オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

目覚めていく女たち〜『ウーマン・トーキング/私たちの選択』

 
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時は2010年。文明の利器を拒否し、自給自足で生きるキリスト教一派のコロニー。コロニーの女性たちは長年にわたり、家畜用の鎮静剤を飲まされて男性たちにレイプされ、出産を繰り返していました。その犯罪行為が発覚して何人かの男たちが逮捕されたものの、他の男たちは自らの卑劣な行為を反省するどころか、保釈金を支払うために総出で街へ出かける始末。目覚めた時に身体に刻まれた傷が、神の御業などではなく、男たちの暴力によるものだと知った女たちは、子どもたちを、そして自分たちの尊厳を取り戻すためにいかなる行動を起こすべきか、まず投票を行います。選択肢は3つ。


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※自らの立ち位置を冷静に見極め、議論を誘導する知性派オーナ(ルーニー・マーラ)。オーガストから愛を告白されますが‥‥。

 

1 男たちを赦し、コロニーに留まる。

2 コロニーに留まって戦う。

3 コロニーを出る。

文字を習うことさえ禁じられた女たちは、内容を表す絵の下に✕印をつけていく……そんな基本的な学習の権利さえ剥奪されて生きてきたのかと、冒頭のシーンから胸が痛みます。

 

 女たちに与えられているのは、男たちが街へでかけているたったの2日間。彼女たちは投票結果を元に、自分たちはこれからどう行動すべきか、夜を徹して話し合いを始めます。


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※『ザ・クラウン』や『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』など、最近はおしとやかな英国淑女役の多かったクレア・フォイ。今回は子どもたちのために手を血で染めることも厭わない強い女性を熱演。

 

 様々な意見、様々な個性を持つ女たちが白熱の議論を重ねる中、ヲタクが最も感銘を受けたキャラが、マリチェ(ジェシー・バックリー)。彼女は酒乱の夫から日常茶飯事に暴力を振るわれているのですが、コロニーの教え「赦しを与えることができぬ者は天国の門を潜れない」に縛られ、また子どもたちを連れて未知なる世界へ踏み出す恐怖から、コロニーを出ることに最後まで抵抗します。また彼女は同時に、知性的で冷静なオーナ(ルーニー・マーラ)や行動力のあるサロメクレア・フォイ)に対して、心の底で複雑なコンプレックスを抱き、2人に対して必要以上に闘争的になっています。そんな彼女が議論を重ねる度に次第に変化していき、ついには、「私は3つの権利に目覚めた。1つ、母として子どもたちを守る権利。1つ、信念を貫く権利。1つ、考える権利。」という心境に達するシーンでヲタク、(ああ❗良かった‥‥!)と、目から滂沱の涙が‥‥‥😢社会全体から不当に虐げられたり、家庭でDVを受けている女性って、おそらくマリチェのような思考回路になりがちだと思うからです。


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※コロニーの権力構造を疑問視した母と共に一旦はコロニーを抜けたものの、少年たちの教育のため再び戻ってきたオーガストベン・ウィショー)。コロニーの中で唯1人、男たちの暴力を恥じ、女たちのために何か行動しようと願う男性。読み書きが出来ない彼女たちのために会議の書記を買って出る。不当に虐げられている女たちに寄せる彼の深い哀しみの表情に注目❗

 

 彼女たちがどんな選択をしたのかは、ぜひ実際に作品を観て、確かめてみて下さい。これは、ある特別なコロニーの、特別な話では決してありません。今この時も、何らかの理由で、「自分で考えて、自分で決断を下す」という人間として当たり前の権利を剥奪された女性たちが、世界のどこかに存在しているのです。


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※コロニー脱出計画をDV夫に感づかれ、激しい暴力を受けるマリチェ(ジェシー・バックリー)。

 

 1人でも多くの人が、映画館に足を運んでくれますように。当代きっての、綺羅星のような女優さんたちの演技合戦も見ものですゾ。