フランス映画『12日の殺人』鑑賞。一応「サスペンス映画」に分類されていますが、ヲタクが直近で観た『落下の解剖学』同様、殺人事件が起きて、頭脳明晰な刑事(または探偵)が登場、見事に謎を解決してめでたしめでたし……なお話ではありません(^_^;)もう冒頭から
仏警察が捜査する殺人事件は年間800件以上。そのうち未解決事件は約20%。これはそのうちの1件だ」
ってテロップが出て来ますから、こっちも覚悟して観なくちゃいけません(笑)
舞台はフランスの地方都市グルノーブル。そう、かつて冬季オリンピックが開かれたあのグルノーブルです。スクリーンの背景にちらっとスキー場のリフトらしきものが映ってましたが、オリンピックの会場の他にも、小さなスキー場が点在しているので、そのうちの1つなのかな……と思います。ヨーロッパに住んでいた頃、冬休みにそういった小さなスキー場のロッジを1週間ほど借りたことがありますが、舗装されてない道を延々と車で登っていく感じで、スキー場以外は何も無い…みたいな(^_^;)そう言えば『落下の解剖学』も舞台がグルノーブルだったんですよね。お互い全員が顔見知りの閉鎖的な社会で、だからゆえに避けられなかった惨劇。
そんな山奥の小さな村で、ある日21才の女性の焼死体が発見されます。名前はクララ。前日の真夜中、友人の家から帰宅途中に突然顔にガソリンをかけられ、生きたまま焼かれてしまったのです。若く美しい女性の、あまりにも惨たらしい死に様に、前任者の定年で新たに班長となったヨアン(バスティアン・ブイヨン)をはじめとする捜査班は早速捜査に乗り出します。捜査を進めるうちに、クララが恋愛依存症ぎみで、多数の男たちと関係があったことがわかってきます。言わばクララと関係した男たち全員に殺人の動機があったわけです。ヨアンたちは昼夜を問わず聞き込みや被疑者の尋問を繰り返しますがどれも確証は得られず、捜査は混迷を極めていき……!
クララが付き合っていた男たちがまあ、揃いも揃ってミソジニストやらDV男やらマチズモ野郎やらで……。狭い村だから、クララが誰と関係していたか男たちの間でも筒抜け……っていう最悪な状況。捜査が進むうちに、担当の刑事たちが次第にクララに対して侮蔑の感情を募らせていって、ついには「これは魔女狩りだよ」とうそぶき、もとはといえば、多情なクララ自身が招いたことなんだと言わんばかりになっていくのが、なんだかやり切れなかった(ToT)1人の刑事なんて、奥さんに恋人ができて離婚を切り出されたのをクララの事件に重ね合わせて自暴自棄になっちゃうし……。
もう、しっかりしてくれよ!(笑)
暗澹としたストーリー展開のなか、唯一の救いはやっぱり主人公のヨアンかなぁ……。彼は泊まりに来た同僚に「トイレはちゃんと座ってやれよ」っていうような人で。でもそんな彼も捜査状況が袋小路に入っていくなか、部下たちの「魔女狩り」思想に心が揺らぎ始めます。その時、クララの親友から
彼女がいろんな人と寝ていたから何だっていうの。本人のことを何も聞かず、なぜ寝た相手のことばかり知りたがるの。
なぜクララが殺されたかって?彼女が女の子だからよ!
とズバリ真実を突かれてハッとする場面は良かった…。
事件が迷宮入りして3年後、ヨアンは判事に呼び出され、事件の再捜査を命じられます。その頃にはヨアンを取り巻く環境もずいぶん様変わりしており、男ばかりだったヨアンの班にも、警察学校を首席で卒業した若い女性刑事が配属されています。(彼を呼び出した判事も女性だしね)彼が判事や女性の部下にとる態度を見ていると、3年前のクララの親友の言葉はちゃんとヨアンの心に刺さっているんだな…とわかってね。ちょっとうるっときましたね。
あらゆる点で『落下の解剖学』と対をなす作品だと思います。しかし、絶望に満ちた『落下の〜』のラストと違って、3年後のヨアンの変化の中に、彼のような男性がもっと増えてくればきっと社会も変わってくるはず……という監督のメッセージが透けて見えて……
男と女の間には深くて暗い河がある
(『落下の解剖学』からの使い回し 笑)
しかし、微かな希望が仄見えた結末だったように思います。