オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

意識の流れはいずこ~『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』

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 中国新世代の若き才能、ビー・ガン監督の長編第2作目『ロングデイズ・ジャーニー~この夜の涯てへ』(撮影時、監督はなんと29才❗)。長編処女作『凱里ブルース』を水墨画モノクロームな美しさに例えるなら、『ロングデイズ~』は言わば、目も綾な、極彩色の絵画の世界。しかし、古くは『花様年華』近くは『鵞鳥湖の夜』と、中国や香港の映画って、赤い色がどうしてこう魅力的に使われているのだろうか。

 

  父の死を知らされたルオ・ホンウ(ホアン・ジュエ)は、長年離れていた生まれ故郷の凱里の街に帰って来た。彼の脳裏に去来するのは、銃の密売に手を染め、それがもとで殺されてしまった幼なじみの白猫と、闇社会のボスの愛人、ワン・チーウェン(タン・ウェイ)のこと。ボスの目を盗んで、ワンと重ねた逢瀬、濃密な愛の日々に、12年経った今でもホンウの心は囚われたまま。微かな記憶を頼りに、ワンを尋ねて凱里の街をひとり彷徨するルオ・ホンウだったが…。

 

  二人の水辺のラブシーン、二人の重なりあうシルエットからカメラが次第に水の中に下りていって、ゆらゆらと揺れて揺蕩う水藻を写し出す場面は、ゾクゾクするほどセクシーで淫靡。『凱里ブルース』にも、現実と夢幻を分けるような役割として登場したトンネル。本作品にも登場しますが、それは粗削りでノスタルジックな前作とは違う、ひどく官能的な小道具。夜、ルオの車から下りたワンが暗闇のトンネルの中をひたひたと歩き始めると、ルオは再び引き返して、ゆっくりと車で近づいていく。「なんでまたついてくるの?」と怪訝な表情のワンの唇から、真っ赤なルージュがはみ出している…。

 

私たち観客は、ルオ・ホンウの夢と記憶が紡ぐ『意識の流れ』を、追体験しているかのよう😊『意識の流れ』…「人間の精神の中に絶え間なく移ろっていく主観的な思考や感覚を、特に注釈を付けることなく記述していく文学上の手法」と定義されますが、文学でこれを試みたのが、アイルランド出身の作家ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』や『フィネガンズ・ウェイク』であり、ウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』。ビー・ガン監督はそれを映像で表現しようとしているのかも。

 

  ヲタクはNetflixで見たから平面的でしたけど、監督は後半1時間を3D使っているわけでしょう?…革命的だよね😮より、「夢魔に脳内を支配されてる」感が強くなったと思われる😅大学で『フィネガンズ・ウェイク』の講義を受けた時にはヲタク、自分の理解力不足か、はたまた語学力不足か、ちんぷんかんぷんでしたけれども😅ビー・ガン監督のように映像で表現してくれると、そのまま水の流れのように作品の世界に入っていける😊「映画は言語である」(今年のベルリン国際映画祭の、ティルダ・スウィントンのスピーチより)とはよく言ったものです。『意識の流れ』を心の病の治療に活用したのがフロイト(「夢判断」という著書もあり)で、この映画の中でも、監督の幼い頃の心的外傷をイメージさせるシーンが散見されます(リンゴを噛るシーンなど)。辛い記憶を映像で表現することによって、監督自身もまた、癒しを得ているのか…。

 

  映画そのものが一篇の詩とも言うべき作品なのですが、ヲタク的に最も印象的なシーンの一つに、ルオが凱里に帰って来てから借りた、まるで廃墟のようなアパートに雨が降り込むシーンがあるんですが、これがもう、雨水が野外の公園みたいに滴ってる。常識から考えたらとんでもないんですけど(笑)ビー・ガン監督のインタビューを読んで、目からウロコ、だったんですよね。監督が小さい頃住んでいた家は湿気がひどくて、雨が降ると雨漏りがしていた。もちろん、映画のシーンみたいにひどく降り込んできたことはなかったけど、子どもの目には、映画の中の描写そのもののように、ひどく降っているように見えた…と❗

 

  ほんの少し、監督の作品のナゾが解けたような気がしました。子どもの目から見た光景、記憶の残像こそが、この映画のリアルなのだと。

 

  日頃から、今起きている変化については、僕ではない誰かが表現してゆけば良いと考えています。僕はそこにかつてあったものや、記憶や脳裏に残像として残っているものに価値があると思い、映画の中に取り入れてきました。

…と語っているビー・ガン監督。夢の中で迷路から抜け出そうともがいている感覚。遠い遠い昔、一つ一つの些末な出来事にも、まるでこの世に終わりが来るような衝撃を覚えたあの時。そのもどかしい数々の想いを、これほどまでに明確に、美しく映像化できるきらびやかな才能。

 

  後半の1時間(驚異のロングワンシークエンスと呼ばれてるアレ)は耽美的な前半(夏至の頃)とガラリと雰囲気が変わり(冬至)、ルオと共に、記憶と夢の迷路にさらに深く踏み込んで行くことになります。まるで、(怖くない、怖くない。これはどうせ夢なんだから)と言い聞かせながら眠っていた子供の頃のように。

 

  監督の2つの作品を見終わって、すっかり「ビー・ガン・ワールド」の囚われ人になってしまった自分を意識するヲタクなのでした😊

 

  一度見てしまったらこの作品、どうしても3Dで見たくなったなあ…。後半のとあるシーンで、(あっ、これ子どもの頃夢の中で見たことある❗)っていう、激しくデジャヴなシーンがあったんだけど、もう一度3Dで確かめたい😅…でも、今上映してるの、全国で「下高井戸シネマ」だけなんだっけ😅しかも夜(笑)こうなったら近くにホテルとって、下高井戸の夜の涯てまで行くしかないか(笑)

Netflixで『凱里ブルース』(ビー・ガン監督)~たゆたう夢幻泡影


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  ジャック&べティで今日見る予定だった中国映画『凱里ブルース』。台風の接近で映画館で見るのはあきらめ、自宅にてNetflixで鑑賞。

 

  監督は、長編第2作目『ロングデイズ・ジャーニー~ この夜の涯へ』がカンヌ映画祭ある視点部門に出品され、瞬く間に映画界の寵児となったビー・ガン。『凱里ブルース』は、彼の長編処女作で、当時監督はなんと26才❗

 

  凱里の小さな診療所。まるで世捨て人のように、老女医の助手としてひっそりと暮らす中年男のチェン。彼は以前、やくざな生活を送っており、ボスの息子の復讐に手を染めたことから9年の刑を受けた。刑期を終えた彼は、妻もこの世にはすでになく、可愛がっていた甥のウェイウェイも他の町へ連れ去られたことを知る(登場人物たちがフツーに子供の人身売買の話をしてるんだけど、中国ではいまだに日常的な出来事なんだろうか❓…恐ろしすぎるヽ(;゚;Д;゚;; ))ある日、甥に再び会いたいと、凱里を出たチェン。しかし彼の意識は朦朧と移ろい始め、過去・未来・現在が行きつ戻りつする時空間の歪みに迷い混んでしまう…。

 

  この映画について語る前に、映画の舞台であり、中国貴州南東部に位置する凱里市について触れておかなくてはならないでしょう。凱里は、中国に存在する55の少数民族のうちの1つ、ミャオ族の自治区でもあります。『ロングデイズ・ジャーニー』からの流れからか、今作品も、最後40分にわたるロングワンショットや、時計が多用される意味、時代の逆行と輪廻のテーマ…などが焦点となって語られる場合が多いですが、ヲタクはそれよりも、凱里という、今や近代化が進んで過去の姿を急速に無くしつつあるという特異な魅力に溢れた町を、映像という形で永遠に止めおこうとした監督の、壮大なラブレターに思えて仕方ないのです。この映画を見ていて、アカデミー賞受賞時のポン・ジュノ監督のスピーチを思い出しました。「最もパーソナルなことが最もクリエイティブ」という…。自分の身の回りに起きる、過去・現在・未來を巡る些末な出来事の羅列であっても、(今この瞬間、すぐに移ろってしまうこの瞬間を、あるいは昨夜見た幸せな夢を、その残像のかけらでいいから永遠に刻みたい)という切ない気持ちは、誰もが一度は思ったことがあるでしょう。悲しいかな、ヲタクを含めてほとんどの人はビー・ガン監督のような才能は持ち合わせていないので、その気持ちも移ろって、やがて消えていくだけですが(笑)本作品、当のポン・ジュノ監督や、ギレルモ・デル・トロ監督の絶賛を浴びましたよね😊

 

 

  雨が多い為か、目に沁みるように、鮮やかに浮き立つ緑、山あいをゆったりとたゆたう河、そこにまるで廃墟のようにそびえ立つ高い建物群。晴れたかと思えばあっという間に視界を覆い隠してしまう深い霧…。

 

  今でも、山の陰には剛毛で覆われた狂暴な「野人」がいると、まことしやかに噂する住人たち。(映画の冒頭、「ウェイウェイは野人のえじきになったんだ」などというセリフが登場します)野人を避ける為に両脇に棒を挟んでおくという特異な風習や、後ろ手に手を組んではいけないという禁忌、また、特殊な笙の笛の使い手が次第にいなくなっているという描写など、本作品は監督の、この世の黄昏に寄せる挽歌であり、滅びゆくものに対する哀惜の念が伺えます。

 

  どの場面で時空ポケットに入ったのか、どれが現実でどれが主人公の夢だったのか…など、理詰めで考えるのはあまり意味がないことのような気がします(笑)ストーリーも、あって無きが如し…ですし😅

 

  それよりも私たちは

今起きている変化については、僕ではない誰かが表現してゆけば良いと考えています。僕はそこにかつてあったものや、記憶や脳裏に残像として残っているものに価値があると思い、映画の中に取り入れてきました。

という、今そこになくても、微かにたゆたう過去の残像を止めおこうとする監督の、甘美でエキゾティックで、詩的なセリフと映像に身を任せ、それを感覚で味わえばよいのではないでしょうか。左脳ではなく、右脳を総動員して(笑)

 

  

これは熱烈ブロマンス映画なのだ❗(ち、違う😅❓)~『生きちゃった』


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 およそ8ヶ月ぶりの東京にキタ~❗ユーロスペースで映画『生きちゃった』。前回の上京は、渋谷Bunkamuraでセルゲイ・ポルーニンのバレエの舞台を見たんでした。それからというもの、文化芸術への試練が続いたのはご存知の通り。昨年と全く同じ状況…というわけにはもちろんいかないけれど、好きな映画を好きな映画館で見ることのできる幸せを、改めてかみしめる。

 

  妻の奈津美(大島優子)と娘と3人で、平凡だけど幸せに暮らしている…と思い込んでいた主人公・厚久(仲野太賀)。いつか一緒に起業することを夢見ている親友・武田(若葉竜也)と通っている英語や中国語のクラスでも、例文として口をつくのは家族のこと。

 

  だけど、だけど妻の気持ちは、違った。ある夏の暑い日、体調を崩して早退した厚久の目に飛び込んできたのは、あられもない姿で喘ぎながら、見知らぬ男に馬乗りになっている妻の姿だった…。

 

  厚久はどうしてこんな事態になってしまったのか、訳もわからず途方に暮れるばかり。親友の助けを借りて、筋道立てて考えをまとめようとするが、上手くいかない。そうこうするうちに時ばかりが過ぎ、妻や子のその後を含め、彼を取り巻く運命はまるで坂道を転がるように、思わぬ方向に急加速で動き始めて…。

 

  自分の心の在りかもわからず、それを表現する術も知らず、どんな状況にあってもただ困ったように微笑むだけの無口な主人公を、仲野太賀がもう、心憎いばかりに巧みに演じています。だからこそ最後のクライマックス、自分が本当に望んでいることに気づいて、人生で初めて❓自ら行動を起こす、その感情の爆発が生きた❗そして若葉竜也ね~~😍優しい優しい人柄の親友役。『愛がなんだ』のナカハラくんよりさらに優しいんだよね。彼の、主人公への気持ちはきっと、友情を越えた熱烈なプラトニックラブ❤️…たぶん、今日一緒の回で見てた人の中で、ヲタクと同じ感想を持った人は誰一人いないと思うけど(笑)でもいいの、映画館で上映が始まったら、もはや作品は監督のものでも俳優さんたちのものでもない、私たち観客のものだから😊私たちは自由に作品を愛せばいい🎵…と思う(笑)

 

  最後のクライマックス、自らに目覚めようとする厚久の再生の号泣。私たち観客も、彼を励ます武田と一緒に号泣する。心の中で(がんばれ❗今こそ愛を叫ぶ時だっ❗)って…。上映終了後、場内が明るくなって目を腫らしてるのは少々気恥ずかしいけど、他のみんなもだいたい似たような顔してるから、大丈夫(笑)この後味、不器用でどんくさい主人公にいつのまにか感情移入して、頑張れ頑張れって心の中で旗振るカンジは、昨年公開の名作『宮本から君へ』に似てるなぁ~~😊もっとも宮本くんの場合、厚久とは真逆で、考える前に行動起こしちゃって、大変なことにいつも巻き込まれてたけど(笑)

 

  大島優子もね、女性の一途さ、狡さ、身勝手さを持つ反面、愛に飢えた女性の淋しさ、娘の為なら身を投げ出す母性のひたむきさが滲む難しい役どころだったと思うんですが、リアルに演じきって凄いと思いました。『紙の月』の時も宮沢りえに負けてないな、と思ったけど、今回の作品ではもう何というか、役が憑依してましたよね😮嶋田久作伊佐山ひろ子(厚久の両親)、北村有起哉など脇役も味のある役者さんたちばかり(北村さんの役は…まあ、ホントにキモチ悪かった=笑。演技の力ですね😊)そしてそして、厚久の兄役にパク・ジョンボム監督❗愚かな、だけどひたすらに弟を愛する兄😢

 

  見た後が爽やかなのは、登場人物がみな、誰かを一生懸命愛しているから。その発動のしかたがかなりズレてる為に、結果的に人や自分を傷つけちゃうんだけど、それが何なんだ?誰も正しく人を愛せる方法なんか知らない、みんな失敗だらけでもがきながら生きている、だからこそ生きてることが、生き続けることが大事なんだ。

 

…久しぶりに そんな気持ちにさせてくれる、熱いエネルギッシュな映画でした❗

(おまけ)

レ・ロマネスクの劇中歌が、いまだにヲタクのアタマの中をぐるぐる回ってる。パフォーマンスをボーゼンと見つめる仲野太賀と若葉竜也の何とも言えない表情と共に(笑)

ああ青春、されど青春~U-NEXT新着『ワンダーウォール』映画版

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  U-NEXTで『ワンダーウォール』映画版鑑賞。1913年建設の京都大学寮の取り壊しを巡って、取り壊しに反対する学生たちと、取り壊しを強行しようとする大学側の、闘争の顛末を描いたもの。

 

  実際の闘争自体は、なんと大学側が住民である学生を訴えるという、エグい展開になっていますが、そこはそれ『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『ストレンジャー~上海の芥川龍之介』等の渡辺あやが脚本を担当しただけあって、実話をベースにしながらも愛すべき登場人物たちがリアルに躍動している、青春エンターテイメント映画になっています😊

 

 築100年、 幽霊屋敷みたいなボッロボロの近衛寮。しかしそれは学生たちの心のふるさと。一見無秩序に暮らしているようにみえても、そこには厳然たるルールがありました。まず、敬語は絶対禁止。上級生や下級生の区別はなし。トイレも男女では分けない。男も女もトランスジェンダーも好きなトイレを使うべし(笑)寮の議事は多数決ではなく、全員一致を旨とする為、会議はめちゃくちゃ長くなる😅この設定がいいんだよなぁ~、ジェンダーレス、ボーダーレスのパラダイスぢゃないか。今世界中で問題になってる差別や分断化なんてここには跡形もない。学生だったら、ヲタクだって入りたいよ…って、ホコリだらけでアレルギー悪化しそうだけど(笑)

 

  主人公のキューピー(須藤漣)が言う通り、「変人ばかり」の住人たちですが、それぞれ強烈なキャラ立ち(笑)特に、最近ヲタク大注目の岡山天音くんと若葉竜也くん❗冷徹な頭脳を誇り、闘争に参加しながらもその意義と将来性を常に分析・思考しているデカルトの弟子みたいな志村役(岡山くん)と、自由な趣味人ドレッド(若葉くんの壮大なドレッドヘアが見ものです😅お茶を立てる姿がカッコいい)という重要な役をそれぞれ演じていて、やはり二人の演技は群を抜いています。

 

  学生課に新しい受付担当の美女(成海璃子)が登場したことによって、学生たちの闘争は新たな局面に入っていきますが、さて、その結末はいかに…❗❓(前任者の受付を、京都を舞台にした映画には欠かせない?山村紅葉さんが演じているんですが、もう彼女のキャラ、サイコーです❗言うなれば、『半沢直樹』における香川照之的な=笑)

 

  映画の最後に流れるテロップ。それによって私たちは「人生のリアル」を突きつけられます。でも、ヲタクは寮生たちに言いたい。権力がどんなに力ずくで君たちの自治と権利をもぎ取ろうとしても、君たちが真剣に考えたこと、対話を持とうとしたこと、未来に向けて行動したことの意義は決して消えることはないと。一抹の苦さをかみしめながら、ヲタクはひとり、そんなふうに心の中で呟いてみるのでした。

 

  

トム・シリングの瞳の青さよ~『ある画家の数奇な運命』

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  キノシネマみなとみらいで、『ある画家の数奇な運命』(原題"Never look away"眼を逸らさないで)桜木町から歩いてキノシネマまで来ると、駅周辺やランドマークタワーの喧騒がウソのよう😊


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(秋晴れのキノシネマ周辺)

 

  ドイツ最高の芸術家と称される巨匠、ゲルハルト(映画では、クルトと名を変えています)リヒターの半生を描いた、3時間に及ぶ大作です。リヒターと言えば日本との縁も深く、リヒター自身が瀬戸内海の風光明媚な環境を気に入って、豊島(とよしま)という無人島にガラスの巨大な作品を展示していることで有名です。

 

  今作品はリヒター自身の個人史と言うよりもむしろ、芸術を目指す一青年の眼から見た激動のドイツ現代史であり、美術史❗ 

 

  1937年、ナチス政権下のドイツ。幼少期のクルトが、彼の絵画の才能の一番の理解者である美貌の叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンタール)と、退廃芸術展を鑑賞するシーンから始まります。ガイドは、モンドリアン(本格的抽象画の祖とされるオランダの画家)やカンディンスキー(ロシア)の作品を、堕落である、ナチスドイツの主義に反すると、口を極めて罵ります。芸術が、政治権力に歪曲されてしまう恐ろしさ。そもそも作品を批判し、貶める為に開催される展覧会など、芸術への冒涜行為以外の何物でもないと、ヲタクは思いますが…。

 

  クルトの愛する叔母は芸術家肌で、人よりも少しばかり感受性が強すぎた為(ヲタクには、どうしてもそうとしか思えない)に、ナチス党員の医師から「精神に異常をきたしている」との烙印を押され、精神科病棟に入院させられてしまいます。そこで断種手術を施されるエリザベト(ザスキア・ローゼンタールの透明な美しさと相まって、このシーンは見るのが辛すぎる😢)。さらには、彼女が常に反抗的態度であったゆえか、「生きるに値しないカテゴリーの人間」と「選別」され、障害を持つ女性たちと共に、ガス室で若い命を散らすのです。

 

  当時、ナチスドイツの政策によって断種手術を受けた女性は40万人。さらには、「英国の空襲に備えて兵士の為に病床を空けなくてはならない」「地上の資源が限られているなら、価値ある者に与えられるべき」という原理の元にさらに多くの人たちがガス室送りになったという戦慄の史実。叔母の悲劇的な生涯と、彼女の「眼を逸らさないで❗(原題はこの叔母の言葉から)真実はすべて美しい」という言葉は、クルトの人生に後々まで大きな影響を及ぼしていきます。

 

  戦後ドイツは東西に分断され、クルトの住む東ドイツソ連共産主義の傘下に置かれた為、「芸術に革新は必要ない。労働者の団結を鼓舞する為のもの。抽象画に走ったピカソは堕落した」という「社会的リアリズム」に、またもや彼の自由を求める芸術家魂は抑圧を強いられることになります。

 

  戦後彼は東ドイツ美術大学に進学し、そこで生涯を共にする運命の相手エリー(パウラ・ベーア…フランソワ・オゾン監督『婚約者の友人』のヒロイン役。今回も、クラシカルな美しさが光る)に巡り合います。しかしそれは、神が与えたもうた最も残酷な巡り合いでした…😢

 

  クルトが最初に世に認められるのは、新聞や家族写真を無作為に選んでまず精密に模写し、さらにそれを微妙にぼかす「フォトペインティング」という手法なのですが、結果的にそれは、妻の父に関わる恐ろしい秘密の暴露に繋がっていくのです。何という人生の皮肉❗

 

  この作品、若く美しい二人のラブロマンスの側面も持っていると思うのですが、初めて結ばれた時にクルトが、「ロマンチック(スリリングの同義語かしら❓😅)じゃないな…。君の身体は綺麗すぎるんだもの。恋に落ちるに決まってるじゃないか」って口説くんですよね。さすが芸術家、言うことが違うと思いました(笑)映画全編にわたって繰り返される二人のラブアフェアの、叙情的で美しいこと😊

 

  主人公を演じるのは、ドイツのカメレオン俳優、トム・シリング❗(『我が闘争』『ルードウィッヒ』『コーヒーを巡る冒険』『ピエロがお前を嘲笑う』など)彼の、全てを見透すような青い、青い瞳がスクリーンに大写しになる瞬間が何度もあって、頭クラクラ(笑)監督は、卓越した演技力もさることながら、彼の青い湖みたいな瞳に魅了されたのではないのかと…。あのクリストファー・ノーラン監督が、『バットマンビギンズ』の撮影中ずっと、いつキリアン・マーフィーのメガネを外す場面を入れて、蠱惑のブルーアイズをご開帳しようかと考えていたと同じように(笑)

 

  フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督(前作『善き人のためのソナタ』)が、ゲルハルト・リヒター本人に映画化を申し込んだ時、「登場人物の名前は変えて、何が事実かそうでないかは絶対に口外しないこと」を条件に、即座に映画化が許可されたとか。ドイツ最高峰の巨匠の、なんという懐の深さよ。

 

 そしてまた、ヒットラーナチスドイツがドイツ史上最大の汚点であることは間違いないにせよ、その事実から決して「目を逸らさず」、未来永劫断じて同じ事を繰り返してはならないと、国を挙げて重い歴史を背負い続け、報道で、映画作品で、世界に真実を公開し続ける…やはりドイツって凄い国だと思います。

 

  映画が終わってキノシネマから横浜美術館を通って桜木町へ向かう帰り道。空は今見たばかりのトム・シリングの瞳のようにどこまでも高く、どこまでも青い。これを至福と呼ばずして何と呼ぼう😊


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中村倫也主演『人数の町』


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  キノシネマ横浜みなとみらいで、映画『人数の町』鑑賞。衆知の通り、2017年に木下グループが開催した第1回新人監督賞の準グランプリを受賞した作品。脚本・監督は、本作品が初の長編映画だそうですが…。

いやぁ、面白かったっす❗

ワンシチュエーション映画の秀作ですね。こういう新しい、若い才能にチャンスを与えるってスゴイことだ❗日本映画界を元気にする試み、キノフィルムズばんざい❗

 

  借金で首が回らずボコボコにされた人生崖っぷちの男(中村倫也)は、通りすがりの奇妙な男から「君はここでは居場所がないんだね。何からも自由になれる美しい町に行かないか」と誘いを受け、ついふらふらと話に乗ってしまいます。行き着いた先は、時折住人たちと簡単な「仕事」をするほかは衣食住が保証される町。住人たちは一様に「デュード」と呼ばれ、区別されるのは住んでいる部屋の号室だけ。しかし彼らはその生活に一片の疑問すら持たず、毎日を享受し、その場限りの乱交を繰り返していました。まるで現代のソドムの市であるかのように…。(『岬の兄妹』の松浦祐也氏が、またもや毒々しい怪演を見せてくれます)

 

  中村倫也の、生きることのやるせなさ、切なさ、哀しさを滲ませたヒトミにヤられたわ(笑)人生に対して投げやりだった彼が、行方不明になった妹を探して「町」にたどり着いた女性(石橋静河)と出逢ったことから、次第に変化していくその表情にも。「町」の生活に疑問を抱き始めた彼と彼女がこれからどんな道を選ぶのか、サスペンスタッチでストーリーが展開していきます。果たして彼らの運命は❓そして「人数の町」の真の正体とは…❓

 

  ミステリーの底に、今世界が直面している社会の分断や格差、差別の問題が見え隠れします。そして、それに対する、一般的には良しとされている解決策への、荒木監督の強烈なアンチテーゼがあるような気がするんですよねぇ…。感情を無くしてしまったかのような中村倫也が、映画の中でたった一度だけ、激して感情を爆発させる場面があります。彼が何に傷つき、何に怒ったのか❓ヲタクが最も心に刺さった場面。

皮肉で意外なラストにも注目❗

 

…って、げげげ、キノシネマみなとみらいは明日で最終日❗❓ハマッ子は急げ❗(笑)

 

  そしてそして、『人数の町』を見終わったところで、ヲタクの推し、吉沢亮さんの12月公開作『AWAKE』のポスターヴィジュアル公開のニュース❗…なんてグッドタイミングなんだ…(うっとり✨)

 

  はいっ、『人数の町』が準グランプリなら、『AWAKE』は、山田篤宏監督による「木下グループ第1回新人監督賞」堂々のグランプリ作品ですっっっ❗❗

 

準グランプリがこれだけ面白いんだよ❓

グランプリっつったら、どんだけ~~❗(by IKKO)

 

  

傷だらけのヒーロー、胡歌(フー・ゴー)~中国ノワール『鵞鳥湖の夜』


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 白鳥(『ミッドナイトスワン』)の次は、鵞鳥を見るヲタク(笑)まっ、実際に鵞鳥そのものは映画には登場しないんですが😅

 

  その昔ジャン・リュック・ゴダールフランソワ・トリュフォーがそうであったように、現代中国映画のヌーヴェル・バーグとも言うべきディアオ・イーナン監督の最新作がやっと陽の目を見ました❗…実はこれ、アジア映画批評家協会賞では、ポン・ジュノ監督のあの『パラサイト~半地下の家族』を抑えて監督賞を受賞し、映画界に衝撃をもたらした作品。現代中国社会の闇(庶民の貧困)と、権力(特に警察機構)の暗部を鋭く抉った内容であるのは、同監督の前作『薄氷の殺人』(ベルリン国際映画祭金熊賞)と同様ですが、映像やストーリー展開はより鮮烈に、よりスタイリッシュ且つ耽美的になっている気がします。

 

  大がかりなバイクの窃盗を繰り返し、闇社会で生きてきたチャウ(フー・ゴー)。刑務所を出所したばかりだというのに、再び窃盗団のシマ争いに巻き込まれ、誤って警官を射殺してしまう。逃亡犯となって夜の闇の中を逃げ続けるチャウ。彼の首に懸かる多額の報奨金。それを狙って、窃盗団の対立相手も動き始める。次第に追いつめられていくチャウに近づいて来た謎の女(グン・ルンメイ)。彼女は鵞鳥湖のほとりで春をひさぐ水浴嬢(リゾート地の水辺で商売をする娼婦のことを中国ではそう呼ぶらしい)。果たして彼女は敵か味方か?その真の目的は…?

 

  廃墟のような美しさを持つ街並み。すりガラスを通して部屋の内部に射し込む、まるで血の色のような毒々しいネオンの光、夜のしじま、ゆらゆらと揺れる湖の水面、水辺の動物園、野生動物たちの闇に光る眼。陰翳と極彩色の鮮烈なコントラスト、そこに浮かび上がる、不吉な影、影、影…。ブライアン・デ・パルマに匹敵する、人の影の演出は見事で、何やら中毒性がありますね😅

 

  『薄氷の殺人』に引き続き、ヒロインを務めるグン・ルンメイ。この人こそ真の美魔女でしょう。ズブの素人からスカウトされたというデビュー作『藍色夏恋』の時と似たボーイッシュなショートヘアなんですが、あれから18年も経って、ほとんどイメージ変わってないってどゆこと~~❗❓😅娼婦の役で、フー・ゴーとけっこう激しい愛欲シーンとかもあるのに、清冽なイメージが消えないのは、同じように娼婦役を演じた『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーンを彷彿とさせます。

 

  そしてそして、中国の歩くイケメン彫刻、フー・ゴーは満を持しての映画初主演❗「顔面崩壊」と言われた凄まじい自動車事故から、まさにヒロイックな奇跡の復活(100針縫い、形成外科手術は10回に及んだとか。たしか以前、世界仰天ニュースか何かで特集されていましたね)。復活後第1作のTVドラマ『琅琊榜 〜麒麟の才子』の時はまだ目の辺りの傷が痛々しかったですが…😢今回は、『琅琊榜 』の病弱で白皙の貴公子とはうって変わって、キレッキレのアクション、無精髭もセクシー😍、一見細身の体躯に見えるのに「ボク、脱いだらスゴイんです」的な萌えシーンも(笑)このチャオという男、5年も奥さんほっぽらかしてヤクザ人生歩んできて、最後くらいは奥さんに警察に通報させて報奨金を残していこうっていう…。クズ男の純情というか何というか…フー・ゴーの抑えの利いた演技が泣かせます😢

 

  脇役も素晴らしい❗『薄氷の殺人』では女性蔑視のクズ警官役だったリャオ・ファンが、本作でもチャオを追いつめる警部役。前作ではアル中の役だったから体重増量してたんでしょうね。本作ではかなり身体絞って別人みたい😅チャオの妻役のレジーナ・ワン、人生に疲れた、薄幸な感じがぴったりです。

 

  しっかし『薄氷~』も『鵞鳥~』も、そこで描かれる警察の内情って言ったら、ひどすぎるんですけど😮犯人を挙げる為には、被疑者も一般人も人権なんて考慮してもらえない…みたいな。二作とも時代設定がひと昔前になってるのはそのせい❓…今の中国は違うって逃げ道残しとかないとダメとか❓😅

…深読みのしすぎかな(笑)

  

 

圧倒的演技に酔い、究極の美に魅せられる~『ミッドナイトスワン』


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いろいろな意味で圧倒され、打ちのめされる映画でした。

  すでに様々な人が、様々な場所で語っていることですが、二番煎じでも三番煎じでも呟かずにはいられない(笑)まずは草なぎ剛さん。彼にはこの時、演技の神様が降りてきていたとしか考えられない、もはや。

 

  新宿のショーパブで、時に心ない酔客の罵声を浴びながら、夜毎『四羽の白鳥の踊り』を踊るトランスジェンダーの凪沙。中年期に差し掛かった彼は、過酷なホルモン治療の身体的な辛さや、「美を維持する為に必要な」費用の莫大さ、将来への不安に、ともすれば押し潰されそうで、心を葬らなければやっていけない日々。

 

  トランスジェンダーのリアルを描いた映画と言えば、第2のグザヴィエ・ドランとの呼び声も高いルーカス・ドン監督(ベルギー)の『ガール girl』(2018年)。プリマバレリーナを目指すトランスジェンダーの治療の過酷さ、身体的・心理的負担から次第に主人公が精神的に追い詰められていくさまを正面から描いた映画でしたが、本作品もそのリアルな描写にかけてはひけをとりません。

 

  灰色に塗り潰されたかに見えた凪沙の人生に、ある日突然、一筋の光が差します。母親からニグレクトを受けている親戚の少女一果(服部樹咲)を一時的に預かることになったのですが、彼女は煌めくようなバレエの才能を持っていました。「私は子どもが嫌いなの」と公言する凪沙にとって(それが彼女の哀しいウソだということもいずれわかるしくみ)、当初はお荷物でしかなかった彼女が、突如として黄金の美神に変身する場面。それは凪沙が初めて一果のバレエを目にする場面。草なぎさんの、美に陶酔すると同時に、幼子を見る聖母のような慈愛に満ちた表情に変わる瞬間❗この表情を見るだけでも、この映画を鑑賞する価値があります。

 

  「自分らしく生きれば人生happyだよ」と人は簡単に言うけれども、生まれながらにしてそうすることがとても困難な人たちがいる。自分らしく生きる為には、周囲の偏見や、好奇の視線や、身体の痛みに歯を食いしばって耐えなければならない人たちがいる。草なぎさんはその痛み、切なさ、虚しさを表情で、背中で、立ち姿で、いや全身で表現し切った❗

 

  凪沙が、自らをどんなに痛め苛んでも手に入れることの出来なかったものを生まれながらにして身にまとい、オデット姫のように神々しく降臨した一果。その瞬間から、凪沙は一果の「母」になる為のいじらしい努力を始めるのです。一果のバレエ教室のレッスン代を稼ぐため、世間の好奇な目に晒されながら会社勤めに転身しようとする凪沙。果ては身を売る決意までも…。

 

  自らを犠牲にして他者の成長と幸福を願う時、それを「母性」と呼ばずして何と呼ぶのか。自分のお腹を痛めて子を産んでも、それだけで母性が身につくわけではないという現実は、ヲタクを含め、母である人は一度ならずその苦さを味わったことがあるはず。『ミッドナイトスワン』の中でも、凪沙の皮肉な対極に位置する者として、一果をニグレクトする母親(水川あさみ)、娘に自らの夢を押し付け、全てをコントロールしようとする母親(佐藤江梨子)、息子の姿を受け入れられず狼狽し号泣する凪沙の母親(根岸季衣…あ、なにげにつかこうへいつながり😅)が登場します。もちろんヲタクは、彼女たちを責めたり、ましてや冷笑したりなど、とてもじゃないけど、できません。ところが、トランスジェンダーの凪沙は、私たち女性を縛る「母性の呪縛」から軽々と解き放たれ、純粋な愛をひたすら貫いていくのです。あたかも、海を飛翔する白鳥のように…。

 

  血縁のない母性の表現…と言うと、ヲタク的に真っ先に頭に浮かぶのが、『万引き家族』の、かのケイト・ブランシェットも絶賛した安藤サクラのダイナミックな泣きの演技。彼女の演技を「動」とすれば、今回の草なぎさんの母性の表現は、それに匹敵する究極の「静」の演技と言えましょう。個人的には、一果のバレエ教室の先生(真飛聖)に、間違って「お母さん」って呼ばれて、恥らって笑う凪沙の表情が大好き😍めちゃくちゃキュートなんだもん(笑)

 

 一方、もう一人のヒロインである 一果は、人生の辛酸をなめつくした凪沙が一瞬にして魂を奪われるほどの耀かしい存在でなくては説得力がないわけですが、この服部樹咲さんという新人の方がもう、素晴らしい❗まるでバレエを踊るために生まれてきたかのような美しい体型😮特にエポールマンやアロンジェの時のアームズが作り出す空間がしなやかで、且つ広い、広い❗バレエ映画としても秀逸です。『全裸監督』の森田望智さんもそうでしたが、内田英治監督の、新人発掘の神がかった慧眼、凄い。

 

  チケットをゲットしてあったセルゲイ・ポルーニンの『サクレ春の祭典』が公演中止となり、少々落ち込んでいたヲタクですが、彼女の踊りを見て元気が出ました😍

 

  素晴らしい演技に酔い、『美』に魅了された二時間。

至福の時間をありがとう❗

 

  

シャーロック・ホームズに妹が❗❓~Netflix新着『エノーラ・ホームズの事件簿』

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  アノ名探偵シャーロック・ホームズに妹がいた❗❓…これはもう、自称シャーロッキアンのはしくれ、ヲタクに見ない選択肢はない(笑)当初映画館で上映予定だったものがコロナ禍の為に断念、Netflixが権利を買い取って昨日9月23日から配信開始になったという、曰く付きの作品。確かにゴージャスなキャスト、ダイナミックな映像、重厚なセット…映画館の大スクリーンで見たかったなぁ…コロナめ~(笑)まっでも、この際ゼイタクは言いますまい😅お蔵入りにならず早めに陽の目が見れて良かった❗Netflixさん、ありがとう🙏ミステリーの謎解きや派手なアクションに一人の少女の成長物語が絡む爽快なエンターテイメント、超おススメ😉少年少女にも見てもらいたいな🎵

 

 時は英国ヴィクトリア朝時代。 エノーラ(ミリー・ボビー・ブラウン)は16才。ロンドン郊外の古いが広大な屋敷で、母ユードリア(ヘレナ・ボナム・カーター)と二人暮らし。女性は富裕な夫と暮らすのが一番の幸せ、その為には礼儀作法や刺繍を学ぶ寄宿学校に入学して…という当時の常識に反して、ユードリアはエノーラに文学や科学、スポーツ、護身術を教え込みました。二人で幸せな暮らしを享受していたはずなのに、母はある朝突然エノーラを屋敷に残し、まるで暗号のような謎の手紙を残して失踪してしまいます。知らせを受けた屋敷に駆けつけた兄二人、ご存じマイクロフト(サム・クラフリン)とシャーロック(ヘンリー・カヴィル)。保守主義のカタマりのようなコンサバ・マイクロフトに、良家の子女が集まる寄宿学校に無理やり入れられそうになったエノーラは屋敷から脱走。その途中で、殺し屋に命を狙われているテュークスベリー侯爵(ルイス・パートリッジ)を助けた事から、エノーラは母探しもそっちのけ、危険な陰謀事件の渦に巻き込まれて…。

 

  エノーラ役のミリー・ボビー・ブラウン、ヲタクはお初ですが、若い頃のナタリー・ポートマンを思い起こさせる賢そうな、くるくる動く鳶色の瞳、豊かな表情、大女優の素質十分🎵また、若き侯爵役のルイス・パートリッジ、ちょっとティモシー・シャラメに似た雰囲気で、新たな「イケメン、発見❗」って感じ(笑)これから人気出そう。魅力的な若い二人がストーリーを盛り上げます。そしてエノーラの母親役は英国の名女優であり、かつてティム・バートン監督のパートナー&ミューズだったヘレナ・ボナム・カーター(『英国王のスピーチ』の王妃、『レ・ミゼラブル』の悪女役、『アリス・イン・ワンダーランド』のスペードの女王など)、円熟の演技がサスガです。DC映画のスーパーマン役で注目され、現在は『ウィッチャー』で気を吐くヘンリー・カヴィルシャーロック・ホームズ。映画を見る前は(ん❓彼がシャーロック❓シャーロックってあんなムキムキマッチョだったっけ❓ちょっとイメージ違うかな…)と思っていたんですが、今回は完全なる脇役で受けの演技に徹しているので、彼の誠実で寡黙な感じがぴったりだった😊これがエッジーなベネ様だったりしたら、主演の若い二人より目立っちゃうかも😅それはマズイ(笑)

 

  一体母はなぜ失踪したのか❓

なぜ侯爵は命を狙われるのか❓

当時の英国の社会情勢をあぶり出しつつストーリーは展開し、最後に2つが交差する結末も見事❗

 

  ホームズのオリジナルストーリー(たぶん『美しき自転車乗り』)がちらっと出てきたり、アナグラムが謎解きのポイントだったり…ちょっとした小ネタも楽しいです🎵

(ちなみにヒロインの名前EnolaはAloneのアナグラム。母が失踪した当時、エノーラは「ひとりぼっち」だと解釈していましたが、母の願いはじつは…😊)

 

  エノーラの溌剌としたヒロインぶりにすっかり魅了されてしまったヲタク😊続編作ってくれないかな~~😍ここで叫んでもどうしようもないけど、一応言っておきます(笑)

 

  

 

  

 

マ・ドンソク主演の映画『悪人伝』

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  黄金町ミニシアター「ジャック&べティ」にて、マ・ドンソク主演の韓国映画『悪人伝』。

 

 いくらコワーイ顔してても、尋常でなく筋骨隆々でも、たまに素手で相手の頭カチ割っちゃうくらい凶暴性を発揮しても、時折見せる微笑みは少年のよう、お年寄りや子どもには限りなく優しくて、いざとなったらナイトよろしく守ってくれる…そんな男性は女子の永遠の憧れ…

って、ち、違う❓😅

 

  そんなマ・ドンソク兄貴(彼を見ていると、どうしてもこう呼びたくなる。年下だけど=汗)にヲタクが初めて出会ったのは、映画『犯罪都市』(2017)。韓国の2大マフィアが縄張り争いで抗争を繰り広げている街の警官がドンソク兄貴。やっとこさ対立する2つの組のボス同士を休戦状態に持っていったと思ったら、街に狂犬みたいな中国マフィア(ユン・ゲサン)が乗り込んできて…。

 

  最初に登場した時、アノ顔だから(笑)てっきりヲタク、刑事役ぢゃなくてマフィアの組長なのかと勘違いした。でも、犯人とガチのアクションの真っ最中、「お前一人か❓」と聞かれ、「ああ、オレはまだ独身だぜぃ」って答えたり、部下たちに向かって「お前らにおごってやりたいが、残念ながら財布忘れた」とごまかす上司の懐から財布をこっそりドロボーして(警官なのにいいのかいな❓🤷)みんなにちゃっかりおごっちゃう場面を見ると、「マブリー(マ・ドンソクのマと、ラブリーが合体した語)」って呼ばれる所以がわかる気がしましたね。それにアノ体型、さぞかし鈍足(ドンソク)なのかと思いきや、動きは超俊敏。クライマックス、宿敵の中国マフィアのユン・ゲサンと、空港のトイレを破壊しまくりながらのアクションを繰り広げるとこなんて、迫力ありすぎて怖くてはなぢ出そう(笑)

 

  前置きが長くなりましたが、本日の『悪人伝』。ドンソク兄貴、今回は見かけ通り、暴力団の組長役だった(笑)今までの役とは少々違って、時折マブリーな素顔はちらつくものの、やはりそこはヤクザの大物らしく、逆らったら生きて帰れそうにもない(いや、実際に帰れない)圧倒的オーラを放っています。登場場面にしてからが兄貴、あの細い女性のウェストくらいある腕でサンドバッグをドスドス打ってるんだけど、終わった後でジッパー開けると中には人が…。

ギャアアアア~~~~ヽ(;゚;Д;゚;; )

 

  サイコパスの連続殺人犯に刺され、一命をとりとめた暴力団のボス、チャン・ドンス(マ・ドンソク)。面子を潰された彼は犯人への復讐に燃え、「目には目を、命は命であがなえ」のヤクザの掟通り、組を挙げて犯人探しに乗り出します(むろんその目的は、裁判などさせず、自ら裁きを下すため)。その過程で、犯人を追う熱血刑事チョン・テソク(キム・ムヨル)と反発し合いながらもバディを組み、次第に犯人(キム・ソンギュ…『犯罪都市』で中国マフィアの手下を演じてた俳優さん。イケメンサイコですわ)を追い詰めていきますが…。

 

  もうね、ヤクザの親分と刑事が手を組んで凶悪犯を追うというアイデアの面白さはもちろんのこと、畳み込むようなストーリー展開、息もつかせぬカーチェイス(あれ、ホントに街を走ってる感じなんだけど…。どうやって撮影してるんだろう)、建物一棟破壊しそうな勢いの超絶アクション…、そしてそして、「韓国ノワールの傑作」との評判に違わぬ結末の予想外のどんでん返し❗

 

 その昔黒沢明とか小津安二郎溝口健二など、世界に認められた日本の映画って、いかにも日本的なエキゾティシズムが魅力だったと思うんですが、『悪人伝』も含め最近の韓国映画を観ると、もっとグローバルな感じ。いやむしろ、メリハリのある、スピード感溢れるストーリー展開やアクションの面で、もはやハリウッドのお株を奪ってる感がありますよねぇ。だから、ハリウッドでリメーク話が出たり、ドンソク兄貴もマーベル映画アベンジャーズのニューフェーズ『エターナルズ』への参戦が決まったり…というニュースが出ても、当然な気がする。『悪人伝』も本国での大ヒット、さらにはカンヌ映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門での正式上映を受けて、なんとシルベスター・スタローンプロデュースによるリメークが決定しているのだとか。

 

  し、しっかしポスターの兄貴の写真怖すぎるよ、しかもドアップで…(笑)これぢゃ、ヲタクみたいなおばさんならともかく、良家の子女はとてもじゃないけど見る気が起きないわな😅女子のみなさん、グロい場面はそんなに…ない(笑)痛快なエンターテイメントなので、安心して見に行きましょう…たぶん(笑)

Netflix『もう、終わりにしよう。』まるでミステリーツアー😅

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Netflixで配信間もない『もう、終わりにしよう。』鑑賞。フローレンス・ピューと並んで、今ヲタクが1番注目しているライジングスター、アイルランドの典型的な赤毛美人、ジェシー・バックリー(『ジュディ 虹の彼方に』『ワイルド・ローズ』『戦争と平和』)がヒロインと聞いて、配信を心待ちにしておりました🎵

 

  一言で言うと、夜中に乗ったミステリーツアーのバスみたいな映画ですね❗(夜中に乗車するミステリーツアーが存在するのかどうかはわからないけど😅)何というか、いくらミステリーツアーって言ったって、多少はこっち、無いアタマを振り絞って道中あれこれ想像するわけじゃないですか、最終目的地はどこだろう、って。…しかし、ことごとく予想が外れて、しかもバスはどんどん人里離れた暗い森の中に入っていく。(これはひょっとしたら、パッケージツアーに名を借りた新手の誘拐❓どこに拉致されるの❓)って恐怖に囚われる…みたいな。どこまで行っても、ストーリー展開の着地点が見えてこない、みたいな。

 

 

  真冬の田舎道を走る1台の車。ヒロインのルーシー(ジェシー・バックリー)は、付き合って6週間の彼氏、ジェイク(ジェシー・プレモンス)の実家に向かっています。しかし初めて彼氏の両親に紹介されるというのに、二人の会話は恋するウキウキ感やこれからステディな関係になろうとする安定感とは程遠く、いまいち噛み合ってないし、まるで倦怠期の夫婦みたい😅おまけに彼女のほうは心の中でしょっちゅう(もう、終わりにしよう。~I'm thinking of ending things )と呟いているのです。日本語訳には反映されていないけど、このthingsがキモなんです。

 

誰が、何を(しかも複数形😅)終わらせようとしているのか❓

 

  不思議なことに、ヒロインは黙って心の中で呟いた(それは大抵マイナスな想念)ハズなのに、なぜか彼には筒抜けに聞こえてる。まるで彼はエスパーみたい。ここら辺まで来ると、私たち観客には、じわじわと違和感が広がってきます。あれ❓何か変だぞ、って。一体、一人称で呟いてるのは誰❓みたいな😅

 

  しかし車中でうっすら感じ始めた違和感も、彼の実家に着いたとたんに噴出するホラー感に一気に吹き飛ばされます(笑)吹雪の中に死んだまま放置されている羊、豚小屋の床に広がる無気味な黒いシミ、そして彼が呟く「地下室があるんだけど、行ったことはないんだよ…怖いからね…」という不吉な言葉。でもってトドメは、モノに憑かれたような目をして一点をじっと見つめていたかと思えば、いきなりけたたましく笑い出す彼のお母さん役が、トニ・コレット❗…そう、史上最恐映画『ヘレディタリー /継承』(2018年 アリ・アスター監督)、恐怖に時空も歪みそうな、アノ顔芸連発の主演女優でございます((( ;゚Д゚)))ヤバいヤバい、雪に閉じ込められたゴシックホラー感満載な家にトニ・コレットがお母さんなんて、デキすぎてるし(笑)これは第2の『ゲットアウト』(2017年 ワンシチュエーション&ホラー&サスペンス映画の超名作)か❗❓この二人、彼の実家から生きて帰れるの❗❓

 

…ところがどっこい、( ・ε・)ちっちっち、これからがミステリーツアーの真骨頂、さすが『脳内ニューヨーク』『マルコヴィッチの穴』等、怪作の数々を世に送り出した鬼才、チャーリー・カウフマンここにあり❗…の、風刺劇でもありSF?でもあり悲劇でもあり喜劇でもあるシュールな展開になっていきます。車中でルーシーが呟いていた詩集が彼の部屋のベッドに置いてあったり、二人の幼少期の写真が同じもの❗だったり、両親が年老いたり若くなったり…ナニコレ❓🤷まんまと彼にミスリードされてく感じ😅車中で感じていた違和感が再び戻って来て、それはますます肥大化していきます。

 

どう行動するかより何を考えているかのほうが、真実や現実に近いことがある。

というセリフがあるんですが、見終わってみれば、これが作品全体を貫くテーマなのかな…と思ってみたり。

 

  余談ですが、ちょっとビックリしたのは、カウフマンほどの世に認められた名監督が、演技のお手本みたいで賞レース総なめした『こわれゆく女』(ジョン・カサヴェテス監督)のジーナ・ローランズを、「ジーナ・ローランズの演技はアカデミー賞受賞作品6本観ているぐらい疲れる、世間は評価するけどね。大げさで何も記憶に残らない。」なーんて、ヒロインのルーシーにかなーりディスらせていること😮…カウフマン、ジョン・カサヴェテスジーナ・ローランズに何か特別な遺恨でもあるのかな😅…確かに、ジーナ・ローランズと真逆とも言える、ジェシー・バックリーの生き生きとした自然体の演技は極めて魅力的でしたが😉

 

  ホラーチックなスリリングな展開が一転してシュールな迷路に迷いこむ。

時系列どーなってるの??(-ω- ?)

 

たぶん1回観ただけでは半分以上スルーしてるであろう(注・ヲタクの場合はね😅)謎めいた数々のフラグ立ち。見終わった後の何とも言えない哀愁を帯びた寂寥感。

 

Netflix、おそるべし❗チャーリー・カウフマンおそるべし❗

 

 

ヴェネチア映画祭~ティルダに魅せられ、クロサワに酔う

  今年のヴェネチア映画祭、コロナ禍の為受賞者も出席できず、お祭り気分には程遠いものであったものの、個人的にはいろいろツボ入りまくりでフィナーレを迎えました😊どこがツボであったかと言うと…。

 

 先ずは、その容姿、演技、知性、映画愛、作品の選択眼、人生への向き合いかた全てにおいて、ヲタクが『神』だと信じて疑わないティルダ・スウィントンが栄誉金獅子賞受賞❗対コロナ対策の為唯一無二の黄金のマスク姿で登場したティルダ。志半ばで病に倒れ、亡き人となってしまったブラックパンサーことチャドウィック・ボーズマンを「ワカンダ(ブラックパンサーの王国)フォーエバー」ポーズで追悼しました😢

 

  そして、シェイクスピアもかくや…と思わせる詩的な受賞スピーチ❗

 

  映画は私にとって幸せな場所であり、本当の母国。映画に携わる人たちの流れは私にとっての家系であり、この賞をこれまで授賞してきた人たちの名前は私にとって師のリストです。私の部族の長老たちなのです。

  映画という言語によって書かれた詩を私は何よりも愛し、映画の中の歌をお風呂で歌う。

  私は彼らの成し遂げた高みの麓に行くために駅までヒッチハイクしている映画マニアのパンクキッズなのです。

 

 栄誉賞を受賞するほどの輝かしいキャリアを持ちながら、先達を心から讃え、自らを「まだまだヒッチハイク中のパンクキッズなのよ😉」と、お茶目な表情で(…たぶん😅)語るティルダ。あなたほど謙虚で、かつ大胆不敵で、機知とユーモアに富んだ人を私は知りません♥️

 

  ヲタクにとってもう一人の神、ケイト・ブランシェットと舞台上で並ぶ姿はいずれか菖蒲杜若、後世伝えられるべき2ショット❗え❓そんなに神さまがいてオカシイ❓いーの、いーの、ヲタク、一神教ぢゃないし、前世は古代ギリシャ人なんで(⬅️バカ😅)

 

  そしてそして、『スパイの妻』で、日本が世界に誇る第2のクロサワこと黒沢清監督が銀獅子賞(監督賞)❗振り返れば6月、NHK8Kで同作品が放映された時、当日まで自宅のTVで見れると信じて疑わなかった機械オンチなヲタク😅夫に「え?8K?ウチのテレビ、4Kまでしか見れないよ」と言われた時のショックたるや…(笑)まっでもこの成り行きを考えると、映画館の大スクリーンで見るべき作品ということですね❗(⬅️負け惜しみ😅)公開まで間があって、ワクワクしながら監督の過去の作品を復習したりするのもまた、善きかな😊

 

  社会の変化、世界の動向によって映画の上映方法や映画祭の運営はこれからもさまざまに変わっていくだろうけど、ティルダの言う「映画という言語で書かれた詩」の価値は、きっと永遠に変わらない。

 

 

 

 

秋風吹けば英国ミステリー🍁~BBC『ウィッチャーの事件簿』


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  U-NEXTでBBCのミニシリーズ『ウィッチャーの事件簿』(①ロード・ヒル・ハウス殺人事件②エンジェル通り殺人事件③名家の秘密④夫婦の秘密…2011年)鑑賞。

 

  もうね、このヴィクトリア朝を背景とした英国ミステリー…って言うだけで背中ゾクゾクしちゃうヲタク(笑)雲低く垂れ込める灰色の空、じめじめと湿った石造りの街角、ロンドンを取り巻く深い霧、霧の中に仄かに浮かび上がるガス灯、その暗闇に乗じて跋扈する、切り裂きジャックをはじめとする残忍な殺人鬼たち…。

 

  ヴィクトリア朝のミステリーと言えば、かの名探偵シャーロック・ホームズの一連の作品が超有名ですが、本作品の特徴は、特に第1エピソード、主役のウィッチャーも実在の人物であり、実際の事件を題材にしていること。それもそのはず、第1エピソードの原作はケイト・サマースケイルのベストセラーであり、ミステリーの形式を借りた犯罪ノンフィクション『最初の刑事~ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』だから。主役のウィッチャーは、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)創設時の刑事8人衆の一人だったのです。

 

  1860年、イギリス・ウィルトシャーの邸宅ロード・ヒル・ハウスで、当家の次男で若干3才のフランシス・サヴィル・ケントが無残な他殺体となって発見されます。状況から見て、犯人は同居する家族か、使用人たちしか考えられない。事件解決の為に当地に派遣されたのが、当時スコットランドヤードで敏腕刑事の名を欲しいままにしていたジョナサン・ウィッチャー警部。名家の名を汚し、遺族が抱える秘密を暴露することを恐れ、関係者は全員が頑なに口をつぐんだまま。地元警察の協力も得られない中、地道で孤独な捜査を続けていくウィッチャーでしたが…。

 

  いかなる犠牲を払っても、真実は必ず明らかにされなければならないという固い信念のもと、捜査を続けるウィッチャーに立ちはだかる当時の英国の格差社会と地方の因習の壁。DNAはおろか指紋の検出さえできなかった時代、頼りは聞き込みと目撃証言、それに基づく直接的・間接的推理、犯人の自白のみ。それに、現代だとひとつのチームか、少なくともバディを組んで事件の解決に当たると思うんですが、地元警察も腰引けてるし、捜査はぼっちの孤軍奮闘、スコットランドヤードの上司からは矢の催促…って、いくらウィッチャーが敏腕刑事だからって、カワイソすぎる😅また、当時は創設されたばかりの刑事という職業、「相手構わず容赦なくプライバシーを暴きたてる」という偏見から、世間からかなりの反発を受けていたことがわかります。

 

  ウィッチャーを演じているのが、英国の俳優であり映画監督でもあるパディ・コンシダイン。この方映画『思秋期(原題 Tiranosaur)』の監督だったんですね😮遅蒔きながら、今回『ウィッチャー~』を見て初めて知りました😅『思秋期』、酒浸りで生きる希望を無くしかけているような中年男(英国の名バイプレーヤー、ピーター・ミュラン)が、夫のDVに悩む女性(『女王陛下のお気に入り』でアカデミー主演女優賞受賞、今や英国のトップ女優に上り詰めたオリビア・コールマン)との出逢いによって、再生していくさまを描いた名作です。その作風といい、そして俳優さんが撮った秀作という観点から見ても、ゲイリー・オールドマンの『ニル・バイ・マウス』を思い起こさせます😊俳優業としては、『ピーキーブラインダーズ』の悪徳神父役が強烈でしたよね。

 

 犯人探しの醍醐味だけでなく、当時の英国社会が抱えていた社会問題、また、教会牧師の告解に対する守秘義務の問題など、様々なテーマを孕んでいて、大変見ごたえのあるドラマになっています。

 

  第1エピソードの最後で、ウィッチャーは故あってスコットランドヤードを辞しますが、彼の悪を憎む心、真実の探求心は止むことなく、第2エピソード以降は探偵に転身して様々な事件の解決に当たります。もしかして英国最初の探偵❓😅第2エピソードには、彼の初監督作でヒロインを演じたオリビア・コールマンがゲスト出演して、サスガの演技を見せていますし、第3第4エピソードも実話をベースにしているとのことで、リアルなストーリー展開に重厚な演出、セットも素晴らしく、それぞれ1本の映画を見ているよう😊

 

  来週は秋雨前線の影響からか、やっとこの暑さも一段落しそう。秋の夜長、じっくり腰を落ち着けて見るのに相応しいドラマかも😊

 

  

 

 

 

  

 

歌に生き、愛に生き『パヴァロッティ~太陽のテノール』

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 キノシネマみなとみらいで『パヴァロッティ~太陽のテノール』鑑賞。個人的にはパヴァロッティと言えば、その神からの贈り物のような透明感のある明るい高音は言わずもがな…なんですが、一方では、「無名時代に結婚した妻と娘3人を捨て、娘より年下の相手と不倫・同棲した」っていうスキャンダルがずっと脳裏に残っていて…😅当時ヲタクは夫の仕事の関係でベルギーに住んでいたのですが、ヨーロッパのマスコミはもう、大騒ぎでしたね。パヴァロッティの母国、厳格なカトリック国であるイタリアでは、離婚は神に背く大罪、当時タブロイド紙では、パヴァロッティはまるで色魔扱いだったように思います。

 

  ところが、今作品で名匠ロン・ハワード(『ビューティフル・マインド』など)は、毀誉褒貶の激しかったパヴァロッティの生涯を多数のプライベートフィルムや多くの人のインタビューを通じて深く掘り下げ、彼の真の姿、人間性を浮き彫りにしてくれた❗

 

  60もとうに過ぎて、娘のような女性に初めての恋をした少年のようなパヴァロッティ。そしてお相手のニコレッタ・マントヴァーニ(学生時代からパヴァロッティのアシスタントを務めていた)も、打算などは微塵もなく、マエストロへの深い尊敬が、次第に愛に変わっていったことがよくわかります。前妻アドゥアも、憎み合って別れたのではない…と微笑みながら話します。パヴァロッティ膵臓ガンで亡くなる前、入院先にナポリふうのパスタも届けたのよ、と。「あの声に恋しない人なんている?」彼女のこの問いが全てを物語ります。

 

  次女が難病になった時、全ての公演スケジュールをキャンセルしてつきっきりで看病したパヴァロッティ。「プロとして失格」との世間の批判にも耳を貸さなかったそうです。彼の溢れんばかりの豊かな愛情は、家族や周囲の人びとばかりでなく、後年、世界中の恵まれない子どもたちの為の慈善事業にも惜しみなく注がれました。親交のあったU2のボノ が語るように、人生の喜びも哀しみも成功も失敗も全て、歌に昇華し、「歌を生きた」人❗

 

  最新のデジタル技術で甦るパヴァロッティの伝説の歌唱の数々は、もう鳥肌モノ。彼の名声を不動のものにした「友よ、今日は楽しい日」(ドニゼッティ連隊の娘』なんと9回ものハイC❗)、「冷たい手を」(プッチーニラ・ボエーム』)、深い友情で結ばれた故・ダイアナ妃に捧げた「見たこともない美人」(プッチーニマノン・レスコー』)…。そしてそして、あの三大テノール夢の競演❗元々は、白血病で長い間闘病していたホセ・カレーラスの為の復活コンサートとして計画した…というのがいかにもパヴァロッティらしい😊三人がアイコンタクトをしながら息もピッタリに歌う「オーソレミオ」「誰も寝てはならぬ」(プッチーニトゥーランドット』)はもはや、この世のものとは思われぬ、大天使ミカエルの奏でる天上の音楽😌「次、ボク?」「いや、違うでしょ」なんて話しているのか、ひそひそ話してる3人の少年がめっちゃカワイイ😍

 

彼はまた音楽ジャンルの境を取り払った人としても知られています。ボノの家に押しかけて無理やり曲を書かせたエピソードはその最たるもので😅幾多のロックミュージシャンとチャリティコンサートを何度も開催しました。個人的には、若いジョン・ボン・ジョヴィパヴァロッティの横にチラッと写ったのがツボ❤️

 

  そして、最も心打たれるのは、全盛期を過ぎて、伝説的なハイCもすでに過去のものになってしまったパヴァロッティが、盟友プラシド・ドミンゴの指揮により歌い上げる「衣装をつけろ」(レオンカヴァッロ『道化師』)でしょう。「パヴァロッティも盛りを過ぎたね」という心ない人びとの声を耳にしながら、過ぎ去った過去の栄光を噛みしめつつ歌うパヴァロッティの苦渋の表情😢絶望にうちひしがれても、それでもやはり歌い続けたいという不退転の決意、そこから生まれる微かな希望…。もはや残り僅かとなった自身の人生を予感していたものか、その鬼気迫る絶唱は圧巻です。

 

神に愛された不世出のテノールルチアーノ・パヴァロッティ。映画館だからこそ堪能できる、素晴らしい音響でこの機会にぜひ♥️

 

https://madamefigaro.jp/culture/series/music-sketch/200904-pavarotti.html
https://madamefigaro.jp/culture/series/music-sketch/200904-pavarotti.html

ホロモドールの真実 『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』


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(ウクライナの首都キエフ…Pixabay)

  横浜黄金町のジャック&べティにて、『赤い闇~スターリンの冷たい大地で』。このコロナ禍で今までオンライン劇場の利用はありましたが、本劇場に足を運ぶのは久しぶりです。ジャック&べティも7月30日からいよいよネット予約ができるようになりました。列に並んで切符をゲットして、待合室でドキドキしながら開場を待つ喜びはなくなったけど、密を避けて映画鑑賞できる安心感はこのご時世、何にも換えがたい。厳しい現状にも関わらず新システムに舵を取った支配人の心意気に拍手👏👏

 

閑話休題

 

先日、 80才を越えた老婦人が突如として数十年前のスパイ罪で捕らえられるという衝撃の実話映画『ジョーンの秘密』を見たばかりなのですが、作品の中で度々スターリンの独裁体制について言及されていました。(『ジョーンの秘密』は現在も公開中です)そんな中、タイムリーに公開された本作『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』❗

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 ナチスドイツが台頭しつつあった1930年代。世界中が大恐慌にあえぐ中、ソヴィエト連邦だけが各地に工場を建設し、各産業は隆盛を極め、好景気を享受しているという政府からの公式発表が相次いでいました。ロイド・ジョージの外交顧問を務めていたガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)はそれに素朴な疑問を持ち、ソ連駐在の親友の記者を頼ってその原因を取材をしようと試みます。ところが、ジョーンズがソ連到着直前に親友は路上で襲われ、不審な死を遂げてしまいます。彼がモスクワで目にするのは、政府に情報網を骨抜きにされ、賄賂を受け取って私腹を肥やし、夜な夜な酒池肉林に興じる外国人記者たちの堕落した姿ばかり。それでも地道に情報収集をはかり、「世界の穀物倉」「肥沃な大地」と呼ばれたウクライナ地方で、何か途方もないことが起きている…と睨んだジョーンズは命懸けで政府の監視をかいくぐり、単身ウクライナへ乗り込みます。そして、彼が厳寒のウクライナで目にした驚愕の真実とは…❗❓

 

  誠実で、不器用で、しかし真実を報道する為には一歩も退かず、命さえも賭けるジャーナリスト魂。BBCドラマ『戦争と平和』で悩める青年貴族ボルコンスキー、また直近では『ストーリー・オブ・マイライフ~わたしの若草物語』でメグ(エマ・ワトソン)の誠実な夫役を演じたジェームズ・ノートンが、イメージぴったりの熱演です😊

 

  コロナ禍でリーマンショックを上回る世界的大恐慌が到来するかも…と言われている昨今。経済不安の時代には民衆がパニックに陥り、強大な権力を持つリーダー待望論が起こり、独裁政権が成立しやすい…というのは、歴史を見ても周知の事実。そんな時に、本作が公開されるのは、大変意味があることだと思います。極端な話、ホロモドール…という言葉の意味を知るだけでもいい。

 

  どんな状況に陥っても、知識を総動員して、自分のアタマで考えることを止めてはいけない、真実から目を逸らしてはいけない…という教訓を忘れないためにも。

 

 

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