オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』の吸血鬼から『デッド・ドント・ダイ』のゾンビへ

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  ジム・ジャームッシュ監督の最新作『デッド・ドント・ダイ』本日公開❗諸々の事情で映画館に観に行けるのは来週になりそうなヲタクであるが、まっその前祝い❓的に、今日は同監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)のお話を😊

 

  今回の『デッド・ドント・ダイ』、「ジム・ジャームッシュ監督の新作はまさかのゾンビ映画❗❓」…と、意外だという声が大多数のようですが、その前に『オンリー・ラバーズ~』を観ておくと、当然の帰結…というか、自然な流れのように感じます。

 

  主人公は、何世紀にも渡って生き続けて来たヴァンパイアの夫婦、その名もアダム(トム・ヒドルストン)とイヴ(ティルダ・スウィントン)。アダムはアングラのカリスマミュージシャンとして、デトロイトの廃屋のような古い大きな家にひっそりと暮らし、古書収集家のイヴはタンジールで大量の本に囲まれて暮らしています。アダムは最近、人間たちの蛮行に心を痛め、ひどく厭世的になっていて、なんとはなしにそれを感じ取ったイヴが、夫を励ましに訪れることからお話が進んでいきます。

 

  彼らは人間に噛みついて血を吸う…なんて野蛮なことは決してしません😅「質の悪い、汚れた血液を飲むと体に悪い」と言って憚らず、ヴィーガン好きのセレブよろしく、医者から闇取引でゲットした「キレイな血液」で、細々と生きています😊

 

  この二人の愛の交歓場面は、ヲタク的には映画史上5本の指に入るラヴシーンだと思います😊まるで美術品…みたいな。ロダンの彫刻『接吻』を彷彿とさせる…みたいな。

 

  愛を確かめあった二人は、月に浮かび上がる深夜のデトロイトの街をドライブします。パッカード工場、ジャック・ホワイトの生家、元ミシガン劇場…。様々に美しい廃墟を眺めながら、アダムは古き良き時代の終焉、欲にまみれた人間たちの愚行の産物だと嘆きますが、あまりにも長く生きすぎたせいか?😅ひどく人生を達観して楽天的なイヴは、

「大丈夫❗デトロイトもきっと再び繁栄する時が来るわ」

と、アダムを励ますのです…。

 

 キャリア・アスピレーション(出世)を目指している人の映画を撮ることにまったく興味がない。僕のどの映画にもテーマとしてあるのが、そうしたキャリア・ハッスル(出世主義)の外側にいる人たちなんだ

…と語り、アメリカという物質主義、マッチョ文化の権化のような国で、主流から外れた人々へ温かい眼差しを注ぎ続けて来たジム・ジャームッシュ監督。『オンリーラヴァーズ~』の中でアダムは、欲望を肥大させ、それを得る為には手段を選ばない人間たちのことを『ゾンビ』と呼んでいるんですね😅

 

  はてさて、そんなゾンビたちの末路はいかに❗❓映画館で、この目で確かめてまいりましょう。

 

 

 

  

 

  

身分違いの恋💕されど…『あなたの名前を呼べたなら』

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  それだけじゃない❗インドの『今』、女性の置かれている立場や自立問題、カースト制度や古い因習…。様々に深いテーマを内包した作品です。ヲタクが以前、横浜のミニシアター『ジャック&べティ』の片隅で涙した珠玉の佳品が、動画配信サイトで見れるようになりました❗

 

  いまだに名誉殺人なんて風習が横行しているインドで、メイド(しかも本人が言うようにインドの地方の村では『すでに人生が終わった』19才で未亡人になった女性)と、身分の高いご主人様の禁断の恋愛を描いた作品なんて、初めて見ました😮あの『インドの良心』アーミル・カーンだって手をつけられない不可侵領域じゃないんだろうか…。本国では上映を許されず、1年経ってやっと上映にこぎ着けたといういわくつきの作品です。

 

  …とは言え、映画の醸し出す雰囲気はあくまでも甘く、切なく、物悲しい。高層マンションから眺める、煌めく宝石のようなムンバイの夜景、ヒロインのラトナ(ティロタマ・ショーム)が身に纏うサリーの鮮やかな色合いはこの上もなく美しく、そしてそして、彼女が旦那様(いみじくも原題はそのものズバリ"Sir")に日々作るライムジュースやサンドイッチや数々のインド料理が美味しそうなこと❗🤤

 

  監督・脚本・製作を手掛けた若き新鋭ロヘナ・ゲラは、スタンフォード大学の学位を持つアメリカ育ちのインド女性。生粋のアメリカンだったら、それこそ『エリン・ブロコビッチ』や『スキャンダル』みたいに、戦うアマゾネス的な切り口になっちゃうのかもしれないけど、一見たおやかに見えながら何物にも動かされない芯の強さを持つラトナの人物造型は、彼女の生まれながらのDNAがそうさせたのか…❓

 

  着目したいのは監督だけでなくヒロイン役のティロタマ・ショームもニューヨークで教育を受け、世界で活躍するインド女性であり、旦那様アシュヴァン役のヴィヴェーク・ゴーンバルもインド系シンガポール人であると言う点。ある意味彼らはインド社会のアウトサイダーなんですね。こういう画期的な作品がインド国内で製作されるようになるには、まだまだ時期尚早…ということなんでしょうか。

 

  それにしても、アシュヴァンから「名前を呼んで欲しい」と何度も懇願されながら、頑なに「旦那様」と呼び続けたラトナが、初めて愛しい人の名前を口にする瞬間…。その一瞬に、この作品の全てが凝縮されているように思います😊

 

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☆おまけ

日本版と海外版のポスター、これ同じ映画なの❗❓って突っ込みたくなるくらいイメージ違いますよね😅いつも控え目で感情を表に出さず、愁いの表情が印象的なラトナが、唯一弾けるように踊る祭りの場面を海外版は切り取ってます。お国柄…と言ってしまえばそれまでですが、なかなか興味深いです😊

 

 

 

 

 

  

 

 

  

そして少年は大人になる~WOWWOWシネマ『僕はイエス様が嫌い』

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近年の注目日本映画を特集した、WOWWOWシネマ『日本映画最前線❗』。大トリを務めるのは、奥山大史監督の『僕はイエス様が嫌い』(6月11日(木)21時~)

 

  雪深い地方都市の祖母の家に、東京から両親と共に引っ越してきた少年ユラ。その地のミッション系の小学校に転校する。もともとキリスト教の素地もなく、毎日の礼拝に戸惑うユラの前に、ちっちゃなイエス様が姿を現す。ユラ以外の人には見えないが、いつも彼の願いをかなえてくれるイエス様。サッカーが上手な素敵な友だち、和馬も出来て毎日がハッピーなユラは、次第にイエス様の存在を信じ始めるが、大きな試練が…。

 

  ユラのちっちゃなイエスさまは、言わば子ども時代のサンタクロースのようなもの。「いい子にしていたら、クリスマスにはサンタさんが素敵なプレゼントを持って来てくれるわよ」っていうね。神様にお祈りすれば、いい子にしていれば、神様は何でも願いを叶えてくれる。ひねくれた大人のヲタクだって、そんなふうに信じてた可愛い時代もあったんだよ(笑)サンタさんなんて本当はいないんだ、神様だって忙しくて、何でも願いを聞いてくれるわけにはいかないんだ…って、苦い思いを抱き始めたのはいつのことだったろう。昔すぎてもはや思い出せない(笑)

 

  雪深い森の中にある親友の和馬の別荘で、和馬と、和馬のママと三人で一緒に過ごすクリスマス。フワフワと楽しそうな、まるで少女のような和馬のママ。

「和馬のママって、いつも笑ってるね」

「いつも笑ってたら、おかしいでしょ、それ」

  そんな他愛もない少年たちの会話が、来るべき悲劇の伏線になっているとは、観ている誰が想像できたでしょうか😢

  そして、大きな試練に直面したユラが、自ら選ぶ残酷な結末。

 

  純白の雪に止まった白い鳥、風にざわめく雑木林、北国の冬の冷たい空気の匂い……そして、全編を流れる『主よ終わりまで』、『聞けや愛の言葉を』、『Jesus loves me』などの讃美歌が心に染み入ります。

 

  人生のとても早い時期に、アダムとイブのように、子ども時代というアルカディアから追われ、『メメント・モリ』という厳しすぎる人生の現実に直面しなくてはならなかったユラ。それでも私は、その小さな肩を抱き寄せて耳元で囁いてあげたい。「あなたのちっちゃなイエスさまは、やっぱりどこかであなたのことを見ているよ」…と。なぜなら、ユラの願いを叶えてあげられなかったちっちゃなイエス様の、悲しげな表情と、悄然と肩を落とした姿が、ヲタクの心の中に今でも残っているから…。

 

  奥山大史監督は、青山学院大学在学中に本作品を自主製作。監督・脚本・撮影・編集のスーパーマンぶり。グザヴィエ・ドランかよー❗(…って最近こればっかのヲタク😅最近の日本映画がいかに元気かのあかし😉)

 

 このデビュー作で、史上最年少、若干22歳で第66回サンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞、第29回ストックホルム国際映画祭、第13回ダブリン国際映画祭における最優秀撮影賞の受賞、瞬く間に世界の映画界の寵児となりました。

 

好きな監督の共通点って、その人の軸があって、作りたいものだけを作っている人ですし、そのほうが圧倒的に格好いいですよね。

…と、仕事を持ちながら自らの映画製作のスタンスを守り抜こうという奥山監督。その意気や、良し❗😊

 

  今、日本映画界を脈々と流れる若き潮流。その熱いうねりをあなたも❗

 

  

煌めく若き才能・片山慎三監督~『岬の兄妹』WOWWOW

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WOWWOWシネマチャンネル、6 月3日(水)23時10分~『岬の兄妹』。昨日ご紹介したWOWWOW『日本映画最前線❗』9作のうちの1つです。

 

  ある地方の港町で暮らす兄と妹。兄は足が不自由で妹は自閉症。ちょっと目を離すと妹はすぐに外に出て行ってしまうので、港で働く兄は自分が留守の間、室内の妹を鎖で繋いでいる😢そんなある日、外にさ迷い出た妹は見知らぬ男と一夜を共にし、お金を貰ってくる。その時は妹を殴り、その行為を激しく叱責した兄。しかし仕事を解雇され、生活がますます逼迫して来た時、兄は妹の手を取り、『妹を見知らぬ男たちに売る』為に、夜の港町を二人で徘徊し始める…。

 

  これちょっと、あらすじ読んだだけでもエグすぎて😅二の足踏むような内容なんで迷ってたんですが、何しろ各界の著名人から絶賛の嵐なんですよね😮特にヲタクの敬愛する白石和禰監督、池松壮亮くん、ポン・ジュノ監督…etc.…なんで、怖いもの見たさで(笑)こわごわ観た映画です。

 

  ストーリー的にはもう、救いようのない展開なんですが、ところどころ陰鬱なユーモアが感じられるのは、兄役の松浦祐也さんの演技のせいかなぁ。お金に困って、障害のある妹に売春させるなんて、下の下の外道で、ぶん殴ってスマキにして海に投げたいくらいなんだけど、女性の立場からしたら😅…でもあのいかにも気が弱そうな、上目遣いの卑屈な笑顔を見ると…(笑)妹が逃げないように玄関の扉に南京錠をつけて仕事に出るんだけど、それをこの兄、帰って来た時にはトンカチでぶち壊しちゃう😅扉には、今まで幾つも壊した跡があって…。(えっ❗❓なんで❓カギはどこに行ったの❗)って思うんだけど、もしかすると監督はあの場面で、兄のほうも若干知的な障害があることを暗示しているのかな…と思ったんですね。だとしたら、彼のいろいろ常軌を逸した行動も納得がいくし、彼が妹と二人、生きていく唯一の方法として考えついたのが妹の売春だったとしたら、あまりにも切なすぎる😢

 

  一方妹のほうは、薄暗い部屋で鎖に繋がれた生活から、売春によって独居老人や小人症の若者に悦びを与えることにより、次第に女性の自我に目覚め、自己発現していくという、痛烈に皮肉な展開になっていくんです。そして心だけでなく、彼女の体にも変化が…。

 

  妹を演じた和田光沙さんの最後の表情、素晴らしく印象的。この兄妹にとって、いや私たち人間にとって、『生きる』ってどういうことなのか、真の自己充足ってどういうことなのか、深く考えさせられる結末になっています。(和田光沙さん、白石監督の『止められるか俺たちを』にご出演されてたそうなんですが、はて、どの役だったんだろう😅しっかし今作では一度見たら脳裡に焼き付くパワフルな熱演、凄い女優魂です❗)

 

  どこかの記事で『地方都市の暗部を描く』って見たけど、いや、そんな事言ったら地方都市に住んでる人たち怒るよ(笑)まずもってこの港町の社会福祉制度はどこに存在するの❓って話だし😅兄の幼なじみが警官で、度々兄にお金を用立ててあげるんだけど、ヲタク思わず(おいーーっ、おカネ貸すより福祉事務所に一緒に行ってあげなさいよーっ(°Д°))って画面に突っ込んだ😅…でもね、これはリアルぢゃなくて、一種の寓話だと思うんですね。シンボリックな寓話なんだ、って思って観ました。社会の常識とか、脆弱な倫理観とか、全てぶち壊す、渦巻くエネルギーに満ちた寓話。

 

 この鮮烈な作品でデビュー、 製作・脚本・監督・編集と全てをこなした片山慎三さん。グザヴィエ・ドランかよ…。若干39才、この機会に、日本映画の煌めく若い才能をぜひ体感してみて下さい😊

 

  

 

  

映画『サラバ静寂』~WOWWOW放映

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 映画『サラバ静寂』WOWWOW放映❗日本映画界の鬼才たちをWOWWOWが大特集😆(6月1日~4日と、7日~11日、2部に渡り、合計9本を放映)ラインナップがめちゃくちゃヲタク好み💕その名も、『日本映画最前線❗』トップバッターを飾るのは、『サラバ静寂』(R15+、2018年)。6月1日23時~(あれ❗❓もう明日だ=笑)残念ながら劇場では見逃しましたが、映画『リバーズエッジ』で、摂食障害の少女役で強烈な印象を残したSUMIREと、数々の作品でエッジの利いた演技を披露する吉村界人に惹かれて、動画配信で観た映画😆

 

  時は日本の近未来❓映画も、文学も、音楽も法律で禁じられた世界。…もう、設定聞いただけで気が狂いそうになるヲタク😅町工場に働き、遊興を奪われた世界で単調な毎日を送るミズト(吉村界人)とトキオ(若葉竜也)。禁じられた音楽を聴いて、ファナティックな警官(斎藤工)になぶり殺されてしまった男の家に偶然紛れ込んでしまった二人。初めて音楽に触れた若い二人の、喜びようが可愛い。特にトキオ役、若葉竜也の無邪気な表情ね❗あー、あの『愛がなんだ』のナカハラくん思い出しちゃった。その後二人を襲う悲劇を考えると、胸が締め付けられます😭

 

  警察に発見され、リンチの果てにトキオを失ったミズトは、殺された男の娘でやはり音楽を愛するヒカリ(SUMIRE)と共に、音楽が自由に聴けるという地下組織『サノバノイズ』を目指します。万引きを繰り返しながら旅する二人。まるで歌舞伎の道行きか、はたまた『俺たちに明日はない』のボニーとクライドか…。若い二人の瑞々しい演技が光ります。特に、浅野忠信CHARAという当代きっての役者とアーティストの血を引くSUMIREは、たとえ法律で禁じられても、命を賭けても『音』を求めずにはいられないこのヒカリという役にピッタリ❗

 

  そして忘れちゃいけません、狂気のサディスト警官杉村役の斎藤工きゅん😍最悪のクズなのになぜかゾクゾクするくらいセクシーなのは、映画『レオン』のゲイリー・オールドマンを彷彿とさせますな~😉西のゲイリー、東のタクミ❗工きゅんはこの杉村役、銀髪で演じたかったらしく、宇賀那健一監督に却下されたのに、あきらめきれずカラー剤を現場まで持ってきたとか(笑)まあでもねぇ、銀髪でアレ演じたら、インパクト強すぎて、たった20分位の出演時間なのに、主役のジャン・レノを食っちゃった『レオン』のゲイリーみたいになっちゃう(笑)それはマズイ。ツーブロックで止めといて◎😅

 

  今でも世界のどこかで繰り返されているであろう権力という名の暴力と狂気、それに踏みにじられる若者たちの哀しみ…。神経がヒリヒリするような映画なんだけど、群馬でロケしたという、雑木林や沼の水面の静謐さ、場末の街の廃墟のような美しさのコントラストがなぜか最後まで心に染み入ります。

 

  日本映画の若き才能が結集した映画をこの機会にぜひ😍

 

  

 

ポン・ジュノ監督もおススメ~黒沢清監督『トウキョウソナタ』

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  黒沢清監督演出による『スパイの妻』。放送をあと1週間に控え、気もそぞろな近頃のヲタク(笑)TVドラマはそれほど見ないので😅ドラマをこんなに心待ちにするのは久しぶりのこと。期待の映画やドラマの新作の公開&放送が迫ると、屋根裏部屋からやおらその監督や出演俳優の旧作のDVDを引っ張り出して見直したり、見逃していた作品を動画配信サイトで見て予習しておくのが常。

 

  今回見直したのが、同監督の『トウキョウソナタ』。『セブンスコード』や『散歩する侵略者』『岸辺の旅』も好きなんだけど、ロマンスものやSFぢゃなくって、なぜか家族の話を観たい気分だったんですね、今日は(笑)

 

  第61回カンヌ映画祭『ある視点部門』審査員賞その他、数々の映画賞を受賞、日本だけでなく世界にも認められた名作ですね。『パラサイト~半地下の家族』のポン・ジュノ監督が『世界一受けたい授業』で日本映画ベスト3を選んだんですけど、その中に入っている1本でもあります😊

 

  『トウキョウソナタ』に見られる家族の関係って、いかにも日本的というか。ポン・ジュノ監督の『パラサイト』では、家族同士ナマの感情剥き出しで、徹底的にやり合い、お互いを容赦なく突き詰める。だからこそ人生の悲劇も喜劇も異様な振れ幅で、運命が火の玉みたいに坂道を転がっていきます。

 

  『トウキョウソナタ』でも、発端は『パラサイト』と似たようなもの。両親と兄弟二人、小さな戸建てに住むごくごく平凡な家族。しかし、父親(香川照之)がある日突然会社をリストラされたことをきっかけにして、少しずつそれぞれの歯車が狂い始めます。父親の沽券に関わる…とばかり、リストラされたことを妻にも言えず、家の中では相変わらず息子たちを怒鳴り飛ばしながら、スーツを着て街をうろうろする父親。同じように失業中の学生時代の同級生(津田寛治)。携帯を自動的に鳴らすようにセットして、仕事のフリをし続けるエピソードも、滑稽で物悲しい😢母親(小泉今日子)は夫のリストラにうすうす気づきながらも、なぜかそれを追及することもせず、毎朝能面のような笑顔で夫を送り出すのです。『パラサイト~半地下の家族』と決定的に違うのが、この母親の描きかたでしょう。

 

  てんでばらばらにやりたい放題な男たち(父親=香川照之、長男=小柳友、次男=井之脇海)を、黙って陰で支え続けて来た母親は、ある晩突然プッツンしちゃう(笑)。なんと、強盗犯(役所広司)と一緒に、逃避行を繰り広げちゃうんです😮その晩は母親だけでなく、男たちもそれぞれ、命に係わるような散々な目に遭遇するんだけれども、結局翌朝にはみんな三々五々家に戻ってきて、いつものように黙って食卓を囲む。あの場面、ヲタク的には『パラサイト』の結末に負けないくらい、シュールで怖かったよ(笑)

 

…でもよくよく考えると、そういう、真実を白日のもとに晒さない、何事も突き詰めない、あえて曖昧にやり過ごすっていうのも、日本古来の美徳なんじゃないの❓悪くないよね…って今回観てそう思った。谷崎潤一郎『陰翳礼讚』の世界だわ…。まるで昨今世界中で話題になっている、日本のミステリアスな新型コロナ対策みたいに。それとも単に、年をとっただけなのか、じぶん(笑)

 

  次男坊の井之脇海くん(当時は小学校6年の役)。大人になってからも、『帝一の國』の生徒会副会長や『海辺の生と死』、『ザ・ファブル』のお間抜けヤクザなど、出演シーンは少なくても眼で語る、というか、とっても印象的な演技をする人なんですよね😊もっと注目されてもいいと思うんだけど…😅あっ、それから忘れちゃいけません、瞳に微かに狂気を秘めたかのごとき小学校教師役のアンジャッシュ児嶋一哉❗黒沢監督という方は、異分野の逸材を発掘する慧眼がスゴイ😮(『セブンスコード』の前田敦子然り)

 

  ポン・ジュノ監督は『日本の若者にもっと見て欲しい映画』って仰っていましたが、オジサンオバサンにも見て欲しい(笑)まあ、身につまされて苦しくなるきらいはありますが😅

 

 

 

  

 

 

 

  

 

  

異形の宴と生命讃歌~『ボーダー~二つの世界』

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  2018年カンヌ映画祭の『ある視点部門』グランプリ作品。あの名作映画『ぼくのエリ~200歳の少女』の原作者であるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが自身の原作を自ら共同脚本、監督した作品です。当時の審査員だったギレルモ・デル・トロ監督が

強い詩。社会に見捨てられた者が人生において愛と怒りの間で選択を迫られる、大人のためのおとぎ話。

と絶賛したと聞いてましたから、デル・トロ監督の大ファンであるヲタクとしては外せない作品なわけです😉

 

  一般的に北欧ミステリというと、社会に潜む様々な問題を、事件の犯人探しをする過程であぶり出していく手法がとられます。本作品は、映画の日本公開時には『北欧ミステリー』と銘打っていましたが、『児童虐待』という、福祉国家スウェーデンの闇を象徴する事件(ミステリー的要素)を絡めつつも、マイノリティ~デル・トロ監督言うところの社会に見捨てられた者~の悲哀と再生をファンタジックに描いていて、正確には、ミステリーとダークファンタジーの融合とでも言いましょうか❓その着眼点が新しくて、『ある視点部門』グランプリというのは超納得❗

 

  『ぼくのエリ』では主人公が美しい少年少女なので、血のメタファや残酷さと美の融合が鮮烈でしたが、今回のヒロインは中年のオバサン(笑)…なんで、ヲタクとしてはめちゃくちゃ感情移入しやすかったです(笑)

 

  ヒロインのティーナ(エヴァ・メランデル)は、特異な風貌の持ち主(本人は染色体異常と信じ込んでいるがじつは…)。彼女には他人には真似できない特殊能力がありました。それは、人間の負の感情、つまり嫌悪や羞恥心、後悔などを『匂い』で嗅ぎ分ける能力。彼女は自分の風貌や体つきを醜悪だと思い、人とは違う性癖や嗜好を恥ずべきと考え、自らを極度に抑圧し、社会の片隅でひっそりと生きています。「醜い為にいじめられた」という事実は映像では描かれず、ティーナが幼い日の微かな記憶として語るのみ。ティーナの周囲にいる人たちは、彼女とのボーダーをあたかも意識していないかのように振る舞っています。皆、優しい人たち。…でも、ティーナにとっての悲劇は、どんなささいな負の感情でも、嗅ぎ分けることができる、ということ。周囲の人たちと摩擦せずに生きてこれたのも、彼女が自我というものを極度に圧し殺し、社会に過剰適応して生きて来たから😢

 

ところが、そんな彼女の生活は、ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)という一人の男の出現により、180度変化を遂げていきます。ティーナは、その男に、自分と共通する『何か』を嗅ぎ分けるのです。そんな彼に影響されて、少しずつティーナの自我の解放が始まるわけです。

 

  ヴォーレがまたティーナとは真逆の、「人と違うのは優れているってことさ」とこともなげに断言するオプティミスティックな人物😅この短絡的な自己肯定はそのまま彼の『危うさ』に繋がり、彼が引き起こす重大事件の伏線にもなっているのですが…。

 

  自分は本当は何者なのか、出自を知ったティーナは、最後に、自分はこれからどう生きていったらいいのか、究極の選択を迫られます。その答えの果てに、ティーナにもたらされたものとは…❓

 

  圧倒的なスウェーデン大自然、目に染み入るような森の緑色、見ているだけで震えるよいな冷たく透明な水…。そんな自然の美しさの中で、ティーナが最後に手に入れたもの。それを見たヲタクは、一気に涙腺崩壊するのでありました😭

 

デル・トロ監督が表現したところの『  強い詩』。なぜ『強い』のか❓それは、自分を貶め、息をひそめて生きて来たティーナの、自らのいのちの尊さへの目覚め、真の自立の物語でもあるからです。

スクリーンに咲き誇る大輪の花~マーゴット・ロビー


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 三大女優の豪華共演❗ニュースTV局FOXのCEOロジャー・エイルズが、なんと20名以上の女性ニュースキャスターにセクハラをしていたかどで告発され失脚、結果的にFOXは60億円に上る賠償金を支払うという、全米TV史上前代未聞の醜聞(実話)を描いた『スキャンダル』。まず、キャスター生命が葬られるのを覚悟でエイルズを提訴するグレッチェン・カールソン役にニコール・キッドマン。総力戦でグレッチェンを潰しにかかるエイルズでしたが、局の看板番組を背負う花形キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)がグレッチェンの提訴を裏付ける証言を決意したことにより、形勢は思わぬ方向へ…。

 

  凄いのは、殆どの登場人物が実名で登場しているということ。FOXは共和党熱烈支持のTV局。映画の舞台になっているのがちょうどトランプ現大統領が、大統領候補に指名されるか否か…という時期なので、当時の共和党大会その他の実際のニュース映像も流れ、まるでリアルタイムでドキュメンタリーを観ているかのような迫力と怖さがあります。…ただ、反面、グレッチェンとメーガンの人物造型、提訴に至るまでの心理描写が、ご本人たちへの配慮からかさらっと流しているイメージで、ヲタク的にはちょっと物足りないかなぁ…という感じ😅

 

  ところがところが、メインキャスターの座を狙う野心家のケイラ(マーゴット・ロビー)の人物像がリアルなこと❗グレッチェンとメーガンにとって、エイルズのセクハラは過去形なんだけど、ケイラはまさに現在進行形。野心に任せてエイルズの部屋に飛び込んだものの、「スカートをたくしあげて下着を見せろ」って言われ、言われるがままにするわけですよ。その時のマーゴット・ロビーの、想定外の成り行きに呆然と立ちすくみ、その後に沸き起こって来る怒りと悲しみ、自己嫌悪…全てがないまぜになった表情が凄い(ヲタク思わず、画面のエイルズに向かって、『マーゴットちゃんから離れろ、このク◯ジジィ❗』って叫んじゃったもんね=笑)

 

また、職場の同僚に電話口で泣きじゃくりながら「…私は汚い…」って振り絞るように言うところね。もう、彼女が殆どこの映画の見所持ってっちゃいましたよね(笑)このケイラの役だけは実在の人物ではなく、何人かのキャスターのインタビューを元に作り上げられたものらしい。だからかえって思い切った描写ができたのかも😅ちょっと皮肉ですけどね。


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  もうね、最近のマーゴット・ロビーは、女優としててっぺん目指してグイグイ突き進んでいる感じがもう、眩しいくらいです✨『アイ・トーニャ』少女時代のトラウマの哀しさを滲ませながらも振り切った演技、美人オーラを完全に封印した『ふたりの女王~メアリーとエリザベス』、『ハーレークイン』『スーサイドスクワット』のヤバイ(笑)演技、『ワンハリ』天真爛漫でコケティッシュシャロン・テート役…等々、役柄も多種多様でお見事❗特に『ふたりの女王』で彼女はエリザベス1世を演じているんですが、女性としての自分に自信がなく、美しく華やかなメアリー女王(シアーシャ・ローナン)に対して、内心妬みとコンプレックスを抱いている設定。映画の最初のほうでエリザベス1世が天然痘を患い、酷いあばた顔になっちゃうんですね。それも特殊メークでリアルに演じていて、凄い女優根性だと思いました😊また『アイ、トーニャ』ではプロデュースも務めたようで、知性も折り紙つき😆


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  美貌と実力を兼ね備えた女優、マーゴット・ロビー。彼女の進化にますます目が離せない❗

 

心洗われる涙を流したい~『ガーンジー島の読書会の秘密』

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  ヲタク的には、泣く…って行為は、それそのものに関しては良し悪しはなくって、汗などと一緒、一種の生理現象だと思っていて。生理現象なんだから、ガマンするのはカラダに悪いと思ってる(笑)だから、よく小さい男の子が「男の子でしょ❗泣くのよしなさいっ」って言われてるのは可哀想な気がする😅そういえば、「日本の中年男性に心筋梗塞が多いのは、小さい頃から『男が泣くのは悪』という通念があり、ストレスが知らないうちに積み重なっているから」なーんて俗説聞いたことがあります。

 

  …っていつものように前置きが長くなりましたが(笑)映画を見て、悲しい涙にせよ、感動の涙にせよ、思い切り泣けた時って、なんだか悪いツキモノが落ちたような、心が洗われて生まれ変わったような気がしませんか❓


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(ガーンジー島の紺碧の空と海~Pixabay)

 

 

  日頃のストレスが溜まって、リセットしたい時はこの映画をどうぞ❗『ガーンジー島の読書会の秘密』(2018年・英仏合作)。第二次世界大戦直後のイギリス。ヒロインは作家のジュリエット・アシュトン(リリー・ジェームズ)。敏腕編集者(マシュー・グード)の力もあり、売れっ子の彼女は、金持ちのアメリカ人マークから熱烈なプロポーズを受けており、毎日がファンの集いとゴージャスなドレスとロンドン社交界の集まり。まるで(リリーの演じた)『シンデレラその後』状態😅(彼女のロンドンのアパートは、彼から贈られた真っ赤な薔薇で埋め尽くされている=笑)。同性から見てもあらゆる幸せを手中にしているかのように見えるジュリエットですが、彼女自身はそれに違和感を感じていて、あまりハッピーではなさそう。そんな彼女はある日、イギリス海峡にある小さな島、ガーンジー島の豚飼いドーシーから1通の手紙を受けとります。戦争中生活の為にジュリエットが手放したチャールズ・ラムの名著『エリア随筆』が、ドーシーの手に渡っていたのです。それがきっかけでドーシーと文通を始めたジュリエットは、ガーンジー島そのものに魅力を感じ、何かに導かれるように島を訪れます。ドーシーは、戦中から近所の仲間たちと読書会を開いているのですが、そのメンバーたちはそれぞれ大きな秘密を抱えており、しかも以前メンバーだったエリザベスは、行方不明になっていたのです…。

 

  ガーンジー島第二次世界大戦中、英国で唯一、ナチスドイツの占領下にあった島。占領下で島民たちは唯一の産業である養豚も禁じられ、ジャガイモの皮だけで作ったパイを日常食にするような生活を強いられたのでした。映画の原題『ガーンジー島のポテトピールパイ読書会~Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society』は、ここに由来しています。

 

  エリザベスはなぜ、島からいなくなってしまったのか❓そして彼女は今どこにいるのか❓ストーリーはミステリアスに進んで行き、ジュリエットがその謎を一つ一つ解いていくにつれ、観ているこちらはもう、涙、涙😢なぜならその謎をとく鍵は、隣人愛であり、未来への希望であり、思い遣りだから。謎解きが進むにつれ、ジュリエットもまた、「自分は何者なのか❓本当は何を望んでいるのか❓」に、少しずつ気づいていくのです。

 

  キャストがまた、『ダウントン・アビー』や『ゲーム・オブ・スローンズ』のファンならこたえられませんゾ😉まず『ダウントンアビー』からは、ストーリー展開のカギを握るエリザベス役にジェシカ・ブラウン・フィンドレイ(はい、あのレディ・シビルですね)、メンバーの一人で最初はジュリエットを敵視するかのようなアメリアにペネロープ・ウィルトン(メアリーの最初の夫マシューのお母さん)、そして忘れちゃいけません、英国の歩くイケメン彫刻マシュー・グードが、ジュリエットを理解し支える編集者役です。(ダウントンアビーでは、メアリーの2番目の夫役)そして、ジュリエットがガーンジー島に訪れるきっかけとなるドーシー役に、ゲースロからマイケル・ユイスマン❗マッチョで権謀術数に長け、ついにはデナーリス・ターガリアンの愛人にまで上り詰めるダーリオ・ナハーリス役を演じたマイケル。この映画では無口で純朴な農夫という、真逆の役柄を演じています。

 

  感動的なストーリーに加え、イングランドの穏やかな田園風景とは全く違う、ガーンジー島の紺碧の空と海、粗削りな大自然に目を奪われます。

 

心が洗われるような、清々しい涙を流したい時には、この映画をぜひ😍

 

 

 

『宮本茶』を嗜む~そぞろ寒きに。


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 昨日今日と、5月らしからぬ底冷えが続いています。そろそろ洗濯機で丸洗いしようとしていた厚手の蒲団を、昨夜はまた引っ張り出して被ったヲタク😅

 

  こんな日は、先日、宮本浩次さんのライブ『宮本、独歩。』のツアーグッズの1つとして届いた『宮本茶』を。折しも、夫の出身地である浜松より、学生時代の友人の方から宮本茶に相応しいお菓子『布橋の雪』が届きました😆

 

  箱に書いてある口上をそのまま書いてみますと…。

~御用菓子 布橋の雪~(浜松では一二を争う有名和菓子店、田町梅月の作)

 「御用菓子 布橋の雪」は、昭和三十二年、浜松に昭和天皇両陛下の折、陛下に献上するために創作致しました。

そして東京への帰途、両陛下よりさらなる御所望を賜り、弊社初代が沼津までお届けに上がった栄養ある和菓子でございます。

…とあります。

 

『宮本茶』は、宮本さんがいくつもの銘柄の中から選んだ備前屋さんの「霞野」(なんて素敵なネーミング😍)を、オリジナル缶のパッケージにして下さったそう。公式Twitterを拝見すると、パッケージの隅々にまでこだわりが満載❗…そしてそして、心遣いの人宮本さんらしく、中には自筆の一筆箋がぁぁぁ~~😂

 

  「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でトドメさす」と言われるそうですが、確かに、味が濃厚でした。甘みと仄かな渋みのバランスが絶妙。美味しい❗それに…宇治茶のお株を奪うほど、香りも凄い😮ふわっと匂い立つ感じ。さらりとした舌触りの『布橋の雪』(水羊羹と小倉カステラに淡雪がサンドされている)には、いつもの掛川茶よりぴったりかもしれない😊

 

  献上菓子…と言えば、ヲタク的に真っ先に頭に浮かぶのは、北鎌倉駅近く、松花堂のあがり羊羮。あちらもさらっと上品な味わい。

 

  緊急事態宣言が解かれたら、鎌倉に出かけてあがり羊羮を買ってこよう。

 

  そしてまた、『宮本茶』と一緒に、おうち時間を楽しむんだ(笑)

 

 

 

 

  

 

 

ロマン・デュリス懐かしの名作~映画『タイピスト!』

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 緊急事態宣言が解除され、日常を取り戻す街が増えつつある中、ヲタクが暮らすこの辺りでは継続の気配。そのせいか、はたまた先日『ジュディ 虹の彼方に』を観賞して少々ツラくなった反動なのか😅今日ご紹介したい映画は、『タイピスト❗』(2012年 フランス)。

 

  時は1950年代。フランスのド田舎、雑貨店を営む父と二人暮らしのローズ・パンフィル(デボラ・フランソワ)は、父が強引に進める縁談を逃れる為、独学で覚えた早打ちタイプを武器❓に、保険代理店を経営するルイ(ロマン・デュリス)の秘書として採用されます。ところがこのローズ、重要書類をシュレッダーにかけ、それをムリヤリ引っ張った為に機械を壊したり、電話をとるのにメモが見つからず社長のルイの手のひらに書いちゃったり…と、秘書としてはさんざんのていたらく(笑)ルイは「秘書には向いていない」とクビにしようとしますが、「村に帰ったら、気の進まない縁談を受け入れるしかない」とローズに泣きつかれ(フランスでも50年代はこんな感じだったのね😅)、彼女を田舎に帰さない為の苦肉の策『タイプ早打ち大会』優勝を目指して、彼女を特訓するハメになり…というおはなし😊

 

  …はてさて、このストーリー展開と映画のキャッチフレーズのかずかず…「マドモアゼルのド根性見せてあげる」「素敵な上司は鬼コーチ」どこかで見たことある、聞いたことあるゾ😅…そう❗まんま『アラベスク』(山岸凉子)、『エースをねらえ❗』(山本鈴美香)ですよねぇ。イケメンでクールなコーチがいて、『ドジで、ノロマなカメ』(あ、このフレーズは少女漫画じゃなくて、堀ちえみ風間杜夫ね😅ドラマ『スチュワーデス物語』)な私を、栄光の極みに導いてくれる…っていう少女の夢のキラキラ世界✨💍✨

 

  鬼コーチ…って言ってるけど、行動を観察しただけで(お前ホントはめちゃくちゃ優しいだろーーっ)って突っ込み入れたくなるのも、やっぱり少女漫画の世界(笑)

 

  映画でのローズの特訓の様子なんて見ると、走ったり跳んだり自転車こいだり、まんまスポ根。手動タイプってホントに体力勝負。5本指で打つ場合、普段使わない薬指や小指にかなり負担が来るから、肩から二の腕も一緒に鍛えなくちゃいけない。ヲタクも大学時代に「レポートは全て英文タイプで提出のこと。手書きは不可」って、あるイギリス人の教授に宣告され、(オニ~~😈)って呪いながらタイプ学校の門を叩きましたっけ。ローズの場合と違って、教授はおじいちゃんだし、カトリックの神父さまだから、ヲタク妄想の余地もなくてつまんなかったけど(笑)

 

閑話休題

 

  ストーリーはまんまスポ根でも、そこはそれフランス映画、おシャレで可愛くてキッチュでポップな作品に仕上がっているところがお国柄❤️カラフルなオープニングがまず必見🎵ローズのブロンドのポニーテール姿を初めとして、登場する女性たちの50年代ファッション、画面の色彩感覚に酔いしれ、映画の中のセリフ…「アメリカ人はビジネスを、フランス人は愛を」に象徴されるフランス的流儀を堪能あれ❗

 

  ローズは当時のハリウッドスタァに憧れている設定で、オードリー・ヘップバーンマリリン・モンローのピンナップを部屋に貼っています。主役のデボラ嬢はタイピングと同時に、50年代の女性の所作や立ち振舞いを学ぶために、オードリーの映画を見て勉強したそう😊

 

  ローズのあるエピソードが、ゴルフボールみたいに印字がくるくる回る電動タイプライターの発明のもとになった…っていうオチもなかなかヒネリが効いてて楽しかった。

 

  恋も仕事も人生もみーんな欲張って楽しんじゃう❗フランス女性のサクセスストーリーで『おうち時間を楽しく』(笑)

レネーありきの『ジュディ 虹の彼方に』そして『ワイルドローズ』へ❗

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 これはヲタクにとっては曰く付きの映画。地元の映画館に入ってまずパンフレットを買い、「さあ、これから」と言うときに携帯がリリーン🎵仕事のトラブルで職場に戻るハメに。リベンジしようと思っていたら、コロナ騒ぎで映画館は瞬く間に閉館😢そんな『虹の彼方に』がU-NEXTで期間限定配信中😆

 

  これはですね、『レヴェナント』のレオナルド・ディカプリオを見るが如く、『ウィンストン・チャーチル』のゲイリー・オールドマンを見るが如く、『レイジングブル』のロバート・デ・ニーロを見るが如く、映画の内容というよりもむしろ、ただただ偉大なる演技者の圧倒的なパフォーマンスに酔い、その最高の瞬間に出逢えた喜びに身を委ねるべき映画です。

 

 かつて、 映画『キャバレー』や『ニューヨークニューヨーク』(ロバート・デ・ニーロと共演)を見て、すっかりライザ・ミネリのファンになったヲタク。彼女のお母さんもまた、偉大なるミュージカルスタァだったことを知り、『オズの魔法使い』や『イースターパレード』『スタァ誕生』を見てこれまたファンに(笑)ライザのダイナミックさとはまた違う、典型的なアメリカン・ガールの可憐さ、明るさ、ファニーフェイスの親しみやすい魅力。…でもその名声と栄光とは裏腹の、ジュディの悲惨な私生活を知ってしまい、何とも言えない複雑な気持ちに…😢それからというもの、彼女が出演する映画(特に、明るく楽しいハリウッドミュージカルの数々)をリピートすることはありませんでした。

 

…そんな経緯があるので、ジュディ役がレネー・ゼルヴィガーじゃなかったら、この映画、見てなかったかも😅レネーもジュディ同様ナーヴァスで傷つきやすく繊細な性格と言われています。彼女自身も、浮き沈みの激しい不安定な時期を経て来ているわけで、ある意味重なり合う部分もあるジュディ役をどう演じるのか❓

 

  結論…いやもう、神憑りな演技で、ジュディ・ガーランドが乗り移ったんじゃないかと思えるほどの熱演❗

ゴールデングローブ賞アカデミー賞のW受賞、誰も文句は言いますまい(笑)

 

 特に、ジュディ本人に勝るとも劣らない圧倒的な歌唱力と演技力。ジュディも、ミュージカルにおける歌唱力だけではなく、『ニュールンベルク裁判』などシリアスなドラマにおいても、その卓越した演技力が認められていました。だからこそ、最後のシーン、夫も、お金も、愛する子供たちの親権も、歌手としての活躍の場も、全て失ったジュディが、嗚咽に咽びながら『虹の彼方に』を歌うシーンが、胸を抉るのです😢

 

  長く不安定な時期を克服し、この映画で再びスポットライトを浴びたレネー・ゼルヴィガー。ジュディはまだまだキャリアを続けられる齢(よわい)僅か47才で、この世を去ってしまいました。しかしレネーには、同じ轍は踏んでほしくない😢どうかこれからも、ますます大輪の花を咲かせて欲しいと、願わずにはいられないヲタクなのでした。

 

(そして『ワイルドローズ』へ❗)

ジュディ・ガーランドは故郷アメリカを離れ、ロンドンで演奏旅行中に客死しています。ロンドンでの世話役ロザリン役に、アイルランド出身の女優ジェシー・バックリー。そう、BBCのドラマ『戦争と平和』で、ジャクロくん演じるニコライ・ロストフの妻役を印象的に演じた彼女です。ジュディの気まぐれに振り回されながらも、彼女の才能を認め、陰で支えるロザリン。英国の女優さんらしい、地味だけど味わい深い演技でしたね。

 

  ジェシーはこれから、英国アカデミー主演女優賞にノミネートされた『ワイルド・ローズ』日本公開が控えています😊今回は彼女、カントリー歌手を目指す刑務所出のシングルマザー、ローズ・リン・ハーランを演じていて、これまでの抑制の効いた演技とは真逆ですね。何しろワイルドローズだもんね😅ウワサではジェシー、レネーに負けず劣らずの圧倒的な歌唱力らしい。こちらもめちゃくちゃ楽しみです~~❗

 

  

 

  

ドイツのカメレオン俳優~トム・シリング~『ある画家の数奇な運命』公開なるか❗❓

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(Berlin from Pixabay)

 ヲタク的に、元祖カメレオン俳優といえばゲイリー・オールドマンロバート・デ・ニーロ、今ドキのハリウッドカメレオン俳優はクリスチャン・ベール、そしてそしてドイツのカメレオン俳優と言えば、トム・シリング❗

 

  はい、先日記事をUPしたマインドファックムービー『ピエロがお前を嘲笑う』の主人公ベンヤミン役を演じた彼ですね。『ピエロ~』では、ちょっと猫背で自信がなくてオドオドしたいじめられっこなのに、ひとたびPCの世界へ入り込むと天才ハッカーの牙を剥くベンヤミンを演じ切っていました。

 

  彼が世界中にその名を知られるようになったのは、『コーヒーをめぐる冒険』。ドイツのアカデミー賞を総なめにした、監督ヤン・オーレ・ゲルスターのデビュー作。朝、ガールフレンドのベッドの上でコーヒーを飲み損なったニコ(トムくん)。それからというもの、さまざまなシチュエーションで彼は一杯のコーヒーを飲もうとするも、ことごとく失敗。それにまつわる様々にトホホなエピソード、巡り合う人々がみな滑稽で物悲しく、愛すべき人たち。ニコはギムナジウムを出て大学の法学部に入学、父親の過大なる期待を背にエリート候補生だったはずがなぜかドロップアウト。「ボクはずっと、周囲がヘンだと思ってた。でも違うんだ、ヘンなのはボクなんだ」と呟き、「毎日何をしてるんだ」と問われ、「考えてる」と答えるようなニート青年。丸1日様々な出逢いを経て、最後の場面、カフェで美味しそうにコーヒーをすすり、ちょっぴり人生を見直し始めたような、何とも言えない彼の表情が絶品です。

 

 モノクロで映し出されるベルリンの街は、映画『マンハッタン』(ウッディ・アレン監督)に勝るとも劣らない叙情溢れる美しさ。主流を外れた者たちの、温かく、シニカルなユーモアを交えた描写、全編を流れるオフビート感はどこか、ジム・ジャームッシュ監督の作品を彷彿とさせます。全編モノクロだから、トムくんの透明なブルーアイズが見れないのはいかにも残念ですが(笑)

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…かと思えば、『我が闘争~若き日のアドルフ・ヒットラー』で、ウィーンの内気な画学生が、いかにして史上最悪のデマゴーグに変貌していったか、鬼気迫る演技を披露。ストーリー展開としては、ヒットラーの滑稽さを揶揄するシーンも満載で、恐怖と笑いのミックスしたようなシュールな作品になってます。しかし、後年のモンスターを彷彿とさせる、若き日のヒットラーの狂気を垣間見せるシーンは背筋が寒くなるようで、カメレオン俳優の面目躍如です。


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 若きウェルテルの如く、青春の苦悩や脆さ、美しさを繊細な演技で体現し続けてきた彼ももはや38才。最近ご無沙汰でしたが、2019年第91回アカデミー賞撮影賞、外国語映画賞にノミネートされた『ある画家の数奇な運命』が今秋劇場公開されそうだという嬉しいニュースが❗この作品の中で、彼はドイツ最高峰の画家とも称されるゲルハルト・リヒターの若き日を演じています。

 

  今秋公開予定というのはこのコロナ禍発生以前の情報なので、どうなるかは実際のところわかりませんが、ちいさな希望を心の中に積み重ねていくのも、『おうち時間を楽しく』するツールのひとつかな❓…と思う今日この頃。


ある画家の数奇な運命 - 映画情報・感想・評価(ネタバレなし) | Filmarks映画

未解決事件に燃える女性刑事~ITVドラマ『埋もれる殺意』(イギリス)


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(Yorkshire from Pixabay)

U-NEXT吹替版で『 埋もれる殺意(原題 Unfogotten)  』3シリーズ観賞。

 

それぞれ6話完結で、1『39年目の真実』2『26年の沈黙』3『18年後の慟哭』の3シリーズ、全18話。建物の解体や工事現場から偶然白骨死体が発見され、封印されていた殺人事件が露になり、主人公のキャシー警部(ニコラ・ウォーカー)が部下のサニー(サンジーヴ・バスカー)と共に、複数の容疑者の中から真実を突き止めていくというストーリー展開。

 

  このドラマ、ITVの製作です。ITVはイギリス最大且つ最古の民間TV局で、ミステリードラマだけでも、拙ブログで以前取り上げたこともある『刑事モース』『ブロードチャーチ』、ヲタクはまだ未見ですが名作の呼び声高い『ヴェラ~信念の女警部』等の製作局ですから、ITV製作のミステリー…っていうだけで、内容の濃さは保障されたようなもの😉

 

  キャシーのキャラ設定が、とっても人間味に溢れていて、温かくて、ストーリーの陰惨さを救っています。事件から何十年も経って、犯人や容疑者たちもまた歳をとり、罪の意識に苛まれていたり、その後の過酷な人生に苦しみ抜いて、人格も変容していたりするわけですね。それに対するキャシーの取り組み方もストーリーの見所の一つ。

 

  シングルマザーの彼女は、やはり独り身の父親と息子の三人暮らし。一人息子に対する溺愛ぶりや、孤独な父親の心情を思い遣る姿に共感を覚えます。息子と同年代の事件関係者に対し、職域を越えて同情してしまい、それがかえって仇となって(余計なことするな❗)とばかりに殴られケガをしたり、かと思えば、家庭の悩みを抱えつつの捜査の途中、重要書類をパブにうっかり置き忘れちゃったり…。仕事と家庭の軋轢も、働く女性としては身につまされます😢

 

  インド人である部下のサニーとの関係も、お互い人種を越えた尊敬の念が伺われて爽やか。

 

  また、当時の容疑者が年を経てイギリス全土に散っているため、時にキャシーは泊まりがけの出張も。コッツウォルズやヨークシャー地方、時にはスコットランド…と、風光明媚なイギリスを堪能できるのも楽しい😆

 

  言わば『コールドケース』のイギリス版ですね。本家本元、あの名プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーが手掛けたアメリカのドラマ『コールドケース』、ヲタクは今やっと、第1シリーズを見始めたところ😅じつは『コールドケース』は日本版(吉田羊主演)のほうを先に見ました。どれだけマイナー志向なんだ…ってカンジですよね。フツーは見る順番逆じゃないの、っていう。この3作、未解決事件に燃える女性刑事…という点では同じですが、『埋もれる殺意』の職業意識と人道主義、『コールドケース日本版』の、自身も心の闇とトラウマを抱えた吉田羊のプロファイラー的アプローチ、本家『コールドケース』の必ず正義は勝つ的楽天主義性善説…お国柄❓が伺えてそれぞれヒロインが魅力的、見比べてみるのも楽しいかも❗下にUPしたのは、第3シリーズが英国本国のNetflixで放映が決まった、というニュース。

 

『埋もれる殺意』本国ではかなり人気が高いらしく、第4シリーズの撮影が決定した、とのニュースがはいりましたが、今回のコロナ禍でどうなっているのでしょう…。新たなシリーズが見れる日を楽しみにしています❗

  

 

NHKって攻めてるな~😮『黒い画集~証言』

 録画してあったNHK『黒い画集~証言』(5/9 NHKBSプレミアム)遅蒔きながらやっと見れた😅いやー、NHKのドラマってさ、前から思ってたけど、攻めてるよね、先鋭的だよね。

 

  舞台は古都、金沢。妻の実家の医院を継ぎ、美しく従順な妻(西田尚美)と子どもたちに恵まれ、何不自由のない暮らしを享受している主人公、石野貞一郎(谷原章介)。彼には誰にも話せない秘密があった。彼は男性しか愛せず、美大生の梅沢智久(浅香航大)と不倫関係にある。智久との旅先で、偶然元患者と遭遇。元患者が殺人の容疑者として逮捕され、アリバイ証言を求められた彼は、智久との関係を知られたくない為に、元患者とは会っていないと偽証してしまう…。

 

  原作では不倫相手はもちろん女性。それを若い男性にしたことで、全体的なイメージもガラッと変わったし、主人公の苦悶も感情移入がしやすかった。なんでそんなに自分を偽って生きていかなくちゃいけないの…?と疑問に思う向きもあるかもしれないけど、それは金沢という街の風土もあるんじゃないかな。古き良き伝統を保ちながら、ともすればそれが人の心を縛る因習になってしまう。大学時代、金沢から勘当同然に上京してきた造り酒屋のお嬢が同じゼミにいたんだけど、郷土の街を嫌いだと公言しながら、そのじつ一番縛られているのは彼女自身じゃないかな…と思いながら見てた。貞一郎の姿にふと、遠い学生時代のクラスメートを重ねるヲタクなのでした😅

 

  閑話休題

 

地位も名声もお金も持つオトナの男、谷原章介を狂わせ、破滅へと引き摺り込む浅香航大のファム…いやもとい、オム・ファタールっぷりが凄いよ。ドキドキしちゃう😅二人のラブシーンは、ヲタク的には『セカンド・ヴァージン』鈴木京香長谷川博己以来の濃厚さで、(やるな、NHK❗)って思わず心の中で叫んだヲタク😅

 

  久々に吉村界人谷原章介の息子役で出てて、嬉しかった。(テレ東のドラマ24『Giver~復讐の贈与者』ハジケっぷりが記憶に新しい😊)

 

  そしてそして、今回のドラマのMVPはなんと言っても西田尚美でしょう❗こういう、一見従順・貞淑そうで、心の奥に冷たい鬼火をちらちらと燃やしているような役、巧いですよねぇ。まさに、外面如菩薩・内面如夜叉、愛と言う名の暴力。フジテレビの深夜ドラマ『ぼくは麻理のなか』で、その愛情で、ギリギリとヒロインの心を締め上げていく母親の役、めちゃくちゃ怖かったけど、今回もその時以来のインパクトでした❗

 

  松本清張って、さまざまな時代に何度も映像化されているけど、結末が分かっていてもつい引き込まれて最後まで見てしまうのは、どんなに時代が変わっても、(自分を正当化したい、本当の自分と対峙したくない)という、人間本来の弱さや愚かさは私たちの裡に常に内在していて、ふとしたきっかけで誰もが罪を犯す可能性があるのだ…と、警鐘を鳴らしているから。

 

  だからこそ私たちは、ともすれば鈍る心、弱る心を叱咤して、正しく生きていく努力をしなくてはならない…と。