オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

映画少年の「夢」とインドの「いま」〜『エンドロールのつづき』

 
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インド・グジャラート州の田舎の駅で、学校に行く傍ら、チャイ売りの父の仕事を手伝う少年サマイ(三千人ものオーディションの末、選ばれたというバーヴィン・ラバイ。喜怒哀楽それぞれの表情が素晴らしいです)。彼は、生まれて初めて連れて行ってもらった映画に夢中になり、それからというもの学校をサボっては映画館にもぐり込む日々。ある日それがバレて路上につまみ出されたサマイですが、その様子を見ていた映写技師のファザルが「そんなに映画が好きなら、俺の手伝いをしながら、映写室から見るといい」と助け舟を出してくれます。その交換条件は、料理上手なサマイのお母さんが作る美味しいお弁当でした。映写室からこっそり見る数々の映画は禁断の蜜の味。ファザルは、「物語が映画を作る」と教えてくれましたが、サマイがそれよりも魅せられたのは、「光」。フィルムに焼き付けられた「物語」が、映写機を通してスクリーンに躍動する、そのメカニズムでした。サマイは仲間と共にフィルムを盗み出し(^_^;)棄てられたタイヤやブリキを拾って自家製の映写機作りを始めますが…。

 

 BBCディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーを手掛けてキャリアを積んできたパナ・ナリン監督。昨年(2022年)には、グジャラート州出身者として初めて米アカデミー会員にも選ばれたそうです。この映画で描かれた少年時代のエピソードは、全て事実だそうです。

 

 貧しくても、モノがなくても、知恵(時には悪知恵ですが 笑)を絞って、「好きなもの、ドキドキするもの」を自分の手で創り上げていくサマイと仲間たち。列車に揺られながら、次々と移り変わっていく光の模様が壁に映るさまを歓声を上げて見つめるシーンは感動的です。世界は奇跡に満ちている……と言ったのは誰だったろう。どんなに些細で平凡な出来事でも、受け止める心が柔らかく純粋なら、それはきっと奇跡になる。この映画は、ヲタクがとうの昔にどこかに置き忘れてきたワクワク感を思い出させてました❗

 

 一方、好奇心と希望に満ちた少年サマイの姿とは対極的な、夢破れた大人たちの姿を通して、現代インド社会の歪みもしっかり描かれています。サマイの父親は、バラモンの名家の出で、かつては牛を五百頭も飼っていたのですが、親族間の争いで全てを失い、今は駅のチャイ売りに甘んじています。また、サマイの映画の師とも言えるファザルは、ある日突然、技師の職を解雇されてしまいます。彼の勤める映画館が、旧来のフィルム映写方式から、PCを使った最新のシステムに切り替えたからです。「なぜファザルが辞めさせられるの」と問うサマイに、ファザルは「最新のやり方は、※英語が理解出来なきゃ、ダメだ。俺には無理だ」と寂しそうに答えるのでした。…そんな大人たちが、サマイの夢をそれぞれのやり方で後押しするさまは胸アツです😢

映画作りを夢見るサマイに、「夢を叶える為には、今の村にいちゃだめだ。発て、学べ」と励ましてくれる小学校の先生。先生はまた、「今のインドにはカーストという階級制度は存在しない。英語を話せる階級と話せない階級の2つだけだ」って生徒たちに言ってました。インドの変化のうねり…みたいなものが垣間見れて興味深かったです。日本ももっと、英語教育に本腰入れなきゃ❗

 

 映画のラストに、ナリン監督が自分が師と仰ぐ監督たちに賛辞を贈るんですが、「偉大なる先達」として、※リュミエールアンドレイ・タルコフスキーデヴィッド・リーンミケランジェロ・アントニオーニら、世界の名だたる巨匠に混じって、勅使河原宏黒澤明小津安二郎の名前が〜〜❗やっぱり日本人としてはめっちゃ嬉しいですね。黒澤と小津は定番だけど^^;、勅使河原監督の名前が出たのは嬉しかった。いわゆるジャポニズム、異国情緒的な魅力を持つ日本ではなくて、彼の作品の持つ、文化のグローバリゼーションが評価されたと思うから。また、監督がインタビューで、「日本映画界における女性たちの活躍にもっと焦点が当てられるべきだ。例えば田中絹代さんとか」って語っていたのが凄く印象的。溝口健二より田中絹代ってとこがね(笑)

※さすが最初に「光」に魅せられただけあって、リュミエール兄弟の名前がまず最初に出ましたね。エジソンの開発したキネトスコープを改良してスクリーンに映し出し、大勢の人が一度に見れるようにしたシネマトグラフの発明により、「映画の父」と呼ばれます。テュエリー・フレモーが2016年に制作した映画『リュミエール❗』を見ると、兄弟の発明がいかに偉大なものであったかが理解できます。


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★今日のおまけ

サマイのお母さんが作る料理がめっちゃ美味しそう〜〜🤤野菜の煮込みとかチャパティとか蒸し物とか…。サマイが映写室に特別に入れてもらえたのも、お母さんの料理のおかげ。母は偉大なり(笑)