『ベニスに死す』(1971年)
(From Pixabay)
19世紀末(…たぶん😅)のベニスを訪れた地位も名声もある富裕な老作曲家(ダーク・ボガート)。彼はそこで見かけたポーランド貴族の子息タジオ(ヴィヨルン・アンドレセン)の美しさに一目で心奪われます。老いて、後は醜く衰えていくばかりの自分と、瑞々しい美の絶頂にあるタジオ。美は芸術家の叡知や努力によってこそ造り上げられると自負していた彼の持論を粉々に打ち砕くかのような、自然が、神が造りたもうたタジオの美しさ。その日から彼は、美少年の姿を追い求めて、陽光溢れる砂浜やベニスの街角を彷徨い歩くのです。
折しもベニスの街には、黒死病たるペストがじわじわと流行り始めていました…。
舞台となるベニスのホテルの装飾や小さな調度品一つ一つに至るまで本物にこだわった、イタリアの名匠ルキノ・ヴィスコンティ後期の傑作。朝焼けの中水上を滑るように進む蒸気船が、ゆっくりとサルーテ聖堂に近づいていく冒頭のシーンからすでに、ヴィスコンティ独自の美の世界が展開します。
初めてこの作品に触れた時はヲタクもまだタジオと同じくらいの年齢だったので、タジオを演じたヴィヨルン・アンドレセンの神々しいまでの美しさにぽーっとなるばかりで、主人公の気持ちなんてちっともわからなかったけど、今回ブログで取り上げるにあたり、このトシになって見直した時には、もうね…。生命と若さに溢れた美少年を見つめる主人公の餓えたような眼差しと、一方では、病にかかった顔色の悪さを白粉と紅でごまかし、髪の毛を黒く染める哀れさ、滑稽さが胸に迫って苦しかった😅
歴史を刻むベニスの街角、全編を通して鳴り響くグスタフ・マーラーの交響曲第5番の荘厳な調べ。
生と死、若さと老い、光と翳の普遍的なテーマ。
画面の隅々にまでこだわり抜いた、後世語り継がれるべき名作。
(From Pixabay)
『トスカーナの休日』(2003年)
サンフランシスコに住むアメリカ人売れっ子作家フランシス(ダイアン・レイン)。ふとしたことから夫の不倫を知り、それからは長い長い泥沼の離婚騒動。傷心の彼女は親友から旅に出ることを勧められ、トスカーナを旅することになります。旅先で古い一軒家が売りに出ているのを見て、衝動的に買い取ってしまいますが…。
サンフランシスコなんて便利な近代都市から移住してきたフランシスは、あちらこちらにガタが来ている古い家に戸惑いながらも、カナヅチ持ってリフォームに孤軍奮闘。これ、ヨーロッパの田舎ではあるあるで、ヲタクがベルギーの田舎町に住んでいた時には、日曜日になると近所の空き地に親族らしき人たちが集まって基礎を作り、レンガを積み上げて家を手作りしてたのを見て驚きましたもん👀家のどこかが壊れても大家さんはなかなか対応してくれないし、業者を呼んでも1週間くらい音沙汰ないんで、いきおい、何でも自分たちでDIYするようになっちゃうんですよねぇ。
フランシス、新たな恋が始まるかと思いきや、またまた苦い結末に…。それでも、彼女に生きる喜びを再び与えてくれたのは、トスカーナの人々の温かい人情と家のリフォームを手伝ってくれたワケありポーランド移民の職人たち、そして美しい自然、美味しいワインと食べ物でした😊
これはもう、すぐにでも荷造りしてイタリア行きの飛行機に乗っちゃいたいキモチになる映画❗
…って今はムリだけど、いつか必ず♥️
(From Pixabay)
『胸騒ぎのシチリア』(2015年)
この邦題、まるで風光明媚なシチリアを舞台にしたロマコメかと思いきや、ぜんぜん違います(笑)原題は『A Bigger Splash(大きな水しぶき)』シチリアのパンテッレリーアという火山島を舞台にした、恋愛心理サスペンスとでも言いましょうか。
声帯手術をして、今は声を失った状態のロック・シンガー、マリアン(ティルダ・スウィントン)は親子ほども年の違う若い恋人ポール(マティアス・スーナールツ)とパンテッレリーア島のヴィラで静かに暮らしていました。そこに、元恋人で音楽プロデューサーのハリー(レイフ・ファインズ)が、離婚した妻との間にできた娘ペネロペ(ダコタ・ジョンソン)を連れて強引に乗り込んで来ます。大量の食材を勝手に注文したり、女友達を連れ込んだり、傍若無人に振る舞うハリー。そして、ペネロペ(愛称ペン)もどこか謎めいてエキセントリック。それぞれ秘密を抱える四人の間には張りつめた緊張感が漂い、マリアンとポールは次第に精神の均衡を失っていきます。
そしてある日、思いもよらぬ恐ろしい出来事が…。
ロケ地となったパンテッレリーアは ほとんど観光地化されておらず、 手付かずの荒々しい自然が残る世界遺産の島。シチリア出身のルカ・グァダニーノ監督(『君の名前で僕を呼んで』『サスペリア』)は、 この島を舞台に選んだ理由として、「ありふれたリゾート地や別荘ではなく、 他人同士であることの危険な感覚や、 登場人物の衝突をもう一段階進めるような、 生まれ持った危機感や本能が剥き出しになるような場所が必要だったから」と語っています。
「登場人物の心理がわかりにくい」とか、「展開が遅い」とか言われて、見る側の好き嫌いがかなり分かれるグァダニーノ監督ですが😅たとえ登場人物の心理が深く洞察できなくても、世界遺産の島の素晴らしい自然(見たところ、ベニスやトスカーナと違って観光ホテルもなさそうだから、これは映画で見るしかない😅)や、ギリシャ彫刻のような長身のヒロイン、ティルダ・スウィントンが身にまとうDiorのゴージャスな衣装を見るだけでもウットリです。ハリーが作る魚の塩釜焼きや、島独特の製法で作られるリコッタチーズもめちゃくちゃ美味しそうだし。
…そんな映画の楽しみ方があってもいいんじゃないでしょうか😉