オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

パリを舞台にしたおススメ映画PART1『幻滅』『メグレと若い女の死』『エッフェル塔〜創造者の愛』

 いつの頃からでしょう、「映画で巡る4都物語」について語りたい……という想いがヲタクの中で芽生えたのは。4都……とは、いまだその地を踏む機会がない憧れの街ニューヨーク、今まで訪れてすっかり魅了されてしまったロンドン、ウィーン、パリの4都。これまでニューヨーク、ロンドンについて書きました。今日は花の都パリ❗昨年秋に開催された「フランス映画祭」の中から、現在上映中あるいは公開を間近に控えた、パリを舞台にした作品を選んでみました。

 

★幻滅


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※主人公の詩人志望の青年(バンジャマン・ヴォワザン…中央)と、売れっ子小説家(グザヴィエ・ドラン…右)

 

フランスの文豪オノレ・ド・ヴァルザック原作の『幻滅』を堂々映画化、2時間半に及ぶ大作ですが、全く長さを感じさせない、さすがセザール賞7冠の名作です。ヲタク的にはフランス映画というと、人生の断片を独自の視点で切り取った、ミニシアター向けの小品が基本的には好きなんですが、この『幻滅』のような商業的大作もやっぱり凄い!さすがモリエールラシーヌを生んだ国、舞台演劇の屋台骨、ハンパないです。

 

  19世紀前半のフランス。王政復古後、貴族と反体制派の対立は益々激化、ちょうどその頃印刷術の進化で新聞の発行部数が急激に増え、いわゆるジャーナリズムが世論を牛耳るようになっていました。驚くべきは、新聞記者たちは1つの事柄について賛辞と酷評を使い分け、料金を釣り上げる手法をとっていたこと。世論を分断して論争を巻き起こし、さらに部数をアップさせる。袖の下如何で記事内容をころころ変えるなんてお手のもの、特に演劇評に至っては、大勢のサクラを雇って、金額の大小でスタンディングオーベーションにもブーイングにも転ぶ業者がいる始末。……え?これって今ツイッターやヤフコメで問題になってることと同じじゃない?もしかして。ジャーナリストって、公正な立場で真実を伝える人じゃなかったのかよー!

 

……そんな激動と混沌の時代、フランスの田舎町で印刷工として働きながら詩人になることを夢見る純朴な青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)が、地主である侯爵夫人(セシル・ドゥ・フランス)と禁断の恋に落ち、駆け落ち同然でパリに出奔、パリという野望と策略と欲望に満ちた魔都に幻惑され、翻弄され、飲み込まれていく様を、時にはユーモラスな皮肉を込めて、時には冷徹に、そして時には哀切に描いています。


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 うたかたの成功に有頂天になって次第に暴走し、欲望にまみれながらも、どこかピュアさを失わない主人公に、バンジャマンはこれ以上の適役はないくらいピッタリで、『Summer of 85』の時と比べると格段に演技の深みと豊かさが増し、まさに「新たなるスタァ誕生」の瞬間を、ひと足早くこの眼にした嬉しさでいっぱい!フランス映画祭の一環としてこの作品が上映された後、バンジャマン・ヴォワザンご本人が登壇、客席から多くの質問が殺到しましたが、一つ一つに耳を傾け、真摯に答えてくれた彼。俳優という職業に真剣勝負を挑む、一人の生真面目な青年の姿がそこには在りました。

 

  若き詩人を演じるに当たり、彼の内面を個人的に深掘りするよりもむしろ(その作業は監督や脚本家がしっかり土台を作ってくれているから、素直にその指示に従っていればいい……というのが彼のスタンスみたい)、19世紀ロマン派の文学や音楽に親しみ、その時代背景そのものを理解しようと務めたそう。このバルザックの小説は彼のおじいちゃんの一番の愛読書だそうで、孫として誇らしいと語るバンジャマンはやっぱり可愛ええ……(結局そこ  笑)

 

  この作品の演技で、見事セザール賞新人賞を受賞した彼。その時の感想を求められて「これ、本物の金かな?幾らくらいするのかなって不純なこと考えちゃった」とジョークを飛ばしつつ、「受賞をきっかけに、優れた監督たちが僕を次の作品で使いたい……って思ってくれたら嬉しいな」と語るバンジャマン。

 

大丈夫!フランソワ・オゾンやグザヴィエ・ジャノリに認められた貴方のこと、これからきっと、大勢の監督たちが貴方に創作意欲をかきたてられるはず(断言)次回の作品で、彼の更なる成長と進化を目撃することを楽しみにしていましょう😊

※映画『幻滅』は、2023年4月14日(金)全国公開予定。

★メグレと若い女の死


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パトリス・ルコント監督が、フランスで国民的人気を誇るミステリー、ジョルジュ・シムノン原作の『メグレ警視シリーズ』から、『メグレと若い女の死』を名優ジェラール・ドパルデューを主役に迎え、見事に映画化❗

 

ルコント監督はインタビューの中で、今回の映画化のきっかけについて、「ジョルジュ・シムノン原作のメグレ警視シリーズのファンであることはもちろんのこと。警視の寡黙でありながらも人間に対する深い洞察力を持ち、しかも人間味のあるところが好き。……でもそれよりも何よりも、ジェラール・ドパルデューという俳優の演技を映像として後世に残したかったから」と語っていました。巨匠ルコント監督(『仕立て屋の恋』『髪結いの亭主』)にここまで言わせるって、ドパルデューってどんだけ凄いんだ……笑

 

  もはや、ルコント監督のメッセージが、この映画の全てを語っていると言っても過言ではありますまい。フランスの誇る名優ジェラール・ドパルデュー。ヲタクが彼の映画を盛んに見ていたのは、『グリーンカード』や『シラノ・ド・ベルジュラック』、『岩窟王』、『ダントン』等々、ドパルデューがエネルギッシュな壮年の魅力に溢れていた頃。しばらく彼の作品見ていなかったから、恬淡とした……というか、枯れた、内面からそれまでの人生の軌跡がうかがえるような味わい深い演技がある意味衝撃でした。考えたらもう73才なんだものねぇ……。


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 さて今回の『メグレと若い女の死』。年代はおそらく1950年代のパリでしょう。第二次世界大戦の痛手からまだまだ立ち直っておらず、労働者たちは貧困に喘ぎ、労働条件の改善を求めてストライキを繰り返し、美しい筈のパリの街もゴミだらけ……だった頃。そんなパリの街で発見された、20才そこそこの若い女性の刺殺体。ゴージャスなドレスを纏っているにもかかわらず、アクセサリーや靴、バッグは安物で、胃の中は空っぽ。身元がわかるものは何一つ身につけていませんでした。メグレが地道な捜査を続けるうち、彼女は、文化・芸術の中心地であるパリに憧れて出てきたものの、生活の術が見つからずにいつのまにか闇の世界に堕ちていく少女の一人だとわかってきますが……。

 

  容疑者を尋問するのに、口を軽くする為にサンドイッチとビールを出してやるとか、ご遺体を見るとすぐに「目を閉じてやれ」と部下に言う優しさだとか、さりげないセリフの応酬の中に、メグレの人柄が垣間見れる展開がイイです😊また、「被疑者の自白を引き出すコツはひたすら相手の話を聞くこと」や、「殺人者は自分が殺人する意識は持たない。自分が「生きる」為に、他者の人生を終わらせると考える」等々、メグレ独自の哲学が、ドパルデューの自然体で慈味溢れる演技によって嫌味なく語られます。

 

 メグレの人物像と合わせて、 殺人事件を捜査するうちに知り合った、娘ほど年の違う若い女性とメグレの心の交流も、殺伐として陰鬱なストーリー展開に、どこか温かい雰囲気を添えています。

※映画『メグレと若い女の死』は、2023年3月17日(金)全国公開予定。

 

エッフェル塔〜創造者の愛


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ヲタクは昨年秋、横浜みなとみらいで開催されたフランス映画祭で鑑賞しました。あの有名なパリのエッフェル塔の設計者、ムッシュ・エッフェル(『タイピスト!』のロマン・デュリス)の、エッフェル塔建設に至るまでの想像を絶する苦労を正攻法で描いた映画。いかにもフランス的だなぁ…と思ったのは、しっかり彼のロマンス(誤解の為に別れた元カノと再び巡りあった時、彼女は既に人妻でした。二人の間に燃え上がる禁断の恋)も絡めてくるところ。…ってゆーか、そっちのほうがメイン?(笑)


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 日本だと、恋愛は二の次にして大事業に没頭する……というのが良しとされがちだけど、フランスの場合は恋のマグマが仕事のエネルギー源になるって感じ?……それに、フランス映画見ていて「不倫」って言葉に出会ったことがないなぁ。たとえお互い結婚していても、「恋~アムール」なんだよね。サスガ「恋に生き、愛に生きる」フランス人だけあります。

 

 今回の作品で特筆すべきは、ムッシュ・エッフェルの元カノで、再会した彼を根こそぎ翻弄するファム・ファタル、アドリエンヌを演じたエマ・マッキー。エッフェルと口論の末に冷たいセーヌ川にドレス姿で真っ逆さまに飛び込むシーンなど、文字通りカラダを張った大熱演。フランスを代表する名優ロマン・デュリスに一歩もひけをとりません。この作品の演技で彼女は、英国アカデミー賞新人賞を受賞、今後の活躍に大注目❗です。

※映画『エッフェル塔〜創造者の愛』は、絶賛上映中です。