※右から、主演のブノワ・マジメル、トラン・アン・ユン監督、監督の奥さま、トラン・ヌー・イェン・ケー。『青いパパイヤの香り』に主演後監督と結婚、 トラン監督の作品ほぼすべてに出演されています。
東京国際映画祭にて『ポトフ』鑑賞。『アメリ』、『大統領の料理人』、『シェフ❗』、近い所では『デリシュ❗』など、ガストロノミーが重要なパートを占める作品はやはりダントツにフランス映画に多い印象ですが、またもやその分野の名作誕生❗……とはいえ、監督はベトナム出身、フランス・パリ育ちのトラン・アン・ユン(『青いパパイヤの香り』。この作品で見事、カンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞しています。
時は19世紀末のフランス。※美食家ドダン(ブノワ・マジメル)は、食文化を追求し、芸術にまで⾼めたとして「料理界のナポレオン」と評されるほどの天才。彼が思いつく革命的なメニューを完璧に形にするのが、20年間彼と共に働いてきた料理⼈ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)でした。彼らが⽣み出した極上の料理は⼈々を驚嘆させ、その名声は欧州全体に広まっていました。ある時、ユーラシアの皇太⼦から晩餐会に招待されたドダンでしたが、見栄えが豪華なだけの⼤量の料理に辟易してしまいます。お返しに皇太子を夕食に招待することになったドダンは、フランス料理の基本中の基本(日本で言えば味噌汁みたいなもんですよね(^.^;)、ポトフを供するとウージェニーに話します。しかしそんな最中、彼の片腕であり最愛のウージェニーは病に倒れて……❗
※フランス大革命後「食する人」による料理の批評は、フランスの美食文化に大いなる飛躍をもたらします。彼らの活躍が、今のミシュランガイドの起源なわけですね。この作品の主人公ドダンは、食の批評に留まらず、新しい革命的な料理を次々と創作する新しいタイプの美食家のようですね。
※弱っていくウージェニーを元気づけるため、愛を込めて料理を作るドダン。フランス世紀末の衣装(料理の色鮮やかさを際立たせるため、地味な色調)や豪奢な調度品の数々が、ユン監督作品特有の流麗なカメラワークで映し出されます。
しょっぱなから、ドダンの友人たちを招いた午餐会の準備の様子を長い長いワンショットで撮るスリリングなシーンで幕開け。緊張感を孕みつつ、ドダンとウージェニーの阿吽の呼吸と、彼らが繰り出す的確な指示で、厨房がリズミカルに動いていく様子がすでに1つのアートのよう。「映画はカメラワークが何より大事」と語るユン監督は、デビュー作『青いパパイヤの香り』のゆったりとした、湿ったアジア的情緒に溢れたカメラワークは我が日本の巨匠、溝口健二に影響を受けたそうですが、今作はやはり監督のフランス人の貌が色濃く出ていますね。ドダンとウージェニーの2人が若い助手に指示を与える時も、必ず「Merci」、「S'il vous plaît」を挟むのが、聴いていてとても心地良い。ジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルのうっとりするような色っぽい発音だからかしら(笑)
舞台が19世紀末のベル・エポックなので、「シェフの帝王」と謳われフランス料理の祖と称されたアントナン・カレーム亡き後、革新的なオーギュスト・エスコフィエが台頭し、フランス初の美食ホテルが開業するエピソードなど、当時のフランス料理界の裏側が学べるのも楽しい🎵
※長い間の求愛が実り、ウージェニーと結婚することになったドダン。しかし……。
またこの作品は、ドダンが自ら評するように、「人生の秋を迎えた」中年の男女の、思慮深く、しかし静かな情熱が溢れ落ちるような、愛の物語でもあります。20年間、ずっとサポートしてもらう側、賄いの食事も作ってもらう側だったドダンが、ウージェニーが病に倒れ、彼女を励ますために自ら作る、渾身の愛のコースメニュー。かなり身体が弱っているウージェニーが、それでも美味しそうな料理を前にして目を輝かせ、一つ一つの素材を噛みしめるシーンは彼女の来るべき哀しい運命を予感させて、涙なくしては見れません😭そんな彼女の様子を、なんとも言えない表情をして見守るドダンの台詞…「君が食べている姿が好きだ。ずっと見ていたい」
な、なんと〜〜❗これ以上の素敵な愛の告白ってある❗❓
……またねぇ、この大人の情愛を演じる2人がマジメルとビノシュだからねぇ……。1999年、映画『年下のひと』で、作家ジョルジュ・サンドと年若い恋人、詩人ミュッセを演じた2人は、演じた役柄そのままに激しい恋に落ち(ビノシュはマジメルより10才年上)、女の子をもうけました。その後2人は破局してしまいましたが、20数年経って再び共演者として相まみえるとは……。カンヌ国際映画祭のレカペで、緊張気味のビノシュを優しくエスコートするマジメルが話題になってましたっけ。このキャスティングの妙、素晴らしい。ドダンが洋梨のコンポートに指輪を忍ばせて求愛するシーンや、その夜ウージェニーの寝室に忍び込んだドダンが、その洋梨そのままの彼女の裸身を見て息を呑むシーンなど、ドキリとするほどエロティックです。
料理を作るシーンにBGMはなく、料理人の息遣いや肉の焼けるジュワッという音、野菜を刻むリズミカルな音などがさらに臨場感を盛り上げますが、これはユン監督があえて音楽を入れるのは避けたそう。…だからこそラストの回想シーンで、ウージェニーが「あなたにとって私は妻?それとも料理人?」と尋ね、それに対するドダンの答えに被せるように流れるタイスの瞑想曲が、私たちの心の奥底に染み入ってくるのです。
日本では12月に公開とか。目にも鮮やかな料理とフランス片田舎の美しい風景、そして、人生の機微に触れる大人のロマンス……。生きる歓びに溢れた名作をぜひ❗
★ブノワ・マジメル😍
上映後のトークショウで、「料理は愛だと思う。僕も愛する人、友人たちのためによく料理を作るんだ。」「日本の料理も大好き。……っていうか、「愛してる」って言ってもいいくらい。日本には訪れたいレストランが多くて困っちゃう」と、気さくに語ってくれたブノワ・マジメル。久しぶりに彼の作品を見たヲタク。『王は踊る』や『年下のひと』、『ピアニスト』などで際立っていた、若さゆえの尖った感性や繊細さが脳裏に刻み込まれていたので、眼の前に現れた、豊かな経験と自信に満ちた堂々としたイケオジのマジメルに再度沼落ち(笑)……あの時、手負いの獣のような眼をした、耀くばかりに美しい若者はもう二度と戻ってこないことを考えると、ちょっぴり淋しい気持ちもあるけれど。
※アツアツ時代のビノシュとマジメル。絵になるカップルでしたよね〜。しっかし、ビノシュが10才年上なんて信じられない❗美魔女って言葉は、彼女のためにあるようなもんですね。