見終わって、身体の中を京都鴨川の風が吹き抜けていくような、そんな爽やかな気持ちになる映画。
京都にある芸術大学で美術を専攻している漆原朔(井之脇海)。彼が偶然、鴨川べりで※エオリアンハープの実験をしている同じ大学の「現代音楽研究会」の面々に呼び止められ、手伝いを強制されて、必死で弦を張るオープニングから、瞬く間にこの作品世界に引き込まれます。そして、朔が音楽からあえて目を背けているけれども、じつは豊かな音楽の才を有していること(研究会顧問で准教授の椋本美也子(濱田マリ‥‥はまり役❗)に思わず「天才って、いるのねぇ‥‥」と言わしめるほどに)、そして院生でありながら既に「日本現代音楽の雄」としてもてはやされている貴志野大成(山崎育三郎)がじつは異母兄であること、二人の父親が現代音楽の巨匠、故・貴志野龍(石丸幹二)であること‥‥等々が、さまざまな音楽の調べに乗せて、次第に明らかになっていきます。
※エオリアンハープとは‥‥
弦楽器の一種。同音調弦の数本の弦を枠に張り,風の通る場所に置くと,弦が振動してハーモニックスにあたる多様な音色を出す。風の強弱によっても変化する音色が非常にロマンチックでヨーロッパでは 1800年頃特にもてはやされた。(「コトバンク」より引用)
一般にあまり馴染みのない現代音楽という分野をテーマにしていながら、底に流れているのはひじょうに古典的な、亡き父の愛を渇望する兄弟同士の葛藤であったり、血の滲むような努力の末に名声を勝ち取ったもののその先に進めず苦悩する「天才に生まれつかない者の苦悩」であったり(これをヲタクは勝手にサリエリズムと名付けたのであるが 笑)‥‥‥‥。で、観ている私たちも、登場人物たちにそれぞれ感情移入して、泣いたり笑ったりできるわけです😊
天才‥‥って、言わば「神の息を吹き込まれし者」。英語のinspiredで、音楽の世界で言えば、アポロンのイタコみたいなもんだと思うんですよね。究極の凡人であるヲタクにしてみたら、天才の心境なんて知るよしもないけど(笑)、想像してみるに、艱難辛苦の末に何か成し遂げるとか、努力や克己心によって云々‥‥というのとは対極にいる人なんだ‥‥というのだけは、うっすら理解できる😅だから個人的には、モーツァルトよりサリエリ、朔より大成の、嫉妬や焦燥感やコンプレックスに共感を覚えちゃう。
いつもは、どちらかといえば突き抜けた、明るい天才肌の人物がはまり役の山崎育三郎。しかしこの映画の中では、偉大な父親の影に怯え、異能な弟に嫉妬し、次第に追い詰められていく苦悩を繊細に表現して、演技の新境地を開いた‥‥って感じで良かった。一方、自分の凄さに全く気づいていない天才の、あっけらかんとした「自意識の欠落さかげん」を絶妙に表現している井之脇海❗
あっ、あと、絶対音感の持ち主、浪花凪役の松本穂香ね❗朔のピアノを聴いて、一瞬で彼の才能、彼の紡ぎ出す音に一目惚れ‥‥いや、一耳惚れ❓(笑)する時の、彼女の表情の変化、素晴らしい❗‥‥そして、素直で伸びやかな歌声も。
舞台が京都‥‥というのがまた、ぴったりなんですよね。吹き抜けていく風の音、川のせせらぎ、古寺の庭の静寂、音なき音‥‥そしてそれらを、自らの音で表現しようと情熱を燃やす若者たち‥‥。漫画が原作だそうですが、今回の映画で描かれたのはきっと、ほんの導入部なんでしょう❓朔も大成も自分の進むべき道の入り口に立ったばかりだし‥‥。
愛すべき登場人物たちの行く末がめっちゃ気になる‥‥。続きは、ヲタクがアタマの中で妄想するしか手はないの❓(笑)
(おまけ)
その1
主人公二人の兄弟の父親役、石丸幹二さん。そのむかし、舞台(寺島しのぶさん主演の『海辺のカフカ』)観に行った時、幕間に赤ワイン飲んでたら、ちょうど真後ろで連れの方と話してらして、小声でもよく通る深いバリトンのイケボに、思わずグラスを取り落としそうになったヲタク(笑)今回は回想場面のみのご出演、イケボが拝聴できず、ザンネン❗
その2
栗塚旭さんがカメオ出演❗そうね、京都と言えば栗塚さん♥️学生時代の友人が栗塚さんの大ファンで、ン十年前京都旅行の折り、その友人に連れられて当時栗塚さんが開いてらしたカフェでお茶したことがあるの。ラッキーなことにその日はお店にいらして、遠くからその渋いイケオジぶりを拝見致しました。
‥‥って、今回の映画では、ラストのクレジットでそうと知ったヲタク😅ど、どこにご出演だったのか‥‥(超小声)もいっかい、見直してみるっす(笑)