オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

女縁バンザイ!〜『彼女たちの革命前夜』

 
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 Amazonプライム・ビデオにて『彼女たちの革命前夜』(BBCフィルムズ)鑑賞。

 

 1970年、戦時下のベトナムアメリカの有名なコメディアン、ボブ・ホープミス・ワールドと共に登場、彼女にさりげなくボディタッチしながら「帰って家に彼女がいたら、共産主義者も戦争やめるだろ」なんて、今じゃ炎上必至なセリフを吐いて、兵士たちがやんやの大喝采…というシーンからこの映画は始まります。いかに性差別の酷い時代だったかということをこの冒頭のシーンだけでさりげなく伝える方法がニクイです。

 

 場面は変わって英国のロンドン。本作のヒロイン、シングルマザーのサリー(キーラ・ナイトレイ)は歴史を学び直したいと一念発起、見事合格したものの、同級生は(もちろん)はるか年下の男子学生ばかり。ゼミの討論でも主任教授は彼女をガン無視、論文のテーマに「女性の労働史」を選べば、「そんなテーマは限定的すぎる」と全否定。憧れの大学生活の理想と現実の落差に毎日鬱々とするサリーでしたが、折しもロンドンで初開催の女性解放運動のイベントで、ウーマン・リブ活動家のジョー(ジェシー・バックリー)と知り合います。ジョーはコミューンの仲間たちと共に、当時英国で1番の話題だったミス・ワールド大会を妨害しようという計画を立てていました。サリーは、志は同じでもジョーの「何でもかんでも実力行使」的なやり方に不安と反発を覚えましたが、ジョーから半ば強引に活動に引きずりこまれ……。


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 何せウーマン・リブも黎明期なもんだから活動そのものが行き当たりばったり(^_^;)、志は高くても実際は、女性蔑視なポスターにスプレー吹きかけるだけとかいまいちプリミティブ(笑)そんな彼女たちが「ミス・ワールド世界大会」の妨害なんて大それた計画を立てちゃったものだからさあ大変。事態は思わぬ方向に転がっていき、そのプロセスにハラハラドキドキ。若さゆえか、かなり危なっかしい彼女たちなので、おばさん心配なのよ(笑)。

 
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※ヲタク大好き、ジェシー・バックリー。彼女が画面に出てくるとつい目が行っちゃう。こういう、ちょっとヤサグレた役が似合うのよね(笑)

 

 何と言ってもサリーやジョーをはじめとする女性活動家たち、そしてミス・ワールドの参加者たちの共闘が最大の見どころ。「男性にモテたい」とか「選ばれたい」って思うと女同士はみんなライバルになっちゃうけど、彼女たちは当然そういう縛りはないわけで。「女性解放」っていう同じ目的のため(立場や方法論が違うのでたまに衝突はするんだけど)純粋に共闘する姿が描かれていて、見ててスカッとした❗

 

 ウーマン・リブの闘士たちの側だけではなく、ミスコンの出場者たちのキャラもしっかり描かれていて良かったなぁ。参加者の中でも一番人気のスウェーデン代表サンドラが実は、それを全く喜んでおらず(彼女は実は英国の大学で学び直すための資金作りのために参加しただけなのです)、「1列に並ばされてスリーサイズを測定されるなんて牛の市場と同じじゃん」と吐き捨てるかと思えば、「美を品評される」ことを逆手に取って、客室乗務員からTVキャスターに転身を狙う野心家のジェニファー(ググ・バサ=ロー)が、カリブ海の島グレナダ代表の黒人であるがゆえに記者たちからも無視されるなど、悲喜こもごもの場面が次々と展開します。女性解放の活動家によるミスコン妨害事件を『Misbehavior(不正行為…原題)』と名付けながらも、登場人物全てを是非だけで断罪せず、あらゆる視点から描いている群像劇といえるでしょう。


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カリブ海の小国グレナダ代表・ジェニファー役のググ・バサ=ロー。ジェニファーの存在によって、ミスコン自体が決して「悪」なのではなく、向上心の強い(特に発展途上国の)女性たちに、世に出るチャンスを与えるという役割を担ってきたのだという事実も垣間見ることができました。

 

 今作はBBCの製作なんだけど、こういう実話を基にした社会派のドラマ、ヲタクはだんぜん英国製が好き。アメリカ映画のこの手の作品って、アメリカ本来のピューリタン的な容赦の無さや、若干正義感の押し売りがハナについて重苦しい(暴言お許し下さいm(_ _)mあくまでも個人的な意見です)。様々な主義主張がぶつかり合う作品には、(うん、そういう考え方もあるよね)っていう、清濁併せ呑むオトナの余裕が欲しいんです。本作品では、ところどころにクスッと笑える皮肉とユーモアが滲んでいて、けっしてハッピーエンドとは言えないほろ苦い結末を救っています。2014年のやはりイギリス映画『パレードへようこそ』を思い出したなぁ……。ボブ・ホープの妻役にレスリー・マンヴィル、大会創設者の妻役にキーリー・ホーズと、英国を代表する名女優たちを脇に配したのも、質の高い作品になった理由の1つなのではないかと思います。

 

 女性解放運動の始まりや※アパルトヘイト問題など、背景となる当時の世界情勢も興味深く、現代史のお勉強材料としても◎!

※南アの黒人代表(当時南アに対して国連総会がアパルトヘイト廃止を求める強硬姿勢をとっていたため、大会の運営側が急遽参加を追加した)が政府から、反アパルトヘイト派のジャーナリストや政治家に接触したら本国に帰れなくなると脅迫されたエピソードにはゾッとしました。

 

 ラスト、サリーたちはゲストのボブ・ホープの女性蔑視極まりない下品なスピーチに耐えきれなくなり、「ボブ・ホープ、恥を知れ!」と叫びながら立ち上がるんですが、それをTVで見ていた奥さん(レスリー・マンヴィル)の表情が何とも言えなかったよね。作品のテーマが凝縮されているように感じた。原題は『Misbehavior』(不正行為)だけど、邦題を『彼女たちたちの革命前夜』にしたのは言い得て妙、素晴らしかったと思います。革命は成功しなかったけど、確実にそれは始まりだった……っていうね。ラストに登場人物のその後と「現在」を映してくれたのも粋な演出でした。そう言えば、エマ・コリンがキャストに名を連ねていたけど、どこに出てたんだろう……?最後までわからなかった(笑)


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※ミス・アメリカ役にスキ・ウォーターハウス。スキと言えば、交際中だったロバート・パティンソンと先日婚約発表しましたね。

 

・おススメ度……★★★★☆

ヲタクもオンナのはしくれ。女縁讃歌には弱いんだよねぇ。