桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」で、映画『ザリガニの鳴くところ』鑑賞。
時は1960年代のアメリカ・ノースカロライナ州。「ザリガニの鳴くところ」という異名をとる湿地帯で、富裕な家の生まれで街の人気者チェイス(※ハリー・ディキンソン)の変死体が発見されます。湿地全体を見渡す物見やぐらから落ちたものと考えられましたが、後ろ向きまっ逆さまに落ちていることから、他殺が疑われます。容疑者として浮上したのが、10歳の時に家族に見捨てられ、学校にも通うことなく湿地の貝を採取し、生計を立てている「湿地の娘 / Marsh Girl 」カイヤ(デイジー・エドガー=ジョーンズ)でした。カイヤは、天涯孤独な彼女に読み書きを教えてくれた優しいテイト(テイラー・ジョン=スミス)が大学で学ぶために街を去ってから、チェイスと付き合っており、女性関係の激しい彼と度々揉めていたからです。街の人々が陪審員を務めると知り、今まで自分を蔑み、つまはじきにしてきた街の人々の前で申し開きなどしたくないと、頑なに口を閉ざすカイヤ。弁護士のミルトン(デヴィッド・ストラザーン)はそんな彼女を何とか救おうと手を尽くしますが……❗
※『キングスマン / ファーストエージェント』で、レイフ・ファインズの息子の青年貴族を演じていた彼。スーツの似合う典型的な英国紳士から一転して、アメリカ南部のチャラ男を演じております😊
弁護士のミルトンとの会話と並行して、カイヤの生い立ちと、彼女の人生に決定的な影響を与える二人の青年との関係が丁寧に語られ、ヲタクは心の中で(ず、ずいぶん詳しく描写するんだな。もう、映画半分以上過ぎてるゾ😅)と思いながら観ていたんですが、ラスト、事件の真相が明らかになってから、その細かい描写の全てが生きてくるしくみ😊
読み書きを教えてくれたのは優しい幼なじみだけど、カイヤの本当の意味での「人生の師」は、広大な湿地帯であり、そこに吹きすさぶ風、雨、太陽であり、湿地に住むさまざまな生物であるわけです。街の人々から、「狼の血が混じっているらしい」とか、「夜、目が光ったって」とか、言われなき差別を受け続けてきた彼女ですが、言わば人間界の掟や常識、倫理観とは全く別の世界にいるのがカイヤだと言っていいでしょう。彼女の全人格こそが、この事件の謎を解くカギとなるのです。
独自の手法で湿地の自然や生き物を観察し、その記録を書き留めるカイヤは編集者の目にとまり、本を出版することになるのですが、編集者との会話の中に、ミステリーの解決の糸口が潜んでいるので、お聞き逃しなく。
単なるミステリーというより、壮大な人間ドラマと言っていいほど、見終わった後に深い余韻を残す作品。もしかしたらそれは、人間そのものが大きな謎であって、もしかしたら人生とは、その大きな謎を解きあかす長い長い旅に他ならない……だからかもしれません。
★今日の小ネタ
湿地を舞台にしたミステリーというと、ヲタクが真っ先に思い出すのは、北欧ミステリーの巨匠、アーナルデュル・インドリダソンの、その名も『湿地』。こちらは暗く陰鬱な冬の湿地で、湿地の美しい自然が強調されている『ザリガニの鳴くところ』とはだいぶ印象が違いますけどね。『マーシュランド』(こちらも日本語に訳せば「湿地」。インドリダソンの作品と紛らわしいので、苦肉の策で英語にしたんでしょうね😅)っていうスペインの映画も怖かったよー((( ;゚Д゚)))……湿地って、人間の理性を狂わせる何かがあるの?もしかして。
※映画『湿地』(2006……ドイツ・デンマーク・アイスランド)
舞台はアイスランドの湿地。北欧ミステリーらしく、沈鬱で暗澹とした雰囲気が全編を覆っています。
※『マーシュランド』(2014…スペイン)
首都マドリッド近くの湿地が舞台。少女の失踪事件を追う二人の刑事。捜査を続けるうち、スペイン社会に潜む警察の汚職問題、差別、貧困、小児性愛等々が浮き彫りになっていきます。