オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

2022年 オタクが選ぶ日本映画ベスト10プラス1~前編

 今年も早いもので、あと2週間で大晦日。トシをとると1年、いや1ヶ月、いや1日の経つのが早いこと😅そんな中、ヲタクの乾いた?心を癒してくれた映画作品たち。今日はそんな作品をご紹介したいと思います。順位なんてとてもつけられないので、順不同です。


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★決戦は日曜日(監督・坂下雄一郎)

保守系のベテラン議員が衆院選を目前に脳梗塞で突然倒れ、周囲はてんやわんやに。そんな中、後継者に指名されたのは、政治のイロハも全く知らない議員のワガママな一人娘、有美(宮沢りえ)。有美は根拠のないナゾの熱意はあるものの、失言は繰り返すわ、後援会の重鎮たちとはケンカするわ、空回りばかり。そんな彼女を支える役目を仰せつかったのが、長年昌平の私設秘書を務めていた、よく言えばクール、悪く言えば事なかれ主義の谷村勉(窪田正孝)。全く噛み合わない二人がバディを組む、前途多難な選挙戦の行く末は……?

  日本では珍しいポリティカルコメディ。宮沢りえ窪田正孝という演技巧者同士の組み合わせがとても新鮮。選挙戦のドタバタに日本特有の親子愛の情愛を絡ませて、面白うてちょっとしんみり。続編も作れそうな終わりかたしてましたけどね。ムリかな?😅


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★破戒 (監督・前田和男)

 島崎藤村の名作の映画化。信州の部落出身の瀬川丑松(間宮祥太朗)は、部落民への苛烈な差別があった時代、父から「部落出身だということは決して口外してはならぬ」という戒めを固く守り、苦学の末、夢であった尋常小学校の教師となります。そんな彼が、様々な人々、そして教え子たちとの触れ合いを通じて、いかにその戒めを破るに至ったのか。その苦悶と、究極の自己肯定に至る過程を描いた感動作。

  この映画の成功の1つに、主演を務めたのが間宮祥太朗だったということが挙げられるでしょう。いみじくも、前田監督がインタビューで

この役は間宮さん1本押しでいきました。何が一番の決め手になったのかというと美しさですね。これは皆さん納得していただけると思いますが。

と語ったように、佇まいや台詞回しの美しさは言うに及ばず、静かに抑制の利いた演技は、優れた資質に恵まれながらも、ただその出自のせいで蔑まれ、社会から追われる青年の苦しみを余すところなく表現していました。


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★ヘルドッグス(監督・原田眞人)

  その並外れた身体能力と強固な意思を見込まれ、日本最大の暴力団で悪徳の限りを尽くす東鞘会の潜入捜査官に命じられた出月悟郎(岡田准一)。彼のミッションは兼高昭吾という架空の人物になりすまし、会の中でのし上がって、最終的には会を壊滅に導くこと。その糸口として、東鞘会の若手組員で命知らずなサイコパス、室岡秀喜(坂口健太郎)を手なずけるのですが……。

  サイコパスのくせに妙にピュアで人懐っこくて、どんなに大立回りをしても汗もかかない、衣服を纏えば細身なのに、「脱いだらボク、スゴイんです」(笑)な、冷血・白面の貴公子に、坂口健太郎がハマりすぎるほどハマってます。室岡は、岡田くん演じる出月に惚れぬいていて、(二人は良いバディ~🎵)とばかりに彼らのツーショットをルンルン見てたヲタクは、ラストのあまりの衝撃にがーーん❗そりゃないでしょーっ。#俺たちの室岡を返せーーっ(笑)


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★アイ・アムまきもと(監督・水田伸生)

 牧本壮(阿部サダヲ)は、のどかな庄内地方の市役所で、引き取り手のいない(大概は独居の)ご遺体の「おみおくり係」を務めています。とはいえ、係に所属しているのは彼一人。空気読めない、会話が成り立たない、思い込んだら猪突猛進で、おそらくはどの部署に配属されてもはみ出してしまうであろう彼に、上司(篠井英介)が温情から割り当てた役職です。そんな、彼にとっては天職とも言える「お見送り係」も、せちがらい世の中、効率化のあおりを受けて、今手掛けている蕪木(宇崎竜童)を最後に廃止となるハメに……。自分にとって最後の任務……と張り切る牧本。蕪木のために奔走し、彼の関係者たち(一人娘の満島ひかり、同棲相手の宮沢りえなど)と触れあううちに、牧本自身の人生観もまた、次第に変化を見せていきます。

 イタリア映画『おみおくりの作法』を翻案したものだそうですが、イタリア式の明るく乾いたユーモアの中に、日本的な湿った情緒や人情話が上手く絡んだ佳作といえるでしょう。主役の阿部サダヲをはじめとして、宮沢りえ満島ひかり、でんでん、國村隼松尾スズキ……と、日本演劇界を代表する「クセの強い」芸達者たちが勢揃い。台詞の応酬も阿吽の呼吸で、そりゃもう、見事なもんです😊


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★犬も食わねどチャーリーは笑う(監督・市井昌秀)

  ホームセンターの副店長・田村裕次郎(香取慎吾)は超仕事人間。店内の全ての製品に精通し、店長に代わって店員たちを取りまとめる主(ぬし)的な存在。子どもはいないけど、妻の日和(ひより……岸井ゆきの)とはそれなりにうまくいっていると彼自身は思っていた気配😅ところがそんなある日、同僚の蓑山さん(余貴美子)が、スマホで「旦那デスノート」というサイトを見せてきます。世の奥さんたちが、自分の旦那に対して罵詈雑言を書き込むサイト。

「このチャーリーって人の文章、最高なんだから~」という投稿を読んだ裕次郎は真っ青に。自分たち夫婦の日常が赤裸々に綴られ、いつも笑って料理を出してくれる妻から発せられる暴言の数々。しかも、あろうことか妻は先日、自分のカレーに冷凍マウスのミンチ(注・二人の飼っているフクロウのチャーリーの餌である)を入れたらしい❗

 

ぎゃあああああヽ(;゚;Д;゚;; )

 

……とまあ、こんな感じの導入で、コワくてコワくて。だってさ、何しろダンナ役が、エッジーな役ならおまかせの香取しんごちゃんだし。優しそうに見えたダンナはじつはサイコパスで、最後は『Mr. & Mrs. Smith』のブラピとアンジーみたいに夫婦で殺し合ったりしちゃうわけ?……とか、ヲタクは映画見ながらアタマぐるぐる(@_@)しちゃったけど、違った(笑)……とってもハートウォーミングな展開で、しんみりほっこり。図体は大きいけど、ちょっとニブくて優しいダンナ役にしんごちゃんがピッタリハマってて、嬉しいギャップ萌えでした😊

 

……というわけで、後編はまた後日❗

 

★後編6作品についてはコチラ⏬⏬⏬⏬⏬

 

 

 

 

素顔のラミン・カリムルー~『トゥモロー・モーニング』

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 横浜のミニシアター「ジャック & べティ」で、ミュージカル映画『トゥモロー・モーニング』鑑賞。

 

  今日のヲタクのお目当ては、ラミン・カリムルー!


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若干28才にしてアノ『オペラ座の怪人』に抜擢されたラミン・カリムルー!ヲタクも10年前位にロンドンで『オペラ座の怪人』観たけど、残念ながらその時は彼は出ていなかった😢……しかししかし、ロイヤルアルバートホールで上演された『オペラ座の怪人上演25周年公演』では、念願叶って彼の怪人が見れたぁぁ~🎉✨😆✨🎊(コロナ禍ということで、世界中の「ファントム」ファンのために、YouTubeで48時間の限定配信が行われたんです)本公演ももちろんだけど、上演後この作品のミューズにして不世出のディーヴァ、サラ・ブライトマンが特別ゲストとして華々しく登場、ラミンも含め歴代4人の怪人たちと歌う……という、ミュージカルファンには嬉しすぎて気が狂いそうな企画が(笑)ラミンは記念公演に選ばれるだけあって、その歌声、演技力、セクシーな魅力、群を抜いてましたっけ。特にその歌声は、力強く、言わば絹のような光沢がありました。日本にもけっこう来日してますよね、コンサートで。でもヲタク的にはこの眼で全編見たい、彼のファントムが。

 

  さて、前置きが長くなりましたが、『トゥモロー・モーニング』。離婚を決意した夫婦が財産分与で争い、明日の朝は裁判所で調停を控えている……という設定の、ある1日の物語。今までの生活も、これからの人生も、一変してしまうだろう「トゥモロー・モーニング」を前に何故か、二人の脳裏に去来するのは、出会いから恋に落ち、結婚に至るまでの耀かしい日々でした。現在と過去の二人が、それぞれのシチュエーションで同じ曲を歌う……っていう構成になっています。でもこれ、元々は舞台なんだよね?映画ではそれぞれ過去と現在、ヴィジュアルを変えてそれとわかるように演じているけど、舞台ではどんなふうになってるんだろう(-ω- ?)もしかして別々の俳優さんが演じてる?……将来、舞台も見てみたいものです😊

 

あんなにアツアツの恋人同士だった二人が20年経ってなぜ離婚に至ったのか……。ストーリーが進むに連れ、次第に原因は明らかになっていきますが、まあ結局のところ、お父ちゃんの「遅くやって来た自分探しの旅」に、奥さんと10才のキュートな息子が巻き込まれちゃったっていう(笑)まっでもね、これはラミン・カリムルーとサマンサ・バークスという、当代きってのミュージカルスターの珠玉のような歌声に酔う映画ですからね😊難しいことは言いっこなし!(笑)

 

★『オペラ座の怪人上演25周年記念公演』についての記事はコチラ!⏬⏬⏬⏬⏬⏬⏬

 

フェミニズム・ホラーとでも言うべき?~『MEN / 同じ顔の男たち』


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 桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」にて、『MEN / 同じ顔の男たち』(A24 アレックス・ガーランド監督)鑑賞。

 

  ロンドンに住むハーパー(ジェシー・バックリー)は、離婚話がこじれた末に、アパートの階上の部屋から落下する夫ジェームズを目撃、さらには鉄の柵に串刺しにされた彼のご遺体(かなりリアルなので、気の弱い方は注意!)を目の当たりにして、日夜そのトラウマに苦しんでいました。疲れ果てたハーパーはカントリーハウスを借り、2週間の休暇を取って、ロンドンから数時間の小さな村に滞在することにします。

 

  カントリーハウスの管理人ジェフリー(ロニー・キニア)は、庭のリンゴをかじっているハーパーに、「食べちゃダメなんだよ。リンゴは禁断の果実なんだから」と謎めいた言葉を吐きます。初対面にもかかわらず、ずかずかとこちらの気持ちに土足で踏み込んで来るジェフリーに、最初から辟易するハーパー。気を取り直して散歩に出かけた先でも、路上生活者の全裸の男にストーキングされたり、親切めかしてハーパーに近づき、挙げ句の果てに「あなたの出方次第ではご主人は死なずに住んだかもしれない」などと言出だす神父(しかも、ものすごい至近距離で膝に手なんか置いちゃって、キモい )、ストーキングを訴えても取り合わない警察官など、出会うのが全員、セクハラ男パワハラ男のオンパレード(しかも、何故かみーんなおんなじ顔……キモい)……そしてその夜、釈放されたストーカーの男がカントリーハウスに押し入ろうとしたその瞬間から彼女の、想像を絶する恐怖と血塗られた惨劇の一夜が幕を開けるのです。

 

  導入部の絵面~英国の典型的な田園風景や森の描写は、同じA24のホラー『ミッドサマー』や『ラム LAMB』と同様ひじょうに美しいです。だからこそ、クライマックスからラストにかけての恐怖に満ちたグロさ(ガチR15!)が一層際立つしくみ。

 

  この映画に出てくるメンズは一人残らずクズなんだけど、いっちゃんクズっぷりがハンパないのが、ハーパーの死んだダンナのジェームズでしょう。自分が死んだ後も、奥さんを心理的に支配しようなんて、冗談も休み休み言えっつーの!……かなりの粘着性気質(怒)でもさ、ハーパーの置かれたようなラジカルな状況じゃなくても、彼女と同じように、(どこか自分を責め続けてしまう)DVやセクハラやパワハラの被害者女性たちは大勢いるんだろうなぁ……。

 

  深層心理やトラウマが怪物を産み出す……って構図は、北欧ホラー『ハッチング 孵化』とかを思い出すけど、果たしてこれは彼女の罪悪感が産み出した妄想なのか?それとも……。ラストを見る限り、?/#[@[)〉〈☆¥&(ピー)だけどね。まあ、私たち観客の判断に委ねられているんでしょうね。

 

  恐怖におののきつつも、包丁持って健気に立ち上がり、自らの罪悪感とグロテスクな男性性が産み出した怪物たちと一人で戦うヒロインにジェシー・バックリー。『ワイルド・ローズ』、『彼女たちの革命前夜』『ロスト・ドーター』、『ウィメン・トーキング Women Talking』などで、すっかり銀幕フェミニズムの旗手となった感のあるジェシー。 彼女のキャリアに、新たなフェミニズム映画の1ページが加わった!……って、ち、違う!?😅(笑)

 

  監督は、『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド。今回の映画に登場する「男たち」は、『エクス・マキナ』で、ヒロインのAI(アリシア・ヴィキャンデル)の創造主たる社長(オスカー・アイザック)の、言わば「有毒な男性性」を彷彿とさせます。有毒な男性性のテーマと言えば、最近では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(ジェーン・カンピオン監督)がすぐに思い浮かびますが、ガーランド監督って男性だよねぇ……ちょっとビックリ(笑)

 

★今日の小ネタ

ハーパーが訪れた教会には、祭壇の前になぜか、異教たるケルト神話に登場するオークキング(樫の木の王)の彫刻(下の写真)が置いてあります。さらに、「男たち」の一人、全裸のストーカー男がラスト、この異教のモンスターに変身してしまいます。

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で、オークキングの裏には女性器を象徴する彫刻が。キリスト教会に異端の像……。何のメタファなんだろう?ヒロインのジェシー・バックリーがアイリッシュだから?まあ、ハーパーがリンゴを食べるシーンはもちろん聖書のアダムとイブを連想させますが、他にも死んだ鹿とか、ハーパーの鼻孔に入り込む綿毛とか、意味がわからなくてモヤモヤする😅……まっ、ガーランド監督自身、「分かりやすい映画なんて興味ない」らしいので、まんまと監督の思うつぼなヲタクなんでした、ぢゃん、ぢゃん!

 

 

  

 

  

 

『天上の花』と舞台挨拶(ジャック & べティ横浜)

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  横浜黄金町のミニシアター、ジャック & べティで『天上の花』鑑賞。日本近代詩の祖とも言われる萩原朔太郎の息女・葉子の小説『天上の花~三好達治抄』の中から、特に、朔太郎の弟子のような存在である三好(東出昌大)と朔太郎の奔放な妹慶子(入山法子)との短くも激烈な結婚生活をテーマに選んで映画化したものです。

 

  ヲタク、萩原朔太郎の詩集『月に吠える』は学生の頃すごく好きだった。月、孤独、冷たい、病的、絶望、メランコリー……のメタファ。並行して太宰治にもハマってたから、かなりキてたよね(笑)朔太郎って大のミステリーファンで、探偵が登場する『殺人事件』なんて詩もあって、江戸川乱歩に傾倒してたらしい。案外お耽美だったのね。……って、何の話してるんだ(笑)

 

 この映画の主役たる三好達治には殆ど興味なくて😅それでも一つだけ、名前に惹かれて読んだ詩集が『花筐(はながたみ)』。大好きな世阿弥の同名のお能は、時の帝に恋した照日御前の一筋の愛をテーマにしたものだったので、そんな純愛イメージを抱いていたら、三好の詩はぜんぜん違った。……愛する女性をそれぞれ花に例えて詠んだもので、詩に使われている言葉は一見、綺麗なんだけど、女性の側から見ると、女性に対する行き過ぎた偶像化(理想の押し売り?😅)に、ちょっと引いちゃいました。(ちっ、女は所詮鑑賞用かよ)みたいなね(笑)

 

  映画を見て、若い頃からヲタクの男を見る目は確かだったんだと思ったわ(⬅️バカ😅)

初めて会った時から慶子の美しさに魅いられた三好は、16年の歳月を経てやっと彼女との結婚にこぎ着け、越前三国の海岸に古家を借りて二人で暮らし始めます。慶子にとっては4度目、三好にとってはその為に妻子を強引に離縁した末の、初めから不穏な未来を予感させる結婚でした。長い年月、三好の妄想?の中で醸成された「慶子像」と、実際の慶子はもちろん、天と地ほどの違いがあります。特に彼女は思想や芸術なんて知ったこっちゃない、美味しいものと綺麗な着物が大好きな現実主義者・享楽主義者なんですから(笑)

 

 二人の初夜の翌朝 、先に目覚めた三好が、寝ている慶子の口からヨダレが流れているのを見るんですね。一瞬の落胆と戸惑い、その直後に雑念を振り払うような東出くんのその時の表情が何とも言えない、凄い。ヲタク的には、彼らの愛の生活(始まりに愛が存在したか否かは論議の余地があると思いますが😅)の崩壊は、三好が慶子のヨダレを見た時にすでに始まっていたと思いますね、うん。

 

この二人の人生観のスレ違いと、貧しい彼を見下す慶子の冷たい視線は三好を追い詰め、彼の言動は次第に狂気じみてきて、何かというと激昂し、ついには慶子に暴力を振るうようになります。慶子は当時の日本の女性にしては珍しく強烈な自我の持ち主ですから、三好のDVに決して屈せず真正面から逆襲して、さらに三好の逆鱗に触れる……という負の連鎖。ヲタクはもはや途中から、慶子に感情移入しちゃって、(頑張れ、DV夫になんか負けるな!)と心の中で叫ぶばかり。ラスト近く、いよいよ慶子が家からの脱走を試みた夜中、それに気付いた三好が追いかけてきて、後方のトンネルからぬっと現れるシーンなんて、東出くんタッパはあるわ、表情は鬼気迫ってるわで、まるでホラー((( ;゚Д゚)))トンネルを抜ければそこは鬼の住処であった……なんて、シャレにならないよう(ブルブル)

 

  現代的な価値観・倫理観から見れば当時の芸術家や詩人、作家たちの生きざまって今とは違いすぎるし、受け入れられないものも多々あるけれど、確実に彼らが存在した結果として今の日本があるわけで。三好達治萩原朔太郎の作品を読んだことのある若い世代が今どれだけいるかを考えると、風化しつつある日本の文学史・思想史に光を当てた、この『天上の花』のような作品が、もっともっと生まれてきたらいいな……と思いました。

 

……そしてそして、上映後には片嶋一貴監督、東出昌大さん、入山法子さんご登壇~~

(*’ω’ノノ゙☆ぱちぱちぱち

入山さんの様に華奢な、楚々とした方が、あんな激しい、まるで肉弾相打つ……みたいなテンションバリバリの芝居をするなんて。女優さんの根性ってハンパない!

そして、この映画の東出くんは、何だろう、捨て身の、失うものなんて何もないといった風情で、凄い役者さんだなぁ……と改めて思いましたね。『寝ても覚めても』や『スパイの妻』の時より、さらに吹っ切れた……というか。ヲタク的には、役者は銀幕の上で、舞台の上で、演じて魅せてナンボだと思っているので、これからもぜひ頑張って欲しいと思います😊

 

★ついしん

  吹越満がね、萩原朔太郎にぴったりでしたね。まあヲタクは元々朔太郎推しだし、吹越さんも大好きな俳優さんなんで嬉しかった😍吹越さん主演で萩原朔太郎の生涯……なんていうのも見てみたいな。

 

有森也実が、意表をつく役でカメオ出演、ビックリした😮こちらも、入山さんに負けず劣らず女優魂全開。

 

また、三好が病床の慶子にお見舞のバナナを持っていくシーン(当時のバナナは超高級品)をはじめとして、時代考証等細部に至るまで丁寧に作り込まれた作品です。

 

 

 

意識の流れの涯に~映画『夜、鳥たちが啼く』


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  桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」で城定秀夫監督の『夜、鳥たちが啼く』鑑賞。土曜日のこととて、桜木町はどこを向いても人、人、人。そんな休日の賑わいの中で、薄暗い映画館の片隅、賑かさとは真逆の映画を見る。うっわ~、暗いわぁ、陰キャだわぁ、映画の主人公とどっちが?(笑)

 

  映画は、男(山田裕貴)が暮らす古ぼけた平屋(平屋の横には小さなプレハブの離れがついている)に、若い母親(松本まりか)と小学生の息子(森優理斗)が引っ越してくるシーンから始まります。男がプレハブの方に移り、親子が母屋で暮らすようです。二人はどこかよそよそしく、母親は「新しいとこが見つかったらすぐ出ていくから」と言い、男にしきりに気を遣っているのがうかがえます。二人の真の関係は、男の記憶の中にある過去の出来事が時折フラッシュバックすることで、次第に明らかになっていきます。

 

  男の名前は慎一といい、十代の頃発表した小説で新人賞を取ったものの、その後は鳴かず飛ばず。同棲していた元カノ(中村ゆりか)と職場の先輩の仲を邪推し、相手の男を殴ってケガをさせた事件をはじめとして、時折沸き起こる暴力への衝動が制御できずにいました。それを小説に著そうとしても、自分自身を冷静に分析することが今の彼には難しく、悶々とした毎日が過ぎていくのみ。一方、若い母親・裕子は夫(カトウシンスケ)の不倫の末、離婚に追い込まれた身の上で、淋しさから毎晩行きずりの男と体を重ねる日々。そんな、心の空洞をもて余す二人が、優子の息子アキラを通じて、不器用にお互いの気持ちを探り合い、二人の間で少しずつ「何か」が変わっていく過程が淡々と綴られていきます。

 

  これって文学で言えば、たとえばジェームズ・ジョイスの※「意識の流れ」を想起させます。……っていうか、ヲタクがつい先日見たばかりのNetflixチャタレイ夫人の恋人』にジョイスが出てきたから思い出しただけなんだけど(笑)

※人間の精神の中に絶え間なく移ろっていく主観的な思考や感覚を、特に注釈を付けることなく記述していく文学的手法。

 

  さしたる大きな出来事もなく、主人公の想念の移ろいを映像化しようとする試みは、ヲタク的には、映像作品の進化・成熟ではないかと思っています。従来、日本ではこの種の作品はあまり人気がなかったように思うのだけれど、最近は『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)、『窓辺にて』(今泉力哉監督)、そして今回の城定秀夫監督と、40代の若い精鋭たちが、人間の心の内奥、意識の流れに光を当てた、優れた作品を作り始めたということは、未来の日本映画界にとって喜ぶべきことと、ヲタクは思います😊これがね、さらに進むと、『もう、終わりにしよう』(チャーリー・カウフマン監督)、『凱里ブルース』『ロングデイズ・ジャーニー / この夜の涯へ』(ビー・ガン監督)のような、「意識下の自己」「意識の深層」を映像化しようという、果敢なる挑戦に繋がっていくと思うのですが……。日本にもし、そういう作品が生まれるとすればそれは、先に挙げた「ご三家」のうちの誰かかもしれない……とヲタクは思っています。

 

  それにしても主役の二人、体当たりで頑張ってましたねぇ。松本まりかは、甘えちゃいけない、好きになっちゃいけないと自分に言い聞かせながら、傷ついて手負いの獣みたいになっている繊細で才能のある若い男にどんどん惹かれていって、母性にも似た愛を注ぐ女性がピッタリはまって、しかもひじょうに巧かった。山田裕貴くんは初主演ですか……ビックリ😮主役脇役チョイ役こだわらないのか、ひじょうに多作ですよね、彼。話題の作品には必ず出演しているイメージ。決して器用な役者さんではないと思うんだけど、いつかインタビューで彼を見た時の会話の中で、「僕に声かけてくれてありがとう」的な謙虚さが仄かにうかがえて、第2の西島秀俊になれる人なんじゃないかと思いました。小賢しい演技巧者などではなく、「俳優は所詮素材なんだから、好きに料理してやってくれ、どーん!」みたいな器の大きさ、自意識の無さ……みたいな。こういうタイプの役者さんが結局、長い目でみると大成するのかもしれないなぁ……。

 

 主人公の慎一の破壊衝動はもはや精神的な病と言っていいレベルだし、果たして彼がそれを文学という形で昇華し、カタルシスを得られるのか?薄幸で健気な母子は彼の救世主になれるのか?……先は見えないまま映画は終わりますが、その中にも、微かな希望の光や、互いの傷を労り合う気持ちが心地好い余韻を残す、ひと夏の物語でした。

 

 

  

 

  

時には少女のように~Netflix『チャタレイ夫人の恋人』のエマ・コリン

 
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『ザ・クラウン』で、英国王室というある意味伏魔殿のような場所に飛び込み、愛のない結婚に悩み、傷つきながら必死で未来を模索するダイアナ元皇太子妃を繊細に演じ、見事ゴールデングローブ賞を受賞したエマ・コリン。そんな彼女が、戦場で負傷し性的不能に陥った貴族の夫との結婚生活に絶望し、領地の森番との禁断の恋に走る妻……という『チャタレイ夫人の恋人』のヒロイン・コニーを演じると聞いて、そのイメージの落差に驚いたヲタクですが(何せ発売当時はその過激な性描写が祟って、発禁処分になった小説ですからね😅)、実際にNetflixで作品を見て、なぜエマがこの役にキャスティングされたのか納得がいきました!

 

  製作側の意図としてはおそらく、今までの映像化作品のように、貴族の夫人の性の解放と目覚め……的な側面からは描きたくなかったんでしょう。エマ演じるチャタレイ夫人コニーは、彼女の、華奢で少女のような体つきや、跡継ぎを欲しいが為に彼女に不倫を勧めるような配慮のない夫との価値観のズレに傷つく表情が印象的で、これまでの、「性的に満たされない、成熟したヒロイン像」とは対極にあります。これ、もしフローレンス・ピューが演じてたら、全く違ったイメージになっていたでしょうね。なんか凄いことになりそう(笑)……一方で、ダイアナ役とちょっとイメージが被った感はあるかな。それだけ『ザ・クラウン』の演技が強烈だったのね😅

 

  そんな繊細なヒロインに見合う相手役のメラーズ(※ジャック・オコンネル)も、いかにも男の体臭がムンムンするような筋骨隆々の森番ではなく、ジェームズ・ジョイスの小説を愛読し、コニーの苦しみを思いやる寡黙で優しい男性(自らも、出征中に妻が他の男と出奔してしまったという心の傷を抱えている)として描かれています。ぜったいこの描き方のほうが日本人好み。メラーズが孵化させたキジの雛を抱きながら、様々な感情がこみ上げてコニーが嗚咽し始め、彼がおずおずと、不器用に彼女を抱き寄せるシーンは胸きゅんモノ(……死語?😅)。この初々しい二人だと、雨の中マッパで走り回ってもむしろ可愛らしいというか、牧歌的というか。『チャタレイ夫人』というより、『ダフニスとクロエ』か『潮騒』みたいな。

※『ベルファスト71』で主役張ってた人ですね。推しのジャック・ロウデン目当てで見たけど、バリー・コーガンも出ていて、なにげに英国の若手総出演の戦争映画だった。あの時に比べるとオコンネル、めっちゃ落ち着き払ってて、別人かと思った(笑)

 

  どこまでも広がる丘陵地帯、木漏れ陽、陽光を反射してきらきら光る小川の水面、突然の雨に濡れてさらに鮮やかになる緑……。二人のロマンスを彩るイングランドの風景は、どこまでも美しいです。

 

  作者のD.H.ローレンスは、当時問題となっていた支配階級と労働者階級の対立に焦点を当てたかったようですが、性描写の部分に世間の注目が集まってしまった……という、少々不本意な成り行きになったようです。貴族の夫人と森番の禁断の恋を通じて、英国の厳しい階級制度を批判した書である、という見方もできますし。名作とは様々に異なる観点から解釈が可能……という典型的な例で、だからこそ異なるテーマで何度も映像化されてきたのでしょう。

 

そういった意味では、古典的名作に斬新な演出、そしてエマ・コリンとジャック・オコンネルというフレッシュな主役二人が、清新な風を吹き込んで新たに甦らせたと言えるのではないでしょうか。

 

 

  

映画『エルヴィス』オーストラリア・アカデミー賞独占!


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  今日は1日中オースティン・バトラーの「パームスプリングス国際映画祭ブレイクスルーパフォーマンス賞」(長い😅笑)受賞のニュースにコーフンしていたヲタクですが、はたまたテンション爆上がりなニュースが🎉✨😆✨🎊

 

 

オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞(Australian Academy of Cinema and Television Arts Awards~別名AACTA賞あるいはオーストラリア・アカデミー賞)で、オースティンの主演男優賞はもちろん、バズ・ラーマンが監督賞、作品そのものが作品賞、エルヴィスの愛妻プリシラを演じたオリヴィア・デヨングが助演女優賞と、映画『エルヴィス』が主要な賞を独占しましたぁぁぁ~!

 

  バズ・ラーマン監督はオーストラリア出身だし、『エルヴィス』もオーストラリアでロケした作品だしね😊オーストラリアで賞獲らなくてどーする!(……何様?😅)

 

  祖国を遠く離れた異国の地で長期間撮影、しかもコロナ禍で撮影は長期に渡って中断。撮休を余儀なくされ、一時撮影班が解散した間もアメリカには帰らず、修行僧の如くひたすらエルヴィス研究と彼の歌やパフォーマンスの練習をオーストラリアで続けたオースティン。おまけに8年越し交際の年上の彼女、ヴァネッサ・ハジェンズとも遠恋の末、別離の憂き目を見た彼ですが、様々な苦難を乗り越えて味わう勝利の美酒はどんな味?

 

さあ、このままアカデミー賞まで突っ走れ!

オースティン・バトラー「パームスプリングス国際映画祭」受賞で限界突破!?

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やったぜ、オースティン・バトラー!

年末になってワクワクするニュースが飛び込んで来ましたっ!

 

開催地がカリフォルニア州であり、毎年なにげに アカデミー賞の前哨戦的な役割を担っているパームスプリングス国際映画祭。このたび我らがオースティン・バトラーが「ブレイクスルーパフォーマンス賞」を受賞!単に新人賞……とかじゃなくて、オサレなネーミングがされているのが本映画祭の特徴です😊氷川きよしくんぢゃないけど、別名「限界突破賞」とでも言いましょうか(笑)

 

  オースティン・バトラーは、バズ・ラーマン監督の壮大な作品『エルヴィス』で、想像を遥かに越えた演技でスクリーンを圧倒した。エルヴィスの激動の人生を彼は微細な部分までも表現し尽くしている。オースティンは映画『エルヴィス』の心であり、魂そのものである。同時に、時代のアイコンであるアーティストのライヴパフォーマンスの再現は、これまでスクリーンで見た中で最高のものと言えるだろう。

……と、オースティン・バトラーの受賞に際してコメントしているのは、映画祭審査委員長のハロルド・マッツナー。

映画史上こんなに誉められた俳優いたかしら?っていうくらい、ベタボメなんですけど(笑)

 

過去の受賞者のうち、特にマハーシャラ・アリ(『ムーンライト』)、マリオン・コティヤール(『エディット・ピアフ愛の讃歌』)、ジェニファー・ハドソン(『ドリーム・ガールズ』)、ブリー・ラーソン(『ルーム』)、ラミ・マレック(『ボヘミアン・ラプソディ』)、ルピタ・ニョンゴ(『それでも夜は明ける』)は、本映画祭での受賞がそのままアカデミー賞受賞に繋がりました。オースティン、これだけ誉められてるんだから、可能性は大いにアリ……ですよね😉それに、ヴェネチアやカンヌと違ってオールアメリカンな賞だから、アカデミー賞には繋がりやすいんじゃないかなぁ。

 

行け行けオースティン!

アカデミー賞までこのまま突っ走れ!

 

他には、「砂漠のパームツリー賞」にケイト・ブランシェット(『タール TAR』)、「助演俳優賞 ?/ corresponding actor award」にコリン・ファレル(『イニシェリン島の精霊』)、「監督賞」にサラ・ポーリー(『ウィメン・トーキング Women Talking』)、「国際スター賞」にミッシェル・ヨー(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)、「ヴァンガード」賞にスピルバーグ監督の映画『フェイブルマンズ』の受賞が決まっています。

 

各賞の授与式はパームスプリングス・コンベンションセンターで2023年の1月5日に行われます。(映画祭の開催は1月16日まで)レカペだけでもWOWWOWで放映してくれないかしらん。…………ムリか(😅笑)

 

★今日の小ネタ

  それにしてもケイト・ブランシェット、『タール TAR』のタイトルロールでカンヌとニューヨーク映画批評家協会賞を制して、アカデミー賞も大本命は彼女でしょうね。そもそも映画自体がロッテントマト驚異の100%だから😮

 

  一方コリン・ファレル。「corresponding actor award」、助演って訳していいのかなぁ……。ということは、パームスプリングス国際映画祭的には『イニシェリン島の精霊』の主役はまさかのブレンダン・グリーソン!?😅アカデミー賞、コリンが主演男優賞にノミネートされるとめちゃくちゃ強敵になっちゃうから、パームスプリングスと同じ流れで、助演でノミネートされてほしい。……ってヲタク、自己チューすぎ(笑)

 

★今日の元ネタはコチラ⏬⏬⏬⏬⏬⏬⏬

 

 

 

心身共に痛くなる~『あのこと』(フランス)


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  KINOシネマみなとみらいで、本年度ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞のフランス映画『あのこと』鑑賞。……見終わって、なんだか身体のふしぶしが痛い(緊張して身体が硬直してたのか?)、心もついでに痛い。

 

  これは大学生のアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)が一夜の出来心~『あのこと』から妊娠をし、その事実にいかに対峙し、いかなる行動を取ったのか、経過と顛末を記した物語。1963年当時のフランスで、中絶は非合法。手術をした方もされた方も罪に問われます。フランス文学を学ぶアンヌはひじょうに優秀で大学からも将来を嘱望されており、自身も将来は教師になりたいという夢を抱いていました。アンヌには青天の霹靂で、全くの「望まない妊娠」。彼女にとって選択肢は1つしかありません。しかしそれに向かって進む中で彼女は、筆舌に尽くし難い、様々に過酷な現実と向き合うことになるのです……。

 

  妊娠が判明した3週目から、4週、5週、6週……とドキュメンタリータッチで描かれていくので、私たち観客は彼女の人生を「視る」というよりむしろ、彼女の孤独や不安や焦燥感、周囲の無理解や無頓着への絶望等々を共に「体感」することとなります。予告編見た時、「目を逸らすな」って画面に出たから、目を逸らさずに全編見ましたよ、キツかったけど(笑)

 

  また、この映画を見る上で抑えておきたいのは、当時のフランスの社会状況です。元来フランスの大学は学生たちの学業に対しては極めて厳しく、入学しても卒業するのは至難の業。学生たちは講義を聞き漏らすまいと必死。試験もピリピリと異様な緊張感が漂います。せっかく大学に入ってもついていけずに、学業をあきらめて結婚し、次々と女子学生が脱落していく……そんな時代。当時の性教育の乏しさも呆れるほどで、男女共に性に対しては極めて無知。避妊もせず、あとは運を天に任せる……って感じなのです。今見ると信じられない現実です。その結果、妊娠したら大学を辞めて結婚するか、男性に逃げられたらシングルマザーで頑張るしかない。自分で何とかしようとして命を落とす若い女性も多かったと言います😢地方で小さなレストランを経営しながら必死で学費を稼ぎ、娘に夢を賭けている母親にも真実を言い出せないアンヌは、次第に追い詰められていきます。

 

  まずもって、アンヌが「自分で何とかしよう」とするシーンはもう……。この映画、心身共に調子の良い時に観て下さい😅ベルギー映画※『Girl ガール』(2018)のラストを思い出した。あの映画とどっちが痛いかな……。

第2のグザヴィエ・ドランと言われるルーカス・ドン監督の映画。カンヌ映画祭ある視点部門受賞。

 

ヲタクは個人的に、フランス映画の本質ってぶっちゃけ実存主義だと思っているんです。こうありたい、かくあるべきという理想や本質ではなく、「今ここに存在する現実」を冷徹に描写する。そういう意味でこの映画は極めてフランス映画らしいフランス映画と言えるのではないでしょうか。「ちゃんと避妊するべきだったのでは?」とか、「人道主義的に許されない」とか、はたまた「当時の社会が悪い」といった視点は無意味な気がします。1963年、一人の女子大生が望まない妊娠をして、キャリアを目指す彼女は当時違法だった中絶に突き進む。それが紛れもない、ここにある現実なのです。

 

  驚くべきは、原作者であるノーベル賞受賞作家アニー・エルノーの実体験に基づく物語であるということ。(原題は『事件』)それを文字で表した……という捨て身の勇気にまず、拍手を送りたい。そしてもちろん、それを映像化したオードレイ・ディヴァン監督や、戦うヒロインを演じた美しくてアナマリア・ヴァルトロメイ(本作の演技で、セザール賞主演女優賞)にも。

 

★おまけ

みなとみらいホールで開催されたオープニングセレモニーでは、ディヴァン監督とヴァルトロメイさんのお姿だけは拝見できたけど、映画祭での本編上映は、時間の関係で行けなかった。色々質問出たんだろうなぁ。二人の肉声を聞けなかったことだけが心残り。

 

 

野人ヒーロー爆・誕!~ドウェイン・ジョンソン in 『ブラック・アダム』


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 ロックさまがいよいよDCヒーローズに参戦~~🎉✨😆✨🎊ぱちぱちぱち

 

  舞台は(たぶんアフリカか中近東あたりの)架空の 小国カーンダック。現代でも軍部が実権を握る独裁政権。あまりにも暴れん坊だったせいで、数千年もの間魔力を封じられていた破壊神テス・アダム(ドウェイン・ジョンソン)が、自由独立のレジスタンス活動をしている女闘士から現代に蘇らされ、その地上最強のパワーで暴れまくる物語。

 

  ブラック・アダムって元々はあのシャザムの宿敵のヴィランらしいんだけど、ロックさまが演じるんだから、まあ、ヴィランにはならないわな、どう考えても(笑)マ・ドンソク兄ィといっしょで、顔はめちゃくちゃコワイ(失礼!)けど、一皮剥いたら気は優しくて力持ち……みたいな。何しろ数千年前から甦ったわけだから、現代人の死生観や倫理観をいきなり説いてもムリってもんです。

 

……いわば、『類人猿ターザン』のDCヒーローズ版ってとこかしら。『ターザン』におけるジェーンとボーイの役を果たすのが女闘士アドリアンナ(サラ・シャヒ)と、その息子アモン(ボディ・サボンギ)というわけ。二人は現代のルール……家に入る時はいきなり壁をブチ抜いて入ってきちゃダメだとか、アダムに一つ一つ教えていきます。ヴェノムに「人間は食べ物ぢゃないんだから、口に入れちゃダメ」って繰り返し言うのと同じレベル(笑)

 

  最初は社会の異分子?異端児?であるアダムを敵対視していたのが、最後には敵のラスボス打倒の為に共闘する、ジャスティス・ソサエティ(注・ジャスティス・リーグとは別モノです  笑)。ヒーローであることにこだわりすぎててちとウザイけど、愛すべきジャスティス・ソサエティの面々(翼男ホークマン、未来を予言するミスター・フェイト、風を繰るサイクロン、甘いモノを食べないとエンジンが切れる巨人アトム)は、アダムに「人と協力して何かを成し遂げるって面倒くさいけど、やっぱりなかなかいいもんだよね」ってことを教えてくれます😊

 

 ジェーン……もといアドリアンナも手をこまねいてただヒーローたちの活躍を見ているだけぢゃありません。ここぞとばかりに暴政に苦しむ民衆をアジって武器を取り、アダムやジャスティス・ソサエティを援護します。……そう言えば、本家本元「ターザン」のジェーンも、第二次世界大戦前後のジェーンは悪漢に拉致されてたはだ叫んでるだけだったけど(しかもすぐ失神する  笑)、アレクサンダー・スカルスガルドがターザンを演じた最新版では、ジェーン(今をときめくマーゴット・ロビー)ってオニ強くてめっちゃド根性だったもんね(笑)

 

  そしてラスト、続編への予告として、早くもDCヒーローズの中でも正統中の正統であるアノ人が登場!「ちょっと顔かせ、シメてやる」……ぢゃなかった(笑)「ブラック・アダム、話がある」とか言ってるんですけどー。大丈夫?アダム。お説教?にブチキレて、またモノを壊さないでね(笑)

名優ジェラール・ドパルデュー~『メグレと若い女の死』3月17日公開

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『フランス国際映画祭 2022』の一環として、イオンシネマにて『メグレと若い女の死』(パトリス・ルコント監督)鑑賞。

 

監督は今回来日出来なかったとのことで、エルストナー・ユニフランス代表より、監督のメッセージの代読がありました。本作品を製作するに至った動機について。ジョルジュ・シムノン原作のメグレ警視シリーズのファンであることはもちろんのこと。警視の寡黙でありながらも人間に対する深い洞察力を持ち、しかも人間味のあるところが好き。……でも何よりも、ジェラール・ドパルデューという俳優の演技を映像として残したかったそうです。巨匠ルコント監督にここまで言わせるって、ドパルデューってどんだけ凄いんだ……笑

 

  もはや、ルコント監督のメッセージが、この映画の全てを語っていると言っても過言ではありますまい。フランスの誇る名優ジェラール・ドパルデュー。ヲタクが彼の映画を盛んに見ていたのは、『グリーンカード』や『シラノ・ド・ベルジュラック』、『岩窟王』、『ダントン』等々、ドパルデューがエネルギッシュな壮年の魅力に溢れていた頃。しばらく彼の作品見ていなかったから、恬淡とした……というか、枯れた、内面からそれまでの人生の軌跡がうかがえるような味わい深い演技がある意味衝撃でした。考えたらもう73才なんだものねぇ……。

 

 さて今回の『メグレと若い女の死』。年代はおそらく1950年代のパリでしょう。第二次世界大戦の痛手からまだまだ立ち直っておらず、労働者たちは貧困に喘ぎ、労働条件の改善を求めてストライキを繰り返し、美しい筈のパリの街もゴミだらけ……だった頃。そんなパリの街で発見された、20才そこそこの若い女性の刺殺体。ゴージャスなドレスを纏っているにもかかわらず、アクセサリーや靴、バッグは安物で、胃の中は空っぽ。身元がわかるものは何一つ身につけていませんでした。メグレが地道な捜査を続けるうち、彼女は、文化・芸術の中心地であるパリに憧れて出てきたものの、生活の術が見つからずにいつのまにか闇の世界に堕ちていく少女の一人だとわかってきますが……。

 

  容疑者を尋問するのに、口を軽くする為にサンドイッチとビールを出してやるとか、ご遺体を見るとすぐに「目を閉じてやれ」と部下に言う優しさだとか、さりげないセリフの応酬の中に、メグレの人柄が垣間見れる展開がイイです😊また、「被疑者の自白を引き出すコツはひたすら相手の話を聞くこと」や、「殺人者は自分が殺人する意識は持たない。自分が「生きる」為に、他者の人生を終わらせると考える」等々、メグレ独自の哲学が、ドパルデューの自然体で慈味溢れる演技によって嫌味なく語られます。

 

 メグレの人物像と合わせて、 殺人事件を捜査するうちに知り合った、娘ほど年の違う若い女性とメグレの心の交流も、殺伐として陰鬱なストーリー展開に、どこか温かい雰囲気を添えています。

 

まだ日本での公開日は決まっていないのかな?公開されたら、一人でも多くの人に見て頂きたい良作です😊

 

 

 

 

  

新たなるスタア誕生!~映画『幻滅』のバンジャマン・ヴォワザン

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  フランスの文豪オノレ・ド・ヴァルザック原作の『幻滅』を堂々映画化、2時間半に及ぶ大作ですが、全く長さを感じさせない、さすがセザール賞7冠!ヲタク的にはフランス映画というと、人生の断片を独自の視点で切り取った、ミニシアター向けの小品が基本的には好きなんだけど、昨日の『エッフェル』といい今日の『幻滅』といい、商業的大作もやっぱり凄い!(主役のバンジャマンもインタビューで語っていたけど)さすがモリエールラシーヌを生んだ国、舞台演劇の屋台骨、ハンパない。

 

  19世紀前半のフランス。王政復古後、貴族と反体制派の対立は益々激化、ちょうどその頃印刷術の進化で新聞の発行部数が急激に増え、いわゆるジャーナリズムが世論を牛耳るようになっていました。驚くべきは、新聞記者たちは1つの事柄について賛辞と酷評を使い分け、料金を釣り上げる手法をとっていたこと。世論を分断して論争を巻き起こし、さらに部数をアップさせる。袖の下如何で記事内容をころころ変えるなんてお手のもの、特に演劇評に至っては、大勢のサクラを雇って、金額の大小でスタンディングオーベーションにもブーイングにも転ぶ業者がいる始末。……え?これって今ツイッターやヤフコメで問題になってることと同じじゃない?もしかして。ジャーナリストって、公正な立場で真実を伝える人じゃなかったのかよー!


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※今夜の会場は萬國橋のたもとにあるイオンシネマみなとみらい。橋の上から眺める夜景。

 

  ……そんな激動と混沌の時代、フランスの田舎町で印刷工として働きながら詩人になることを夢見る純朴な青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)が、地主である侯爵夫人(セシル・ドゥ・フランス)と禁断の恋に落ち、駆け落ち同然でパリに出奔、パリという野望と策略と欲望に満ちた魔都に幻惑され、翻弄され、飲み込まれていく様を、時にはユーモラスな皮肉を込めて、時には冷徹に、そして時には哀切に描いています。

 

 うたかたの成功に有頂天になって次第に暴走し、欲望にまみれながらも、どこかピュアさを失わない主人公に、バンジャマンはこれ以上の適役はないくらいピッタリで、『Summer of 85』の時と比べると格段に演技の深みと豊かさが増し、まさに「新たなるスタァ誕生」の瞬間を、※ひと足早くこの眼にした嬉しさでいっぱい!

※日本公開は来年2023年の予定だそう。


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  映画上映後、バンジャマン・ヴォワザンが登壇、客席から多くの質問が殺到しましたが、一つ一つに耳を傾け、真摯に答えてくれた彼。昨夜のオープニングセレモニーの時のヤンチャ坊やの面影は影を潜め、俳優という職業に真剣勝負を挑む、一人の生真面目な青年の姿がそこには在りました。

 

  若き詩人を演じるに当たり、彼の内面を個人的に深掘りするよりもむしろ(その作業は監督や脚本家がしっかり土台を作ってくれているから、素直にその指示に従っていればいい……というのが彼のスタンスみたい)、19世紀ロマン派の文学や音楽に親しみ、その時代背景そのものを理解しようと務めたそう。このバルザックの小説は彼のおじいちゃんの一番の愛読書だそうで、孫として誇らしいと語るバンジャマンはやっぱり可愛ええ……(結局そこ  笑)

 

  この作品の演技で、見事セザール賞新人賞を受賞した彼。その時の感想を求められて「これ、本物の金かな?幾らくらいするのかなって不純なこと考えちゃった」とジョークを飛ばしつつ、「受賞をきっかけに、優れた監督たちが僕を次の作品で使いたい……って思ってくれたら嬉しいな」と語るバンジャマン。

 

大丈夫!フランソワ・オゾンやグザヴィエ・ジャノリに認められた貴方のこと、これからきっと、大勢の監督たちが貴方に創作意欲をかきたてられるはず(断言)

 

次回の作品で、彼の更なる成長と進化を目撃することを楽しみにしていましょう😊

 

★おまけ

『エレファント・ソング』等、俳優としてはエッジーで屈折した役が多い印象のグザヴィエ・ドランが、今回は文学者の良心を代表するような端正な人物像を演じていて新鮮でした。また、名優ジェラール・ドパルデューが金の亡者みたいなモンスタラスな役。『幻滅』の直前に、メグレ警視を演じる彼の恬淡とした枯れた演技を見たばかりだったから、これまた新鮮。ヲタク的には、バンジャマン・ヴォワザンが語ってくれたドパルデューのエピソード(ワインと肉を撮影現場に大量に持ってきてみんなに振る舞うらしい。そのワインがまたあんまり美味しくない……というバンジャマンの感想のオマケ付き  笑)が「らしくて」好き♥️

 

あっそれから、セザール賞助演男優賞受賞のヴァンサン・ラコストも忘れちゃいけない!パリという魔界にリュシアンを引きずり込む、ある意味メフィストフェレス的な役割を担う新聞の編集長。従来なら、グザヴィエ・ドランの役なんでしょうけどね😅阿片を吸いながらリュシアンを悪徳へ誘うラコストの魅力には抗えない……っていう、ある意味オム・ファタール的な😍ヲタク的には、『ヒポクラテス』の、若くて青い、悩み多き青年医師以来だから、こっちも新鮮(笑)

 

それにしてもバンジャマン(Benjamin)、英語読みだとベンジャミン、ドイツ語だとベンヤミン。……やっぱりフランス語って色っぽい言葉だなぁ。ね?バンジャマン😍

 

  

バンジャマン・ヴォワザンがヤンチャだった『フランス映画祭オープニングセレモニー』と映画『エッフェル』

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セレモニーの後、エッフェル塔建設を描いたドラマティックな映画『エッフェル』が上映されました。主演のロマン・デュリス(左)と監督のマルタン・ブルブロン。ブルブロン監督は大作『三銃士』の監督に抜擢されたそうです。そして、映画の中でイケおじサクレツのロマン・デュリスが来日して覚えた日本語は、「ハラヘッタ」と「ドモドモ」だそう(笑)


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※みなとみらいホールへ行く途中、ランドマークタワーのクリスマスツリーをパチリ📷

 今夜はみなとみらいホールで「第30回フランス映画祭オープニングセレモニー」!

 

  まずもって感激だったのは、山中横浜市長やエルストナー・ユニフランス代表、セトン駐日フランス大使等々のお歴々のほかに、今回上映される映画の監督、プロデューサー、俳優の方々が大挙して登壇されたこと。コロナ禍による空白の3年間を経て、日仏両国間の相互リスペクトや、映画に対する熱い想いがさらにさらに高まったように感じました。

 

  そして今回の映画祭、ヲタクがイチ推しで注目しているのがこの人!フランソワ・オゾン監督が少年同士のひと夏の激しい恋を描いた『Summer of 85』で、主人公の憧憬の対象であり、彼を翻弄するオム・ファタールを演じたバンジャマン・ヴォワザン⏬⏬⏬⏬⏬

映画祭って、未完の大器(将来の推し)を発掘する……って楽しみもありますよね。

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 登場する時からして、照れ臭いのか、めちゃくちゃ妙な動きしてるし(笑)プレスによる写真撮影の時も、「右見て~」って言われれば左を向き、「左見て~」って言われれば一人だけ右を向き、しまいにはカメラマンに「バンジャマン~~!💢💢」ってプチギレされる始末。君は幼稚園児か😅……でも可愛ええから、オバサン許す!(笑)

 

……あっ、とは言え、『Summer of 85』公開時のインタビューで、「オゾン監督は身体作りから台詞回し、立ち振舞いに至るまで細かい指示をくれたから、演技はラクだったよ」「今回のダヴィドって役は自信に満ちたオム・ファタールってよく言われてるけど、実際の僕はぜんぜんカッコよくないし、孤独症。映画のキャラを僕自身に当てはめてファンになるのは意味がないと思うよ」と、若干25才にしてクレバーなご発言。ただのヤンチャ坊主でないことは明らかです(笑)


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※『Summer of 85』バンジャマン・ヴォワザン(左)とフェリックス・ルフェーブル(右)。

 

  そしてそして、30周年のミューズは日本の誇るエイジレス美魔女、石田ゆり子

流暢なフランス語で開会宣言、発音もめっちゃキレイ。ヲタク1階席10列目のけっこうな良席だったけど、ヲタクの眼からも、凄い透明感で、お肌の内側から光ってる感じで凄かったよ、うん。

 

オープニングの『エッフェル』も面白かった!……でも、やっぱりフランス映画らしいなぁ……と思ったのは、ムッシュ・エッフェルの、エッフェル塔建設に至るまでの想像を絶する苦労を正攻法で描くと同時に、しっかり彼のロマンス(誤解の為に別れた元カノと再び巡りあった時、彼女は既に人妻でした。二人の間に燃え上がる禁断の恋)も絡めてくるところ。日本だと、恋愛は二の次にして大事業に没頭する……というのが良しとされがちだけど、フランスの場合は恋のマグマが仕事のエネルギー源になるって感じ?……それに、フランス映画見ていて「不倫」って言葉に出会ったことがないなぁ。たとえお互い結婚していても、「恋~アムール」なんだよね。サスガ「恋に生き、愛に生きる」フランス映画であります😊


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★『エッフェル』の主役にしてフランスを代表する俳優ロマン・デュリスの懐かしの名作・フランス版スポ根少女マンガ?『タイピスト!』の紹介はコチラ!⏬⏬⏬⏬

 

 

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』~ベネさまの変人ぶりが……

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 猫を擬人化し、ユーモラスな筆致で描き続けた英国の絵本作家ルイス・ウェイン。彼の生涯を、当時の社会情勢を絡めて描いた「真実の物語」です。

 

 原題は『The Electrical Life of Louis Wein』んんん?何ゆえに「電気的生活」?……映画を見て、はじめて納得。時代は1800年代から始まります。ウェイン氏は英国の富裕なジェントリー階級に生まれ、何不自由のない生活を送れた……筈だったのですが、父親が早くに亡くなり、一人息子、しかも長男の彼は、5人!の妹たちと母親を養わねばならない身の上。「電気」に取りつかれた?彼は、発明家を目指して様々な特許を取ろうと四苦八苦しますが上手くいかず、生活の為に動物の挿し絵を描き始めます。しかし彼は、牛の挿し絵を描くために牛に至近距離まで近付き、角に引っ掛けられてケガをしたり、静かに泳がなければいけなかった当時のトルコ風呂で壮大な水しぶきをあげながらバタフライをしたり……と、かなりKYな困ったちゃん(笑)そんな彼が初めて恋したのが、ウェイン家で雇った家庭教師のエミリー(クレア・フォイ)でした。初めての気持ちに戸惑う若きウェイン氏。「胸がチクチク痛んだり、股間が躍動したりするのが何故なのか、純情なルイスにはわからなかった」というナレーション(ナレーションを担当するのはオリヴィア・コールマン!ユーモアを滲ませて秀逸)にはヲタク、思わず吹き出しました。年上の家庭教師との身分違いの恋はたちまちのうちに社交界ではスキャンダルに。しかし、今までずっと「人と違うこと」に悩み、「人とどう接したらわからなかった」自分の本質を理解してくれ、母性にも似た大きな愛で包んでくれるエミリーへのルイスの気持ちは変わることはなく、二人は周囲の反対を押し切って家庭を持ちます。……しかし幸せは長くは続きませんでした。結婚後半年して、エミリーは末期の乳ガンとの診断を受けてしまったのです。後で調べてわかったんですが、二人の結婚生活はわずか4年だったんですね……😢エミリーを喪った後のウェイン氏の人生を考えると、胸が痛みます。

 

  ウェイン氏は挿し絵の仕事を休んで、闘病するエミリーに付き添います。そんなある雨の日、庭に迷い込んできた子猫を夫妻はピーターと名付け、我が子のように可愛がります。ヲタク、この映画を見て初めて知ったのですが、当時の英国では、猫は罪や悪魔に近いと言われていて、ペットとして飼われることは殆どなかったそうです😮(ビックリ)  ウェイン氏にとって、エミリーとピーターと過ごした4年間は生涯で唯一の幸福な時間でした。それを再現しようと試みた、可愛くてちょっと間抜けで、ユーモラスなネコの絵は、これまではネコ好きを声を大にして言えなかった愛猫家たちに勇気を与え、さらに多くの人々の心を捉えていくのです。

 

……しっかし見終わってみると、ウェイン氏の人生はなかなかに悲惨なんですよね。ネコの絵本は人気爆発、ウェイン氏は一躍時代の寵児となるものの、版権のしくみ等に無頓着なために金銭はあまり入ってこず、相変わらず借金まみれ。5人の妹たちはとうとう一人として嫁ぐことはありませんでした。(ジェーン・オースティンの小説や、『ブリジャートン家』みたいに上手くはいきませんわな😅)そして、精神病院に入院した妹の一人に続いて、ウェイン氏にも幻聴や妄想、奇嬌な言動が始まり、遂には統合失調症の診断を受けることになります。

 

  そんなウェイン氏の生涯を、淡々と、センチメンタリズムを排除して描いたこの映画。しかしだからこそ、精神を病みながらも、妻を愛し、ネコを愛し、妹たちを守り続けた彼の優しさと誠実さがしみじみと伝わってきます。彼にとって「電気」とは、単にモノを動かす力ではなく、もっと根源的なもの……彼を勇気づけ、生きるモチベーションを与えるエネルギーに他なりません。そして、彼にそのエネルギーを与えたのは、妻エミリーと息子同然のネコのピーターだったのです。ウェイン氏の「電気的生活」とはまさに、「愛の生活」だったわけですね😊

 

抑えた描写ながら、映画のテーマが観ている私たちにひしひしと伝わってくるのは、ベネさまの、20代前半から70代後半までを完璧に演じきる俳優としての底力と、ナレーションを担当したオリヴィア・コールマンの素晴らしさも大いに影響しているでしょう。ヲタクはヒネクレ者なので、人生の苦労をこれでもか!とばかりにグイグイ描写する映画とか、「今年一番泣ける感動作」とか言われるとかえって腰が引けてしまうんですが😅『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』は……

はっきり言ってめちゃくちゃ好みです(断言)

いかにも英国風な、大人の人間ドラマ。

 

……しっかし、ベネさまほど「奇人・変人」を魅惑的に演じる人はいないね!

 

 

 

  

 

  

アニャ・テイラー=ジョイとニコラス・ホルト、映画『ザ・メニュー』撮影の裏側を語る

  なかなか予約の取れない、ある孤島の高級レストラン。セレブな客たちがそこで遭遇する、想像を絶する恐怖体験を描いたスリラー『ザ・メニュー』。主演のアニャ・テイラー=ジョイとニコラス・ホルト、そして監督のマーク・マイロッドが撮影の裏側について語った「ヴァニティ・フェア」製作の動画がYou-tubeにアップされました!

 

  印象的な『パンのないパン皿』のシーン。客たちは、シェフのレイフ・ファインズから「パンは庶民が日々の空腹を満たすもの。セレブな皆さんにはパンは出せない」と言われて、パンにつけるソースやオイルを小さなスプーンで舐め始めます。撮影の間、朝から晩まで「何か食べていた」という我らがニック(ニコラス・ホルト)、この時の印象を聞かれ、一瞬戸惑って「え、えっと……。美味しかったよ。Oily Deliciousって感じ?」と発言して、監督とアニャの爆笑をかってました。

か、可愛ええ……♥️

映画の中では、食通ぶってる鼻持ちならないイヤミ男を演じたニックですが、素顔の彼は、今回の映画の記者会見でも、機関銃みたいに喋りまくる他のゲストの話になかなか割り込めないところを(まあ、キャストの数も多かったからね)優しいアニャちゃんに話を振ってもらったっていう……(笑)

か、可愛ぇぇ……♥️

 

一方アニャは才気煥発、ひじょうにスマートで頭の回転が速く、まるでMC役のよう。ニックがお皿とグラスを割ったシーンで、彼女が「ひっ」と一瞬息を呑むのですが、その一瞬の為に、ADR(アフレコ)で79通りものさまざまな「ひっ」を試してみたエピソードや、シェフ・スローヴィク(レイフ・ファインズ)が繰り出す質問に対して、アニャが背中越しに振り返って「I am fine」と答え、シェフがその場を支配しているかのような(モノローグ的な)印象を植え付けるアイデアを出したこと等、ユーモアを交えて披露してくれます。俳優だけでなく、キャスターやホスト役もイケますね、絶対!ドリュー・バリモアみたいに番組持ってくれないかな。初回のゲストはニコラス・ホルトで(笑)

 

また、客たちがそれぞれテーブルごとに独自の世界を形成する、まるで舞台芸術のような設定になっており(by アニャ)、真実はカーテンの向こうに存在していて、カーテンが一瞬開いてそれが明るみになったかと思うとまた閉まってしまう、それが繰り返されるような特異な演出方法(by ニック)など、綿密に練り上げられた映画だということがよくわかります。

 

  3人が異口同音に絶賛するレイフ・ファインズの神演技、おぞましくも恐ろしいストーリー展開の中で、ヒロイン・マーゴ(アニャ)とスローヴィクの間に次第に育まれていく奇妙な友情……等々、見処はたくさん!

 

全国の劇場でまだ絶賛上映中ですので、まだの方はぜひ!
Anya Taylor-Joy & Nicholas Hoult Break Down the Breadless Scene with 'The Menu' Director - YouTube

 

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