オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

ディープなハマに異世界トリップ〜濱マイク『遥かな時代の階段を』


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 横浜黄金町のミニシアター「ジャック&ベティ」にて、待望の濱マイク映画3部作のうちの第2弾『遥かな時代の階段を』鑑賞。ご存知マイクは黄金町で生まれ育ったという設定なので、映画を観た後、作品中マイクがジェットスキーを乗り回していた大岡川を眼下に見ながらまた黄金町の駅に戻って行く……って何だか、妙な感じ(笑)。

 

 濱マイク第2作は、第1作目のサイコなラスボス神野(佐野史郎)が、あろうことか横浜市議に立候補する……というトンデモ展開で幕開け。893のフロント事業が市議会ってどーなの❗❓って感じですが(^.^;彼はアジア系外国人による新興暴力団「黒狗会」のボスでしたが、今度は横浜市議となって、正面からハマを牛耳る魂胆。そんな彼を「日和った」と責める数人の幹部たちは、未だ彼らの傘下に入っていない大岡川沿いを制圧しようと暴走を始めます。川沿いは違法薬物の密売、買春、何でもアリ……で莫大な利益を上げていましたが、戦後の闇市時代からのし上がった伝説の人物「白い男」(岡田英次)が一帯を牛耳っており、海上保安庁も他の893も神奈川県警も手出しの出来ない治外法権の無法地帯。血気にはやる黒狗会の面々は川沿いのシマに殴り込みをかけ、案の定返り討ちに遭ってボロボロ(^o^;)一方マイクも、「白い男」一味を一網打尽にしようと目論む中山刑事(麿赤兒)から命じられ、「白い男」の傘下で金庫破りを繰り返すバーのママ幸子(白川和子)の周辺を探り始めますが、それはマイクにとって、今まで背を向け続けてきた、自らの出自と対峙することに他なりませんでした……。


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※黄金劇場……1970年代から40年以上営業していた実在のストリップ劇場。2013年6月27日付で廃業。

 

 マイクと妹の茜を幼少時に捨てた母親(鰐淵晴子)が「黄金劇場」のストリッパーとしてハマに舞い戻って来る設定なのですが、何と言っても晴子姐さんの色気が圧倒的過ぎる……。この時、鰐淵晴子はなんと、御年50才❗元祖美魔女だよね。彼女が桜の花が咲き誇る下、大岡川を舟で下ってくる初登場シーンは妖艶で美しく、この映画を初めて見た時ヲタクの脳裏には「桜と大岡川」がインプットされ、それ以来ヲタクのお花見といえば大岡川クルーズ。単純なものです(笑)


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大岡川の桜


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※鰐淵晴子。映画『悪魔が来たりて笛を吹く』『眠れる美女』など、ファム・ファタルを演じさせたらピカ一でしたよね。

 

 港ヨコハマ……と言えば、みなとみらい周辺の都会的で煌びやかなイメージを抱く方々が多いと思いますが、横浜はもともと、港に着く船の船員や気性の荒い港湾労働者たちが築き上げた街。そしてそんな男たちが一夜の慰めにした花街の女たちの街。林海象監督の『濱マイク』トリロジーにはそんなディープな匂いが立ち上り、まるでハマの裏の顔を見る思い。特にマイクが、坂本スミ子演じる「ハマのメリーさん」を水先案内人にして「白い男」の本拠地に乗り込んでいくシーンはまるで、戦後間もないハマの闇市に迷い込んだような錯覚を覚えます。今この時代になっても、黄金町や日の出町、伊勢佐木町の狭く暗い路地に入るとそこはまるで迷宮のようで、何かの拍子に異世界に連れ去られてしまうのではないかと、ヲタクは時折恐怖感に駆られることがあります。


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※「白い男」の本拠地として撮影に使われたのは根岸の競馬場跡。廃墟マニアには人気のスポットです。モノ好きのヲタクでも怖すぎて、夜訪れたことはさすがにありません。なんだかドラキュラでも出てきそう(笑)

 

 映画やTVドラマではほとんど描かれることのない、ヨコハマの裏面史。濱マイクと共に、ディープなハマの異世界に冒険に出かけてみませんか❓

 

 

 ★今日のオマケ〜国際派俳優のハシリ・岡田英次

 今作のラスボス「白い男」を演じる岡田英次。前作『わが人生最悪の時』佐野史郎のサイコっぷりも凄かったけど、今回の岡田英次は渋くて上品なイケオジ、悪役ってわかってても惚れてまうわ(笑)。マイク役の永瀬正敏ジム・ジャームッシュ監督作品をはじめとして海外映画でも大活躍だけど、岡田英次はあの巨匠アラン・レネ監督の『二十四時間の情事』で堂々エマニュエル・リヴァの相手役を務め、さらには、カンヌ国際映画祭をはじめ海外の国際映画祭を総ナメにした『砂の女』出演(監督・勅使河原宏)と、元祖国際派俳優なんであります。しかし『遥かな時代の階段を』が公開された1995年、心不全のために75才で急逝されました。まだまだご活躍されると思っていましたが…残念です。


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※『二十四時間の情事』(1959年)岡田英次エマニュエル・リヴァ(リヴァは、認知症の妻を演じて鬼気迫る『愛、アムール』(2012年)が記憶に新しいですね)


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安部公房の原作を映画化した『砂の女』(1964年)岡田英次岸田今日子マーティン・スコセッシやジャン・リュック・ゴダールも絶賛したという『砂の女』ですが、砂があんなにエロいもんだとは……(笑)