オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

『彼女のいない部屋』(フランス)~マチュー・アマルリックのジャポニズム

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Bunkamuraル・シネマで『彼女のいない部屋』(フランス)。監督はマチュー・アマルリック。ヲタク、監督としてはお初ですけれども、俳優さんとしては何度か拝見しております。独特の風貌をしていて、一度見たら忘れられないタイプ。直近では、『シンク・オア・スイム』の、精神疾患を患い、ふと出会ったシンクロスイミングに人生の再起をかける男の役。ほぼ同じ時期に、男だけのシンクロチームを題材にしたイギリス映画が風切られたんですが、ヲタク的にはだんぜんフランス版のほうに軍配を上げます。底に流れる人生の皮肉や苦さが上質なスパイスのように利いていて、その大半を担っていたのがアマルリックの演技だったと思います。

 

……ってまた、前置きが長い❗(笑)

 

俳優としても超一流のアマルリックが監督を務めた『彼女のいない部屋』。各方面で絶賛され、早くも「監督最高の傑作」と目されているようです。

 

  フランスのとある地方都市。夫との夫婦生活はマンネリ化し、子どもたち(姉弟)の子育てに疲れはてたクラリス(ヴィッキー・クリープス)は、ある早朝、車に乗って家を出ます。ただ、(海を見てみたい)という思いだけを抱えて。

 

 海外向け資料にあるあらすじは「家出をした女性の物語、のようだ」という1行のみが書かれていたそう。本国での公開時にも、ストーリーの詳細は伏せられていたそうですが、今回本編を見て、監督の思惑が少しだけわかったような気がしました。「事実」として断言することができるのは、「彼女がある朝車に乗って家を出た」ということと、その後に彼女を襲う悲痛極まりない事件、そしてそこから立ち直ろうとする彼女の「ある行為」……この3つだけではないかとヲタクは拝察するわけです。その他は殆ど彼女の意識の流れであって、それは次第に妄想めいたものとなり、果ては「狂気」に近いものとなっていきます。

 

  それにしてもアマルリック監督、どうしてこうも女性の追い詰められた心理を心憎いばかりに描写してくれるんでしょうか❓クラリスが友人に呟く「時々子どもたちを窓から投げ下ろしたくなる」というセリフ、もちろんクラリスの一瞬の心の動きを言葉に出しただけなんだけど、まるで神さまがそれを聞き咎めたかのように、最も残酷な形で罰せられる……それがめちゃくちゃ切なかった、悲しかった😭😭

 

  アマルリック監督は、日本の監督作品、特に黒沢清(明、ぢゃなくて清のほうね  笑)監督に多大な影響を受けていることを公言しています。

 

 本作においては、影響を受けているのは黒沢清監督。そして、亡くなってしまい残念ですが……青山真治監督です。彼らの作品に流れる死生観が、クラリスの人物造形に影響を与えてくれました。僕自身は死と生はシームレスであるという感覚を持っていますが、これは日本文化からインスパイアされたもの。フランスにはそういった考え方がなく、もっと合理的なんです。いい意味でのスピリチュアリティがないんですよね。でも、映像は想像する芸術だからこそ、光だけでなく影も必要。そういった意味で、スピリチュアリティは必要不可欠だと思います。

  

おおーーーっ❗感動しましたよ、アマルリック監督のジャポニズム❗そうです❗真の日本的な美とは、光と翳、黒沢監督の『スパイの妻』の世界であり、谷崎潤一郎が著した『陰翳礼讚』の世界であります。(ヲタク、断言  笑)

 

  ヒロイン役のヴィッキー・クリープス、そう、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』、ロンドン随一、王室御用達の天才仕立屋(ダニエル・デイ・ルイス)に見初められ、彼のミューズになる女性を演じた人。地方のレストランのウェートレスからいわゆるファッションモデルになるんだけど、最後までなぜか垢抜けない、それがまたひじょうに魅力的で、あの、美しくも恐ろしい作品世界にピッタリで鮮烈な印象を残しました。アマルリック監督も、あの映画の出逢いのシーンを見て、「ヒロインは彼女しかいない❗」と思ったそうで、ヴィッキー・クリープスもそれに応え、『ファントム~』を遥かに上回る演技を見せています😊