じてジェシーと共にウィーンで下車したセリーヌ。2人は街角でアングラ演劇に誘われたり、カフェでお茶をしたり、プラーター公園の観覧車に乗ってウィーンの夜景を眺めたり、占い師から手相を見てもらったり……と、濃密な時間を共有し、そして……❗

 

 殆どが2人だけの会話劇なんですが、そのやりとりを通じて、ユーモアに溢れ、一見明るく自身に満ちたように見えるジェシーがじつは、自分の存在意義を見出だせず、両親の離婚のトラウマからか、恋愛にもしごく臆病になっていることが、観ている私たちにもだんだんわかってきます。一方セリーヌはソルボンヌの学生で、両親の愛情の下、恵まれた裕福な家庭で何不自由なく育ったお嬢。フランス人が不得意とされる英語も、ネイティブか❓っていうくらい流暢に操るクレバーさ。ラスト、互いに愛情を確かめあったのにアドレスも電話番号も交換せず、半年後ウィーンでの再会を約束して別れるシーン、特にジェシーの、セリーヌに対する愛と憧憬とコンプレックスがないまぜになった表情がめちゃくちゃ切ない……😢この作品はイーサン・ホークも脚本制作に係わっていることがわかっているから(2作目の『ビフォア・サンセット』、『ビフォア・ミッドナイト』では、セリーヌ役のジュリー・デルピーも参加)、彼の心の内奥を覗き込む一種のドキュメンタリーのような感じがして、ちょっとドキドキします。

 

 夜通し街角を彷徨ったり、公園で2人で寝転んでワインを飲んだり……と、1995年のヨーロッパでこんなことができたのはおそらくウィーンだけでしょうね(^.^; 平和で治安がよく、観光客フレンドリーなウィーンの一面を描いた代表的な例と言えるでしょう。

 
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★愛の嵐

 一方、ウィーンの明るい貌に潜む暗部を描いた典型的な作品が、ルキノ・ヴィスコンティ監督に心酔していたリリアーナ・カバーニ監督による「愛の嵐」。恐怖と美とデカダンスの融合、ヴィスコンティイズム満載の作品。


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※戦後は高名な指揮者の妻となってセレブ生活を送るルチア。過去の凄惨な記憶は忘れ去ったように思えましたが……。

 

 戦後ナチス狩りから身を隠すため、ウィーンの小さなホテルのナイト・ポーターとして名前を変えて働く男マキシミリアン(ダーク・ボガード)。ナチス高官だった彼は、かつてユダヤ人の少女を愛人にしていました。その少女ルチアは戦後指揮者の妻となりますが、夫の演奏旅行に伴って訪れたウィーンで、マキシミリアンと運命の邂逅をしてしまうのです。忌まわしい記憶を忘れ去ろうとしながら、泥沼のような関係に引き戻されてしまうルチア役を、今では英国、いや世界の名女優となったシャーロット・ランプリングが演じています(最近では彼女、フランソワ・オゾン監督のミューズですね。)ナチス高官たちによる倒錯の宴。上半身裸にサスペンダーをつけ、ナチスSSの制帽を被って気だるく歌い踊るシーンは、あまりにも有名です。血と暴力でしか愛を確かめられない男と女の悲劇。ダーク・ボガードの抑えの効いた演技と共に、シャーロットのファム・ファタルの「魔力」は圧倒的。


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 彼女を最初に見出だしたのはルキノ・ヴィスコンティ監督。17才の彼女は、ナチスドイツの台頭によって運命を狂わされていくドイツの名家を描いた「地獄に堕ちた勇者ども」でデビューし、この作品で共演したボガードの熱烈な推薦が「愛の嵐」に繋がっていきます。


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  シャーロット・ランプリングといえば有名なのが、あの三白眼。新人時代は、なんと「そんな目付きじゃ仕事が来ない。整形しろ」と言われたそうです。彼女は頑として受け付けなかったそうですが、一般受けはせず、爆発的な人気は博さなかったけれど、欧米の映画賞を総ナメにし、最近は大英帝国勲章まで……🎖️👀70才を越えた今でも多くの名匠に愛される彼女。卓越した演技力もさることながら、マニアックな映画ファンをトリコにする三白眼もその理由のひとつだと思うのですが…いかがでしょうか?


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※2人が運命の再会を果たすウィーン