オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想、推し活のつれづれなどを呟いたりする気ままなブログ。

『アフター・ヤン』(A24)~風のそよぎ、葉の揺らぎ


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KINOCINEMA横濱みなとみらいで『アフター・ヤン』鑑賞。「珠玉の作品」とも呼ぶべき名作を、再びA24が生んだ❗

 

 ヒト型ロボットが人間の人生の伴侶として「普通に」受け入れられている近未来。アイルランド系の父親ジェイク(コリン・ファレル)とアフリカ系の母親キラ(ジョディ・ターナー=スミス)、中国から養子に迎えた一人娘ミカ(マレア・ウェラ・サンドラウィジャヤ……中国系なのに、名前はなぜか日本名  笑)、そしてロボット(映画の中では※1「テクノ」と呼ばれています)のヤン(ジャスティン H. ミン)は、※2仲の良い理想的な家族でした。

1 この映画で音楽を担当している坂本龍一へのオマージュでしょうか。時代の先端を行くテクノポップの旗手だった坂本龍一。それが、全編「侘び寂び」のようなこの映画で音楽を担当……隔世の感あり、ですね。

※2冒頭の、ヤンも一緒にダンスバトルで踊るシーン、めちゃくちゃ可愛い😍だから尚更、その直後ヤンが壊れちゃうのが悲しく、切ない😭

 

ところが突然、ヤンは故障して動かなくなってしまいます。ヤンを兄と慕い、当然のことのようにずっと一緒にいれると思っていたミカのショックは計りしれません。ジェイクはあらゆる修理店にヤンを見せてミカの為に何とかヤンを直そうとしますが、どうやら「コア」と呼ばれるテクノにとって一番重要な箇所がダメージを受けており、修理は不可能のようです。大きなショックを受ける家族。ところが、ヤンは1日に数秒間、見たものを記録する機能が備わっていたことがわかり、ジェイクはそのメモリーを頼りに、ヤンの生涯を辿る旅にでますが……。

 

  先日のイーロン・マスクの発表会などを見るとロボット技術と言ってもまだまだだし、ヲタクが生きているうちはこんな世界を体験することはないだろうな……と思うけど、でも、何世代か先には確実に訪れるんだろうなぁ……と思いながら見ました。

 

  コゴナダ監督の描く未来では、人類はもはや、人種・民族の違いはとうに乗り越えているようです。が、さらにそこには「テクノ」や「クローン」という新人類の存在があり、お互いに受け入れ、違いを許容しようと努力する姿が描かれます。また、人類はアンガーマネジメントが非常に進化していて、家庭でも社会でも基本的に穏やかで静謐な時間が流れているようです。

 

  ヲタクが非常に面白いなと思ったのは、人類が未来において平和な世界を保つために、どうやらコゴナダ監督は、善と悪、不正と正義が対立する二元的な、言わば西欧的な考え方ではなく、清濁合わせ飲む、というか境界線の曖昧なアジア的な考え方が必要……と考えているらしいこと。(ジェイクとヤンの「茶道問答」や、ジェイクとキラの「ラーメンを食べると気持ちが落ち着く」という台詞など、随所にそれは見てとれます)監督は※小津安二郎の熱烈な信奉者としても知られており、先にヲタクが言った「穏やかで静謐な」世界、家族の意味を問いかけるテーマには、確実に小津作品の影響が透けて見えるようです。

※ヲタクは日本映画の巨匠というと、若い頃は人でなしの耽美映像作家、溝口健二一本やりだったんですが、最近はとみに小津作品が好きになりました。原節子の、とうに廃れてしまった日本女性のたおやかさとか、笠智衆の訥々とした喋り方だけで泣けてくるってどうしたもんか(笑)

 

韓国系アメリカ人のコゴナダ監督。「顔はアジア人でも、中身はアメリカ人」の戸惑いと悲喜劇は、同じA24の名作『フェアウェル』や『クレイジー❗リッチ』でもユーモアを交えて描かれていますが、ヤンの「自分は何者❓」というアイデンティティの希求は、監督自身の投影でもあるのでしょうか。

 

 当初はテクノやクローンの存在に固定観念や差別心を持っていたけれども、娘の為にヤンの人生❓を追体験するうち、次第に心境が変化していく父親役に、アイルランド出身の俳優コリン・ファレル。どちらかと言うと地味で、誠実なタイプの演技派だけど、出演作を思い返してみると、ソフィア・コッポラ(ビガイルド / 欲望の目覚め)とか、ヨルゴス・ランティモスとか(『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』)、近々公開される『イニシェリン島の精霊』のマーティン・マクドナーなどそうそうたる監督たちが、しかも世間の耳目を集めるような先鋭的な問題作にこぞって彼を起用してしてるんですよ。鬼才天才のイマジネーションを掻き立てる何かを持ってるんでしょうね、彼。『イニシェリン島の精霊』では、ヴェネチア国際映画祭で、初の主演男優賞に輝きました。

 

  秋の風が吹き抜けていくのを感じながら、黙って枯山水の庭を眺めているような……そんな静かな癒しを与えてくれる作品。心が疲れている時にどうぞ(笑)

 

★今日の小ネタ

映画の中でミカがヤンに教えてもらって繰り返し口ずさむのは、懐かしや『リリィ・シュシュのすべて』で使用された『グライド』(作曲・小林武史)❗小林御大、ほんの数ヶ月前に宮本浩次さんの『縦横無尽』コンサートで拝見したばかりだわ。「分別ある大人の男」って感じでカッコよかった。映画には直接カンケイないけど(笑)